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わらし君とこっくりちゃん

作者: ココロ

作者は妖怪の知識はあんまりないです。

誤字脱字。矛盾などがあるかもしれません。その時は、すみません。スルーして読んでください。


キャラ設定

・ぼんじ(凡田健二)

 ごく普通のサラリーマン。25歳。引っ越した先でわらし君とこっくりちゃんに出会う。二人の名付け親。


・わらし君

 アパートに取り憑いていた座敷わらし。男の子。黒い着物を着ている。ぼんじの名付け親。


・こっくりちゃん

 二人により呼び出され、帰れなくなってしまったこっくりさんの女の子。渋めの赤い着物を着ている。狐の耳と尻尾がある。

 「はい。じゃあこれ部屋の鍵ね」

「はい。ありがとうございます。これからよろしくお願いします」

大家さんから鍵を受け取り、しっかりと四十五度腰を折って挨拶した。

「こちらこそ。最近新しい入居者おらんで寂しいと思っとったんじゃよ。お兄さんみたいな若い人が入ってくれて嬉しいよ」

「あはは。それはどうも」

頭を掻いて笑うと、大家さんも笑って日課だという散歩へ出かけていった。

大家さんを見送り、アパートへと向き直る。

「今日から新生活。気持ちを切り替えて頑張るぞ!」

俺は鍵を握りしめて、気合いを入れた。


 俺は、いろいろあって転職をした。これを期に引っ越しをしてきたのがこのアパート。築年数が長く、見た目も多少手入れはされているが年期を感じさせる。そのおかげで家賃は安め。このアパートの雰囲気は気に入っているし、曰く付きではないとのことなので俺はすぐにここを決めた。大家さんの話によると、このアパートには、大家さんと俺を除いた二人の入居者しかいないらしい。八部屋もあるのに確かにそれは寂しいだろうと思う。

その二人の入居者の部屋だが、一人は二階の右端。もう一人は一階の大家さんの部屋の隣らしい。俺の部屋は二階の左端だ。

階段を上り、部屋の正面に立つ。

いよいよ俺の新生活が始まるのだ。

俺は、期待と不安を胸にその扉を開け放った。

 部屋の内装は、入ってすぐが台所で部屋は七畳の1Kだ。

家具が入っていて、七畳の部屋は不動産屋さんと見に来たときよりも狭く感じた。

俺はこれからの生活を明確にイメージして一人うんうんと頷いた。

早速俺は、荷ほどきを始めた。


 前のところで大して私物を持っていなかったため、荷ほどきはものの数時間で終わった。とはいえもう夕方だ。日はそろそろ日の入りしてしまいそうだ。

(今日の晩飯、何にするかな)

なんて考えていた時だった。ふと、背後に気配を感じた。

しかし、ここには俺しかいないはず。だから俺はいやいやと頭を振って笑った。少し緊張しながらも振り返ると、やはりそこには誰もいなかった。

(やっぱ気のせいか)

肩をすくめ、夕食の用意をするため立ち上がった。

次の瞬間、俺はピタリと固まった。

俺の目線の先は、この部屋の唯一の収納である押し入れ。そこから何かが俺を見ていた。

ゾクリと背筋が震えた。俺は今、もしかすると合わせてはいけない者と目を合わせてしまったのかもしれない。

いや、だとしてもすぐに離すべきだった。そう気付いた時にはもう遅く

『あ。目が合った』

頭に直接入ってくるような声がしたあと、押し入れがひとりでにスーッと開いていった。

俺の体は金縛りに遭ったかのように動かなかった。それは恐怖からだろうか。はたまた、怖いもの見たさという好奇心のせいだろうか。

目線も体も動かせない俺の目の前で押し入れの戸はゆっくりと開いていく。

やがて、そこから現れたのは───。

「・・・は?」

何か得たいの知れないものを想像していた俺は、ポカンとして固まった。

「何その反応」

押し入れから出てきたのは、小学生低学年くらいの少年だった。服は何故か和服で昭和時代かそれよりももっと前からやって来たかのような雰囲気を纏っていた。

(おかしい。ここは空き部屋のはず。誰か住んでいるはずがないし、大家さんも特にそんなことは言ってなかった)

俺は慌てて部屋を飛び出した。

急いで大家さんの部屋の扉を叩く。するとすぐに大家さんが出てきた。

「どうしたんじゃ?」

「部屋に子供がいるんですけど!あの子は大家さんのお孫さんか何かですか?!」

「ん?ワシに孫はおらんぞ?」

「え!じゃあ、あの子は・・・?」

「あっはは。何分古い建物じゃからな。座敷わらしでも出たんじゃろうて」

「座敷わらしって・・・」

さすがにそれは子供だまし過ぎるだろうと抗議しようとしたが、大家さんはただ笑うだけだった。

(こりゃ、信じてもらえてないな・・・)

大家さんへの抗議は諦め、仕方なく部屋に戻る。まだあの少年は部屋にいた。

「っていうかさ、お兄さん誰?」

帰ってきた俺に何の前触れもなく声を掛けてきた。

(それこっちの台詞なんだが!?)

