ユイラ
サーシャの高笑いは凄まじい声として響いて来る。
身体を折って僕を嘲笑っていた。
「夏天、探し物はこれかい?」
ユイラの姿になって僕の剣を持ち上げた。
「いつ盗んだんだ?」
「気が付かなかったのなら説明したって理解出来ないさ。認知出来ない事を証明するのはとても難しい事だからねえ」
「サーシャはどうした?」
「ここにいるじゃないか」
そう言ってユイラは姿をサーシャに変えた。
「ほら、夏天、どう?」
胸元を広げて僕を誘惑する。
豊満なサーシャの胸元は今ばかりは魅力的には映らない。
「僕は諦めないぞ」
そうだとも、絶対に諦めない。
一撃をユイラにお見舞いするんだ!
「もう無理さ。夏天、さよならだよ」
ユイラの姿に再び戻ると右手を差し出して下を指さした。
僕が下を見た瞬間に床、塔の階段が消えた。
奈落の底へと落ちていく。
塔の壁がぐんぐんと空へと延びていく。
登った分だけ落ちる距離が延びるのは自明の理であってどうって事は無い。
落下する事に慣れている僕は今のこの落下も全然平気だった。
僕はほとんど勝利を確信している。
なぜなら太陽が沈むのはまた昇るためだからだ。
また昇ってみせる。
絶対に。
熱を感じるんだ。身体の中の熱を感じるんだ。
手足から熱を集めて背中へ導く。
太陽は常に動いている。まあ、地球人にとってだけども。
そして肩へ、肩甲骨の間を抜けて空へと昇るんだ!!
そして朝を迎える。
今度は目を覚ましたという感じではなかった。
全ての霧が、とてつもなく濃い霧が徐々に晴れていき、今ようやく全ての霧が晴れたんだ。
「ば、馬鹿な、ジ・アビスが破られるなんて………」
ユイラの声が聞こえる。
足元にはサーシャがくずおれていた。
「サーシャ!」
彼女を呼んだが顔を上げようとしないで無気力に項垂れている。
「サーシャ!!」
再び呼んだ。
するとようやく僕の声に気が付いたのか顔を上げてくれた。
「か、夏天さんか………?」
「そうだよ、僕だ!」
げっそりと痩せた表情のサーシャがいた。
精神攻撃で参ってしまったのだろう。
僕の奪われた剣はユイラの足元に置かれている。いや、打ち捨てられていた。
サーシャがなんとかそれを僕に渡してくれないだろうか。
無理はさせられない。
「やれやれ、私が自ら戦う事になるなんて思ってもみなかったよ」
ユイラが腰に差していた細剣を抜いた。
シャァンという鋭い音が響く。
前方に真っ直ぐ構えるとユイラは目の色を変えて僕を見た。
戦いの目だ。
僕は丸腰で対峙している。
近くに使えそうな物はない。あの転がっている剣だけが僕の唯一の武器だった。
あれを取り戻すしかない!
ユイラに剣を狙っている事を悟られる前に僕は走り出さなければならなかった。
剣に意識がいっていないという一点を突くさかない。
だが、ユイラは僕の狙いを分かっていた。
罠だったのだ。
剣を蹴って遠ざけると僕の目をめがけて剣を突いてくる。
避けられたが剣から更に遠ざかってしまった。
「バレてないと思ってたならあんたは本当におめでたい頭をしてるよ、夏天」
悔しい、絶対に斬ってやる!
経験と練度はユイラの方が上だ。
でも、有利な点がある。
それはサーシャがいて数的有利が作れる事と魔法を破って塔の上にユイラを追い詰めている事だ。
この勢いで勝ち切るしかない!!
あわよくば下のアリアたちやノアが助けに来てくれるかもしれないしな!
「サーシャ、立つんだ!」
呼びかけて加勢してもらうんだ。
剣を渡してくれるだけでもいい!!
「夏天さん、私はもう闘えない………」
どうやら僕が魔法に囚われている間に彼女はユイラと闘っていたらしい。
所々にあの細剣で斬られた傷がある。
「もう無理さ、これ以上に強い要求をすると心が壊れちまうよ。このラウラの細剣は相手の精神すらも切り刻む。どうしてあんたは平気なんだろうねえ?」
「サーシャ、大丈夫。絶対に助けるから!!」
もう終わりにするんだ!
太刀打ち出来ないなら逃げる。
でも、逃げる先は下じゃない。
上だ!!!
僕は塔の最上部へ向かう梯子へ目掛けて走り出した。
波動はこの上から感じる。
この上に《ウェルギリウスの外套》があるんだ。
それを先に奪ってユイラの力を弱らせる。それに計画が瓦解すれば精神的にも大きな打撃を与えられるはずだ。
「行かせるわけないでしょうが!」
ユイラが梯子に手をかけた僕に細剣を突いてくる。
だが、それは届かなかった。
サーシャが立ち上がって戦斧でユイラの足を払っていたのだ。
「こ、このクソガキがあぁァァ!!!」
サーシャは戦斧を構えながら辛うじて立っているのに強い眼差しを取り戻して言った。
「私たちの国だ。私たちが横になってなんていられない!!」
僕は塔の上、尖塔の上部に浮いている《ウェルギリウスの外套》に手を伸ばした。
太陽がギラギラと燃えている!!
指先が波動を乗り越えて薄黒い影の中へと入り込むと《ウェルギリウスの外套》に触れた。
その瞬間、太陽の輝きよりも火の光よりも強い閃光が閃いて僕の目の前は真っ白になった。




