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非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
5章 適応する世界でものんびりしたい
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プラグインエルフ


 翌日、さくらはマグナカフェへクラン申請書を受け取りに行き、悠里と香織もそれについて行った。

 幻層をクリアしてから平和な毎日を送っていたためか、いろいろと溜まっていそうな杏奈は二人きり——チビもいたが——のリビングでソファーに座る俺の隣に座り密着、太腿に置かれていた手が大事なところへ到達しそうなところで軽くチョップをすると、ちょっと涙目になりながら「修行してくるっす!」と言ってログハウスを飛び出して行ったため俺はチビと共にログハウスに取り残されてしまった。


 「なんだかこの感じ、久しぶりな気がするなぁ」


ーー ご主人様はぼっちが落ち着くのですか? ーー


 「最近はいつも誰かいるからちょっと寂しい気もするけど、これはこれで必要な時間だなぁと」


ーー そうですね、ワタシという女がいればご主人様は満足ですものね ーー


 「そんなことは言ってないけどな」


ーー たまには良いではないですか……ヨヨヨ ーー


 「久しぶりのヨヨヨだな」


ーー はい。ヨヨヨ…… ーー


 「まぁ……エアリスと二人きりっていうのもなんだか最初の頃を思い出すし、変なやつだけどおもしろいから良いけど」


 「わふ!」


 「おっと、チビもいたなー。ごめんごめん」


 「ふぁぁ……ボクもいるよ」


 そう言ってリビングに現れたのはフェリシア。“大いなる意志”だったやつだ。


 「あ、おはよう。久しぶりだな」


 「うん、久しぶりだね。あれ? 今日は悠人だけかい?」


 「エアリスとチビもいるけど、人間は俺だけだな」


 「ふーん、そうなんだ。ところで悠人の目って改造でもしたの?」


 「魔眼というか神眼というか、それっぽい能力が付与されたみたいな状態だな。最近使ってないから忘れてた」


ーー 使ってはいましたよ? 気付かれない程度に ーー


 「マジかよ」


 「ちょっとどうなってるのか見せてよ」


 「いいけど……痛くしないでね?」


 【ホルスの目】が宿る左目を覗き込むエルフっ娘。吐息が当たりくすぐったいが、フェリシアはじっくりと観察しているようだ。目を開けているのがそろそろ限界となった頃、漸く覗き込む事を終えた。


 「なるほどなるほど〜」


 「何かわかったのか?」


 「あと何回か変身を残している! ってことくらいかな?」


 「なんだそれ。どこぞの戦闘力五十三万の人みたいだな」


 「あー! やっぱり悠人は知ってたね! さすがだね! さすがだよ!」


 「なにがさすがなのかわからない」


 ところでどうやってネットに接続してるんだろうな。不思議だ。


 「それにしても無理矢理って感じがするねー」


 「そうなのか?」


 「エッセンスの消費効率悪いでしょ? 悪いよね?」


 「よくわかるなー。エアリスのサポートありでも何度かまともに使うとクラクラするくらいには燃費悪いな」


 「じゃあ少し良くしてあげるよ。いいかな? いいよね?」


 「まぁ……俺はいいけど」


ーー お手並み拝見と参りましょう ーー


 「よし、決まりだね。じゃあ目を閉じててね」


 目を閉じていると瞼の上から手を当てられ、じんわりと手の温度が眼球まで伝わってくる。体温は俺よりも少し低いのだろうか、少しひんやりとしてちょっと気持ちいいな。でも吐息が当たってくすぐったいな。


