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罠にかかる夏天

僕たちはサーシャの案内でエレカの自宅へ向かった。


城のすぐ脇に立つ住宅街の一角に住んでいるらしい。

ミミルは国王や大臣など変化後に残された人たちを相応しい場所へと移すと言って城に残っている。

グドーさんとパメラ、カティアが城内を捜索している。


僕は前にもこうして誰かの自宅を訪ねた時の事をみんなに話した。


もしもの時の事を考えて知っておいた方が対処出来る事が増えると思ったんだ。


「なるほど、待ち伏せか。卑劣な奴には負けられん」


「そっちの方が話が早くて助かるな」


「同感です」


みんな、強気すぎるよ。

でも、そっちの方が僕ららしくて良い気がする。


エレカの自宅へ辿り着いた。


そこはひっそりしていて誰もいなかった。

どうやら僕は誰かが居てくれる事を期待していたようだ。


「ガッカリしてますね、夏天さんは」


「バレたね、うん。そうなら分かりやすかったと思うよ」


「仕方がないさ。中の様子を見るに急いで出て行ったという感じでもないな。随分前から帰っていないように見える」


「そうだな、となると城の中か?」


「かもしれない。城外を探すのは手間がかかりすぎだ。探した方がいいが手が回らない。1度城へ戻ろう」


「うん」


「今は午後3時だ。いつもなら既に夜になっているはずだが夏天さんに助けられているな。まだ外は明るい。でも、浮かんだ太陽は少しずつ小さくなっている」


「そうだね、多分あと2時間ほどで消えてしまうと思う」


「よし、話している暇はない。帰ろう」


城へ帰るとミミルたちが待っていた。

彼女たちは僕たちに報告する事があるらしく僕たちの姿が見えた時に大きく手を振って呼ぶのだった。


「何かあったの?」


「はい、見せたいものが!」


ミミルが勢いよく言った。


僕たちはミミルの案内で4つある食料庫の2つ目へ向かった。


そこにはエレカさんがいた。悲しい姿で。


みんな、黙祷のように目をつぶって哀悼の意を口にして表すとゆっくりとエレカさんに近付いた。


アリアが亡骸を調えて丁寧に状態や持ち物をあらためた。


エレカさんの亡骸に目立った外傷はなかった。


「外傷はない。ここでは限界があるが死因は病死だろう。ここは食料庫だ。食べる物には困らない。餓死は考えられないところだな。こんな物を持っていた」


アリアが手に持っていたのはよれよれの紙で中には遺書のような懺悔の言葉が書かれていた。


そこに「あの女」という記述があった。

そしてどうやら《ウェルギリウスの外套》を「あの女」に渡したのはエレカさんのようだ。

それを後悔していると書かれていた。


後悔の末のさ迷いと結末だった。


「ふむ、『あの女』とはユイラに違いないな」


「ええ、そうでしょうね」


「これで分かった事があるな」


アリアは何かに納得している。


「どんな事?」


「この事から察するに以前から接点があったか、もしくは顔か名前を知っていた程度までは推測出来る」


「つ、つまり?」


「城の内部の者である可能性が十分に考えられる」


「だけど、サーシャたちはユイラを知らないって言ってたんだよ?」


「うん、知らない。見た事がない。あんな格好の女性が城にいる事を父が許すとも思えない」


「そうなるとシェルダン家を調べたいな」


僕が提案した。この人たちが関係していると僕は思う。


「だけど、あの占い師はこの国の人ではない。滞在したのも3日だけだった」


「うーん」


関係はあるかもしれない。

それは今この城で起こっている事とは繋がりが弱い、のか?


「私たちの場合は城の尖塔を登っていたっけな。高いところを探すのはいいかもしれないぞ。この城での高いところとはどこだ?」


「南の尖塔が最も高いな」


「そこへ行ってみよう」


僕たちは南の尖塔へと向かう。


またサーシャが先を歩いていく。彼女はとてもキビキビとした態度で歩く人でほとんどよそ見をしなかった。


南の尖塔を昇っていくが頂上へ着いても探す必要はなかった。

塔の頂上には外套はなく、波動のような力も全く感じなかったからだ。


やっぱりあの倉庫が怪しい。

僕はそう思う。


ぐううぅぅぅ………


僕の腹が突然大きく鳴った。

それで気が付いたのだが僕は空腹だった。


アリアとノアが笑っている。


「昼食にしよう。私も実は空腹だから」


サーシャが言ってくれて助かった。

アリアとノアもお腹が空いているはずなのに笑うなんて酷いや。


簡単な昼食を食べている間に僕たちは話し合った。


「時間はもう少ししかない」


「ああ、太陽がずいぶん小さくなっている」


「あと残るは倉庫だね」


僕はあの倉庫も十分に調べるべきだと思っている。


「確かにな、あそこが異変の始まりだった」


「でも、どうして《ウェルギリウスの外套》や《グリシャの天杖》が必要になるんだろう? 確かそれほど価値はないんでしょ?」


「価値、と言うよりも力だな。ウェルギリウスとグリシャはそれぞれ偉人として祀られている。その偉人たちに由来する物としての知名度は十分にある。まあ、それだけだな。ロキアーノではあの杖は催し物や祝いの場には出る事があった。国と都市の威光を知らしめるために」