そう思ったが、俺は大人なので先に名乗った。

「俺は今日からここに住むことになった凡田健二だ」

「ぼんだけんじ?ふーん・・・」

少年は俺の姿を上から下まで眺めると、スッと目を細めた。

「なんか、普通な人だね」

その言葉が岩みたいに俺の頭にのしかかった。

俺は昔から、親にも友達にも先生にも「平均的だね」と言われてきた。ようするに、普通ということだ。異常だと言われるよりはそりゃマシだが、普通と言われるのもそれはそれで微妙な心境だった。しかし、テストは基本平均点、運動も可もなく不可もなくという感じで、見た目も平凡。初対面でサラリーマンだとすぐに当てられてしまうことも多々ある。そんな俺は確かに普通だと自覚はしている。それをまさか子供にまで言われるとは思わなかった。

「仕事してんの?」

随分と小生意気な態度だなと思ったが、子供に怒ったってしょうがないので流して返す。

「サラリーマンだよ」

「職業も普通だな」

二個目の言葉の岩が頭にのしかかった。

「うーん。ぼんだ・・・あ。じゃあ君、今からぼんじね」

「は?!」

「凡田健二を略してぼんじ」

「そ、それはさすがに・・・。せめて凡田か健二のどっちかに」

「ぼんじ。暇だからなんかして遊ぼうよ」

「聞いてないし・・・」

ガクッと項垂れる俺を他所に、少年は勝手に俺の机を漁っている。

「ってか、お前こそ誰だよ。ここはお前の家じゃないだろ」

「何言ってんの。僕の家だよ」

「は?いやいや。ここは空き部屋だったんだぞ。だから俺が住むんじゃないか」

「大家さんに話聞いてきたんじゃないの?座敷わらしってさ」

「え」

目を見開いた俺に座敷わらしを名乗った少年はコクリと頷いた。

「そういうこと。僕は座敷わらし」

動揺したが、すぐに俺は笑い飛ばした。

「ハッ。大人をからかうなよ。そんなのいるわけないだろ」

「・・・じゃあ、僕が人間じゃないのを証明してやるよ」

「は?」

すると、少年の体がスゥッと透けた。

「?!」

そして、段々と薄くなっていき最後には消えた。

「ど、どこ行った?」

キョロキョロと部屋を見回すと、いないはずの少年の声が頭の中に響いた。

『わかったでしょ。僕は人間じゃない』

「んな馬鹿な・・・」

愕然とした。俺は今まで霊的現象なんて経験したことがない。そういった類いのものを目にしたことも。せいぜいテレビでフィクションのホラー番組を見るくらいだ。

なのにここに来て急に座敷わらしなんてものを目にすることになるとは誰が予想できただろう。いや。出来るはずがない。出来たとしても言わないで欲しい。

俺が現実をまだ受け止め切れずにいると、少年がまた姿を現した。

「さて。じゃあ何して遊ぶ?」

「遊ぶ前提で話を進めるな。俺はまだこの状況を理解出来てないんだ」

「えー・・・。あ。じゃあさ、こっくりさんに聞いてみたらいいよ」

「は?」

「知らないの?こっくりさん」

「いや、知ってるけど」

こっくりさん。それは一種の降霊術。方法はいたって簡単。紙と十円玉を用意する。紙には、上の方の真ん中辺りに鳥居を描き、その両端にはいといいえを書く。それからその下に五十音と数字を書く。あとは十円玉を鳥居の上に置けば準備完了だ。そして、その十円玉に人差し指を乗せ、「こっくりさん、こっくりさん。おいでください」と言うと、こっくりさんがやって来て質問に答えくれる。これがこっくりさんだ。

