奇襲!!
夢だ。
僕はまた夢を見ている。
夢だと気付いた夢。
今、僕は学校で授業を受けていた。
右手に持ったペンが黒板に書かれた文字をノートに書き写している。
手の動きと僕の頭の働き、つまりは夢に気が付いた僕と気付いていない僕の2つの意識がひとつの肉体に宿っている。
手を動かそうと右手に力を入れてみる。
字を書こうとした。
名前を書こうとすると、
≪ここが現実だよ≫
と、右手が書いた。
ハッとして目が覚めた。
目を覚ました時にまず見たのはノアの顔だった。
僕は、ノアの膝枕で眠っていたのだ!
ノアが手を額に当ててくれている。
「ノア、ごめんね。気を失っちゃったんだね」
僕は慌てて起き上がりながら言った。
なんだかノアの顔を見ると照れてしまう。
「いいえ、打ったところは大丈夫ですか、痛みませんか?」
「うん、ちょっと押さえると痛むぐらいだよ」
「大事にならなくて良かったです」
「うん」
いやあ、なんか覗きを指摘されないのもちょっと苦しいな。
「温泉ですが、混浴も出来るそうですよ」
ノアがにこりと笑って言った。
いっやあ、僕はどうも、そんな事は、出来ないって言うか。
「ははははは」
笑って誤魔化した。
「目を覚ましたか」
アリアがやって来た。
「やれやれ、夏天も男って事だな」
いや、その、違うんだ。
「僕は………」
「おや、目が覚めましたか、夏天さん」
バジャール!!!
この野郎、さらっと涼しい顔で僕の前に来やがって。
いくらなんでも許さないぞ!!
「バジャール、番をするのはいいが風呂番は要らないからな」
「分かりました」
くそーーーー!!!!!
こいつ、なんです。全ての首謀者はこいつなんですよ。皆さん、世間は分かっちゃくれないんですか。
「さて、夏天も目を覚ました。出発の準備を進めよう。夏天、温泉を楽しみにしてただろう。準備をする間にささっと入ってきたらどうだ?」
朝だった。
僕はどうやらあの気絶からずっと眠ってしまっていたらしい。
「じゃあ、入って来ようかな」
「いってらっしゃい。気持ちの良い湯でしたよ」
ノアが笑って送り出してくれた。
温泉に入ってリフレッシュしよう。
温泉は確かに気持ちが良かった。
そういえばバジャールのこの旅の目的を聞いたっけ。
あの人はノアを監視するような事を言っていたな。
僕は、ノアを信じる。
出発は僕が湯から出て今日の予定を話した後だった。
今日で国境を越えて隣国バービジネ王国に入る。聞くとこの国はそれほど大きくない国らしい。
越境後はいくらか進んだところで野営地と選ぶようだ。
「バービジネ王国には長居しません。出来る限りこの国は早く出たいので明日にはまた別の国に入ります。なかなか厳しい日に今日と明日はなるでしょう」
「どうして長居しないのさ?」
ノアが広げられた地図を指さして言った。
「地図を見てください。ここに私たちがいます」
ノアが指をさした箇所は縦に細長くなっている。
「バービジネ王国の西側、つまり私たちが横断するところですがここは4つの国に囲まれている所で今は治安が不安定になっています。4つの国の警戒と治安維持のために緊張しているのです。最近では人攫いや密入国なども横行しているそうですから危険と言えるでしょう。そうした事情のために長居しないんですよ」
「その通りです、ノア・エメリカ。よく知っていますね」
「城にいる間に旅の道中の事は調べました。前知識もいくらかありますが」
頼りになるなあ。
「よし、日が暮れる前に野営をしたい。さっそく出発しよう!」
アリアが言った。
みんなが頷いて馬に乗った。
そうして出発した。
天気は晴れている。雲一つない晴天で気持ちの良い日になりそうだ。
国境を越えた。
「ここで休憩としましょうか」
森を駆け抜けていくらか視界の開けた場所に出るとバジャールが提案した。
「そうだな」
アリアが頷いたので馬を下りる。
はっきり言って助かった。ちょっと尻が痛かった。
「夏天さん、大丈夫ですか?」
「ちょっと尻が痛いね。ノアは平気?」
「私はまだ大丈夫です。馬での移動に慣れていませんからね。もう少し慣れたらあまり痛まなくなりますよ」
水を飲んで喉の渇きを潤すとそれだけで疲労感が和らぐ。
「アリア様!!」
バジャールが叫んで抜いた槍を構えるとアリアの前に立った。
「夏天さん、立って!!」
ノアに言われて僕は立ち上がった。
「なに、どうしたの?」
「これは、香り?」
ノアが口と鼻に手を当てているので僕もそれを真似た。
アリアたちの方を見るとパメラとカティアがしゃがんでいる。
バジャールは槍を構えた姿勢で辺りを警戒していた。
アリアも口と鼻に手を当てて剣を抜いている。
敵だ。
でも、どこに?
