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初めての授業

 その後、ヴォルとアレクサンダーは空間移動で部屋を出て行った。

 天眼石の塊を見知った細長い杖の形に形成するために、一度自分の工房へ戻って行ったからだ。

 戻ってきたアレクサンダーは、棒状の杖石を百合に手渡した。


「おお……」


 思わず感嘆のため息が零れた。

 杖石はしっとりと温かかった。持ち手の所は太く加工され、ぐるりと蔦の柄が彫り込まれている。木星のような縞模様を邪魔しないような、シンプルなデザインだ。

 これが自分の半身、自分の杖だと思うと喜びが込み上げてくる。


「杖石は肌身離さず持ち歩いて、魔力を浸透させてください」

「魔力を流せば良いんですか?」

「ええ。思いっきり流してもらって結構ですよ。杖石は魔力を吸って熟成しますから。それでは私はここで失礼します」


 と言うや否や、さっさとアレクサンダーは帰っていった。これから天眼石に合う杖芯を、片っ端から試してみるらしい。


「店に合う物が無ければ、魔獣狩りを依頼しなければ!」


 若き職人の目は、使命感とやる気でキラキラと輝いていた。


「燃えてますね……」

「杖づくり自体が久しぶりというのもあるのでしょう」


 王都はそれだけ獣人に対して冷たい。

 誰も来ない暗い店の中で、ひたすら杖を磨いていたアレクサンダーを思い出しながら、ニールが呟いた。


「さてと、俺も出るわ」

「仕事?」

「あぁ、王都の女の家にネズミが出たみたいでな」

「どれだけお付き合いしてる人がいるのよ……」

「必要な分だけだな」

「いつか絶対刺されるよ。女の嫉妬を甘く見ない方が良い」


 いくら表面で都合よく振舞ったって、心の底では嫉妬の炎に燃えているのが女だ。


「その時はそれまでってこった」


 そう言い切ったヴォルも空間移動で帰っていった。

 呆れたようについたため息は、本人の耳に届くことはなかった。


「言ってることはカッコイイんだけどね」

「今の所刺されてはいないので、振る舞いが上手なのでしょう。

 さて、話はここまで。ユリ、こちらへ」


 書斎に残された百合とニールは、階段を昇り二階へ進んだ。

 この書斎は吹き抜けのある二階建てだ。入ってすぐにゆっくりとくつろげる様なソファーやテーブルが置かれている空間があり、それを避けるかのように二本の曲がった階段がある。

 窓は一切無いが、天井が高いため圧迫感が無い。魔法の炎が灯されたランプが、あちらこちらで温かい光を零していた。

 二階のさらに奥には、大きな一枚板の机が置かれていた。品の良い椅子がいくつも置かれている様は、自習スペースと言った所だろう。

 ニールに言われて椅子に腰を下ろす。ニールは机を挟んで前に立った。


「ユリにはこれから防御魔法、そして空間魔法の二つを覚えてもらいます。本来は中等教育学校で基礎から学びますが、時間がありませんので最低限必要な所のみ、摘まみながら教えます」

「中等教育学校?」


 聞きなれない単語に首を傾げる。


「ベルブレイユ王国にあるのは、全寮制の学校で「パルース魔法学校」と言います。小学校を卒業後、優秀な魔法使いを育成する為の教育機関です。ベルブレイユ王国は全員が魔法使いということになっていますので、オストラは入学できません」

「オストラの学校は?」

「小学校までは魔法の授業はありませんので、小学校は入学できます。ですが、その後はオストラの通える学校がありません」

「じゃぁどうやって勉強するの?」

「オストラの多くはそこで勉強をすることをやめてしまいます。そのまま仕事につきますね」


 魔法学校では魔法教育の専門教育の場なので、魔法に関することと、寮生活で集団行動を学ぶこと以外は勉強しないそうだ。

 これでは、オストラと魔法使いとの教育の差は嫌でも広がってしまう。


「そちらは私がパルースの一回生で使用していた教科書です」


 机の上に積まれていたのは、一冊一冊が分厚い皮の表紙の本だ。手に持つとずっしりと重い。これを持って歩くのは至難の業だろう。

 首を傾けて背表紙を読んでみる。

「ベルブレイユ王国の成り立ち」「数秘術の基礎」「古代語辞典」「瞬きから読み明かす星学」「魔獣学」「魔法薬草学入門書」などと書かれていた。何となく解りそうで解らない。


「十一才で入学し、三回生までは皆同じ授業を学びます。四回生からは選択授業になり、徐々に自分の得意分野を伸ばしていきます。六回生で共通科目をすべて終え、七回生になると専門学科の授業と就職活動のみになります」


 教科書の中で一番興味を惹かれた「魔法薬草学入門書」を開いてみる。


「おお、刻み方からナイフの選び方まで書かれてる」


 エドに教えてもらった内容がイラスト付きで分かりやすく書かれていた。流し読みをすると、薬草の特徴や群生地、それに伴う魔薬の作り方が書かれている。

 入門書だけあって少し物足りなさは感じるが、いくつか見たことの無い魔薬の作り方が書かれていた。

 ニールは真剣に読みだしたユリの手から教科書を取り上げ、代わりに分厚い本を二冊手渡した。


「これは差し上げますよ。ユリにはまずこっちからです」


 表紙にはそれぞれ「基礎呪文学(Ⅰ)」と「身を守る為の基本の防御・攻撃術」と書かれている。


「パルースでは呪文学と防御・攻撃術の授業で使用するものです。実際覚えて貰う呪文は、五回生で学びます」

「それより呼び寄せ呪文とかの方が覚えたいんですけど」

「勿論そういう呪文の方が、生きていく上で必要です。ですが、ユリの場合は誰に襲われるか分からない。教科書は差し上げますし、騒動が落ち着いたらその辺りの呪文も覚えましょう。では、今日は呪文学から」


 立ち上がったニールがどこからともなく黒板を取り出して、授業が始まった。書かれているのは「盾の呪文」と「空間移動の呪文」だ。

 

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