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忍び寄る魔の手

気を失った僕が目を覚ましたのは真っ暗な場所だった。


そしてとても狭いところに押し込められていた。

両腕を縛られて口には猿轡のような物がはめられている。


困った事になった。

どうやら樽のような物の中に囚われているようだ。

ガタガタと揺れている。

車輪が石畳を叩く音と馬の走る音が聞こえる。


剣も何も持っていない。

取り上げられてしまったのか。


いったい誰が僕を誘拐しようとしているのだろう。

馬車の走行音ばかりが聞こえて来る。

他の音は極端に聞こえて来ない。


周りに人はいないようだ。

それならチャンスはあるかもしれない。


僕は太陽の力を固め始めた。

身体の熱を中心へ集めるイメージ。


そしてその熱を僕の腕をキツく縛るロープへと移す。

ロープが微かに輝いていく。

弱々しい光から徐々に強い光へと。


ロープの形を変えていく。

僕のイメージ通りに。

剣に太陽の力を宿した時に槍の形に変えていく要領で。


緩んだので僕は手が自由になった。

幸いな事に僕が入れられている樽を怪しむような動きはないようだった。


でも、油断するわけにはいかない。

手が自由になると猿轡も簡単にとれた。


さて、どうしようか。

足を縛るロープを解きながら僕は考えた。


樽の外がどうなっているのか知りたい。

まずはそれからだと思った.


ただ馬車の走行音ばかりが聞こえるし、揺れで樽が振動する音もかなり大きい。

外の様子はまるっきり分からなかった。


樽の作りはかなり頑丈だった。

指先で触れてみた質感は重厚で硬かった。ちょっとやそっとの力では樽から出る事は出来ないだろう。


馬車が停まった。

がくんと動く音がした。僕が入れられている樽はそれなのにちっとも動かない。

上に積まれている別の樽が軋む音が聞こえてきた。


どうやら僕はたくさんの樽に囲まれているらしい。その奥に置かれているのだ。


馬車の走行音が止むと話し声が聞こえて来た。

それもはっきりと。

どうやらいくらか近い場所に僕を捕らえた者たちがいるらしい。


「ご苦労様、もう行くのかい?」


「ああ、次の演奏があるからな。短い間だったが世話になった。またいずれ会おう」


「世話なんてしちゃいないよ。念のため荷台を確認させてくれ。いいかな?」


「もちろんだ」


声をあげようか。

いや、でも僕がいると知ったらこの人が危ないかもしれないぞ。


もう少し機会を待つか………。


「ふむ」と荷台の中を確認する男の人は積まれた樽の奥に僕がいるとは勘付かなかった。

ちょっとだけ期待していたのは言うまでもないだろう。


アリアやノアとサーシャは僕が攫われているのに気が付いているだろうか。


そういえば演奏と言っていたな。

楽団の連中に攫われているのか。


怪しい一団には見えなかったけれど、人は見かけによらないものだな。


素晴らしい演奏をしていたのに………。


城の人が中を確認すると言う事は馬車はここは検問、城を出るところまで来ているのだろう。


僕は声のしない方を覚えていた。

ロープを鋭い刃に、ナイフのような物に形状を変えると樽の側面を切っていく。


樽の木はとても簡単に切れてしまった。

馬車の荷台の外側に出る事が出来た。僕は城を出て遥か向こうに遠ざかる城の様子を見ていた。

走行中に飛び降りるのは怖い。


でも、そうするしかないのか。


いざ、降りようとする地面を見ると足が竦む。


「止めときなよ、飛び降りなんて馬鹿な真似はね」


すると、抑えた声で誰かが言った。

聞き覚えがあるような、無いような声で。


そっちの方を見るとそこにはあの踊り子の女性がいた。


声を抑えているという事は何かあるのだ。

この人も攫われたのか?


「どうしてここに?」


同じように声を抑えて僕は尋ねた。


「移動費を抑えるためにね。こいつらも私が向かう方と同じみたいだからこっそり忍び込んだの」


なるほど、強かだな。


すると、踊り子が顎をくいと前に動かして僕を促した。


「樽の中にいたんだ。気を失う前までは城の近くにいたんだよ」


「ふーん、誘拐か。こいつらも大胆な事をするんだね。無益な争いはごめんだから私は無関係、そこんとこよろしく」


でも、飛び降りの忠告はしてくれた。

優しい人だ。


「うん、ありがとう」


さて、どうするか。

困った事になった。


馬車の速度は車ほどではないけれど自転車よりは速い。

加えて僕は普段着で衝撃を和らげてくれるような物は何一つなかった。


馬車は凄い速度で城から遠ざかっていく。

僕はというとその遠ざかる城を眺めるしか無かった。


いや、行くしかない!!

