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決意の朝に

「おはよう。体調はどうだ? 寝れたか?」

「うん、大丈夫、ありがとう」


 あの後百合はぐっすり眠った。

 朝、目が覚めると瞼が熱を持って腫れていたが、そこはメアリーが温めたタオルと冷えたタオルを交互に当ててくれたので、見られる程の顔に収まった。

 沢山泣いて疲れて寝たからか、頭は昨日よりもハッキリしていた。


 思うところは色々ある。自分が城から逃げ出したせいで、何人もの年若い女性が無残に殺された。それは紛れもない事実だ。

 城に出頭すれば殺人は止まるだろう。その代わりに夢に見た聖女のように子供を産まされて、一生城に幽閉されるのは目に見えている。


 他人を犠牲にするか、自分を犠牲にするか。他人が死ぬか、自分が死ぬか。


 東京での暮らしを「以前の暮らし」と言えるぐらいには今の暮らしに充実感を覚えている。ここで死にたくはない。でもこれ以上犠牲を出したくはない。

 矛盾した気持ちが、考えが、百合の中をぐるぐる回っている。

 だが、カーテン越しに入る白い朝日を見て改めて決心をした。


「(まず、秋祭りが終わったら、エドに全てを話す)」


 好きな人に自分を偽り続けるのは苦しい。心を開いてくれようとするエドに、これ以上嘘を言いたくない。

 エドは百合が聖女だと知って怒るだろうか。嫌うだろうか。家から出て行けと詰る(なじる)だろうか。


「(そして、城に行ってクジャや王妃と話そう)」


 自分は聖女として生きるつもりは無いとしっかり告げよう。拘束されそうになっても、今なら魔法も使えるし八咫も熊ちゃんもいる。切り札をたくさん持って、戦いに行こう。

 ニールには悪いが、嘘をついてコソコソ隠れているのはもううんざりだ。


「行こう、ファレノプシスが待ってる」


 これからどうなるか分からないが、今日も朝はやってきた。考えても答えが出ない事より、今目の前のしなければいけないことをするのが、真っ直ぐ前を向いて歩きたい百合の信条だった。



 馬の世話、畑の世話、温室の世話と朝のローテーションを済ませた所で朝食の時間になった。

 準備の為に一階の台所に向かおうとする百合を、エドが後ろから引き留める。


「ローゼスとメアリーが朝食を持たせてくれた」


 渡されたのは二つの紙袋だった。片方の口を開くと、ふわりと良い香りが広がった。


「うわぁ、素敵!」


 袋の中には焼き立てのスコーンが入っていた。もう一つの紙袋にはスコーンにつけるための三種類のジャムとクロテッドクリーム、それに色とりどりのカットフルーツが入っている。

 エドが一度台所に降り、収穫したばかりの葉野菜を千切って平皿の端に盛って戻ってきた。手前にはスコーンを、空いたスペースに彩りよくフルーツを盛りつける。


「かわいい」


 緑と鮮やかなビタミンカラーが白い皿の上を彩る。まるでカフェのワンプレートのようだ。


「でもエドこれでいいの?」


 エドは大食漢らしく朝食からかなりの量を食べる。確か昨日の朝食のメニューは大きく切ったパン二切れ、卵を二個使った目玉焼き、ウインナー、葉野菜のサラダ、ヨーグルト、ベーコンと根菜のスープだった筈。百合はこれらを少しづつ盛ってもらい食べている。比喩ではなく、エドは百合の二倍は食べるのだ。

 それなのに今日は随分と可愛いメニューだ。甘いものが好きとはいえ、朝からしっかり体を動かしたエドには少し物足りないだろう。


「ローゼスとメアリーから、好きな物を食べて元気出せと預かってきた。昨日体調が悪かったのに気づかず、無理をさせた。すまなかった、配慮が足らなかった」

「そんな事ないよ。でも、ふふ、ありがとうエド」


 この世界で百合はスコーンを食べたことが無い。ローゼスとメアリーにも作って貰ったことも無い。

 なのに何故ここにスコーンがあるのか。それは以前に屋台で量り売りしているのを見て、食べたいな、と零したのをエドが覚えてくれていたのだろう。その気遣いが嬉しい。


「いただこうか」

「あぁ」


 食事前の祈りを済ませて早速スコーンを手に取る。半分に割るとまだほんのりと温かかった。かわいいココット皿に入った三種類のジャムは、色からしてイチゴ、ブルーベリー、オレンジだろうか。まずはオーソドックスにイチゴとクロテッドクリームをたっぷりつけて噛り付く。


「おいしい! これイチゴ?」

「キイチゴだろう」


 エドは半分に割ったスコーンを一口で食べていた。

 少し酸味のあるキイチゴのジャムとなめらかなクリームがベストマットしている。いつもの朝食のように栄養があるとは言えないが、甘いものは心を元気にする。


「お前は本当においしそうに食べるな」

「みんなの気持ちが入ったものだから、余計に美味しく感じるよ。嬉しい」


 エドが百合の事を見てくれていたこと、ローゼスとメアリーが朝から作り上げてくれたこと。この世界の優しさがすべて詰まったようなスコーンは本当に美味しかった。


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