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あばら家に居る男-➁

目が覚めた。

僕が今、居たのはあの日に本を読んでいた公園だった。

ベンチに座ったままで居る。


何が、起きているんだ?!?

僕は頭が狂ってしまったのか?!?


公園の小高い丘の上にある。僕は万が一の事を考えてスマホを確認した。

日にちは僕が退院したあの日だった。それも家を飛び出して本を買ってからまだ3時間しか経っていない。


まだ太陽は沈みきっていなかった。

僕があの時に背に負った太陽のような赤赤しい太陽だった。


気を失ったのか、それとも夢を見ていたのか?

手が震える。


僕は、転移なんて信じない。転生なんて信じない。


こっちでもやるべき事がある。そして向こうでもやるべき事がある!


スマホをそのまま操作して僕はオム・オム・オムライスの書籍紹介のページとSNSを探した。

Twitterをやっていたので僕はダイレクトメールを送った。


[あんたの本を読んだ! あの本は盗作だ! 僕は、あの本で狂わされてしまった!!]


返事はすぐにやって来た。


[お手に取ってくださいまして本当にありがとうございます。でも、盗作と言われるのは中傷です。これは私が幼少期から考えていた物語です。盗作と言われるのは心外です。私ももっと皆さんに満足していただけるように頑張ります。]


[上手く言えないんですけど僕はあの本を読んでどこか別のところに連れて行かれたんですよ。信じ難いかもしれませんけど本当なんです!]


[ひとつの物語を紡いだ者として読んでいただいた方を今とは違う別の場所へと導きたいと思いながら書いています。最高の褒め言葉です。私ももっと頑張ります。これからもよろしくお願いします。]


