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0話


「ねーねーきいてよマスター」 


 某所にあるバー。

 そのバーの店内で、机に顎を付け、ぐだーっとしながら店主に話しかける幼女。

 その髪は金色に輝いている...が、その美しさも品のなさによってかき消される。


「だから聞いてるだろ...。というかその話何回目だよ。酒は出してないはずだが?」


 グラスを磨きながらこのくだっとしている幼女に目線を向けるマスター。

 その目線には呆れが混じっている。


「そう、そこも言ってるでしょ! なんでお酒出してくれないの!?」

「未成年に出せるわけないだろ!?」


 マスターの言い分は正論である...が幼女も諦めない。

 顔を上げた幼女は、机をバンバンと叩きつつ、マスターに問いかける。


「だーしーてーよー! わたし今日どんな話したと思ってるの?」


 ...が、それもマスターは呆れ顔で見送って一言。


「"社の命運を決める会議"...とやらか? それさっき聞いたが」


「そう、それ! 分かってるんでしょ! じゃあなんで出してくれないのぉ...」


 そう言うとまた机に突っ伏した。


「素面で行動が酔っ払いと一緒とかどうなってるんだよ...」


 マスターはそう言うと、カウンターから氷と白い液体が入ったグラスを幼女の前に出す。


「ほら、これでも飲め」


 その液体を見てぱぁっと顔を輝かせる幼女。


「え? これもしかしてカルーアミルク? 良いの?」


 グラスを手に取りストローを口に持っていきながら言う幼女。

 そして、口にくわえて...


「...! これ牛乳じゃない! 騙したわね!」


「俺は何も言ってないんだが...」


 と言いつつもマスターは口角を少し上げている。


「まぁ、でもこれで少し落ち着いただろ」


「はぁ...でもまぁ少し頭が冷えたわ。ありがとう」


 これで本当に頭が冷えたらしい幼女は、隣の席に煩雑に置いてあった書類を手に取り、牛乳を飲みながらマスターに話しかける。

 そこに書かれているのはとある会社の半期分の決算。


「冗談抜きでこれどうしようかしら」


「そんなのただのバーの店主に聞かれても困るんだが」


「いや、あなたこの会社の執行役員の一人でしょ?

 それに創立メンバーの一人でもある」


 その問いかけに、苦虫を噛み潰したような顔をしながら返事をするマスター。


「今は籍を置いてるだけだよ」


「それでも役員であることに変わりはないわ。私に話を丸投げなんてひどすぎない?

 これでも世間では幼女で通じるんですけど」


 その台詞に何とも言えない表情をしたマスターは、話を切り替えるように幼女に話しかける。


「その話は置いておこう。...正直、時世の問題が大きい。ところで、だ。

 今はテレワークが中心らしいじゃないか。上手くやってるか?」


 本気で話を変えに来たらしいと察した幼女は、また先程の様にぐでーっとした姿に戻り、喋りだす。


「多分ご想像どおりよ」


「というと?」


「面倒」


「なるほど」


 店主が相槌を打っているのを見た幼女は、コツコツと話を続ける。


「そもそもとして情報管理が甘すぎる。

 なんで情報流出がささやかれているツールを使ってるのかが分からない。

 御社の社外秘の情報管理はその程度ですか。って言いたいぐらい...」


 そして、一息ついてこう一言。


「やっぱりお酒頂戴。何でもいいわ」


「なんでそうなる」


「人間には一時でも忘れたいことがあるのよ...」


「はぁ、それもそうか」


 マスターはそう言うと、棚から一本のボトルを取りだす。

 そして、そのボトルについていたコルクを開けると、カウンターに置いてある磨き終えたグラスに注ぎ込んだ。


「ほら、これ」


 素直にグラスを出してきたマスターに少し驚く幼女。


「え? いいの? お金ないわよ?」


「お金はいらん。 ...というかさっきの牛乳も払わないつもりだったのか...」


「その時はお金のこと忘れてたの...最悪カードで払うからいいかなって...」


 そう言いつつ、グラスに口を付け、一口飲む幼女。


「...ってこれただのブドウジュースじゃない! なんかおかしいと思った!」


 その光景に笑いをこらえきれずにいるマスター。


「どうだ? おいしいか?」


「よくここまで手の凝ったことやるわね...もういい、寝るわ」


 そう言うと、さっきまで広げていた書類を鞄の中に詰めなおし、身長の問題で足がついていないカウンターの椅子から飛び降りるように地面に立つ。



「そうしろ。それがいい」


「上の部屋、借りるわね」


 そう言い残すと、バーの裏口の扉を開け、階段を登って行ったのだった。


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