6話 前世の夢
転生してから何度も同じ夢を見る。
前世で俺が死ぬ時の夢だ。
俺は前世ではアルト=シュトーレンというシュトーレン男爵家の5男として生まれた。代々魔術師系の家系で俺も幼少より魔術を両親から学び、王宮魔術学園を卒業し成人した後に家を出て幼少からの夢であった冒険者となった。
冒険者としての護衛対象であった地方の商会の娘と恋に落ち商会の後を継ぐ形で結婚した。
順調な人生だったのだが、ある日近くのダンジョンでスタンピードが発生して魔物が町の北門や東門に数百を超える魔物が押し寄せた。
元とは言えA級冒険者であった俺は、モンスターに対処するべく町の冒険者や兵士と共に手分けして北門と東門の防衛に当たった。俺も北門に張り付き周囲の兵士や冒険者に指示をだしつつモンスターを処理したが、東門側は徐々に押され遂に町に大量の魔物がなだれ込んだ。
俺は町に駆け戻ったがそこにあったのは地獄だった。魔物に襲われる友人や知人達。妻のいる商会へ戻り家族と合流し、妻の護衛達を引き連れ町から脱出しようと屋敷の門から出たが、そこは既に周囲を大量の魔物達に囲まれていた。弱い魔物しかいない様な田舎の商会の護衛では大量の格上の魔物に対処しきれず殺されていった。
俺にとってはザコでも周囲にとっては、まさにモンスターであった。仲良かった護衛達が次々と殺されていく絶望の中、注意がそれた一瞬、魔物の放った魔術の一撃が妻を襲った。
そこからは、頭が真っ白になり、這う這うの体で妻に近づき躰を抱き寄せた。もはや逃げ惑う町民とか俺に迫ってきている周囲の魔物とか、全てどうでもよくなっていた。
そして俺は魔物に殺され死んだ。
そこでいつも目が覚める。
この夢を見るたびに自分がいかに無力だったかA級冒険者になった事で慢心していたか思い知らされる。個の力がいかに強かろうと大量の魔物達を前にすると無力だった。
『俺が皆を守る』そんな思いで鍛えていたが、『皆で皆を守る』べきだったのだ。もっと、町の兵士達や冒険者達に俺の剣や魔術を教えるべきだったのだ。
すぐ隣に魔物がいる世界で生活しいるのだ。すべての人が最低限の戦闘力をもつべきだ。
たとえ剣を振り回して魔物と戦う力のない老人であっても魔術を放つことが出来る。100人の老人がそれぞれ『ファイアーボール』を放てば100の『ファイアーボール』が放たれるのだ。
この世界に魔物がいるのかは分からないが、鍛えていて悪いことはない。
魔物が襲ってきてから後悔しても遅いのだ。
魔物に襲われることなんてないと信じて暮らしていたあの町の様に・・・・・・・・
そう決意を新たに日課の文字の読み書きから畑と池への魔力供給のルーチンをやっていった。
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