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一話


蝋燭の炎で彩られた暗い部屋の中に男が立っている。床に届きそうな艷めく黒髪に輝く金の瞳の男だ。その向かいに剣をもった男が立っている。剣をもった男が口を開いた。


「師匠がいなくなったら寂しくなります…皆も笑ってはいましたが、内心寂しいのですよ。師匠が言いたい事の半分も言えず困ってオロオロしていたのも、それを私たちで代弁したのも、いい思い出でした」

「…恥ずかしいからやめてくれ。そろそろ始めよう」


大きな玉座の前で男は剣を抜いた。その様子を見て黒髪の男はふ、と笑みを零す。


「泣くんじゃない。俺がいなくなった後を継ぐお前がそんなでどうするんだ」

「…うっ、師匠…私は…」

「全く、最後くらい笑顔で看取ってくれ…そろそろだ。世代交代を始めよう」


涙を零しながら男が剣を構え、黒髪の男の胸に刺す。血が出ることはなく、黒髪の男の身体は段々光りだした。


「今までありがとうございました、グングニル様。…後は、お任せください」

「任せたぞ、気張れよ」

「…はい!」


涙を拭き、笑顔を見せた男を見て黒髪の男は笑う。少しして、その身体は全て消えた。残されたのは黒髪の男が肌身離さず身につけていた十字架のペンダントのみ。光の粒子が全て無くなった瞬間、音を立てて男の手から剣が滑り落ちる。

男の嗚咽が部屋の中に響いた。







「…………ん?」


とある国の深い森の奥、一人の精霊が生まれ落ちた。

黒い髪に紫色の瞳という珍しい色合いを持った精霊は、深い森を支える大樹の下で生まれた。


「俺は死んだはずだが、なんだこの姿は…。魔力も少し変わっているな、この魔力は、精霊か?」

『その通り…我の下で育まれた精霊ぞ…大精霊か…久方ぶりに見るのう…』

「珍しい、自然の中で意志を持つようになった大樹か。聞きたいことがあるんだが、いいか」

『なんだ…大精霊よ…』


顔のように見える木皮を見上げながら精霊は聞いた。


「此処は何処だ?」








天界、魔界、地の三つの世界が生まれた当初より存在した三人の王。その三人は一度世代交代を行った。自分の後継者を探し出し育て、そして後継者に天界の王が作った剣で刺してもらい消滅するという世代交代だ。

世代交代は無事行われた。だが、その当事者が転生するとは想像もしていなかった。


「しかも、転生先が精霊とはな」


元魔王の名前はグングニル。俺の名前だ。

大樹から聞き出したところ、ここはフェネットという国の端にある森の中らしいが、大樹は話さなくなった。

大精霊は人の姿に化けることが出来る。身長や体格は変えられるが元々生まれ持った色合いは変えられず、黒髪に金の瞳のままだった。近くにあった湖を覗き込み確認する。

魔王だった時と同じくらいの身長と体格、短めの黒髪に紫の瞳。イメージした通りの姿になったが、一箇所だけ気になった所があった。


「この目つきはどうしたものか…」


魔王だった時にもずっと悩みだった鋭い目つき。このせいで余計に恐れられた時もあった。動物は逃げる、面会に訪れた魔界の民達も怯える、臣下には気にしていた事を笑われる…。数えだしたらキリが無い。無意識にその姿を意識していた事も嫌だった。目を閉じて、少しだけ目尻が下がった姿をイメージして調整する。もう一度目を開いた時に映っていたのは、少し目つきの柔らかくなった自分だった。我ながら悪くない。とりあえず黒いシャツにパンツという昔人間界に遊びに来た時に来ていた服装をイメージする。


「こんなものでいいだろう」


人間の中に紛れて生きていくことも出来るが、一つ気になることがあった。他の王たちも転生しているのかどうかだ。

天界の王、リオネアと地の王、ゼノベル。俺の唯一の友人だった二人。もし俺と同じように転生しているのならば、また会いたい。会って、王という責務から解放された者同士、話がしたい。


「そうと決めたら、探すしかないな」


木漏れ日が木の隙間から差していて気持ちがいい。見上げれば、顔のような木皮が目の前にあった。


「大樹よ、世話になったな」

『…息災でな、大精霊よ…餞別だ、名を付けてやろう……グレン、なんてどうだ』

「グレン。悪くないな、これからはそう名乗らせてもらおう」

『…この場所であれば…いつでも…戻ってきて………よいぞ…………』

「…眠ったか」


生まれてから長い間世界に存在する無機物には意思が存在する事があり、中には会話を行えるものもいる。が、会話は長く続かない。

この大樹もその類のものだろう。これだけ話せただけでも多い程だし、名までくれるとは思っていなかった。

名は全ての生き物にとって大切なものだ。名は体をあらわすという言葉もあるように魔力の源になったりもする。

魔王としての名前、グングニルに未練が無い訳では無いが、グングニルという名前を使うのも何か違う気がしていたからいい転換になった。


「また気が向いたら戻ってきてやる。切り倒されるなよ」


足を一歩踏み出す。待っていてくれ、どこかにいるはずの友人たちよ。


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