悪役令嬢は意地を見せるそうです
「新入生代表、シャロル・エト。」
「はいっ!!」
ドッドッドと私の心臓は今、速まっていた。
それもそのはず、目の前には、7学年全ての生徒。しかもそのほとんどが貴族。ここで失敗はできない。そしてここからが、リリアーネから全てを守ると決めた私の挑戦が始まるのだ。
(でも緊張するよ〜....)
公爵令嬢時代の振る舞いをフルに使い、歩き方そして貼り付けた笑みは大丈夫なはずだ。が、しかし。公爵令嬢時代でもこんな人前で話したことは無い。
思い返せば、公爵令嬢時代は基本的に話しかけられる立場だったので、コミュ力はほぼないのだ。
(落ち着け私っ!!!)
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ステージ時の真ん中に立ち、一礼。その姿だけでもう、シャロルが平民であることに、みな忘れていた。その後もスラスラとこれからの抱負、先生・高学年達への教授をよろしく頼む姿にその場はしんと静まり返り、皆シャロルの声に耳を傾けた。
(やはり素晴らしいです!!シャルさん)
そんな姿を、目を輝かせてイアンツィーは見ていた。
普段のシャロルとはまた違った、、、本来あったであろう振る舞いが新鮮だった。
レダ・アクイラの像が今朝急に壊れるなど、シャロルの事が不安だったがその心配も無さそうだと思った。
「彼女、生徒会に入るだろうか...」
その横、同じくシャロルに強い眼差しを向ける者がいた。
「エリオット殿下、シャルさんを誘うつもりですか?」
「あぁとても優秀そうだからな...」
エリオットは、王族ということもあり、入学してから今までこの学校の生徒会長も勤めていた。
「確かに、彼女がいれば生徒会の効率も上がりそうだ。今の生徒会はエリオット殿下に媚びるものばかりですからね…」
そう2人の会話に入り込んだのは、シャロルと同じ黒髪を持つジルベルトだった。
3人は他の生徒との目もあることから、いつもより大分硬い様子だった。
「では私がシャルさんをお誘いしましょうか?この後会う予定もありますし...」
シャロルが前周期の事を乗り越えているとはいえ、シャロルはエリオットの事が苦手であろう事に気がついているイアンツィーはそう、エリオットを近づけないように聞いた。
「いや。入って欲しいのは私なんだ。自分で行かなければ。」
「ですが、相手は平民ですし、下手にエリオット殿下が動かれては...」
「なんだ、まるで私が行くと迷惑みたいではないか?」
「そう当回しに申しているのですよ?」
2人は至って笑顔をしたまま、そんな冷戦を繰り広げた。
「は〜2人とも、少し落ち着かれた方がよろしいかと、後御二方お忘れかと思いますが、生徒会の人員管理は私の仕事です。人の仕事を奪うほとんど御二方が野暮ではないと私は信じているのですが?」
ジルベルトのその言葉に、それもそうだと気が付き、シャロルの勧誘はジルベルトに任せるという結論になった。
_._._._._._.
私が挨拶を終えると、大きな拍手が起こり私は上手くいったのだと思った。
その後、新入生はそれぞれの寮へと案内された。
いくら学校とはいえ、小さな貴族社会を表す場所。1学年1つの寮を使うのだが、部屋割りは階級事となっていた。
(もちろん、今までは大きな一人部屋だったんだよね〜、平民ってなるとどうなるんだろ?)
今現在、寮の玄関口の前に私たちは並び、一人一人に鍵が渡されていた。
「シャロル・エトさん。」
「はいっ!!」
「301号室です。」
「はい....ん??」
(ちょっと待て!?)
301号室とは、上級貴族が使う三階のしかも一番広い部屋だ。
当然、今の私のような平民が使う部屋ではない。現に、他の生徒達もザワザワとして....ない。
「あっあの、この部屋は私ではないものかと...」
「そうよっどうして光の巫女である私が、一番いい部屋じゃないのよっ!!」
そう言って割り込んで来たのは、リリアーネだった。何故か周りと制服が少し違く、フリルがふんだんに使われていた。
リリアーネが現れたことで、初めてその場はザワザワとし始めた。
(やっぱり皆リリアーネの話を聞いておかしいと思うよね....)
「リリアーネさん。ここでは、身分の上下によって部屋分けられているように感じますが、それは全く違うのですよ。」
先生がじろりとリリアーネを睨み、リリアーネは後ずさりした。他の生徒も、先生の話を遮るような者はいないようで、その場は静まり返った。
「確かに、三階に上級貴族が集まるのは確かです。しかしそれは結果論でしかありません。上級階級の者程良い教育が幼い頃からなされている訳ですから、上級階級の者程優秀になるのは当たり前です。」
(つまり、私がいつもいい部屋だったのは、それだけの実力が学校側に認められていたってことか...)
今更ながらに、悪役令嬢の学校時代でも認めてもらえていた事に気が付き、また私は泣きそうになってしまった。
「そして、学校はあくまでも平等です。上に立つのが貴族になってしまうのは、それだけの能力を持った者が平民にいないだけ。逆を言うと、平民に優秀な者がいるのならばその者が上に立つだけなのです。」
スラスラとそう言い切る先生に、大半の生徒達はいつの間には納得した様子だった。
というのも、つまり先生からの評価が今後の自分たちの学校内階級に関わると賢い者は理解したからだ。
しかし、賢くないリリアーネは納得できていないようで、私の方を終始睨み続けていた。