「私たちも同じだ。祝いの場を始めとする冠婚葬祭や各種の儀式などで使われる事が多かった。でも、やはり力となるとない代物だった」


「置物とされている物だな。仕方がないさ。偉人を讃えるあまりに由来する物はどうしても保管したい。丁寧に扱われるあまりに力を失っていく事もある」


「まあ、歴史はここまでにしましょう。次の一手が無いのなら夏天さんの倉庫の調査には賛成です」


ノアが賛成してくれた。彼女は本当に歴史には興味がなさそうで語るべき事なんて何も無いと言わんばかりにうんざりしている。


「でも、それだけ力がない物がどうして必要になるんだろう?」


「それは私たちでは分からない。尋ねたら教えてくれるかもしれないがな」


「僕はあの《グリシャの天杖》の時のような波動があると思うんだ。感じていないだけで。あの波動が太陽の力を奪っていると思うんだけれど」


僕が言った事にアリアたちは考え込む。

みんなが分からない事なら僕がいくら考えた所で分からないだろう。

だから、これで仮にも答えが出なかったらこれ以上、この事を考えるの止めよう。


「恐らくですが………」


口元に手を当てたノアが自信なさげに口を開いた。


「魔法を反転させているのだと思います。私たちが普段使っているのは正置と言われている状態で、これをなんらかの方法で反転させる事が出来ると聞いた事があります。その反転した魔法の作用で押さえつけられているのではないでしょうか?」


「なるほど、そのなんらかの方法で遺物が必要になるというわけか」


「恐らくですが」


ノアは本当に色々な事を知っていて頼りになるなあ。


「ノアは頼りになるね」


「や、やめてください。ちょっとだけ聞いた事があるだけです。確かな情報でもないので本当にそれだとは限りませんから」


こうして話している内に僕たちの簡単な昼食は終わった。


「よし、なら食べ終わったらすぐに向かおう」


アリアが言ったので僕たちは頷いて食事を急いだ。

太陽はずいぶん小さくなっている。

もうあと少ししかないぞ。


昼食を終えた僕たちは早速倉庫へと向かった。


今度はパメラやカティア、グドーさんを連れて行く。

松明の数を増やして調査を進めるつもりで。


倉庫の中は依然としてがらんと寂しげだ。僕は直感的にそこには誰も人なんていないと思った。

人が居れば僅かにでも感じられるであろう反応が全くない。


松明の灯りで照らされる場所は限られていて全貌を見る事は出来ない。


倉庫の奥は見えなかった。


一歩その中に踏み出した。

僕はこの中に手がかり、あるいは敵のアジトがあると思っている。

踏み出した途端に疑いが確信に変わった。


「よし、二手に別れよう」


アリアが提案するとそのまま2つの組を作っていく。


僕とノア、グドーさんの組とアリア、パメラ、カティア、サーシャの組が作られた。


倉庫に入るとグドーさんが凡その倉庫の間取りや広さを教えてくれた。

僕たちは左側を回っていく。


倉庫の中はたくさんの物が置かれていてグドーさんはその一つ一つの歴史・由来を教えてくれた。

まあ、こんな作業の中ではひとつの楽しみ、暇つぶしのようになっていた。


そしていくらか時間が経って成果を挙げられないまま太陽が完全に消滅してしまった事が分かった。

倉庫の中は真っ暗で陽の光なんて射さないのだが直感的に僕は城の外が再び夜に、つまりは月光が降り注ぐあの恐ろしい夜に覆われたのが分かったのだ。


「太陽が、今消えたみたいだ」


「そうですか。いよいよ時間がありませんね」


「急ぎましょう。これで半分ほどになります」


とても大きなクローゼットが左側の壁際に置かれている。

僕の背丈を越して背伸びして手をうんと伸ばしてもそのクローゼットの上端に触れる事さえ出来ないほど背の高いクローゼット。

身を隠すには十分だし、どんな物でもしまう事が出来そうだと思った。


両開きの扉を開けて中を覗くとそこには衣服や他の物が何一つない真っ暗だった。試しに手を伸ばして探ってもそれらしい物は何も置かれていない空っぽのクローゼットだった。


扉を閉じて振り返るとそこには誰も居なかった。

ノアもグドーさんもいない。


右手に持っていたはずの松明もいつの間にか消えていた。

見える物が何もない。


微かに明るいその場所は実体のない光に照らされていた。

地面に半分だけ顔を出したような月が辺りを照らしている。


僕は、倉庫の中に居たはず。

そうと思った瞬間、僕は敵の罠にかかった事を理解した。


誰もいない。

何も見えない。目は見えているのに。

言葉として言い表す物が目の前に全くない。


ぼんやりと柔らかく半球体状に光る光源だけでそれを見ているとその中でグルンと影が過ぎった。

まるで生き物のように。


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