ちょっとやそっとの怪我なら大丈夫だ!!


恐れるんじゃあない!!!


僕は飛び降りた。

両足でドンと着地したのだが勢いに堪えきれずにごろごろと転がって衣服をボロボロにしてしまった。

身体にも砂やあれこれが付いたが傷はなかった。


僕が転がった音がどうやら誘拐犯たちに聞こえていたらしい。


馬車は急停止してぞろぞろと人が降りてきた。

5人はいる。

くそ、戦うしかないのか。


武器はない。

持っているのはロープだけ。


太陽の力を全開で戦うしかない!


束ねたロープに太陽の力を宿していく。


「武器は奪えと言っておいたはずだぞ」


「いや、丸腰だった。武器なんて持っていなかったはずだ」


「それにあの光は魔法武器だ」


「やるぞ、5人もいれば取り押さえられるだろう」


僕はナイフのように形を整えたロープを構えた。樽の木を切る事が出来たなら戦えるはずだ。


「馬鹿だね、本当に馬鹿だ」


馬車の荷台の影からひょいと踊り子が飛び降りて来た。


すらりと背の高い踊り子はマントを脱いで捨てた。


「ちっ、何だ、お前は?」


「しがない踊り子よ」


僕は踊り子の様子を見た。

戦うって感じじゃないけど。


「そいつに付くってわけか」


「まあ、そうね。あのまま飛び降りるなんて思ってもみなかった。勇気がある男は嫌いじゃない。それにロンドリアンの王族の知り合いみたいだからね、助けて恩を売ろうかなって」


「高くつくぞ、その代償はな」


5人の男たちがじりじりと広がっていく。


「ラヴァーズ・アゲイン」


魔法を唱えた踊り子の周りに数人の踊り子が現れた。


「あなたって戦えるの?」


僕は答えた。


「ちょっとだけね」


「まあ、いいけど」


そういうとストレッチするように手足を伸ばしている。


誘拐犯たちが武器を取った。


踊り子は武器を握らない。

拳を握って前へ進んだ。


彼女は格闘で戦うのだった。


彼女の分身が向かってくる誘拐犯たちに襲いかかる。

殴る、蹴る、投げる、様々な格闘術を踊り子は繰り出した。

どうやら身体を魔法で強化しているらしい。


僕の方にも2人の男たちが来たが踊り子が強くて加勢に向かわなくてはならなかった。


「アイアン・フィスト」


拳を鉄に変えて踊り子は男を殴った。


身長が高く、踊り子らしい身軽さで男たちをあしらっていく。


街道に近く、城からもそれほど遠くない。

戦う僕たちの姿は見られている事だろう。

何か後方で騒がしくなって来ている気がする。


「ベアーズ・クロウ」


踊り子の右手がクマの大きな手となって鋭い爪が男たちに襲いかかっていく。


僕のナイフの攻撃もその切れ味の良さに恐れを生して男が様子を見ながら警戒していた。


長くなればなるほど僕たちに有利だ。

どうやらそれは誘拐犯たちも分かっているらしい。


互いの戦闘状態をちらちらと確認しているのが見れた。


リーダーらしき男が後方に大きく飛び退くと「ちっ」と舌打ちして叫んだ。


「退くぞ!!」


リーダーの指示が飛ぶと手下の動きは速かった。


全員が乗り込む前に走り出した馬車を追うすべは僕たちにはなかった。いや、少なくとも僕にはない。


手下たちが荷台へと乗り込んでいくのを見送りながら僕は緊張を解いた。

踊り子を見ると遠くへ放り投げていた荷物を持ち上げているところだった。


「あの、ありがとう」


僕がお礼を言うと彼女はにっこりと笑って言った。


「どういたしまして、手助けしたお陰で足を失っちゃった。どうしようかな」


次に仕事があるって言ってたっけ。

悪い事をしたな。


「まあ、いいや。あんたを助けたんだ王族たちからそれなりの礼をもらえるかもしれないね」


にやりと悪そうに笑った。


まあ、掛け合う事は僕でも出来る事だからやってみよう。


城へ戻ろう。

誘拐犯たちと今回の城の騒動は関係があるかもしれない。

報告だけでもしておけば何か打開策があるかもしれないんだ。


「城へ戻りませんか?」


「賛成―!」


荷物を肩にかけて踊り子は言った。


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