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秘密のティーパーティー

 エヴァとシンの間に流れる甘い空気を感じ取りながら、百合はパーティーの用意を進める。


「なぁに、それ」

「これはエヴァ達と一緒にパーティーするために大切なもの」


 そう答えながら百合は鞄からずるずると四角い布を引っ張り出す。

 これは小さいニールが暑い季節に使っていたという、折り畳み式のプールだ。

 百合が「ビニールプールが欲しい」というと、「ビニールプールというものが何か分からないんですが、こういったものなら」と物置から取り出してきてくれたのだ。


 布を広げると勝手に空気が入り、大人が三人入っても余裕のある大きさになった。布製と言っていたが、きちんと撥水加工がされていた。これも生活に根付いた魔法具なのだろう。流石侯爵家と言ったところで、子供の遊ぶプールにも細かな刺繍があしらわれており、高級感がある。


「この中に水を満たせる? 水に関する魔法なら使えるんだよね?」

「まかせて!」


 エヴァが掌を上に掲げると、湖の水が吸い上げられたかのように持ち上がる。そのまま振り下ろすと、あっという間にプールの中には大量の水が満たされた。

 エヴァの言う水の魔法がどういったものを指すのか分からず、万が一の時の場合に水の魔法も覚えてきていたのだが必要なかったようだ。


「どうかした?」


 眼下ではエヴァが不思議そうに掌を眺めていた。グーパーと掌を動かしながら小首を傾げている。


「なんか、すごく調子が良いみたい。今なら湖の水全部持ち上げられるかも」

「へぇ……」


 自身の魔力を高める『聖女の血』のおかげだろうか。水中人(オナムール)であるエヴァにも干渉するのか。

 自分の血は何処まで通用するのだろうか。試しに今度エドの薬草に垂らしてみようか、と思いついて首を振る。それじゃあまるでエヴァを実験台にしたみたいになってしまう。それに、目立つようなことは避けるべきだ。


 百合は靴下を脱ぎプールの中に足を浸した。やはり湖の水は冷たい。

 まず、プールの中に木でできた足の低い大きなテーブルを置いた。水面から二十センチほど顔を出したテーブルの上に、鞄の中から様々な物を取り出しセッティングを始める。

 テーブルの真ん中に開いた穴には、クリーム色の大きなパラソルを指す。事前にニールの屋敷で作ってきたクッキーやケーキ、サンドウィッチを三段トレーに乗せる。飲み物は人間とは体温が違う二人の為に、水出しした紅茶と甘いミックスジュースを用意した。バケツに水を汲んで、飲み物の入ったガラス瓶を浸しておく。少しすれば冷えるだろう。百合が飲むのは保温魔法をかけてもらった温かい紅茶だ。

 本物のパーティーなど知らない百合の想像できるパーティーが、ティーパーティーだ。同僚と昔行った高級ホテルのアフタヌーンティーを思い出し用意をした。

 色とりどりの花弁を水に浮かべて、準備は完了だ。


「エヴァ、ちょっと魔法をかけるよ?」

「うん」

「よし、『浮かべ(アニーモ)』」


 百合が杖を振ると、エヴァの身体が水中から持ち上がる。そのまま、プールの中にそっと下ろすと、丁度胸より下が水に浸かった。


「苦しくない?」

「うん、大丈夫!」

「じゃぁシンも行くよ」


 シンも同じように動かし、自分は鞄から取り出した木の椅子の上に三角座りをする。同じように水に浸かりたいのだが、病み上がりの体に無理は禁物だ。

 百合には少し低い位置で、エヴァとシンには少し高い位置にテーブルはある。お互いが手を伸ばさないといけない不自由さは、陸に住む者と湖に住む者の距離だ。

 だが、お互いが歩み寄れば一緒に居ることは出来るのだ。


「さぁ準備完了!パーティーを始めましょう!」


 グラスを合わせれば、楽しいパーティーの時間だ。

 

「おいしい! これ何ていうの?」

「それはいちごのショートケーキ」


 エヴァは甘いものが好きらしく三段トレイの上段に置かれたケーキやクッキーを食べていた。反対にシンは甘いものが苦手らしく、下段のサンドウィッチに手を伸ばす。


「うまいな」


 意外そうに目を瞬かせた。その手にあるのはツナサンドだ。具材はシンプルにマヨネーズで和えたツナとレタスのみ。だが塩加減は丁度良い。


「人魚って普段何食べてるの?」

「貝と魚と海藻かな? それもそのまましか食べないから、こういう風に甘いものって甘エビとかしかないのよね。だから感動!」


 甘いものが甘エビ……確かに甘いが、と百合は苦笑いする。


「これ全部ユリが作ったの?」

「私もお手伝いしたけど、ほとんど知人の執事さんとメイドさんが作ってくれたの。でもシンが食べてるサンドウィッチは全部作ったよ」

「ユリ、私たちの国でお店開かない? きっと億万長者になれるわ!」

「じゃあエヴァとシンと三人でお店を開こう。私がシェフでエヴァが看板娘」

「オレは?」

「「用心棒?」」


 百合とエヴァの声が綺麗に重なった。


「ふふっ、何だそれ。まぁ、任せておけ」


 そう言って、シンがおかしそうに笑った。オレンジの髪が揺れ、瞳が甘く垂れる。

 その姿を見てエヴァの顔がピンク色に染まる。百合だけに聞こえる小声でそっと呟く。


「シンがそんな風に笑うの、久しぶりに見た気がする」

「よかったじゃない。ねぇエヴァ。パーティーでのダンスってどうやって踊るの? 見せてくれない?」

「えぇ? 一人じゃ踊れないよ!」

「何言ってるの、シンがいるじゃない」

「えぇえ!?」

「エヴァ」


 声を掛けられたエヴァが振り向く。シンは改めて背筋を伸ばして、刺青の入った腕を伸ばし、エヴァの指先を握る。


「私と踊ってくださいますか?」

「……はい!」


 百合が杖を振ると、エヴァとシンはふわりと浮かび上がり湖の中に戻った。

 そうして、互いに歌を口ずさみながら、くるくると水中を回り始めた。聞いたことが無い歌だが、呼応するように二人から波紋が広がっていく。

 二人とも少し頬が赤く、でも見つめあう目と繋いだ手は逸らさない。


「恋って、いいなぁ」


 百合は甘えてくる熊ちゃんに凭れながら、うっとりと目を細めた。


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