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夜の企み-➁

グランドールってどこかで聞いた覚えがあるな。

いや、そうだ。あの大悪党だってベルティーナが言っていたじゃないか。

そして、ノアのご両親を殺した人だ!


「アリアに報せた方が良いでしょう」


ノアが言った。僕もそう思う。

こっくりと頷くとノアが立ち上がって部屋を出て行った。


「その男はどこにいるの?」


「厩舎にいたわ!」


厩舎だって?

もしかしたら馬を使って逃げるつもりなのか?


だとしたら足止めだけでもしなくちゃいけない!


「よし、ベルティーナ、そこまで案内して!」


「分かったわ!」


「君たちはここにいてノアとアリアに事の次第を説明してね。すぐに厩舎に来るように言ってくれ!」


僕はこうして部屋を出た。

ベルティーナは僕よりも少し先を飛行していく。


僕は右手に持った剣を強く握るといざと言う時を覚悟した。一度でも剣を抜くと次は容易くなるらしい。

ただ抜いて意志を見せるだけで斬るなんて事は無理だ。


厩舎には馬が十数頭いるばかりで城の人はおらず松明の光が辺りを照らしている。


厩舎はまるで学校の教室のように区分けされていてそこにそれぞれ1頭ずつの馬が入れられていた。

僕は初め厩舎に入るのにしり込みした。厩舎の中からはどんどんと酷く大きな音が鳴っていたからだ。


「何してるの?」


厩舎の前で立ったままの僕にベルティーナが尋ねた。


「音が凄くて、これはなにか準備してるんじゃないかな?」


「馬鹿ね、こんな真夜中に人が来たから馬が驚いて興奮してるのよ。戸や壁を叩いている音だわ!」


「なるほど、こんな音がするんだね」


「あなたって何にも知らないのね。ちょっとは世間の勉強をした方がいいと思うわ。このままだと恥をかいてよ」


まあ、僕は色々と不足しているものなあ。

バイト経験もないし………。ここで出来るならやってみようかな。

そうだよ、どうせならこの馬の世話なんていいんじゃないかな。


いや、こんな事を考えるのは後回しだ。


「よし、入ろう」


「ええ!」


ベルティーナの元気のいい掛け声は僕にも元気をくれる。


「いたわ!!」


その男は厩舎の奥、比較的に小さな区画にいる1頭の馬、あまりに小さくて馬と言うよりは驢馬と言えるような馬だった。


その小さな馬を男は引っ張っていた。

小さな区画から出そうと縄を引っ張っている。馬はこんな夜更けに出掛けたくないと言わんばかりに頑なに拒んでいる。

男は息も切れ切れで非常な苦労を要しているようだった。

手には布に包まれた棒状の物を持っている。

あれが盗んだ物だろう。


あれならすぐに奪い返してしまえそうな気がする。


僕はそっとあの男の方へと近づいていく。


上手くいくと思った。

が、僕が男まであと数歩というところで馬が嘶いた。

その声にびくりと反応した男が振り向くと僕とばっちり目が合ってしまった。


男は明らかに健康とは言えなかった。

顔色はとても悪く、姿勢は捻くれている。下半身は正面を向いているのに上半身は左側を向いていた。肩は左右で高さが異なって手は右手の方が異様に大きく、左手が赤子のように小さかった。


「それを、あの返してください」


男はぶるぶると首を振った。

僕にすら怯えているような目をしていた。危害を加えるつもりはない。


「危害を加えるつもりはありません。その杖を返して下されば良いんです」


男はまたぶるぶると首を振った。


いや、もしかしたら得た情報の何もかもが間違っていてこの人はただ単に馬の世話をしている人なのかもしれない。


「き、き、危害はない、無いなんて嘘だ。ぼ、ぼ、僕は仕方がなくこんな事をしているだな」


「本当に今なら、大丈夫です」


説得出来ると思った。

それぐらいこの人は揺らいでいると感じた。


なんと言っても後方から足音が聞こえて来る。


そしてノアとアリアがやって来た。

よし、これできっと説得出来る。2人の方がここの事を知っているだろうから。


でも、なんだか変な気がする。夜だからだろうか。


「わたし、気分が悪くなって来たわ。夏天、わたしはちょっと離れるわね。ごめんなさいね。無理しちゃダメよ。絶対によ」


「うん。僕は説得するから」


べルティーナはふらふらと漂うように飛んで離れて行った。


「僕は、危害を加えるつもりはないんです。杖を返して下さればアリアにもなんとかそうしてもらえるようにお願いしますから」


「きき、き、君は誰なんだ? 城の人とは思えない。だだだって、見た事がない」


そうか、臭いだ。厩舎の臭いなのか分からないが苦しいぐらいの臭気が漂ってくる。

僕までなんだか呼吸が苦しい。


「外に出て話しませんか?」


僕が、男に近付こうと一歩踏み出すと足は沼の中へと入り込むかのような抵抗を感じた。


そして僕が踏みとどまった時にノアとアリアがやって来た。

彼女たちは厩舎の臭気に「うっ!」と呻いて鼻を覆った。馬が次々と倒れていく音が聞こえて来る。


「ああああ、あの男が言っていた。もももし、人がやって来たらこれを使えと」


これ?

