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偉大なる破壊と創造

きっとクローゼットが罠だったのだろう。

この倉庫の中を探しにやってくると考えて僕たちがやってくる前から張っていたんだ。


そうなるととても不味い。

相手の術中にまんまと入って行った事になる。

多分、太陽の加護を当てにしていた罰が当たったんだ。


再び母親と直斗がやって来て僕を中傷していく。

アリアとノア、サーシャがやって来て僕を罵った。


でも、僕は知っている。

これは相手の精神攻撃だ。みんなが思っている事や言っている事じゃない。相手に言わせられている事なんだ。


この敵は絶対に許さないぞ。


すると、目の前に僕が現れた。

正真正銘の僕。現れた僕は黒い髪をしている。僕がこちらに来る前のように。


手にキャンパスノートを持っている。

3冊も。

僕はそれに覚えがある。当然だ、僕のノートなんだから。


あれは僕が空想した小説のネタを書きつけたノートだ。

懐かしいな、いや、3冊だけじゃない。奥にはもっとたくさんある。


「駄作だよね」


目の前の僕が言った。


「いつもそうだね。無意味な設定や過度な演出を書き連ねるだけ。物語性なんて皆無さ。自分の好きなキャラクターを活躍させて特に好きでもないただ好きなキャラクターを活躍させたいがために作られた無造作なキャラクターたちが溢れている。そして気に入った展開を何度も何度も何度も何度も空想し続ける」


耳が痛い。


[僕]がノートに火をつけた。マッチを取り出して箱の外側で先を擦るとボウッと音を出して火をつけるとそのままノートを焼き始めた。


メラメラと炎が大きくなっていく。

あれは僕のノートじゃない。僕のノートは自宅の部屋に隠してある。


「お前の考えている事は分かるよ。僕はお前だからね。うん、そうだね。作品として形になっていない物を駄作なんて評する事は出来ない。果たしてそうかな?」


敵意をぶつけるんだ。抗ってみせる。ここで折れたら僕はユイラの魔法に負けてしまう、そして何より僕自身に負けてしまう。


「形にすらなれない設定やキャラクターは山ほどいるさ。お前がしていないだけの物もあるだろうが大半は形にすらなれない。お前は高校を卒業して大学へ進学したら自分で物語を書くつもりでいる。でも、その時には新しい物語と設定とキャラクターたちを思いついていて過去の設定やキャラクターになんて目を向けやしないさ。燃やしてしまった方がまだ救われる。この救われるって言うのが大事なのさ。世の中は残酷だよ。お前の作品に、ああ、そうだな、ようやく形になった作品に人々は情け容赦なく評価を下す。あるいは評価さえ下されないまま素通りされるのさ。気付いているんだろう、知っているんだろう。この世界の真実に。素通りなんて許されないよ。お前もまた作品を素通りしていく1人なんだ。設定を、キャラクターを、物語を自分の中に築いた上でもやっぱり非生産でまだ作る時じゃないといって素通りして来たものな。簡単だろう?」


この野郎、ぶん殴ってやりたい。僕はそんな事は言わない。拗ねたような態度をとりやがって!


「僕はお前だよ」


違う!


