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俺と彼女は恋人以上恋人未満  作者: 久野真一
第1章 はじまり
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第6話 付き合った記念

引き続き、付き合って最初の日の話です。夕ご飯を一緒に食べながら、おしゃべりします。

 団地の2階にさしかかったそのときのこと。

 結衣が、何かを伝えたそうにもじもじとしていた。

 結衣は団地の3階、俺は2階なので、ここで別れるのがいつものパターンだ。


「どうかしたか?」

「えーと、うんと、その。いえ、なんでもないわ」

「そこまで言っておいて何ともないとは思えないぞ」

「いいから」

「そこまで言うなら。でも、後でもいつでも相談に乗るからな」

「うん。ありがとう」


 そう言って、結衣と別れて帰宅したのだった。

 

「ただいまー」

「おかえりなさい。これからご飯の支度をするから待っててね」

「ああ」


 母さんと、そんなたわいない挨拶を交わして、自分の部屋に入る。


(なんか変だったな)


 思い出すのは、別れ際の結衣の様子。

 

(どうも寂しそうだったんだよな)


 別れ際の顔を思い出すと、いつも寂しいときにする表情だった気がする。

 考えてみれば、俺たちは付き合って初日なわけだし、結衣なりに夜の予定を考えていたのだろう。

 ただ、あいつの性格を考えると、家族団らんの邪魔をして…と遠慮してしまったのかもしれない。


(あいつばかり一生懸命で、あんまり彼氏らしいことをしてやれなかったような気がする)


 何かできることは……と考えて、一つ、ひらめいたことがあった。


(これなら……)


 そう思って、L〇NEであいつにメッセージを送る。


---


 まだ夜に入ったばかりのファミレス。ディナータイムだからか、やや混んでいる。


「それで、話って?」

「とりあえず、その辺は食べながら。結衣は何にする?」

「私は……この、カキフライ定食」

「お。うまそうだな。じゃあ、俺もそれで」


 俺も結衣も好き嫌いはしない方だが、基本的に和食系が好きだ。

 もっとも、あいつの場合、うちの味に慣れているということもあるかもしれないけど。


 オーダーを取りに来た店員に注文を伝える。

 大学生くらいだろうか。バイトっぽいように見える。


「あの人、綺麗よね」

「ん?ああ、店員さんか。確かに」

「ああいう、大人っぽい落ち着いた人に憧れるわ」

「お前はそのままでいいよ。それに……おまえも十分可愛い、と思う」

「え?」


 少しきょとんとした表情で俺を見たかと思えば、途端に笑い出した。

 

「ふふ……。どうしたの?似合わないこと言って」

「うるさいな。俺なりに、少しは彼氏らしくしようと思ってだな……」


 ああ、もう。

 慣れない誉め言葉を言うんじゃなかった。


「別に無理しないでも」

「無理はしてないさ。てか、今日はおまえの方が無理してたくらいだろ」

「別に、私も無理はしてないわ。結構楽しかったし」

「毎日ああだと疲れるだろ。付き合うって言っても急に関係を変えなくても、俺たちらしく行こうぜ」

「私たちらしく……」

「ああ、もちろん、結衣が弁当作ってきてくれたりしたのは嬉しかったぞ?」

「うん。それはわかってる。そうね……ちょっと考えてみるわ」


 少しの間、お互いに沈黙する。

 すると、先ほど頼んだカキフライ定食が運ばれて来た。

 味噌汁とタルタルソースのいい香りがする。


「あ、うまそうだな。とりあえず、食おうぜ。いただきます」

「うん。いただきます」


 そう、食事の前の挨拶をして、箸をつける。

 うん。美味い。


「美味いな……。ファミレスってあんまり来たことないけど」

「うん。ちょっと味が濃い気がするけど」

「確かにな」


 とはいえ、十分美味しい。

 俺たちは食べているときは無言になることが多く、黙々と食事が進んでいく。

 気が付けば、頼んだ定食を完食していた。


「「ごちそうさま」」

「デザートはいいのか?」

「甘いものはそんなに好きじゃないんだけど…あ、羊羹ようかんはいいかも。甘さ控えめって書いてあるし」

「ファミレスに羊羹なんてあったのか。まあ、お前らしいけど」


 女子といえば甘いものに目がないと思っている奴も多いし、実際好きな女子も多いが

 結衣は甘いものはそれほど好きな方ではない。

 とはいえ、甘ったるいのが苦手なだけで、ほんのり甘みのするお菓子は好きなくらいだ。

 

(好みが渋いんだよな)


「じゃあ、それで」

「昴は?」

「俺はドリンクで十分」


 店員さんを呼んで、デザートを注文する。


「そういえば、結局、話って何だったの?」

「うーん。もう、目的は果たしたっていうか」

「どういうこと?」


 そう疑問のこもった目を向けられる。

 正直に言うのは照れ臭いんだよな。


「付き合って初めての夜だろ?外で一緒に食事するってのもいいんじゃないかって。それだけだ」

「え……」

「帰るとき、何か言いたそうだったろ?当たってたかわからないが、ひょっとして夜の予定でも考えてたんじゃないかと思ってな」

「当たってるわ」

「それは良かった」

「でも、なんで……」

「だから、俺も、おまえと一緒に夜を過ごしたいなって思った。それだけだ」

「……そっか。ありがとう」

「それと、今日は俺の奢りな?NOは無しだぞ」

「うん、わかった」


 再び沈黙。

 恥ずかしい言葉を言ったせいか、顔も身体も熱くなってきた気がする。


---


 ファミレスを出ると、少し風が吹いてきた。


「ちょっと寒いな」

「うん」


 そう言って、手をつないでくる。

 !


「そういや、手をつないだのっていつぶりだっけ」

「5年と5か月ぶりよ」

「また、おまえはやたら正確に覚えてるな」

「忘れた?」

「いや、きっかけはなんとなく。惚れただのなんだの周りが言い始めた時期で、恥ずかしくなってきたから。その辺だろ」

「当たってるわ。私も、からかわれるのが苦手だったから。ある日、なんとなく、手をつなぎにくくなって、そのまま」

「何かイベントがあったわけじゃないのに、覚えてるのな」

「それは、昴と過ごす一日はいつも大切だから」


 万感の思いを込めたようにそう言う結衣。


「それは天然か?」

「どういうこと?」

「いや、なんでもない。おまえはそのままでいいよ」

「何か馬鹿にされてる気がするんだけど」


 好きな子から、そんな台詞を言われて喜ばない男なぞいるわけがないだろうに。

 少し拗ねたようなこいつが可愛らしい。

 結局、家に帰るまで、手はつないだままだった。


(あいつも、また自然に手をつなぎたい、とでも思ってたんだろうか)


 そんなことを考えたのだった。

次の話くらいで、1日目の話は終えて、次の章に移ろうかと考えています。

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