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太陽の力

獣たちが迫って来る時にアリアが魔法を唱えた。


「ラック・フォーチュン!!」


ドーム型の明るい結界が張られた。

獣たちはどうやらこの結界に入れないらしい。


「数分しかもたないだろう」


アリアが言った。


「ノア?」


僕が呼びかけてもノアは力なく項垂れていてぼそぼそと謝罪の言葉を繰り返していた。


「あの精神攻撃でやられてしまったのか」


「後悔の棘、か」


「ノアはロ―グロウとシシライの戦争で湾岸部の防衛に従事していたそうだ。その時に尋常ならざる戦果を挙げてシシライから氷海の女王と呼ばれるようになったらしい。大きな後悔もその時にあるのかもしれない」


「ノア・エメリカの名は聞いた事があったが、そうか、彼女だったのか」


「戦果って?」


「こういう時の戦果はどれだけの被害を相手にもたらしたか、だな。シシライは湾岸部からの攻撃で多数の戦死者を出したらしいから、恐らくそれだろう。シシライの将軍を数人討ち取ったと噂もある」


「ノア………」


僕は途端にノアを心配する気持ちが増した。


「夏天、ここを打開するのは君しかいない」


アリアが言った。

立って僕の両肩に手を置いた。


彼女は真っすぐに僕を見つめて続けた。


「君しかいない。私はこの状況を打開する術はない。恐らくサーシャもだろう。だけど、君ならチャンスがある。君の太陽の力なら一手を打つ術となるかもしれない」


「でも、僕はさっきから太陽を出そうと頑張ってるんだよ。だけど、出ない、出せないんだ。多分、僕がこれまで非生産だとか言って生産的な人たちを馬鹿にして来たからだ。僕にはその資格が相応しく無くなったのかもしれないよ」


「私は私が信頼に足る人物にしか期待しない。夏天、君は私が信頼するに足る人物だよ。君なら出来る。非生産的なんて結構じゃないか。それはこれまでの夏天だよ。これからは違うさ。だって、数ヶ月前の君と今の君では違うはずだ。人は日々進歩するからな。君なら出来るよ、私の目が確かだって事を証明してくれ。君なら出来る事だし、君にしか出来ない事だ。あの日、私たちに太陽を見せてくれたように」


手をぎゅっと握りしめてアリアが言った。

そしてにっこりと笑うと僕を力強く抱きしめた。


「あっ」とパメラとカティアが言うのが聞こえる。


驚く暇もなく彼女は僕を抱きしめたままでいる。

金色の髪の毛はこんな暗がりの中でも輝いていた。


僕も彼女の腰に手を回した。力が貰えるような気がする。


抱き締める力が弱くなって離れるとアリアは顔を真っ赤にして言った。


「ふん、人を抱き締めるのは初めてだから力加減が分からん」


「僕もだよ」


抱き締めるのも抱き締められるのも。


抱き締められて伝わった熱がアリアの期待や想いまでも乗せてやって来た。


やってみよう。出来る限りやってみよう。

やる前から弱気になって諦めていた僕とはおさらばだ。


「アリア、ありがとう」


「ふん」と言ってそっぽを向くアリアの顔はまだ赤い。


僕は身体の熱を捉えるのに集中する。

身体のへその辺りから背中を昇らせる感覚。


ノアの前にしゃがんだ。


「ノア、大丈夫。僕たちがいるよ」


僕はノアを抱き締めた。


伝われ、僕の熱、太陽の力。

ノアを元気に、ノアの暗い想いを晴らしてくれ。


身体の熱が徐々に昇ってくる。

このまま行くんだ。

背中を昇り、肩を目指す。肩甲骨の間の辺りからすうっと持ち上がっていく感覚。

この感覚を忘れないようにするんだ。


僕自身とアリアとノアと、そしてサーシャとこの国で太陽の訪れを待ち望んでいる人たちのために!


太陽よ、そのまま上がってくれ!!


強い陽射しに照らされている感覚がすぐ後ろからあった。

今までよりも熱く、もっと広い。


太陽が昇っていた。赤赤と、轟々と。


「か、夏天さん………」


抱き締めていたノアが僕の腕の中で口を開いた。


「ノア!!」


「夏天さん、私………」


「良かった、大丈夫?」


「大丈夫です。本当に、大丈夫です」


ノアが泣いている。


「泣かないで、ノア。どうして泣いてるの? 痛むから?」


「だって、あなたが泣いているから」


ノアに言われて気が付いた。

僕の頬を伝う涙に。


僕は照れ臭くて涙を拭った。


「太陽の光が………」


驚く事に僕たちは城に戻っている。

城の広間にいた。

そこには国王や他の人たちが人間の姿で倒れていた。

ただバジャールの姿はそこになかった。


「お父様!!」


サーシャが駆け寄っていく。


「私は出来ると信じていたぞ。やっぱり夏天には力がある」


「ありがとう、アリア」


「ところでもう離れた方がいいんじゃないか、ノアが苦しそうだぞ?」


「え、あ、ごめん!」


ノアから離れようとしたがノアが離れなかった。


僕の胸の辺りに顔を押し付けるようにして抱き締めてくる。


「全然、苦しくなんてありません。こうして居たいくらいです」


「ノア!?」


嬉しいけどちょっとなんかダメな気がする、色々と!