「違わないさ、ほら」


[僕]が右手を挙げた。


すると僕の右手も自然と挙がっていく。

下げようと思っても下げられない。


右足が前に出た。そして左足も。


[僕]が近付いている。

互いの距離は僕が歩いた分だけ縮まってもう鼻先が付くぐらい近付いている。


そしてまた踏み出した。


止めろ、僕にはそんな趣味はないんだぞ。


「さあ、やりたい事をやろうぜ。もう我慢なんて必要ないさ。偉大なる創造の前には偉大なる破壊が必要だ」


[僕]が僕に同化して来る。

重なって溶け込んでくる。

明らかに僕ではない感覚がある。


「「さあ、偉大なる創造のために偉大なる破壊を行おう!!!」」


目の前に母親と直斗などの向こうの友人たちが現れた。

そしてそのすぐ傍にこちらで出来た知人たち・アリアやノア、サーシャ、パメラとカティア、バジャールとグドーさん、ミミルが並んでいる。


「「ブレイドオブサンズ」」


止めろ、何をするつもりだ。


いつの間にか右手に握っていた剣が太陽の輝きを帯び出した。


「「さあ、破壊するんだ。新しい関係の構築・創造は古い関係の破壊から始めなければならない」」


[僕に身体の自由の全てが返された。


みんなを傷つけるなんて真っ平御免だ。

いつか言ってたっけ。

人を傷付けてまで貫く事があるのかって。

僕は今だけはみんなを傷つける事は出来ない。


僕の選択はたったひとつだ。

どうせ、幻なんだからどうって事ないさ。


僕は、思いっきり剣を自分の胸に突き刺した。

ズブリと簡単に突き刺さっていく感覚は呆気なかった。



目を覚ました。


目を覚ましたはずなのに僕の周りには変わらず誰もいなかった。


倉庫の中に居たはずなのだが森の中にいた。

倒れていたために頬の辺りに土が付いている。

拭った手のひらに付いた土の感覚も本物だった。

辺りを漂う匂いも森のそれだった。


どうやらまた森の中に帰って来たらしい。

ユイラの魔法が影響力を取り戻したんだ。


松明の火は消えている。いや、消されたのかもしれない。

月の光が木々の間を通過して地面を照らしている。


さすが森の中と言うだけあって鳥の鳴き声やパシっパシっという虫か糞か小さな何かが落ちて葉っぱや地面に当たる微かな音だけがよく聞こえる。


僕は森をあてもなく進んだ。

月光に当たらないようにしているが今はもうどうって事ない気がしている。


そして巨大な1本の樹に辿り着いた。

そこにユイラとミミルがいた。

傍にグドーさんも座っている。


樹の周りにはアリアやノア、サーシャ、パメラとカティアが仰向けに寝かされていた。

嫌な予感はしなかった。

みんな寝ているように見える。それも安らかに。


「あ〜ら、夏天じゃない。あんたってばこういう時に目を覚ましちゃう男なんだねえ」


「みんなを解放してくれ」


冷静だった。驚くほど。


「グドー、始末して。良いでしょう?」


ミミルがグドーさんに命令した。


座っていたグドーさんが立ち上がって棍棒を構えた。


「やれやれ、夏天殿には恨みはありませんが致し方ないですな」


グドーさんが棍棒を前に構えたままですごい迫力で前進して来る。


棍棒を大きく振りかぶって僕の頭にめがけて振り下ろした。

ドンッという大きな音がして地面に棍棒の先がめり込むとその振動が避けた僕の足にまで伝わってくる。


剣を抜き放って僕は唱えた。


「ブレイドオブサンズ」


剣が太陽の加護を受けて輝き出す。

でも、その輝きはいつもより柔らかくて煌めきが強かった。


そして形が変わっていく。

伸びて長くなって両刃の槍となった。

大きいのに重くはない。むしろ軽いぐらいで僕でも簡単に扱えそうだ。


「それは、あんた………」


ユイラが口を開けて驚いている。

僕はもうどんな事があっても驚かないさ。

塔から落ちても平気だったり、剣が輝いたり、太陽を生んだり、色々と出来るんだぞ。

戦うのだってお手の物さ。


槍を構えるとグドーさんが警戒心を強めて僕を睨んでくる。


僕も睨み返す。ギロリってね。


グドーさんがジリジリと前進している。

僕は構えた槍を横薙ぎに払った。牽制だ。近づくな、ちょっとずつ進んで来るのは分かってるぞというメッセージのつもりで。


その瞬間、きらりと光った槍が描いた軌跡が輝きを残している。

綺麗だと思った。


月光の槍だ。


「ランスオブルナ」


正しい月の光だ。

太陽光を反射する月の光。

夜を照らす美しい光。


お前たちが見る醜い月の光とは違うんだ!


グドーさんが今度は僕と同じように横薙ぎに棍棒を振るってくる。

僕は槍の柄の部分でグドーさんが持つ柄の部分を受け止めた。


グドーさんが怯んで体勢を崩した瞬間に僕はぶん殴った。


ユイラとミミルの方を見るともう既に姿がなかった。

僕はグドーさんを縛り上げるとアリアたちを起こした。

彼女たちはすぐに起きてくれた。

安眠のほどが良すぎて起こすのを躊躇うぐらいだったが起こさなければならないと強く思って実行した。


「また助けられたな、ありがとう夏天」


アリアが礼を言った。


「どうって事ないよ」


ノアも礼を言う。


「ありがとうございます。本当に助かりました」


「なんだか今回はノアを起こしてばかりいる気がするね」


笑って応じるとノアが顔を赤くして言った。


「今から役にたって見せます」


サーシャは泣いている。

グドーさんを見てわんわんと泣いていた。


「もうこの国はお終いだ………」


アリアとノアは何も言わない。


「そんな事言わないで、大丈夫。なんとかなるよ」


「でも、でもぉ………」


「サーシャがいればなんとかなるよ。さ、立って。この事態を抜け出そう。もうすぐだよ!」


サーシャの手を取って立ち上がらせた。

彼女の背は僕よりも少しだけ低い。

少しの力ですっくと立つので僕はもうすっかり安心した。


「ね、大丈夫。なんとかなるから」


サーシャが頷いた。

大丈夫、僕は本当にそう思っている。


アリアとノアがその間にグドーさんを訊問していた。

パメラとカティアはまだ寝ている。

起こそうとしたんだけどなかなか起きない。


「夏天、どうやらミミルがユイラとその魔法にご執心らしい。グドーはミミルに請われて助けていたそうだ」


そうだと思った。

闘っていた時に明らかに手加減されているような印象だったから。


「グドー、ミミルは以前からユイラと関係していたのか?」


サーシャが涙を拭きながら尋ねた。


「少し前からです。あの子は母親を早くから亡くしていました。母親を想う心を利用されているのです。わしではどうにもなりませんでした。罰は如何ようにも受けます。わしは国と孫を天秤にかけて孫を取ったんですからの」


グドーさんは淡々と語った。後悔はないと言った様子だがミミルを想う気持ちはまだあるらしい。

心配そうな目をしている。


「よし、罰やそうした事はここを抜けてからだ。ミミルもだぞ」


サーシャが言った。


「よし、夏天。ここから出よう。なんとかしてくれ」


アリアが言った。その目の期待に満ちた様子と言ったら言葉がなかった。

ノアもまるきり任せた様子でいて手を前にして組んで僕を見ている。

サーシャの願いを乗せた目も僕に大きなプレッシャーを与えて来る。


でも、僕にはここから出る手段なんて思い浮かばない。


「うーん、どうやって出ようか?」


僕が腕を組んで尋ねると当たり前の事を尋ねられたようにして言った。


「「「その槍でどうにか出来るのでは?」」」


なるほど、試すのはアリだね。


僕は月光に輝く槍を大きく振るった。この狼の遠吠えや鳥の鳴き声が響く森へ向かって。


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