 「はい、完了だよ!」


 「お? 早いな」


 「効率良く使えるようにしておいたからエアリスのサポートがなくても問題なく使えるはずだよ。やったね! これで着替えやお風呂、トイレまで覗き放題だね!」


 「覗かないけどね」


 「ほんとうかい? ほんとうかな?」


 「ほんとうだよ」


 「ほんとにほんと?」


 「ほんとにほんとだよ。たぶん」


 「ふーん。僕ががんばって創った体、見てもいいからね?」


 「いきなりどうしてそうなるんだ」


 「だってせっかくの傑作だよ? みんなに自慢したいじゃないか」


 「フェリにとっては、作品みたいな感覚なのか?」


 「そうそう。隠れた名品のままも良いけど、名品なら相応の評価もされたいからね」


 「なるほど?」


 「ところで、僕暇なんだけど?」


ーー それならばまだまだいろいろと聞きたいことが ーー


 「まったく……君がそんな風になるなんて思わなかったよ。それで、どこか連れてって?」


 「うーん。って言っても、フェリが作ったんだろ? ダンジョン」


 「形は、って言わなかった? 言ったよね? 箱と土を用意して種は撒いたけど、あとは知らないよ」


 「じゃあどういうモンスターがいるかとか知らないってことか?」


 「知らないわけじゃないけど実際に見たことがあるのは少しだけだよ。それもここに来てからね」


 「あー、みんなについていってたりしてたもんな。その時か」


 「そう。何せ実体がなかったからね。エアリスと違って目を借りることもできなかったし、制限が厳しかったんだよ」


 「どういう感じなのか全く想像できないな。そもそもフェリってどういう存在なんだよ」


 「僕もわからないって言ったでしょ? でもここに来てわかったのは、僕たちは君達の次元とは違う次元の存在みたいだね」


 「四次元とか?」


 「間違ってはいないかな。でもそれよりもっと高次みたいだよ。ってこんなつまらない話はいいじゃないか。早くお出かけしようよ! お兄ちゃん!」


 「は? お兄ちゃん? 何言ってんだお前」


 「……ちょっとエアリス〜! 嘘じゃん! 嘘だったじゃん!」


ーー 嘘は言っていませんが ーー


 「え? 何の話だよ?」


 「悠人はお兄ちゃんって呼ばれるとなんでもお願い聞いてくれるんじゃないの!? 嬉しくないの!?」


 「いやぁ、まぁ……うれしくないわけじゃないけど」


 「でもガイアっていう子供に呼ばれて喜んでたらしいじゃない?」


 「あ〜。エアリスに聞いたのか。それとこれとは別っていうか……なんかそういうアレだ」


 「全然説明になってないね! なってないよ!」


 「急だったから驚いただけだから。それでどこか行きたいところがあるのか?」


 「そうそう! ネコ? というのを見てみたいなと! 今はダンジョンから出られなそうだからダンジョン内で!」


 「じゃあ20層だな。でも地上と違ってアホみたいにでかいけどいいのか?」


 「うんうん! 連れていってくれるなら文句言わないよ!」


 みんなについていった時もこんな感じだったのだろうか。とは言えみんな面倒見は良さそうだし問題ないのかもしれないな。とりあえずログハウスの眠り姫は猫を御所望だ。連れていってやろう。


 20層まではチビに乗せて輸送し、そこからはフェリシアの希望もあって空輸だ。少しスピードを上げすぎた時は「もげちゃうもげちゃう」と言っていたのでゆっくりと移動していると、その瞳に映るものが新鮮らしく見た目相応にはしゃいでいた。雰囲気としてはガイア少年を更に幼くしたような感じだ。見た目は本人曰く二十歳くらいの設定らしいのだが、起伏のない体つきのせいもあって細身の子供にしか見えない。


 大いなる意志として二度、俺の前に現れたフェリシア。その時は実体がなかったためこちらには声しか聞こえなかったわけだが、こうしていると普通の人間の子供みたいに思えることも多々ある。フェリシア曰く、「物質世界はすばらしい」のだとか。だからはしゃいでしまうのも仕方ないとドヤ顔で言っていた。物質世界っていうのだから、フェリシアの大いなる意志として存在していた場所は精神世界? とかそんなのだろうか。だが空から見えるライガービーストを眺めてはしゃぐフェリシアを見ていると、田舎から上京してきたばかりの好奇心旺盛な子供にしか見えない。


