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管の中で

僕は管の中を進んでいる。

管に動きは見られないので生き物と思った予想は違うらしい。

ひとまず安心だ。だって、これがもし生き物の中なら僕はいずれ消化されてしまうだろうから。


迷路のようだった。

どれくらい歩いたかもう分からない。

ここがもし城だったなら端から端までを歩いているはずだ。


それに水気もない。ドロっとした異物や粘液質な何かが見える事もなかった。


誰かに会いたいと思った。

ここで誰かに会う事が出来たら現状の把握が容易になると思う。

そしてその誰かとは僕の事を知る人たち全員だ。


僕も彼や彼女たちを探している。

みんなも僕の事を探していて欲しい。

そうしたらいずれ出会えるだろうから。


僕が進んでいる管が徐々に細くなっている。それが不安にさせる。

ただでさえ理解に苦しむ状況の中でさらなる窮地へと自ら飛び込もうとする恐ろしさが潜んでいた。

ドアと呼ぶには形が歪な襞と襞重なって作られた扉を僕は抜けていく。


僕はそこを何とか通り過ぎると大きな一室に入った。


そこではのっぺらぼうの兵士たちが争っていた。剣を振るい、魔法を唱えて互いを傷つけあっている。


僕は恐ろしくなって固まってしまった。

剣で切りあっている。

それはこうなる前までは互いにある戦いを乗り越えた勇敢な戦士たちであったかもしれないのだ。


部屋を出ようとしてみるが重なる襞が僕を受け入れなかった。

手でこじ開けようとしてみても動かない。


危険だ。

彼らは僕も襲い始めるかもしれない。


部屋の隅で僕は丸くなって姿を隠した。出来る限り見つからないようにするしか方法が見つからない。


争う光景を見ながら僕は他の出口を探した。

外に出たい。

城の外に、この管の外へと出たい。もし外というものの存在が残っているのなら。


「夏天、夏天、こっちだ」


潜めた声がどこかから聞こえて来る。

この部屋の隅、端の方で誰かが僕を呼んでいる。

聞き覚えのあるような無いような声だった。


僕はとにもかくにもこの状況で信じられるのはその声しかないと思う。

それに頼るしかない。


「誰?」


同じように声を潜めて問いかける。


「こっちへ来い。直斗だよ」


助かった。聞き覚えがあると思ったんだ。


僕は声のする方へと静かに寄って行った。


寄って行ったが直斗の姿は見えない。

角の暗がりの中で潜んだ息遣いだけがかすかに聞こえている。

それだけの存在感を頼りに僕は直斗へと近づいた。


「直斗、何が起きてるんだろう?」


「分からない。俺はまずレベッカやマリアたちと合流したい。見たか?」


「いや、誰とも会ってない。僕はみんながのっぺらぼうに見えて誰が誰だか分からないんだ。今も直斗を見るのが怖いよ。声だけが直斗かなっていうあやふやな頼りなんだ」


「まあ、声だけでもいいさ。俺もみんながのっぺらぼうに見える。何もない事の方が困った事になってたよ」


「直斗はどうして僕だって分かったんだ?」


「所作だよ」


「所作?」


「そうだ。歩き方とか振り向く感じとか、じっとしてる時の挙動とかそういう人の動きを見て夏天だと思ったんだ」


「そんな事で分かるのか?」


「分かるさ。よく見てみると人それぞれ動作が違うからな。俺はいつも大会の会場や遠征先で他校の選手たちを観察する。そうして見てると緊張してる奴とかリラックスし過ぎてる奴とか分かるんだ。それで俺が落ち着くんだよ。ここでもそれが出来てる。レベッカやマリアだと分かるし、夏天だって事も分かった」


確かにここで僕だと分かっている事が何よりの証明だ。


「僕もアリアやノア、サーシャを探したい。直斗ほどじゃないけど勘は良い方なんだ」


「そうしろ。それと勘がいいのは知ってる。どうにかなるさ、俺もアリアさんやサーシャさん、ノアさんに会ったら夏天の事を伝えておく。マリアやレベッカに会ったら俺の事を伝えておいてくれ」


「分かった」


「移動しよう。事態に戸惑ってるだけじゃダメだ」


「うん、少なくとも僕らはこの事態を改善させようとしてる。そして多分、彼女たちもだ」


僕と直斗ほぼ同時に頷くと別々の扉から出ていった。


直斗にあんな特技があったなんて知らなかった。

直斗の意外な特技を聞いて強がるように言ったけれど僕にも僕でそれなりの勘が働く。


僕は人の声を覚えるのが早いんだ。それほど確かな自信じゃないけれど人の名前の感覚と声の感覚を一致させやすい。


よし、僕も頑張ろう。

直斗に会ってひとりじゃないと思えたら俄然元気が湧いてきた。


部屋の中では兵士たちがまだ闘っている。剣と剣が撃ち合う響きがこだまする。


どうか、アリアやサーシャ、ノアたちがこの魔法の変な影響を受けて争い合っている事になっていませんように。


僕は道のりに進んでいる。

直斗と別れてからどれだけ歩いたか分からないがとにかく僕は前へと進んでいた。


とても長い時間を歩いていたと思う。

僕はようやく新しい部屋へと繋がる扉・すぼまった出入口らしい場所に辿り着いた。


とりあえずそこへ耳を近づけてみる。

闘う音は聞こえてこない。怖いほどひっそりとしている。


誰もいないのだろうか。

物音ひとつとして聞こえてこない。


すぼまった出入口を押し広げて僕はその中へと入った。

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