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01 プロローグ


01



 深い夜の森の中、しんと静まり返ったその暗闇の中で遠くから鳥のような動物の鳴き声だけが聞こえてくる


 そんな森の中に多くの木が砕け、焼け落ち、そして所々地面がえぐれた、そんな空間が広がっていた


 その中心で一匹の翼の生えた巨大な獣と一人の白髪の少女が二つの月に照らされながら向かい合っている


 獣は全身から血を流し、片翼は失われ、前足は踏ん張りもきいていない


 一方で白髪の少女は身に着けている衣服はボロボロであるにもかかわらず人形のように美しいその体にはかすり傷一つついているようには見えなかった


 そんな少女が 何かつぶやきながら獣のほうに近づいていく、、、


 そうして獣の目の前で立ち止まると両手を広げ自分の背丈ほどもある獣の頭を胸に抱えた。獣はもう抗う力も残っていなかったのか、あきらめたかのように少女に自身の体を預けた


 少女は片足を少し後ろに下げただけでそれを受け止めると獣の額に軽く口づけをする


 すると獣が苦しむように呻りだす、やがてその肉体は溶けるように光の粒に変わっていった…


 それがゆっくりと白髪の少女の体に、腹に、吸い込まれていく…

 

 獣の体が薄れていくにしたがって少女の体には何か黒い痣のようなものが浮かびあがってくる。それは少女の体を蝕むように全身へと広がっていった


 それでも少女は逃げようとも抗おうともするでもなくそのすべてを受け入れていた


 そうして獣の体がなくなりすべての光が消えるとそこに残されたのは苦しそうに肩で息をしながら腹を押さえて片膝をつく黒髪の少女だけだった。いつの間にか全身の痣は消え元の白い肌にもどっている


 少女はそのまま倒れ込むように近くの岩に背中を預けた

 一呼吸ついた後、最後の力を振り絞りだすかのように右腕を夜空に浮かぶ月の片方に向かって伸ばし、、  グッと握り込んだ...

 そのまま叩きつけるように地面に拳を下ろす、すると大きな音とともに周囲の岩が浮き上がり少女を包むように巨大な石の繭が作られていった


そうして残ったのは遠くからかすかに聞こえる鳥の鳴き声と巨大な岩の塊だけだった





________________


 月も姿を現さない深い夜

 道を歩く人も車の姿も見えない街道を一台のバイクが走り抜けていく。それはどこから持ち出してきたのか今では聞く機会も無くなった内燃機関のエンジン音をバリバリと響かせていた。

 道を照らすのは街灯のみでときおりシャッターが開いたままの商店から漏れ出した光がアスファルトを照らしている。男を乗せたそのバイクは他に誰も人がいないことをいいことにただ赤色で点滅するだけの信号を抜けて街をはずれ、山の方へ走っていった。

 どんどん街から離れていく、歩道はなくなり白線も消え道幅も狭くなってきた。男はバイクを走らせながら急にスッと腰を上げると強張った体をほぐすように伸びをする、最後にぐるっと首を回すと夜風を浴びるために半開きにしていたヘルメットのシールドをはじくように閉めた。そのまま勢いよくスロットルを吹かすと流れるように峠道へ続く狭い道へと入っていった。


 その道は人があまり通っていないのかお世辞にもきれいな道とは言えなかった、所々アスファルトが剥がれ大小さまざまな石や葉っぱがいたるところに転がっている。にもかかわらず男は慣れ親しんだ道なのか街灯もなにもない真っ暗なその道をヘッドライトが照らす十数メートルの明かりだけを頼りに危なげなく走り抜けていく。そこには迷いや恐怖は一切感じられなかった。

 道に空いた穴や段差に車体をはねさせ、カーブでわざと車体を滑らせたりしながら、それでもバランスを崩すことなく器用に、ただ単純に速く走るのではなくただ純粋にバイクを走らせるということを楽しむように気持ちよさそうに峠道を駆け抜けていく。

 そうして男は大きなカーブを抜け長い直線へスロットルを吹かそうとしたとき、急に目の前に黒い物体が現れた。


「ぅお、まじか!!」


 急いでブレーキを踏みハンドルを切る。ただ、加速を始めたばかりのバイクはそう簡単には止まれなかった。車体をひねらせながらなんとかそれを避けることはできたものの、バイクはコントロールを失いあまり速度を落とすことなくそのままガードレールに突っ込んだ。


「アッ、  ヤッタ......  」


 反動で男の身体は空中に放り出される、その目の端に映ったのは衝突でひしゃげて白煙を上げる自分のバイクとその奥で大きく目を開けてこちらを見つめる黒猫の姿だった。


 ( ネコ~急に飛び出すなよーー  うわ、やばスッゲェ崖じゃんここ、死ぬかも )


 幸か不幸かガードレールの向こうは大きく切り立った崖だった、道の反対側のコンクリートの壁に頭から突っ込むよりはましだったかと男はのんきにそんなこと考えながらその後の衝撃に意識を失った。


 

______________________

 


 何か鞭のようなものがぺシぺシと男の顔を叩いてくる。


(なんだぁ  もう朝か? むにゃむにゃ)


 男は、風祭 慧はその優しい感覚に少しずつ意識が回復してくる。

 しかし、このままでは起きてこないと思ったのかその顔を叩いてくる力がどんどん強く激しくなってきた。


(ん~わかった わかった、起きる、起きるよ)


