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俺と彼女は恋人以上恋人未満  作者: 久野真一
第1章 はじまり
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第3話 学校での一幕

付き合い始めた翌日の学校での一幕です。

 いつものように歩いていくと、俺達の通う成平高校なるひらこうこうに着いた。

 成平高校は、俺たちの住む地方都市にただ一つの進学校だ。

 大学への進学を考えている奴らは大抵、地元から出るか、この高校に通う。

 というわけで、同級生には小学校や中学校からの知り合いも少なくない。


「おっはよー、昴ちん。結衣にゃん」


 教室に入った途端、そんな挨拶をしてきたのは、同級生の加藤由紀子かとうゆきこ

 変な呼び名で人を呼ぶ癖があるが、明るく気のいいやつで、男子女子問わず人気があるやつだ。


「「おはよう」」


 挨拶がハモる。


「お二人さん、相変わらず仲がいいねー。教室からばっちり見てたよ♪」


 そう言ってからかってくる。

 

「いつものことだろ」


 適当にスルーして着席する。こいつのからかいはいつもの事だ。

 そう思っていると、横で、結衣が固まっていた。


「あ、あの。えと、その…」


「おい?」


 様子をみると、目線は下を向いていて、頬が紅潮している。

 昨日から付き合い始めたとはいえ、動揺し過ぎだろ。


 結衣の様子がどうにもおかしいことに加藤も気づいた様子だ。


「あれ、あれれ?もしかして、何か進展でもあった?」

「あー、その、な…」


 どう説明しようか迷うが、とりあえず、事実だけを端的に話すことにした。


「昨日から、俺たち付き合うことになったんだ」

「ほう、ほう!」


 いつものからかいのつもりだったのだろう。加藤もちょっと驚いた様子だ。


「それはぜひとも昼休みにじっくりと聞きたいなー」

「こいつがクソ真面目なのは知ってるだろ。下手に聞かれると倒れかねん。話なら俺が付き合うから」

「まあ、結衣にゃんの様子を見るとそうかもねー。じゃあ、昴ちんにはじっくり話を聞くから」


 そう言って、自分の席に戻っていく。

 横にいる結衣の様子をみると、まだ落ち着かない様子だ。


「おまえ、いくらなんでも動揺し過ぎだろ…」

「だ、だって……」


 いくらなんでも、いつもの軽口をスルーできない程とは。

 なにこれ、可愛い。とか思ったことは伏せておく。


「加藤には俺から話しておくから」

「ごめんなさい」

「おまえがそういう奴なのは昔からだし。気にすんな」


 好きが知りたいからとはいえ、こいつとしてはお付き合いは本気なわけだし。

 そういう不器用な程に生真面目なこいつだから好きになったんだ。


 ちなみに、俺と結衣の席は隣同士だ。


「二人とも、おはよう!」


 そんな挨拶とともに入って来たのは、橋本倫太郎はしもとりんたろうだ。

 小学校の頃からの友人で、サッカー部の部長だ。

 イケメンという程ではないけど、その明るさと気遣いのできる性格からか、男女ともにウケがいい。

 基本的に口が堅いので、倫太郎に、悩みを打ち明ける奴は男女問わず多い。


「お、おはよう、倫太郎君」

「おはよう、倫太郎」

「ん?」


 挨拶を返すが、結衣の様子がどうにも変なことに気がついたようだ。

 教室の外を指で指すジェスチャーをしてくる。

 外で話そうってことか。


 空いている教室に移動して話すことになった。

 廊下で人のことを話さないのは、口が堅い倫太郎らしい気遣いだ。


「それで、どうしたんだい?結衣ちゃんの様子が明らかに変だったけど」

「あー、それな…」


 付き合うことにしたのは話してもいいが、経緯まで話すべきか否か。

 結衣の家庭事情はこいつも知っているし、秘密厳守のこいつにならいいか。


「先に聞いておくが。他の誰にも言わないって誓えるか?」

「もちろん」


 こいつになら話を聞いてもらってもいいかもしれない。

 そう思って、昨日、結衣に付き合おうと言われたことと、好きかどうかわからない

 と言われたこと、付き合うことにしたことを正直に打ち明けた。


「うーん。なるほどね。結衣ちゃんもまたなんとも…」

「ある意味あいつらしいっちゃらしいんだけどな」


 そう言って、苦笑いする。


「それで、昴としてはどうするの?」

「俺のあいつへの気持ちは知ってるだろ。そりゃとことん付き合うさ」

「そっか。それならそれでいいんじゃないかな。でも、好きかどうかわからないか…」

「それがどうかしたのだろうか?」


 自分の気持ちがわからなくて真剣に悩むとか、いかにもあいつらしいと思うんだが。


「あくまで僕の見立てだけどね。結衣ちゃんはもう、昴のことが好きなんじゃないかな?」

「そりゃ、好かれてないとまでは思ってないが」

「その「好き」じゃなくて。男としても既に好かれているんじゃないかって意味だよ」

「そうかねえ」

「だって、家族のように好きな相手に、そんな態度は取らないよ」

「なるほど」


 確かに、男として意識していないのに、あそこまで動揺するのは、変っちゃ変か。


「ただなあ、あいつは基準がどこかずれてるからな。正直、断定はできないな」

「昴ほど付き合いは深くないけど、それはわかるよ」


「とりあえず、加藤のからかいであんなに動揺してたんだ。あまり刺激しないでくれると助かる」

「わかった。クラスの皆にもそれとなく言っておくよ」

「助かる」


 正直、これ以上クラスの奴に突っつかれたら、あいつは脳がオーバーヒートして

 ぶっ倒れかねないので、そっとしておいてもらえるのはありがたいところだ。


 こういうフォローをするのは何度目だろうか、とふと思った。

 好きな女の子と付き合うことになった俺よりもあいつの方がよっぽど動揺してて、

 そんなあいつのフォローをいつものようにしている自分に気づいて苦笑する。


 付き合い始めたのに、色気も何もありゃしないが、それもまた一興か。


 そんな朝の一時だった。

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