まるで相手にして貰えない。

でも、構わないさ。


僕は、飲みかけだったコーヒーを飲んで横に置いていた本を手に取った。

2冊ある。

いや、僕は確か3冊買ったんじゃなかったか。

僕は電車の中で失った1冊と加えて新たに3冊の本を買ったはずだ。


レシートを取り出して見てみると確かに3冊買っている。

袋の中には2冊だ。なら、手元に読んでいたはずのもう1冊があって然るべきじゃないか。


僕は、震える手をどうにか止めようと思いながら2冊目の本を手に取った。

今度は袋から最後の1冊を取り出して懐に抱きかかえて読んだ。


やっぱり1回目よりも、2回目よりも読む速度は上がってる。

僕はあっという間に半分ほどを読み終わって、そしてまた頭痛を堪えている。

もっと読み進めれば何かが分かるかもしれない。

ラスボスの正体、最終局面で迎える舞台が僕の想定通りであるのなら僕はある仮説を半々に信じるしかない。


また、僕は気を失った。



夢を見ている。

なんの夢だか分からないけどとにかく僕はそれを夢だと知っている。


城を外から見ていた。

手には袋を持っている。

それを届けるために走っている。よたよたと、よたよたと。

夢の僕がそれを届けると帰りに通る道から覗く窓を見ていた。

そこに映ったひとりの女性。

金髪で翠色の瞳をしている。

背は高いように見える。いや、夢の僕よりも高い。

思い切って手を振ってみるとそれに彼女は柔らかく振り返してくれた。


たったそれだけなんだ。

僕がここを離れないのは、ここから離れられないのは。


ハッとして目が覚めた。

僕はあの時、瘴気の海で気絶したあの場所にいた。


そして瘴気の海はこの都市ロキアーノの全域を覆っていた。


辺りはまだ真っ暗で太陽は昇っていなかった。

そういえばあのバートンと名乗った男が朝を奪ったと言っていたっけ。


また胸の辺りが熱い。

熱すぎる程だ。

戦うぞ、僕は。ノアとアリアを助け出すんだ。


僕は城に2人を預けて来た。つまりは敵の本拠地にわざわざ預けてしまったんだ。


剣を抜き取った。

僕の背には煌々と輝く太陽がある。


すると、僕の傍にヨハンがやって来た。

大きな顔を僕へ寄せて肩の辺りを食んでいる。草じゃないぞ、と思ったが嬉しかった。


ヨハンの瞳を見つめると彼はまた僕に乗れと言ってくれているように思えた。

彼の背にまたがると城へ目掛けて走り出した。

太陽の光を全身に浴びた白馬の輝きは辺りの靄を払ってしまう。


城はディーノの侵攻によって黒い塊と化していた。増殖と膨張を続ける彼は魔法壁を破るよりも覆う事で城の防御を衰弱させている。

波動は城へ近付けば近付くほど強く感じられた。でも、今はもうほとんど異変は起きない。


騎士や兵士が倒れているのが見える。

僕はますます身体が熱くなっていた。そしてヨハンの身体も同じように熱を放っているように思われた。


そして僕とヨハンは城へと辿り着いた。


膨張するディーノの肉体は弾けると黒い海の瘴気を漂わせた。


まずディーノを止めないといけない。

そしてあの杖を確保するんだ。

幸か不幸か波動を感じる事でその中心地がどの辺りになるのか分かる。

杖はどうやら城の上部、ディーノが覆っている最上部にあるようだった。


城門のところに彼らがいた。

バートンがいるその傍にアリアとノアとラッカスさんがいた。


「ラッカスさん、その男は危険です!」


僕がヨハンから下りて叫ぶとバートンとラッカスは顔を見合わせて笑った。


「危険なのはあなたの方ですね。その背に負ったそれはなんですか?」


そんな、内通者はラッカスさんだったのか。


「アリア、ノア!!」


バートンとラッカスの間に倒れ伏している2人を呼んだ。

寄りにもよって敵に2人を預けてしまったなんて!


「やれやれ、あなたのような方がいるとはね。私は私の仕事をするとしましょう。おぞましい、本当におぞましいですよ。私は今、とても気が良くなりました。要するに非常にご機嫌が悪いんです。あなたがいるからですね。私は師が暗黒の太陽を作ってくださるものと待っていたのにあなたのような太陽を見るはめになるとは思いもよりませんでした。黒い瘴気の海の底から昇る赤赤とした太陽を見るなんて寒気がしますよ。曙光だなんて長らく浴びていなかったのに浴びてしまったのです。ああ、私の全てが露わにされてしまう。ラッカス、この男をここで足止めしなさい。私は上へ行って例の物を受け取って来ます。それでひとまずここを去りましょう。我が師へお届けしなければ」


「分かりました」


ラッカスは着ていた燕尾服を脱いで身軽になると短い双剣を抜いて構えた。


バートンはまるでそこに階段があるかのように自然に上へ向かって歩き始めた。


行かせたらダメだと思った。

バートンを追うために駆け出すとラッカスが斬り掛かって来た。


が、僕の防御機構は再び稼働していてラッカスの双剣での攻撃は通らない。


バートンは上へと進んでいく。

ラッカスはあくまでも僕を足止めするつもりでいるようだ。


「行け、夏厩夏天」


アリアが立ち上がって言った。

彼女は辛うじて立ち上がって剣を抜いた。鞘を老人が扱う杖のようにして立った姿勢をなんとか保っているといった風だった。


「アリア!」


僕が上のバートンを見ると僕を持ち上げていく足場が出来上がった。

ノアの女教皇魔法の氷が僕を城の上の方へと連れて行ってくれる。


「ノア!」


良かった、2人とも無事みたいだ。


ノアの氷の塔とバートンの階段の高さがほとんど同じになった。

僕はバートンを止めるために飛びかかった。


「やれやれ、困った人だ。ディーノ・ノーパス、彼を叩き落としなさい!」


すると城を覆う黒い塊となっていたディーノが突然、人の形を取り出して腕を伸ばして僕に巨大な平手打ちを食らわそうと襲いかかってきた。

ただ僕の防御機構はここでも働いて防いだが柔軟な彼の新しい肉体は城と同じように僕の周りを覆い始める。

僕の防御とディーノの侵攻がせめぎ合う凄まじい轟音を鳴らしている。


ディーノは黒い巨大な両手で僕の防御を包み込んだ。


完全に身動きが封じられてしまった。

僕はなんとか攻撃へと転じなくてはならない。


でも、今の僕は防御に全力を傾けているし、太陽の攻撃はやった事がない。


「こいつをやっちゃってよ!!」


轟音に混じって聞き覚えのある声が聞こえて来た。

この声は僕をすっかり安心させてくれる。


途絶えたせめぎ合いの轟音が次いで何かを取り押さえようとする音とそれに抵抗する音、つまり取っ組み合うような激しい音が聞こえて来た。

ディーノは僕を覆っていた両手を離してそちらの方に専念しなければならないようだった。


「夏天!!!」


ベルティーナだった。

それもとても元気になって活力に溢れた彼女だった。


「ベルティーナ!!」


ディーノと取っ組み合いをしていたのは塔で落ちてゆく一部と残骸を支えたあの巨人だった。


「連れて来たのよ、助けてって頼んだの!!」


「すごいよ、ベルティーナ!!」


「もっと褒めて!」


えっへんと腰に手を当てて胸を張る彼女は可愛らしい。


僕はすぐにバートンを見た。彼は悠然と上っている。


「あの塔に比べたらこんな城はどうって事ないね!」


「そうよ、あなたの長所と経験がこれから生きるんだわ!」


バートンと戦うつもりはない。僕は奴より早くあの杖を手にしなくちゃならないんだ。


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