 意識は少しずつ覚醒してきているものの体はそれを嫌がるのか異様に重い、何とかうっすらと目を開けるとそこに映ったのは寝転がる自分の胸に座ってこちらを見下ろす黒猫の姿だった。その黒猫は尻尾が猫にしては異様なほど長く二股に延びている、それが交互にケイの頬をビシビシと叩いていた。


( ……なんで猫がいるんだ?てかどこだここ… )


 ケイはどうして黒猫が胸の上にいるのか考えながら周りを見るとそこには見慣れた自分の部屋でも真っ白な知らない天井でもない、岩を刳り貫いたかのようなドーム状の空間だった。壁から天井、床でさえもつなぎ目のない一枚の岩から出来ているようで目だけを回してあたりを見ると特に明かりのようなものは見えないにもかかわらずほんのりと明るく部屋の細部まで見渡すことができた。

 

(ここは、、どこだ?  なんで俺はこんなところで寝てるんだ??)


 そんなことを考えているうちに徐々に意識がはっきりとしてくる、だんだんとケイは自分の身に何が起こったのか思い出してきた。


(あ~俺、猫よけて事故ったんだっけ?  ってことはあの猫はこいつか?)

 

 ケイは胸の上の猫に目を向ける、ケイがもう目を開けているのに気が付かないのかそれとも叩くのが楽しくなってきたのかさらに強く激しく、無駄にリズムも刻むようになってきたその長い尻尾をつかんだ。


「ん、やっと目をs


「おい、猫急に飛び出したら危ないだろうが!」


 ケイはそう言って体を起こしながら次は黒猫のほっぺをつかむと横に引っ張る。

(お、気持ちいいなこいつのほっぺ プニプニだ)


「お前のせいで死ぬとこだったんだぞ全く気をつけろよ!!」


 文句を言いつつもケイは猫の毛ざわりがよっぽどよかったのかそのまま流れるように抱き上げるとあご、背中、お腹となで回す


「おい、やめんかっ」


「あ~んやめろって言われても気持ちいいものは仕方あるまい     ん?しゃべった?」


 猫が人間の言葉をしゃべるというありえないことにケイは動揺しつつもその手が止まることはなかった。ケイはどういうことだと言いながらその手は止まることなく黒猫を撫でまわしこねくり回し続ける

 「ぉぃ!」 「やめっ」

 猫はその手から逃れようと暴れるがケイの腕の中から逃れることはできなかった。


「だから、、やめろと言ってるじゃろうが!!」


 さすがに業を煮やしたのか黒猫が大きな声を上げる、と、同時にその小さな額に埋まっていた毛と同じ黒色の宝石の中からゆっくりと目が開くように金色の光が漏れだしてきた。

 さすがのケイもそれにはびっくりしたのか抱き上げ撫でまわしていた手を止める。と、同時にケイの頭の上に光の文様が現れた、それは猫の額の角の光に呼応するように大きく複雑に編み上げられていく、その神秘的な光景にケイはあんぐりと口を開けて目を奪われていた。



《雷霆 ケラウノス》


 そしてその文様の拡大が止まった瞬間、大きな雷鳴とともに文様から巨大な稲妻がケイの頭に落とされた。雷撃は一瞬でケイの体中を走り抜けるとそのまま広がるように床、壁、天井へと石室中を駆け廻った…


 その閃光はあまりに激しく、薄暗かった石室を色がかすむほどに明るく照らし、その威力はケイの体を一瞬で消し炭に変えた。

 力なく開いたその口からはプスプスと黒い煙が吐き出されている、自身を支える力すら失ったその体はゆっくりと崩れるように倒れていった……



 今再びケイの記憶は闇の中に失われた



 と、いうことはなかった


「いってーな、なにしやがんがてめぇ」


 それはまさに一瞬の出来事だった。ケイの体が冷たい床の上に倒れきる直前、ケイの黒く焦げた皮膚に亀裂が走る。とたんケイの体が飛び跳ねるように起き上がると猫の顔を正面に見据える。その反動でひび割れた黒い墨のような皮膚がボロボロと剥がれ落ちた、その下から出てきたのは元の白い柔らかそうなきれいな肌だった。ケイの背中にしなやかな長く美しい黒髪が踊る。


「ふむ、力に変化はなさそうじゃな」


 猫はその現象をただ満足そうにただ当然というように頷いていた。


 もちろんケイからしてみれば当たり前であるはずもない。おそらく、いや確実に自らの体に起こった出来事に戸惑い自分の体に目が覚めて初めてしっかりと目を落とした。

 意識を失うほどの激痛が走り確実に傷ついているはずの自分の体を見渡す。



 先ほどの衝撃なのか多少痺れが残るその体を確認していく、そして視線の先に映ったのは自分の記憶よりも細い指に柔らかくしなやかそうな腕、明らかに元よりも白くきめ細やかな肌になったその体を指先から徐々に体の方に視線を落としていく…


 そして気づいた、視線の先にあったものは自分の身体に、男の身体に、その胸にあるはずがないつつましくも存在感のある丸く飛び出た双丘だった。



「    ほへ??   」



森の中でケイのまぬけな声が響いた。


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