衛兵の間
ここはどこだ?
僕は有意識だか無意識だかよく分からない説明をオムライスから受けた。
今の僕は有意識のはずだ。だってこんな風に意識的に思考が出来ているから。
その前の僕は巨体の斧でぶった斬られた。
そこは異常な城の様子だったはず。
それなのに今、僕が居るのは長い通路だった。
ここがどんな場所なのかは僕には分らない。城の中のように見えるけれど城の中では見た事のない場所だった。
有り得る事だ。僕は城の内部の全てを知っているわけではない。僕の有意識が向こう側へ飛んでいる間に事態が収束したのだろうか。でも、収束したのなら事の終わりを意味する。
僕は立ち上がって身体を調べた。傷一つない。斬られた痕はなかった。
ひとまず安心する。命の危険はない、今のところは。
辺りを見回してみると窓も何もない廊下だと気が付いた。
あるのは剣や槍、盾を持った騎士の甲冑だけ。今にも襲い掛かってきそうに思えるが中身が空だと僕の距離からでも分かる。
そしてとても遠いところに大きな扉がある。
行く当てのない僕はとにかく扉の方へと歩き始めた。
考える事はたくさんある。
向こうでの僕を知っている少女・【オム・オム・オムライス】の事、その作品【ファンタジスト・ラプソディ】の事。
こっちでのアリア、ノア、サーシャ、直斗たちの事、この事態の解決方法などなど。
手掛かりはほとんどない。いや、そこらじゅうにあるように思える。この事態を把握する事がこっちでの問題の全てを解決する鍵となるはずだ。
僕は扉の前までやって来た。とても大きな扉だった。
扉の前にやって来た事で気が付いた。両開きの扉の上方に長方形の石が掲げられている。
「“至上の導きグランドール様へこれらを捧ぐ”」
グランドール、やっぱりこの男か。
でも、文から察するにその男を信奉する者による行いらしい。
行こう。僕はこの扉を開けてこの先へと向かわなければならない。
事態が変わっている事と物音が全くしない事は最悪の状況である事を僕に教えている。
扉を開けるとそれは軋みながらも簡単に開く事が出来た。
扉の先にはさっきよりも左右の壁が迫っているもっと長い通路だった。
僕は振り返らない。振り返ってしまえばそこには閉ざされてゆく扉が見えるだけだと理解しているから。解決すべき問題は目の前にある。
しんと静まり返っている。
灯りは左右の壁の上端と下端から等間隔に点っているので暗くはない。ただ少しだけ薄暗い程度だ。
「ようこそと私はきみをもてなした方が良いのだろうか?」
声がどこからともなく聞こえて来る。
とても近いところからだ。でも、正確にどこと判断出来ない。
「ふむ、もてなす事にしようか。この素晴らしい場所をグランドール様に捧げる前にきみで予行演習でもしよう。きみはどこか遠くからやって来たのだろう。なぜならこれを逃れる事が出来たのだから。私は最も遠くからやって来た者を受け入れる寛容を持たねばならない。さあ、先へ進み給えよ。そして私と共に首を垂れて待とうではないか、偉大なる方の訪れを。この場に現れた変化を逃れ得たきみだからこそ会うに値するだろう」
耳を澄ませてみてもこの声の出所が分からない。
ただこの長い廊下には僕の探している人々が見えない。だからこそ僕は先へ進む。
薄暗い廊下は左右の壁の中段にある岩のような質感の壁を異様に際立たせて見せてくる。
僕は再び別の扉の前に立った。その扉の両端には甲冑を纏った騎士が立っている。腰に剣を、背に盾を負っている。
扉に手をかけた瞬間にその騎士たちが横を向いた。がしゃんという甲冑の鋼鉄がぶつかり合う音が響いた。甲冑の中は空のはず。暗くて何も見えない。
僕は唾を飲み込んで扉を押した。
直方体の部屋だった。僕が開けた扉の反対側に上方を円弧にして次の直方体へと繋がる通路が出来上がっている。
ひとつひとつの部屋の壁は岩の質感に覆われている。そして凸凹の装飾が見られた。いや、これは彫刻だ。テレビで見た事があるような岩石に彫られた古の人々。
僕はその方へと近づいて見てみる。
ずいぶん古い物のようで腕のかけた衛兵の姿や奇妙な獣の姿が彫られている。
獣の彫りはずいぶん正確なのに人の彫りは疎かだった。顔は僅かな凹凸があるばかりで女性なのか男性なのかの判別も出来ない。
「のっぺらぼうみたいだ」
そう思った時に僕はある勘が働いた。
「まさか、ここにある彫刻は………」
僕は次の間へと向かった。
そこにはまたさっきの部屋と同じように両側の壁の中段に岩があり、彫刻が施されている。さっきの部屋と同じように。
僕はまた次の間へと向かう。
また次へ、そのまた次へと。
そのどれもに同じような彫刻があった。
5つほどの部屋を抜けると四方に道を開けた部屋に辿り着いた。この部屋にだけ彫刻がない。
いわゆる十字路の分岐の部屋に辿り着いたんだ。
人の気配はない。
遠くから声が聞こえる。
「衛兵の間です。闘う戦士とは時として偉大に見え、また憂いや悲哀を映す時もある。さあ、気の向くままにお進みなさい」
闘う衛兵たち。
のっぺらぼうの衛兵たち。
僕は右の部屋へと入った。
そこにも同じように壁の中段は岩石で彫刻が施されている。
欠けたところがさっきの部屋よりもたくさんある。
「傷ついた衛兵たちは今後をどのように歩むのでしょうかねえ。賞賛や褒美は彼らの砕けた手足の代わりとなるのでしょうか」
3つの部屋を抜けると最奥部の壁際にあの巨体の甲冑を纏った大きな斧を前面に力強く構えた戦士がいた。だけど、それも彫刻だった。
城の中の人々が彫刻に変えられている。
すぐにみんなを見つけなければならない。