あの男?

何を使う気なんだ?

僕の胸も変に熱くなって来た。


「アリア、今ならまだ説得出来ると思うんだ」


僕が振り向くとアリアは厩舎の柱に手をついて辛うじて立っているような様だった。

ノアは口に手を当てて僕の背に手を付いた。


「か、夏天さん、これは、まずぃです、厩舎から出て………」


僕は倒れこむノアを抱き留めた。どうやら気を失ったらしい。その後ろでもアリアが膝をついている。


「ててて手間取ったけど、ここここれを使って逃げるんだな」


男は、懐から黒い玉を取り出してそれを飲み込んだ。

すると杖に巻いていた布がはらりと落ちた。

黒く輝いている。


黒い波動が杖から出る。

ぶうんぶうんと音が鳴る。それが身体に当たる度に心臓を握られたように苦しくなった。


黒い玉を飲み込んだ男の身体の内側から膨らんでいく。どす黒い何かに覆われていった。


男の肉体は厩舎の高さをあっという間に越してしまった。

建物を破壊して大きくなる男はさっきよりも身軽になったと言わんばかりに足を動かした。

厩舎の中を区切る柱や壁を破壊する音が聞こえる。


僕は抱きかかえていたノアを運びながらアリアの方を見た。

今にも気を失いそうになっているアリアの傍には彼女の馬、ここまでの道中を共にした白馬のヨハンが寄り添っている。

他の馬は気絶しているか逃げ出しているのにヨハンは忠誠心厚く主人を助け起こそうとしている。


僕はノアをヨハンの方へと運んだ。ヨハンは僕を覚えてくれていた。僕が近付くとアリアに寄せていた顔を持ち上げて大きな瞳で僕を見るのだった。

僕には彼の訴えが分かった。アリアを背に乗せてくれと言っている、間違いない。

僕はこっくりと頷くとノアをまずヨハンの背に乗せると次にアリアを背に乗せた。


気を失った2人を落とさないように、それでいて迅速に僕とヨハンは厩舎の外へなんとか出る事が出来た。


外へ出ると空気はいくらか澄んでいたがまだ立ち込める瘴気は晴れない。そしてあの波動も感じられる。


黒い巨人となった男はそれでも姿形は歪んでいた。肩はボコりと膨らんでいるし、背中は大小様々な隆起がいくつもある。


巨人は城へと向かった。

城の尖塔を掴もうと手を伸ばして体ごと城壁へと体当たりしていくが魔法のような壁に阻まれた。だけど、その魔法壁の拒絶も巨人は耐えられるようでしがみついている。


僕はひとまず城門の方へと走った。

とにかく事件の中心から離れて気絶した2人を安全な所まで運ばなければならなかった。


すると城門には騎士たちが甲冑を半ばに着た者や完全に武装した者が入り乱れていた。そこで僕はあのラッカスを見つけた。


「ラッカスさん、アリアとノアを頼みます!」


ラッカスさんは僕に呼ばれ、任された2人を驚きに目を見張りながら城にしがみつく巨人と2人の女性を交互に見た。


僕は走って城下町へ向かう。

そこであの男の事が知れると思った。


走る僕の隣にヨハンがやって来た。

乗れと言ってくれているように僕と速度を合わせてくれている。

僕、全部が終わったら君の世話をするよ、絶対に!


