幕間-① バジャールの悩み
ウェルガリアの土地は緑が豊かな土地だった。
動物も元気いっぱいで肉料理や野菜がとても美味しい。
僕はいつも満腹になるのでいくらか太った気さえする。
「夏天、これを見ろ」
サーシャが城の外れにある草原の中を歩きながら言った。
彼女が示す草の中には四葉のクローバーのような草が生えていた。
「珍しい形なんだ。アトゥレという草で傷の薬効効果がある。でも、これには逸話があってな葉が多ければ多いほど祝福が授けられるという話があるんだ」
「いいね、僕も似たような話を聞いた事があるよ」
そして僕たちは森の中に入った。
背の高い樹や生い茂る草草で覆われている森に。
「ここからは慎重に、な」
「うん」
僕たちは狩りに来ている。
弓を持って辺りを見ながら獲物の姿を探した。
サーシャは何度も来た事があるらしい。腕利きのハンターたちが僕たちに同行してくれているので獲物が一匹も獲れないって事はないだろうと言ってくれた。
アリアとノアは同行していない。
気が向かないらしい。
いくらか奥へ向かったところで木の影にしゃがんでいたハンターの男が合図した。
「慎重に」
そこから20メートルほど離れた所に一頭の鹿のような動物がいた。
ハンターが絶好の場所とタイミングを計ってくれている。
音を殺して近づくとジェスチャーで弓を構えてくれと示した。
僕は指示に従って弓を構えた。
矢をあてがって引くと鹿に狙いを定める。
飛んでいく矢はずいぶん離れた所を通過していった。
獲物が逃げて行く。
「ダメだったか。惜しいな」
サーシャが言った。
「次は当てるよ」
当てさえすれば追い詰めるのは容易になると教えてくれた。
これが直斗なら簡単に当てたんだろうなあ。
弓の扱いってこんなに難しいのか。
その日は2匹の獲物を仕留めた。
帰ってくると城の人が引き取ってくれた。
一休みをしているとこっそりと近付いて来る影に気が付いた。
少し前から気配に気が付いていたのだが敢えて気にしないようにしていた。
「夏天さん………」
バジャールだ。
とても久しぶりにその姿を見た気がする。
旅が始まってから僕のバジャールに対するイメージは覗きと人狼だけで良い点がほとんどない。
これは不味いぞ。
バジャールはとても落ち込んでいる。
「あなたのご活躍の話を耳にする度に我が身の未熟を恥じ入っております。つきましては折り入ってご相談があるのです。お時間を頂いても?」
「うん、大丈夫だよ」
「ありがとうございます。ご相談というのも変なのですが実はあの件以来、アリア様が私を避けていらっしゃるのです。由々しき事態です、これは」
「アリアって怒ると怖いんだね〜」
「何をそんな呑気な、私は真剣に悩んでいるのですよ?」
「ごめん、でも、アリアが避ける理由を知らないと名誉挽回も難しいね」
「そうなのです。ですが、それはやはりあの件での失態を怒っての事でしょう。私についてアリア様が話している事はありませんでしたか?」
僕が覚えている限りではアリアがバジャールについて話した事はない。
でも、力になってあげなくちゃダメだな。
よし、ここは僕も力を貸すとしよう。
バジャールとの関係もこれで良くなるかもしれない。
「ないと思う。でも、力を貸すよ。アリアにそれとなくバジャールの話をしてみるから」
「夏天さん………!」
バジャールはぱあっと表情を明るくさせて言った。
「どうなる事かと思っていました。パメラとカティアも変によそよそしいのです」
八方塞がりだったんだな。
よし、ここは僕が力になろう。
腕まくりをした気で僕は立ち上がった。
アリアはサーシャたちと国の今後やロンドリアンとの国交など話をいつもしている。
その時もそうだった。
「ロンドリアンから書状が届いた。過半数が国としての援助に賛成してくれている。期待出来そうだ」
「ありがたい!」
僕はアリアたちに近づいて行った。
「ん、夏天か、どうした?」
僕が来た事に気が付いたアリアが尋ねてきた。
訳を話す事は出来ないので言い訳を用意した。
「僕も何か手伝える事があるかなって」
これは本心だった。
ぼうっとしたり、遊んだりするのにも飽きてきていたし、そうして暇を持て余すのも悪い気が募っている。
働きたい。
何か助けになりたかった。
「助かる。でも、無理は本当にしなくていいんだ。夏天には本当にお世話になったから」
サーシャが言ってくれた。
アリアとサーシャの周りにはたくさんの人がいる。
国の国交や政治となると僕は無力だ。
「夏天は馬の世話も出来るようになった。今回も何か出来るようになるかもしれない。あるいはここでも馬の世話をしたっていいと思う」
アリアが言った。
「なるほど。そうだな………」
サーシャが僕に出来るような仕事、任せられる仕事を考えてくれている。
かえって邪魔になっているかもしれない。
「要するに退屈になって来たんだな、夏天は?」
アリアがズバリと切り込んできた。
そうだけどそうじゃない。
「分かった。なら仕事を任せたい。城下町にあるロットンズという店を訪ねてくれ。そこの店主ロットン・ボヴァリーに頼んでいた。荷物を受け取って来てくれるか?」
「分かった!」
アリアに近付くための言い訳だったが思わぬ方に転がった。
僕は城を出て城下町に行く。
アリアとの時間を増やすためにアリアと行きたかったけれど忙しそうで無理だ。
僕は次の作戦を考えている。
そして思いついた。
パメラとカティアを誘おう。
2人はすぐに見つかった。
食堂でアリアに出される予定の昼食のチェックをしていた。
「ねえ、2人とも僕と城下町にお使いに行かない?」
「「お使いですか?」」
「うん、アリアたちに頼まれたんだ」
アリアの名を出せば断れないだろうと僕は思った。
そしてこの思惑は叶った。
「「お手伝いしますよ」」
「ありがとう」
食堂を出て行こうとするとそのアリアとばったり出会した。
「お、こんな所に居たか。私も付いて行こう」
棚から牡丹餅だ!
よし、ここで聞き出してみせる!




