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幻、再び

月の刃は森を切り開いた。

いや、森の幻を切り開いたと言った方が正しいだろう。


僕たちは倉庫の中にいた。

もうこの中にいるのはうんざりだ。

急いで外に出た。


「あ」


外に出た瞬間に僕はあの波動を感じた。


東の尖塔だ。


「あっちだ」


僕が指で示した方角をみんなが見た。


「あっちは東の尖塔だ」


サーシャが言った。


「すぐに向かおう。今ならそれほど時間が経っていないだろうから敵の準備もまだ万全では無いだろうしな」


「付け入るチャンスですね」


サーシャがアリアとノアの言葉に頷いて張り切って先導していく。


東の尖塔の頂上辺りから波動が感じられる。


「多分、頂上だよ」


僕が言うとサーシャは「分かった」と短く小さな声で言った。


尖塔の登り口に着いた時、その前にバジャールがいた。人狼の姿のままで。


アリアが額を押さえてハアアァァとため息をついた。


「すっかり忘れていた」


するとノアが前に立った。


「私が相手をしましょう。今度は本当に大丈夫です」


「本当に容赦しなくていいからな」


「ええ、しませんとも」


バジャールは「ここから先には通さん!」と言わんばかりに立ち塞がっている。


ノアはバジャールへゆっくりと近づいて行く。


「アイス・ステージ」


辺り一面が氷で覆われた。空気でさえも冷たくなっている。いや、寒い。僕たちの吐く息さえも白くなっている。


え、何かめちゃくちゃ張り切ってる?

いや、怒ってすらいるような………


「グルルルゥゥ」


唸ったバジャールはグッと身を沈ませると次の瞬間にはノアをめがけて飛びかかって来た!


鋭い爪と獰猛な牙、強靭な肉体がノアに向かって来る。


「愚策ですね」


氷で覆われた通路から巨大な氷柱が突き出してバジャールの身体へ打撃を加えた。

鈍いどしんという音がしてバジャールは通路に降り立った。


「先へ行ってください。その隙は私が作ります」


ノアが言うと凄まじい勢いの吹雪がバジャールへと襲い掛かった。

細かい雪がバジャールの身体に付着して凍り付いて行く。


バジャールは身体を動かして抵抗するがノアの攻撃の方が圧倒的だった。


「よし、行こう」


僕たちは東の尖塔に入った。

塔の中までノアの魔法の影響が届いていてかなり寒かった。


「ノア、手加減してくれないかな?」


「はは、頼んできたらどうだ?」


「今さら出来ないね」


僕たちは螺旋階段を上り始めた。

どれだけあるかは外から見た時に分かっていた事だが先が見えないぐるりぐるりと回る階段はとても長い。


「おじいちゃんはどうなったの?」


ミミルが踊り場のようなところで待っていた。


「ミミル!」


サーシャが叫んだ。


「投降しろ、今ならまだ間に合う」


「間に合う?」


ミミルは首を傾げて尋ねてきた。


「グドーは無事だ。捕えているだけだからな。事情を説明しろ、もしかしたら汲んでやれるかもしれない」


サーシャはまだミミルを助け出そうとしている。


「無理だよ、無理。ウェルガリアじゃあどうにもならないんだ。わたしはお母さんに会いたいだけなんだ。ユイラが会わせてくれた。新しい世界になったら好きな時に好きなだけ会えるって教えてくれたのよ。サーシャたちでは無理な事でしょう?」


グドーが言っていたっけ。母親を想う気持ちを利用されているって。


「確かに、無理だ。辛いだろう。寂しい事だろう。だが、それを乗り越える助けはしてやれる。私も母を失った。父は国務で忙しい。とても辛く寂しい時間がなかったとは言えない。でも、そんな時に周りの者に助けられた。それはもちろんミミルやグドーも含まれるんだぞ。私はミミルの苦しみに気付いてやれなかった。許してほしい。だからこそ、今は力になりたいんだ!」