しかし、これにはいくつかやってはいけないことがあって、それをすると呪われるという。やってはいけないこと、というのは

・ふざけ半分でやってはいけない

・途中で指を離してはいけない

・途中でこっくりさんをやめてはいけない

・一人でしてはいけない

・こっくりさんについての質問をしてはいけない

などだ。これらをしてしまうと呪われてしまうらしい。

実際俺はやったことがない。正直やってるところすらも見たことがない。

それを何故か座敷わらしに誘われた。

「そんな非科学的なの当てになるわけないだろ」

「座敷わらしを目の前に、よく言うよね」

「うっ」

「いいからやってみようよ。前からやってみたかったんだよね。こっくりさん」

「なんで?やったことないのか?」

「ないよ。僕のこと見えたの、ぼんじが初めてだから」

「えっ」

「気配を感じる、くらいの人はちょいちょいいたけどね。でも、目が合ったのはぼんじが初めて」

「そうか・・・」

「あっ。寂しそうとか勝手に同情しないでよ?僕は別に寂しくはない。ずっとまさじぃを見てたから」

「まさじぃ?」

「大家さんのこと。将人じいさんで、まさじぃ」

「ああ、なるほど」

大家さんの名前は確かに将人さんだと聞いている。

「まさじぃはさ、このアパートをずっと大事にしてるんだよね。どんなに人がいなくても一部屋一部屋ちゃんと掃除して、修理して、そうやってずっと。だから僕はここに取り憑いた。まさじぃとしょうばぁの生活見てるの楽しかったんだよ」

