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クラブハウスサンドとお礼の品

「よーエド! 秋祭りで屋台するんだって? 外に出るなんて珍しーじゃん」

「人を引きこもりのように言うな」


 久しぶりにヴォルが家にやってきた。空間移動で勝手に入ってくるのは慣れたもので、エドは本を捲る手を止めもしない。

 ヴォルはの服装は肌寒くなってきたというのに、ローブの下のシャツのボタンを三つも開けていた。魅惑の三角形から立派な胸筋が覗いている。


「温生湯が季節風邪に効くんだって?」

「あぁ。お前も調合手伝え」

「俺ちまちました作業嫌いなんだ。知ってるだろ?」

「魔法薬草学の成績は良かったんだから、温生湯ぐらい余裕だろう?」


 あの複雑で手間のかかる調合を余裕と言うぐらいだから相当な腕前だ。学年主席の実力派は伊達じゃない。

 しかしヴォルは心底嫌そうに顔の前で手を振った。


「授業以外でやってられっかよ。てかハラ減ったー何かいい匂いするけど昼メシ何? 鶏肉?」


 四人掛けのテーブルに座り、昼食の催促をする。これまた慣れたもので、誰もツッコミを入れない。


「コイツの分もあるか?」

「うん。ちょっと多めに作ってたから。持ってくるね」


 百合はキッチンに降りた。布巾を掛けて休ませていたサンドウィッチを三角形になるように斜めに切り分けて、崩れないようにピンを差した後、白い大皿に乗せて、リビングに戻る。


「お待たせ」

「おーうまそう! 何だこりゃ!」


 上段はレタス、トマト、鶏肉、トーストを挟んで下段はベーコン、ゆで卵、レタスを挟んだボリューム満点のクラブハウスサンドだ。本当はチキンを甘辛く照り焼きにした日本風のものが食べたかったが、醤油が無いのでハーブで香りをつけた鶏肉を挟み込んだ自信作だ。


 ベルブレイユ王国の食生活は、日本と同じく夕食に重きを置いている。

 朝はパンとサラダ。昼食は屋台などで軽めに済ませ、日が暮れる頃からゆっくりと品数の多い料理とお酒を楽しむ。

 百合は最近昼食を担当し、好きなものを作っている。とはいえ大食漢のエドに合わせて昼食も量が多い。太らないのは何だかんだ一日中動き回っているからだろう。


 食事前のお祈りを済ませ、行儀悪くもかぶりつく。


「んーおいしい!」


 養鶏家のおばぁさんから買った朝締めの鶏肉は、新鮮で臭みが全くない。重石を乗せて焼いたので、皮がパリッとしている。数種類合わせた薬草と粒胡椒が、良いアクセントだ。

 網で両面焼いたトーストも香ばしい。ちょっと酸味のある手作りマヨネーズが良く合う。


「うめぇなこれ」


 ヴォルもエドもバクバク食べ、大皿に盛ったサンドウィッチはあっという間に空になった。

 ちなみに薄めのトーストを三枚使っているので、百合は二切れが限界だ。食パン二斤分作った筈なのにな……と乾いた笑いが零れる。



 食後の紅茶を済ませた午後の気だるい雰囲気の中、エドが立ち上がる。


「さぁ。白木の根を掘りに行くぞ。ちまちました作業が嫌いな脳筋のお前にぴったりの仕事だ」

「はぁ!?」

「働かざる者食うべからず。昼食分は働け」


 白木の根は地中深くに埋まっている為、掘り起こすのに力がいる。力の強そうなヴォルにはぴったりの作業だ。

 慌てて逃げようとするヴォルの襟首を掴み、問答無用で森へと引きずっていった。エドも人のことを言えない程脳筋である。



 一方百合は、アブ・フレイラ村に納品に来ていた。

 今日も無事納品を終えた百合がぷらぷらとテントを冷やかしていると、後ろから声を掛けられた。

 振り返ると中年の男が立っていた。


「こんにちは、オットーさん」

「よお嬢ちゃん。おつかいご苦労さん」

「おつかいって……納品です。ちゃんとした仕事ですー」


 この髭面の男、オットーとはジェイコブの病院で出会った。ジェイコブに誘われ納品後のお茶をしていた時に、この男が担ぎ込まれてきたのだ。

 アルコールの飲みすぎで酷く酩酊して転倒し、後頭部に大きな切り傷を作ったオットーは、打ち所が悪かった所為で大量に出血し、死にかけていた。

 酒を飲むと血流が良くなり、血は止まらなくなる。その上痛みも感じにくくなるので、頭から血を流した状態で寝こけていたらしい。

 傷自体は裂傷薬ですぐに閉じたが、後遺症が出る可能性があるので絶対安静で入院させられていた。

 百合は彼の入院中血を増やす煎じ薬を毎日納品していた。その時に話し相手になっていたのだった。

 ちなみにこの魔薬は生理での貧血に良く効くので女性にニーズがある。だが煎じてから一日しか効果が持たないので、毎日納品している魔薬の一つだ。


「嬢ちゃんに渡したいものがあってな。そら受け取ってくれ」


 足元に置いてあった黒い布がバッと外される。百合は悲鳴を上げた。


「ギャア! 鹿!」

「おう、狩りたてほやほやだぞ! 入院中嬢ちゃんには世話になったからな!」


 地面に置かれていたのは、鹿の死体だった。しかも頭も付いたまま丸々の状態だ。


「内臓取って肉を冷やすまではしてるから、あとは調合師のダンナに任せたら良いよ。皮もキレイだし。二、三日後が食べ頃かな?」

「あ、ありがとうございます……?」


 すれ違う村人が「立派な鹿ね!」と声を掛けていった。

 そう言われても、首のついた鹿など見慣れない。田舎育ちでも動物の肉は捌いたものしか見た事がなかった。柔らかそうな毛に残る銃痕が痛々しい。


「オットーさん猟師だったんですね……」

「おうよ。狩りが解禁されるまでは、害獣駆除で呼び出される以外村でテキトーに働いてるがな」


 背中には立派な猟銃が担がれていた。剣やナイフがあるのは知っていたが、この世界に銃がある事に驚いた。


「最近は森の中で鳥の魔獣が良く出るらしい。嬢ちゃんの家のあたりはあんまり出ないが、湖の向こうはその他にも大きい魔獣が良く出るから、気をつけな」


 もしかしてそれは日中は自由に森に放している八咫ではないだろうか。

 八咫は夜寝る時は百合の部屋に帰ってくるが、それ以外は森で暮らしている。ずっと小さな体でいるのは八咫も窮屈だそうなので、日中はのびのびと森を飛び回っている。契約のおかげでどのあたりに居るのかはうっすら分かるし、何も心配をしていなかったが、猟師がいるのなら人間に姿を見られないように注意しておかなければいけないかもしれない。


 そんなことを思いながら、オットーに改めて礼を言う。

 そしてこの鹿をどうやって持って帰るのか悩み始めた。



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