すると、城内に声が木霊した。


「やれやれ、夜を破る術を持った人間がいるとはねえ。それも夏天、あんたとは思わなかった。しかも、反吐が出るような気色の悪いシーンまで見せられてさ。でも、夜はすぐにやって来る」


ユイラだ!


そうだ、ユイラの言う通りだ。

夜はやって来る。

僕の太陽は夜を東の果へと追いやっただけ。

夜が疼くように東の空に渦巻いている。


今、時間のある時にやるべき事がある。


ユイラの気配はない。

きっと力を蓄えているんだろう。


まずはエレカさんに会うんだ。

僕の勘では《ウェルギリウスの外套》が太陽を押さえつける役割をしているのだと思う。

《グリシャの天杖》がその働きをしようとしていた事が完全になされているんだ。


このひと時の間に《ウェルギリウスの外套》を探す。

そして多分、それはこの城のどこかにあるはずだ。

ユイラがここに居たのがその証拠に違いない。


「よし、《ウェルギリウスの外套》を探そう!」


「それがまだ必要なのか?」


アリアが尋ねて来た。


「うん。必要だと思うんだ。勘なんだけどね。多分、あれが夜を作る源になってると思うんだ。ロキアーノの時の《グリシャの天杖》のようにね」


アリアは納得してくれた。


「でも、どこにあるかは分からんな。この城に無いかもしれないぞ」


「ユイラがここに居たんだ。多分、この城の中にあるよ。きっと人が立ち寄らないような場所にあると思う」


「分かった、夏天を信じよう。パメラ、カティア、異論はないな?」


「「はい!!」」


「私は最初からありません。夏天さんの指示に従います」


ノアはさっきまでとは比べ物にならないぐらいのキラキラした表情で僕に言った。


「サーシャには聞きたい事がいくつかあるんだ。いいかな?」


「もちろん、何でも聞いてくれ」


「ユイラっていう人が城に居たの?」


「いや、聞いた事がないな。あのような顔にも格好にも心当たりはない。グドーとミミルはどうだ?」


「わしもありませんな」


グドーさんが言った事にミミルも頷く。


「旅人という事も十分に有り得る。まず考えるのは《ウェルギリウスの外套》の事としよう。夏天、いいな?」


「うん」


「倉庫番のエレカは今、どこにいる?」


「倉庫に居なくてはならないはずだ。代わったという話は聞いた事がない」


「ふむ、だが、居ないとなると………」


「自宅を訪ねましょう」


「そうするしかない、な」


「待ってください。もしそのエレカがユイラだとしたらどうでしょうか?」


ノアの言った事は僕も考えていた事だ。

十分に考えられる。

ユイラを真っ二つにした時、彼女の身体は分身だった。分身ならあのユイラという女性として見せる事も可能かもしれない。

本体はもっと別の姿かもしれないのだ。

でも、そうだとすると捜索はより難しくなる。


「有り得るな。何らかの魔法を使っているんだろう」


「確かにエレカとユイラが同一人物だとするなら《ウェルギリウスの外套》をすぐに手に入れられる」


サーシャが言った事にノアがこくりと頷いた。


「よし、決まったな。まずはエレカを探す。彼女の自宅を訪ねよう」


アリアがまとめた。

やっぱりさすがのリーダーシップだなあと感心するよ。


「なんだ、夏天。言いたい事があるなら口にしろ」


「いや、さすがのリーダーシップだなあって感心してたんだよ。アリアはカッコいいね」


「ばかもの、そういう時は綺麗だねとか凛々しいねとか他の褒め言葉があるだろう」


「ふん」と言って腕組みをすると彼女はまたそっぽを向く。

なんだかそんな感じがとても嬉しい。


「そうだ、あと確かめたい事がひとつあるんだ。バートン・シェルダンっていう名前に心当たりはあるかな?」


「シェルダン?」


サーシャは考え込んだ。


「どう関係あるんだ?」


「ロキアーノで争った男がそう名乗ったんだよ。もしかしたらって思ってね。ここに来た時に国王に聞かれたから答えると意味深な表情をしたから気になったんだ」


するとサーシャが口を開いた。


「バートン・シェルダンについては知らない。が、シェルダンの家名には心当たりがある」


「どんな!?」


「以前に話しただろうが私たちはある高名な占い師に解決策を占ってもらったと言っただろう?」


「うん」


「その占い師の老婆が名前をコーエリ・シェルダンと名乗っていた」


僕たちは互いを見合った。

何か、点と点が繋がるような気がした。

ただ繋がってどんな形になったのか分からない。

何かとんでもない企みが進んでいる。

そんな確信だけはあった。




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