「しょうばぁ・・・」

「あれ。聞いてないんだ。将子ばあさんのこと」

「え?」

「大家さんの奥さん。しょうばぁは、二年前に死んだ」

俺は目を大きく見開いた。

「だからきっと、寂しいのは僕じゃなくてまさじぃだと思う。だからさ、ぼんじが支えてやってよ。まさじぃのこと」

「な、なんで俺に、そんなこと」

「伝えられるの、ぼんじにだけだから」

「・・・!」

「それに、ここのアパートの男ってぼんじだけだし」

「・・・でも俺、転職したばっかで、他人にまで気を回す余裕があるかどうか」

「じゃあ!方法はこっくりさんに聞こう!」

「なんでだよ!?」

しんみりした空気が一変した。

「あ、十円玉ある?」

「聞けよ!」

しかし、少年は紙に筆を走らせ準備を進めている。というか、いつの間にか俺の椅子に座ってるし。

「・・・ったく」

俺は仕方なく財布から十円玉を取り出した。

「ほらよ」

紙の横に十円玉を置いた。

「そういや、妖怪とのこっくりさんって二人になるのか?こっくりさんは一人じゃやっちゃいけないんだが」

「いいでしょ別に。そんなの気にしなくて」

「呪われたらどうすんだよ」

「呪われないよ。僕は幸福をもたらす妖怪だからね」

少年はニヤリと笑った。


なんでこんなことになったのか。

「ほら、ぼんじ早く」

「気が進まない・・・」

「もう!じれったいな!」

「おわっ」

少年はグイッと俺の腕を引っ張り、強引に指を十円玉に載せさせた。座敷わらしって力強いんだと初めて知った。

「おいこら」

「じゃあ行くよ」

「だから聞けよ!」

渋々俺はこっくりさんに参加した。

「「こっくりさん。こっくりさん。おいでください」」

それから数秒の沈黙。

「・・・動かないな」

「シッ」

「え?」

少年が、反対の人差し指を口元に当てて言ったその刹那、カタカタと二人の指の下の十円玉が震えだした。

「な、なんだこれ・・・!」

「だから、静かに」

するとその時。反響しているような声が部屋に響いた。

『一人でこの私を呼び出すなんて、不届き者め。呪ってしまうぞ』

その台詞を聞き、俺はサッと血の気が引いた。

「ほら見ろ!やっぱ一人計算じゃないか!」

「こっくりさんって女の子なんだ」

「今そこ気にするとこじゃないだろ!」

確かに声は幼い女の子みたいな声だったけど。

「声がするってことは、この辺りにいるよね。どこにいるんだろ」

「あっ、バカッ!」

少年はキョロと部屋を見回す時に、指をスッと離した。

「あ、ごめん」

さして悪いと思ってない声と表情で言われた。

「お前なぁ・・・呪われるのは俺なんだぞ!」

「あ、いた」

「聞けって!・・・って、いた?」

「ほら、そこ」

少年が、指差したのは俺の後方。

振り返ると、ソファの傍に今までいなかった子供が倒れていた。

「うわ!」

その子は、頭に狐みたいな耳があり、尻尾もあった。服は和服で、見た目からして少女だった。さっきの声と合わせても多分、この子がこっくりさんだろう。

少女はむくりと起き上がると、バッと顔と腕を上げた。

「急に十円から手を離すな!ばかもの!」

少女はプンプンと怒っている。

「えっと、お前は・・・?」

「こっくりさんだ!自分で呼んだのではないか!」

「やっぱりか」

「それよりも、何故私を一人で呼んだのだ!呪わなくてはならないではないか!」

「それ、義務なのか?」

「ん?だってお父さんに言われたぞ。一人で呼んだり途中でやめたりした人は呪えって」

「なんちゅー父親だ・・・。というか、俺は一人ではやってないぞ」

「へ?」

「ほら。ここにいるだろ。もう一人」

俺が指差すと、スイーッと少女の目が横に逸れた。

「・・・。あ!」

「今気付いたのか・・・」

「あれ!?本当だ!二人いるではないか!」

「僕のこと、見えてなかったの?」

「うむ・・・。むむ?でも、おぬしは人間ではないな?」

「うん。僕は座敷わらし」

「ええ!?でも、座敷わらしは座敷にいるってお母さんが!」

「僕は憑きたいところに憑いただけ。普通なんて知らない」

「そうか・・・。それは失礼なことを言ってしまった。ごめんなさい」

床に手をつき、女将のようなお辞儀をした。

「言われたからって、ことは、お前は俺を呪う気はないんだな?」

そう尋ねると、少女は顔を上げた。

「まあ、そうなるかな」

その返事に俺はホッとした。

「だったら気にせず帰ってくれ!俺ももうこっくりさんとかしないから!」

すると少女はムッとした。

「帰りたくても帰れないのだ!途中で指を離したら、私は帰れなくなってしまうのだ!」

「え!?」

「だから、途中で手を離してはいけないと言われているのに・・・」

少女の耳がぺたんと垂れた。尻尾もシュンと下がっている。目には涙が溜まっていて今にも泣き出しそうだ。

「わ、悪かった!何とかするから泣かないでくれ!」

慌ててそう言うと、少女は目線だけを俺に向けた。

「何とか、とは。どうするのだ?」

「それは・・・」

「面倒見ればよくない?」

少年が平然と言ってのけた。

「は?」

「だって、この子行くとこないんでしょ?だったらここに置くしかないじゃない」

「うっ」

「・・・ぼんじの返事ないから、了解したってことだね。よし。じゃあ君は今日からここに住むといいよ」

「ちょっ、話を勝手に進めるな!」

「本当か!?それは助かる!」

耳もしっぽもピンッと立った。

「・・・」

こんなキラキラした目をされて、追い出すことなど出来なかった。

「・・・狭いとか文句言うなよ」

「もちろんだ!」

「えー・・・」

「えーじゃない!元はといえばお前のせいだからな!?」

「うわ、子供に責任押しつけるの?嫌な大人・・・」

(こいつ・・・。こういうときだけ子供面しやがって・・・)

「あの。おぬしの名前は何というんだ?」

「あ。俺は、凡田けん」

「ぼんじだ」

「ちょいまて!」

「ぼんじ、か。よろしくなぼんじ」

「いや、ちがくて」

「ぼんじ。腹が減った。何か食べるものよこせ」

「なんでお前はそんな偉そうなんだよ」

「先住民だぞ。僕は。ぼんじより偉い。歳も上だ」

「お前今、子供にって言っただろうが」

「何の事?」

(こんにゃろ~!すっとぼけやがって~!)

「ぼんじ。申し訳ないが、私もお腹が空いた。何か食べたい」

「えっ!?」

「ぼんじ。早く」

「ぼんじ。お腹が空いた」

「ぼんじ」

「ぼんじ」

「~っ!あーもう!わかった!わかったよ!作ればいいんだろ!!」

俺はズカズカと、台所へ向かった。

その前にくるりと振り返り

「大人しく待ってろよ。えーっと・・・。わらし君、こっくりちゃん」

呼び名が浮かばず、そう名付けた。

「うわぁ。安直」

「こっくりちゃんか。なんか、可愛いなぁ」

正反対な反応を示す二人。そんな二人を見て俺はため息をついた。


こうして、俺の新生活は二人の妖怪と共に始まった。

短編とはありますが、話が繋がってないだけでシリーズ化はしようと思っています。最後まで読んでくださってありがとうございました!

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