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ごく一般的な社会人(ただし夢見がち)

 社会人にとって、労働後の風呂は格別である。


「極楽極楽」


 東京で日々忙しく働く畑中百合はたなか ゆりの声は、曇った浴室に弱く響いた。

 ぬるめのお湯にリラックス効果のあるハーブの入浴剤を入れ肩まで浸かる。1DKのマンションの小さな浴槽では満足に足を延ばせないが、それでもヒールで酷使した足と、電話の取りすぎでしびれる腕をしっかりと揉み解し硬水を飲めば、ダイエット効果とリラックス効果の二乗である。

 防水ケースに入れて持ち込んだスマートフォンで動画を見ながら、今日も至福の時を過ごした。


「今日も一日がんばったなぁー」


 風呂から上がり髪を乾かした。歯も磨いたし、スマホのアラーム機能のチェックも済ませた。


「さてさて」


 枕元に置いてあるハードカバーの大型本を手に取る。それはイギリスを舞台にしたファンタジー小説だった。

 待ちに待った最新作。日本語に訳されたものは販売が半年以上先だと聞いて、我慢できずに英語で書かれた原作本を買ってしまったのだ。

 百合は根っからの文系とはいえ英語は得意ではない。が、この小説は児童文学で子供にでも読めるように難しい文法は使われていない為、何とか読むことができる。わからない単語があればスマートフォンの英和辞書を調べながら読み進めていく。面倒に見えるこの作業すら、小説に丁寧に向き合っているようでとても楽しい。


 夢中で読み進めて切りの良いところで顔を上げると、時刻は深夜1時を回っていた。


「げ、もうこんな時間」


 明日も仕事だ。慌ててリモコンで照明を落とし、ベットに潜り込む。


 目を閉じて、静かな暗闇の中で今日も百合は妄想する。

 大好きな小説の世界。剣と魔法とファンタジー。

 自分がもし魔法を使えたら、どんな魔女になるのだろうか。

 きっと自分の事だからあまり頭は良くないかもしれない。でも、小中高と陸上で鍛えた運動神経は悪くない筈。なら箒で空を自由自在に飛び回る、活発な魔女だろうか。


 百合はファンタジーの世界が大好きだった。物心ついたころから小説、漫画、映画ありとあらゆる媒体でのファンタジーの世界にのめりこんだ。ここだけの話、実は今でも日曜朝の魔法少女番組はリアルタイムで視聴している。

 正直、もう23歳と良い年なので、この手の妄想はやめた方が良いとは思う。だが、妄想の世界は自由だ。頭の中でなら誰だって勇者にでもプリンセスにでもなれる。


「目が覚めたら魔法使いだったらなぁ」


 幼少期から幾度となく繰り返した言葉を呟く。

 温かい寝具は百合を眠りの世界へ連れていく。

 今日も良い夢が見れるようにと願って、微睡の中でゆっくりと意識を手放した。

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