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ペッシ、再び

「夏天!」


城へ戻るとアリアが出迎えてくれた。

どうやら僕の失踪は報告されていたようで今回の盗みの件と並行して捜査が行われていたらしい。


「良かった、どこにいたんだ?」


「それが誘拐されてたみたいなんだ」


「誘拐?」


「うん、アリアの誕生日会で音楽を演奏してた一団の連中にね」


アリアの他にもノアとサーシャもそこにいた。


僕の安否を案じていてくれたらしい。ほっと安堵している表情が見えた。

ノアに至っては身体中を点検して怪我がないかを調べ始めた。


「夏天の誘拐とお母様の窃盗事件と関係はしてると思うか?」


「分からないね。でも、してると思うな。勘だけど」


根拠はない。

本当に勘だった。


ただどんな繋がりがあるのか分からない。

どうして僕が誘拐される事になったんだろうか。


「夏天、それで新しい連れはどういう関係なんだ?」


書斎に並べられた本を眺めている踊り子を見てサーシャが言った。


「そうだった。助けてくれたんだよ。誘拐犯たちを撃退するのに力を貸してくれたんだ」


そういえば僕は踊り子の名前も聞いていなかった。

自分の話をされていると分かった踊り子は微笑みながら僕たちに近づいてきた。


「そ、手伝ったってわけ。それで次の仕事にもこのままだと間に合わないからどうにかしてもらったり、良い物がもらえないかなって思って来たの」


「よし、謝礼は払おう。それなりにな」


アリアは侍従を呼んで何かを耳打ちした。


なんだか申し訳ない気がする。

僕の事だったのに。


「謝礼ついでにお願いもあるんだけど聞いてくれるかな?」


踊り子はアリアに言った。


「お願い?」


「そ、あなたのところにペッシっていう名前の男がいるはず。その男を放免してくれないかな?」


アリアの顔つきが変わった。

ペッシの知り合いなのか。

「どういう事だ?」


「言葉通りよ。ペッシという男を放免してくれるなら謝礼なんて要らないわ。本当は欲しいけれどね、喉から手が出るほど」


「どういった関係だ?」


恋仲って感じかな。


「腐れ縁よ。幼馴染ってやつ」


「ふん、くだらん縁だな」


「それで放免してくれるの?」


アリアは考え込んでいる。


「言っておくけれど私と誘拐犯たちとは無関係だからね、本当に」


今は色々とペッシの放免は難しい。ペイトンが窃盗に関係しているかもしれないと疑っているんだ。


「名を聞こうか、君のな。ペッシに知人か尋ねる」


「いいよ、私はアマンダ・ヌゥよ。以後よろしく」


「ペッシが助けを呼んでたの?」


僕が尋ねた。


「ううん、ロキアーノの牢にいるって聞いたからね。どんな様子か見に来たの。こっちで仕事も入ったからそのついでにね。こりゃあ、ダメだなって思ったんだけどあんたの誘拐でどうにかなるかもって思ったの。それで助けたのよ」


そうだったのか。


それから程なくしてペッシが連れてこられた。


まだ手枷をさせられている。傍にはバジャールがいる。


「アマンダじゃねーか」


「なによ、その言い草は。もっとなにか他に言葉があるんじゃない?」


「ねーよ。何しに来たんだ?」


「あーら、じゃあ、助けに来たよって言葉も要らないわねえ。このまま一人で帰ろうかな〜」


「助け?」


「そ、私ね、皇女様のお友達を助けたの。その謝礼にあんたの放免をお願いしたってわけよ」


「なるほどな。だが、放免は難しいだろうな。今の状況なら」


「なによ、なんかトラブルがあるの?」


「兄貴が来てるらしい」


「え、ペイトンが?」


「ああ、俺は知らないがな」


「なによ、あんた、久しぶりに兄貴から連絡があったって仕事を手伝い始めたんじゃない。それでこうなったんじゃないの?」


「そうだな」


「なら、助けに来たって事?」


「違うだろうな。兄貴には思惑があるのさ。お友達って誰を助けたんだ?」


アマンダが僕を指さした。

それを見たペッシは腹を抱えて笑い始める。


「ジェイク、お前って奴は運が良いのか悪いのかよく分からねえ奴だな。いや、総じて良いのかもしれねえぞ。こうして助かってんだからな。何から助け出したんだ?」


「誘拐犯からよ」


「また誘拐されたのかよ。笑っちまうな、笑い殺す気かよ」


くっくっくとペッシが笑う。

僕は悪い気はしなかった。


「放免は構わん。だが、今回の件と無関係だと判断出来てからだ」


アリアが言った。


「だから言ってるだろ。俺は知らねえって」


「それを信じる根拠がない。夏天を誘拐した者たちはどういう風貌をしていた?」


尋ねられたのはアマンダだった。


「あれは多分、シシライの【黒頭狼】だね。首にあの特徴的な刺青があったから」


「【黒頭狼】か、なるほどな」


「金のためなら何でもする奴らだ。ジェイク、命があって良かったな」


「良かろう。手枷を外してやれ」


アリアが命じると衛兵がペッシの手枷を外す。


自由になったペッシは肩をぐるぐると回して身体の凝りをほぐしていた。


「へっ、ありがてえ」


「ちょっとー、お礼は私にでしょー?」


「美味しいものでも奢れー」と付け加えてペッシの肩を小突いているアマンダをペッシは無視していた。

仲が良いんだなあ。


「ジェイク、いつかカードでもしようぜ」


「いいよ。さっきも言ったけれど僕の名前はジェイクじゃない」


「いいんだよ、ジェイクでな」


アリアが咳払いをして注目を集めた。


「今、城内は非常に緊迫している。これ以上の長居は双方にとって有益と思えないのだが」


ペッシとアマンダは城外へと去っていく。


アリアがバジャールを呼んで耳打ちしている。

恐らくペッシを餌にするつもりだろう。


そして多分、ペッシもそれを分かっているに違いない。あまりにすんなりと解放したから。


城内は変わらずに緊張している。


サーシャの国のように、それ以前に《グリシャの天杖》を奪われた時のように何かもっと大きなものが奪われるかもしれないのだ。


新しい動きはないようだった。


ただアリアはそれでも諦めないで考えうる対処方法を講じようとしている。

僕にはそれを助ける事しか出来ない。


誘拐されるなんて以ての外だ。

これからはみんなの傍を離れないぞ!



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