ヨハンに乗ると彼は車ほどの速度で城下町の方へと僕を連れていってくれた。

道中に城の方での一大事に野次馬のように集まる人々がいる。ヨハンは見事にそれを避けていく。まあ、馬が走っていたら怖くて避けるだろうけれど。


するとそれに負けない速度でベルティーナたちがやって来た。


「大変な事になったわね!」


「凄いことだわ!」

「しっちゃかめっちゃかよ!」

「この世の終わりって事よ!」

「あんなの見た事ないわ!」

「明日って来るのかしら!」


「良かった、みんな無事だったんだね。僕はあの男の事を調べたいんだ。手がかりはなんにもないんだけれど、必要だと思うんだよ。協力してくれる?」


「もちろんよ!!」


「次にはどんな災難が降ってくるってわけ!?」

「この上、まだ働こうっての!?」

「これが崖っぷちよね!?」

「勇者ってわけね!?」

「明日を迎えに行くってわけね!?」


「うるさいわね、指示に従いなさいよ、もうこの際なんだから一蓮托生よ!!!」


「みんな、あの男の様子を覚えてるかな?」


「覚えてるわ、背が捻くれていたわね!」


「おまけに背も低いわよ!」

「加えるとよぼよぼだったわ!」

「さらに言うなら貧相よ!」

「付け足すと不潔ね!」

「お終いにあのグランドールのお仲間よ!」


「そうだよ、それだよ。どうしてグランドールのお仲間だと思ったのさ?」


「そうね、どうしてだったかしら?」


「あら、嫌だわ、ベルお姉さまったら忘れてる。あの男と別の男が喋っているのを見たからよ。その時に粛清だとかグランドール様だとか言うのが聞こえたからよ。それで私たちも恐ろしくなっちゃって逃げたんだわ」


「その男の特徴を教えてよ!」


「ひとまず背は捻くれてなかったわね?」


「背が高かったわよね?」

「あとよぼよぼではなかったわね?」

「貧相でもなかったわね?」

「不潔にも見えなかったわ?」

「本当にグランドールのお仲間なのかしら?」


ダメかもしれない。

なんだかそう思えた。


要するにあまり見えなかったのかな。


「ねえ、どちらの男を追いかけるのよ?」


「その話してた男を追いたい。でも、その男を追うにはあの厩舎の中にいた男が何者なのかを知らなくっちゃ!」


「分かったわ。みんな、考えましょう。あの小さな背の捻くれた男が何者なのかを!!」


「きっと牢番よ!」

「牢番なんて無理よ、だって体が逞しくなくっちゃ出来ないわ。きっと教師よ!」

「馬鹿ね、清潔さのない教師なんて雇ってもらえないわよ。きっと庭師よ!」

「それこそ馬鹿だわ、高いところの枝が切れないじゃないの。きっと調律師よ!」

「ダメよ、教養が良くなくっちゃ出来ないわ。きっと靴磨きよ!」


「それだよ、きっと!」


ごしごしと磨いている様子が想像出来る。


「靴磨きの人はどこに集まるかな?」


「それなら広場の方だわ、人がいなくっちゃ商売にならないもの。でも、こんな時間にいるかしら」


「とにかく行ってみよう」


僕はヨハンの走る方向を転じた。

広場にはすぐに着いた。

そこには夜だったが靴磨きをする人たちが数人いた。ただ誰もが若くて笑っている。

道行く人に笑顔で話しかけて営業している。中にはもう靴を磨いている人もいて明るく何かを話していた。

あの男の印象とは正反対だった。


「違うわね、もっとこう細かい感じよ。力仕事では無いわ」


「うん、きっと屋内での仕事だよ」


「難しいわねえ」


確かにとても難しい事だった。

もう少しでも手がかりがあれば。


ヨハンも行き先が分からなくなって歩いている。

僕はその背に揺られながら考えていた。


もう夜も深くて月も出ていない晩だった。

町の灯りは消えている。明るいところはみんな酒屋のような場所だった。


灯りが点いているという事だけでその場に人がいるという事に思われて僕は灯りを探した。

そして僕は路地裏の微かな光を見つけた。

路地裏という事とその小さな光があの男の印象と合致して僕はヨハンをそこへ走らせた。


そこは裁縫屋だった。

看板に針と糸と4つの穴の開いた釦が彫られている。


光が漏れる窓からそこを覗き込むと額に汗を流して働く男たちがいた。

僕は扉を開けてその店に入った。


「こんな夜更けにすいません。僕は城から来た者ですが、背の低い捻くれた男を知りませんか?」


僕の相手をしてくれた大柄の男性は眉をひそめて僕を怪しんでいるようだったが振り返って別の男を呼んだ。


「背の低い捻くれた男を探してるんだってよ」


「ん、ディーノの事ですかね?」


「ああ、ディーノか。今日は来てるのか?」


「いや、来てませんよ」


「悪いな、兄ちゃん、あんたが探してる男がディーノか分からんがとにかく今日は来てないみたいだ。日を改めてくれ」


「緊急なんです。家を教えてくれれば僕が行きます!」


僕の緊張感に後からやって来た男の人がそのディーノなる人物の家を教えてくれたので僕はヨハンを走らせてそこへ向かった。


「やるじゃない、わたし、夏天のそういうところは良い長所だと思うわ!」


「へへ、ありがとう。でも、安心は出来ないよ」


そうしてディーノの家に着いた。

そこはあばら家で酷い装いだった。

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