「うるさい!! 私は今、会いたいんだ!! すぐにも会いたいんだ!! 会って、会って抱きしめてほしいんだ!!」


ミミルが長弓を構えると彼女の身体に巻き付く様にして大蛇が現れた。


「私たちが相手をしよう。お前たちは先に行け」


「いや、だが………」


「安心しろ、出来る限りはサーシャの意を酌むさ」


「すまない」


「よし、先に行け。パメラ、カティア、準備はいいな?」


「「はい!!」」


僕とサーシャは尖塔を登るために階段を目指して走り出した。


「行かせない!」


ミミルが叫ぶと大蛇が僕たちに向かって大きな口を開けて迫って来た。

が、アリアが唱えた魔法によって土の壁が作られるとそれに激突して僕たちは守られた。


「行け!」


アリアが叫ぶ前に僕らは走り出している。


「夏天さん、いいのだろうか、本当に任せてしまっても?」


「大丈夫さ、全部を解決してから文句を聞こうよ」


螺旋階段を登っていく。

息が切れてきたがまだ登れる。


もう何周したか分からない。

いや、ダメだぞ。なんだか様子がいけない気がする。


「サーシャ、ここには塔のどの辺りの高さにいるか教えてくれる表記はないの?」


「ない。だけど、中ほど辺りに窓があるはずだ。もう見えてもいい頃なんだが」


「見えないね」


窓はなかった。

どれだけ行っても。


ユイラの魔法に違いない。


でも、僕だけじゃない。サーシャも同じ物を見ている。いつまでも続く階段を。


待て。

どうしてあの波動を感じなくなっているんだ?

さっきまでは感じていたんだ。

塔の上の方からやってくる振動を感じていた。


それが無くなっている。

いつからだ?

尖塔に着いた時?

いや、あの時はまだ感じていた。


ノアと別れた時?

違う、その時に塔の入口に入る時にも僕はしっかりと感じていた。


なら、ミミルと対峙した時か?


そうかもしれない。

その時にははぐれていく仲間とサーシャの事を気にかけていたから。


僕は立ち止まった。

波動を感じられない以上はこの塔の上を目指すのは無駄に思えた。

ユイラが移動させたのか。何らかの方法で僕たちに気付かれずに塔を下りる方法を用意していたのかもしれない。


そんな事を考え始めたらキリが無い。

今、ここで必要なのは波動を捉える事だ。


「夏天さん、どうしたんだ?」


サーシャが僕の手を取って引っ張る。

彼女はそれでも上へと行こうとしている。

彼女の目は本気だった。

国を、国民を助けるために足を動かす。決心に溢れた瞳。


「夏天さん!」


振り解けなかった。そうしてしまったら僕は彼女の本気を見捨てるような気がして。


でも、何かがおかしいんだよ!


「波動を感じられない。この塔の上から移動させたのかもしれない!」


サーシャは僕の言葉を聞いて息を飲んだ。


「ここまで上がって来たんだ頂上まではもうすぐだ。まずは上がってみる。それからユイラが移動させた方角を見よう。今、引き返す事は得策じゃない。上がるんだ!」


やっぱりそうだ。

サーシャだ。本気で国民を助けようと懸命になっている。


「ならここにいてくれ。私が上へ行く。それで何も無かったら私が合図する。魔法を使ってな。それで構わないな、いや、そうしよう!」


真紅の髪をなびかせてサーシャは上へ向かうのを再開させる。褐色の肌に汗を浮かばせて。

合図を送るなら下で戦う仲間たちがそれと気付いてくれるだろう。


幻なんて思えない。

サーシャと一緒に幻の中にいる。


幻であるのなら斬ってしまおう。

この塔を!


僕は腰に差していた剣の柄を握ろうと手を伸ばした。


すると、そこに剣がなかった。


倉庫で使ってから僕は鞘を外していない。

鞘に納めたのは確かだったのに鞘ごと無くなっているのは異変だった。


僕に起こった異変に気が付いたサーシャはくすくすと笑っていたかと思うとユイラのように高笑いを始めた。


そういう事か!!


ここは彼女の独壇場なんだ!!!


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