第二.五話:ぬくもり
ぽすんという音と共に自分の肩に重みを感じた小春田はちらりとその元凶である人物を見た。さらさらな黒髪と、その黒髪から覗く白い肌。まさしくそれは冬月天音で、そして小春田の気になっている人物である。
「と、冬月……くん?」
声を掛けてもいつものような優しい声色は聞こえず、ただ聞こえるのはすぅすぅと気持ちよさそうな寝息だけ。小春田は困ったように眉を下げ、焦り、それでも下手に動いてしまえば冬月を起こしてしまうとじっと動けずに息を殺した。
でも、と小春田は考える。今右足に巻かれている包帯は、紛れもなく冬月が巻いてくれたものだ。そこまで酷い怪我じゃないと冬月が言っていた通り、すぐ痛みは引いたもののずっと冬月が気を使ってくれていたのは事実。小春田はそっと冬月のさらさらな黒髪を見て微笑んだ。
小春田が困っていると助けてくれる冬月は、初めて会った時に資料室まで荷物を運んでくれたのをきっかけに少し話すようになって、それからずっと気になっている人だ。昔から王子様のように颯爽と助けてくれるような優しい人に憧れていた。それがぴったりと当てはまってしまう人物が、冬月だったのだ。
「いつもありがとう、冬月くん」
小さく、本当に小さな声で小春田は呟く。さらりと冬月の黒髪を撫でる。
はっと気付いた小春田は慌てて手を引っ込めて、今の出来事を振り払うように首を振って視線を窓の外へと向けた。
後ろの席で、日々谷と三枝が顔を見合わせて笑っていることなど、小春田は知る由も無かった。