「ノア・エメリカ、そちらは任せるぞ!」
「構いません。あなたはあなたのお仕事を!」
敵の姿は見えない。
仕掛けても来ない。香りだとノアは言っていたが僕はなにも感じない。
パメラとカティアが倒れ伏してしまった。戦力を除く事は成功している。
「そこ!!」
ノアが攻撃を仕掛けた。
氷の矢がある一本の樹へ向かって走っていく。
樹を貫いた氷の矢を避ける4つの影が樹の後ろから飛び出した。
みんな、長いフードや黒い布で姿を隠している。
「戦うぞ!!」
「みな、構えろ!!」
飛び出した影が戦斧・棍棒・曲刀・長弓を構えている。
「アイス・ルーム!」
ノアが唱えると地表が滑らかな氷に覆われた。
敵は氷の中に踏み込めない。僕たちと敵の分断が完全になされた。
「ボルテックス・レイン!!」
戦斧を構えた女戦士が唱えると降り落ちる雷が地面を覆う氷を砕く。
それで作られた道を一斉に敵が走って来る。
「スターダスト・シャイン」
バジャールが槍に煌めく加護を与える。
僕も剣を抜いた。戦う意志を固める。城で訓練したので僕も戦いのための力を得ているし、防御としてしか使えなかった太陽の力を攻撃に応用する方法も獲得している。
「バジャール・タタストフか!」
棍棒を構えた高齢の男戦士が叫んだ。どうやらバジャールは本当に有名らしい。
「仕掛けるぞ!」
バジャールが言うと特攻していく。
「アイス・ランス!」
地面から数本の大きな槍を出す。
バジャールの特攻に棍棒戦士が応じる。
曲刀を構えた軽装備の男がアリアの方へと直進していった。
僕は不覚に陥っているアリアを守るために駆けていった。
曲刀を振り上げて襲い掛かる。
僕はそれを太陽の加護を施した剣で受けた。
身体の中の熱が徐々に高まっていく。
「ブレイドオブサンズ!」
僕が振るった剣を曲刀の男は軽やかにかわした。
バジャールは棍棒戦士と戦斧の女戦士の相手をしていた。
ただバジャールの方が優勢だった。
それでもバジャールはアリアを気にしていて僕が相手をしている曲刀の男を注視していた。
棍棒戦士の脇腹を蹴り込むと動きが止まった。
その隙にバジャールは僕の加勢へ来た。
バジャールの槍の攻撃を避けた男は一息に飛びのいて4人は一箇所に集まった。
僕たちもそれに倣う。
アリアが正気に戻れば一気に情勢を変えられる。
「アリア様!」
「うっ」
アリアは嗚咽している。特に効果があったようだ。今にも吐きそうな様子で口を押さえている。
「恋人魔法の誘惑ですね。眠気を誘っている香りですが変に作用しているようです」
ノアがアリアの様子を見ながら言った。
僕の身体の中の熱はとても高くなっている。
背後に太陽の出現も感じていた。僕が香りを感じなかったのは太陽の加護の為だったのだろう。
長期戦になるのなら僕はまだ戦える。
「で、殿下………」
脇腹を蹴り込まれた棍棒戦士の様子を見ている女戦士に曲刀の男が呼びかけた。
殿下?
賊と思ったが国に関係した一団なのか?
「あれを!」
女戦士が顔を上げて僕たちを見た。
僕たちの後方のある一点を凝視している。驚きに目を見張ってどよめきながら敵がみんな太陽を見ていた。
今日もまたずいぶん大きい太陽がそこに浮いている。
「に、日輪の加護を受けし者………」
驚きも覚めないまま呆然と女戦士たちが呟いた。
「伏してお詫び申し上げます!!」
女戦士が前に出て土下座のように謝罪して来た。
そのすぐ後ろで棍棒戦士や曲刀の男、長弓の女が同じように謝意を全身で表している。
そして僕らが何か言葉を発する前にがばりと顔を持ち上げて言った。
「どうか、お力添え頂きとうございます!!」
「「「どうか!!」」」
僕たちは状況の急転に驚きながら互いを見た。
「まずは恋人魔法を解く事だ」
バジャールが言った。
「はい、すぐに!」
長弓を持った女が魔法を解くとアリアが苦しむのを止めて額の冷や汗を拭った。
「どうなる事かと思ったぞ」
「ご無事ですか?」
パメラとカティアはまだ寝ている。
「なんとかな。それでお力添えとは?」
回復しつつあるアリアが言った。
「はい、よんどころなき事情がございましてこうして実力のある方を探し、協力を求めていたのです。お礼はいかようにもします。どうか、お力添え頂きたいのです!」
「ふむ」
アリアがこっくりと頷いた。
前から分かっていた事だけど彼女はこうした頼み事、それもそれが切羽詰まったものであるほどわくわくする性格をしているようでもう既に目がキラキラしている。
その目で僕とノアを見た。
「この旅はお前たちの、夏天の旅だからな。お前たちの判断に従おう」
アリアは恭しく1歩下がり、女戦士たちに真に交渉すべき相手はこの2人だと紹介するような手で僕らを見るように促した。
女戦士たちも太陽の主が僕である事を見抜いているようでじっくりと僕を眺めた後で改めて居座ると地面に手を付けて「どうか!」と頼み込んで来た。
こんなに一生懸命なら話ぐらいは聞いてもいいよね。
ちょっと遅れちゃうかもしれないけど良い土産話になるかもしれない。
僕はノアを見た。
「私は夏天さんの判断にお任せします。付いて行きますから」
そんな言葉に後押しされて僕はこの女戦士たちに言った。
「まずはお話から聞きます」




