01 プロローグ
深い夜の森の中、遠くから鳥のような生き物の鳴き声が聞こえてくる
その森の中で地面がえぐれ、多くの木が砕け、凍り付き、焼け落ち、そうして開けた広い空間があった
その中心で一匹の黒い巨大な獣と一人の白髪の少女が二つの月に照らされていた
獣は全身から血を流し、前足も踏ん張りがきいていない
方で少女は服がボロボロなのにもかかわらずその真っ白な人形のように美しい身体には傷一つついていなかった
その少女が何かつぶやきながら獣に近づいていく、、、
そうして立ち止まると自分の身長の倍はある獣の頭を胸に抱えた、獣は動くことができないのか抵抗することなくその少女を受け入れた
すると獣を中心に金色の光が空間全体を包みだす、
獣が苦しむようにうごめくとその体が溶けるように光の粒に変わっていく、、、 それがゆっくりと少女の腹に流れるように吸い込まれていった
光が消えると残されたのは苦しそうに肩で息をしながら倒れ、腹を押さえながら片腕をつく黒髪の少女だけだった
少女はあおむけに転がると最後の力を絞り出すかのように右腕を片方の月に向かって伸ばし、、 グッと握り込む
そのままたたきつけるように地面に拳を下すと大きな音とともに周囲の岩が浮き上がり少女を囲むようにドーム状に包んでいった
残ったのは遠くからのかすかな鳥の鳴き声と巨大な岩の塊だけだった
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約200年後・・・・・ 地球
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深夜の山の中を一台のバイクが走り抜けていく
運転する男は何かむしゃくしゃすることでもあったのか他に車が来ないことをいいことに車線を気にせずかなりのスピードでバイクを走らせていた
右に左に狭い峠道を慣れ親しんだ道なのか踊るように走り抜けていく、高速カーブを気持ちよさそうに抜け、山頂への最後の直線へスロットを吹かそうとしたとき、目の前に黒い物体が飛び出してきた
「ぅお、まじか!!」
急いでブレーキを踏みハンドルを切る
車体を滑らせたおかげで何とかよけることはできたものの、車体はコントロールを失い男はそのままガードレールに突っ込んだ
反動で男の身体は空中に放り出される、その目の端に移ったのは衝突でフロント部分がひしゃげた自分のバイクとその奥で大きく目を開けてこちらを見つめる黒猫だった
( ネコ~急に飛び出すなよーー うわ、やばスッゲェ崖じゃんここ、死ぬかも)
男は崖から落ちていく間、のん気にそんなことを考えながらその後の衝撃で意識を失った
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何かふわふわしたものがぺシぺシと男の顔をたたいてくる、
(なんだぁ もう朝か? むにゃむにゃ)
風祭 慧はその優しい感覚に少しずつ意識が回復してくる
しかし、このままでは起きてこないとわかったのか叩いてくる力がさらに強くはげしくなってきた
(ん~わかった わかった起きるよ)
頭は少しずつ覚醒してきているものの身体はそれを嫌がるのか異様に重い、何とかうっすらと目を開けるとそこに映ったのは胸の上に座ってこっちを見ながら尻尾で顔をビシビシとたたいてくる黒猫の姿だった。その黒猫の尻尾はケイの胸に座りながらも余裕をもって顔に届くほど長くその半ばから二股に分かれていた
(ん~~なんで猫がいるんだ?てかどこだここ )
ケイはどうして黒猫が胸の上にいるのか考えながら周りを見るとそこはどこかの部屋なのか岩を刳り貫いたかのようなドーム状の空間だった。壁から天井、床でさえもつなぎ目のない一枚の岩から出来ているようで首を回してあたりを見ると特に明かりのようなものは見えないのにほんのりと明るく部屋の細部まで見渡すことができた
(ここは、、、洞窟?、石室か? なんで俺こんなとこで寝てるんだ??)
そんなことを考えているうちに徐々に頭が覚醒してくる、だんだんとケイは自分に何が起こったのか思い出してきた。
(あ~俺、猫よけて事故ったんだっけ? ってことはあの猫はこいつか?)
ケイは胸の上の猫に目を向ける、ケイがもう目を開けているのに気が付かないのかそれとも叩くのが楽しくなってきたのかさらにリズムを刻むようになってきたその長い尻尾をつかむ。
「ん、やっと目をs
「おい、猫急に飛び出したら危ないだろうが!」
ケイはそう言って上体を起こしながら黒猫のほっぺをつかむと横に引っ張る
(お、気持ちいいなこいつのほっぺ プニプニだ)
「お前のせいで死ぬとこだったんだぞ全く気をつけろよ!!」
文句を言いつつもケイは猫の毛ざわりがよっぽどよかったのかそのまま流れるように抱き上げるとあご、背中、お腹となで回す
「おい、やめんかっ」
「あ~んやめろって言われても気持ちいいものは仕方あるまい ん?しゃべった?」
猫が人間の言葉をしゃべるというありえないことにケイは動揺しつつもその手が止まることはなかった。ケイはどういうことだと言いながらその手は止まることなく黒猫を撫でまわし続ける
「ぉぃ!」 「やめっ」
猫はその手から逃れようと暴れるがケイの腕の中から逃れることはできない
「だからやめろと言ってるだろうが!!」
さすがに業を煮やしたのか猫は大きな声を上げる、と同時にその小さな額に埋まっていた毛と同じ黒色の石からゆっくりと目が開くように金色の光が漏れだしてきた。
さすがのケイもそれにはびっくりしたのか抱き上げていた猫をパッと離した。と同時にケイの頭の上に光の文様が現れた、それは猫の額から漏れ出した光の大きさに呼応するように大きく複雑に編み上げられていく
その神秘的な光景にケイはあんぐりと口を開け目を奪われていた
《ケラウノス》
そして文様の拡大が止まったと思った瞬間大きな雷鳴とともに文様から巨大な稲妻がケイの頭に放たれる。その閃光はあまりに激しく、薄暗かった石室を色がかすむほどに明るく照らし、その威力はケイの上半身を一瞬で消し炭に変えた
ケイの身体は真っ黒に焦げプスプス煙を出しながらながらゆっくりと後ろに倒れていく、、
再びケイの意識は暗闇の中に失われた...
と、いうことはなかった
「いってーな、なにしやがんだてめぇ」
上体が倒れきる直前、跳ねるようにケイは上体を起こすと猫の顔を正面に見据える。さっきまで真っ黒に焦げていた体はいつの間にかきれいさっぱり元の白い美しい肌に戻っていた
「ふむ、力の変化はなさそうだな」
猫は額の光の眼を閉じながらさも当たり前のようにその光景を眺めている
もちろんケイからしてみれば当たり前であるはずもなく、自らの身体におこった出来事に戸惑い自分の身体に目を落とした。
どこにも違和感がないか腕そして体全体を見渡す。
そして気づいた、視線の先にあったものは自分の身体に、男の身体に、男の胸にあるはずがないつつましくも存在感のある丸く飛び出た双丘だった。
「 ほへ?? 」
石室の中にケイのまぬけな声が響いた