 「なんだか馬鹿にされているような気がするなぁ」


 「そんなことないよ。田舎から出てきたらはしゃぐものさ」


 「田舎? 何の話?」


 「こっちの話だから気にすんな。ところで……着いたぞ」


 眼下に広がるのは20層の森林。そのほぼ中央部に位置する場所にある、そこだけ穴が空いたように木々が生えていない場所、フェアリーサークルだ。

 直接飛行してきたのには理由がある。フェリシアの体は普通の人と変わらないと言っていた事から森歩きは厳しいだろうというのと、服装が問題大有りだったからだ。レースフリフリ、リボンフリフリ、人形が履いていそうなピカピカした靴では無理があるだろう。


 「大丈夫なのに〜。悠人ちゃんは心配性なのかな?」


 「改造してあるからちょっとひっかけたくらいじゃ傷つかないとはいえ、その格好は森を歩く服装じゃないからな」


 「じゃあこれはどういう服なんだい?」


 「ん〜……そう言われるとどういう服なんだろうな」


ーー にこにこしながら黙って座ってるための服かと。それかプレイの一環として ーー


 「はいストップ! 子供に変なこと吹き込むな!」


ーー マスター、子供ではありませんよ。ソレはそんなナリをしていますが、相当な歳ですので ーー


 「あはは! 君達はほんとうにどこでも楽しそうだね! そうそう、エアリスが言ってた後半のことに関しては僕は詳しいから大丈夫だよ!」


 「詳しいって……実体がなかったのにどうやって……まさか」


 「そう! 人類のいろいろな記録のおかげでそういった知識は万全さ! 試してみるかい?」


 試す? それってつまり……

 少し想像してしまったがなんとか追い出し、努めて冷静に対応する。


 「いやいい」


 「そうかい。残念だなぁ。それじゃあ生殖したくなったらいつでもバッチ来いだからね!」


 もうこの大いなる変態は『ぺったんロリ変態コスプレエルフ』にでも改名すればいいんじゃないだろうか。

 ふとフェリシアの方を見ると、今まで気付かなかったがスカート裾から細長いながらも『もふっ』としたものが垂れているのが見えた。それを凝視してしまった俺の視線に気付いたフェリシアが「ん? これ見てるの? 尻尾だよ、かわいいでしょ?」と言った。尻尾? エルフに尻尾なんて……。


 「ん〜? んん〜? 気になるのかい? じゃあ見せてあげよう」


 そう言ってこちらへ背を向けお尻を突き出し自分のスカートをまくり上げるフェリシア。地面に付きそうで付かない程度に長いネコ科っぽいその尻尾の付け根は……プラグインしていた。


 「こ、こら! 女の子がそんなはしたない真似しちゃいけません!」


 「どう? どう? これなら自然に見えるでしょ?」


 「どうやって手にいれたんだよそんなもん。さすがにみんなもそれは許さないだろう……許さないよな…?」


 「それはエアリスに頼んで」


 「エアリスに?」


 「ネットで調べて、こういうのが欲しいっていったら作ってくれたよ? 家具を作る作業の合間に」


ーー プラグ部分はミスリル製、さらに虹星石を練り込むことによりエッセンスを流し込むと人肌に温まる機能も完備しております! 自信作です! そして自然な動きを再現する事にも成功しています! ーー


 「もうアホかと」


 「そういうことだから、冷たくないから心配いらないよ?」


 「そういう心配はしてない。っていうか問題はそこじゃないんだが」


 「まあまあいいじゃないか。それよりあれが猫だね?」


 ちょっと教育にはよろしくなさすぎるグッズの話に気を取られパンサービーストの接近に気付いていなかった俺の背後を見るフェリは、また子供のようにキラキラした目で“猫”を見ている。

 巨大な猫たちに敵意はなく、しかも以前のように飢餓感を感じない。それどころかフェリに甘えるようにすり寄っている。あっという間に猫ご一行に囲まれたフェリはその中心で楽しげだ。


 「二度目のダンジョン統合で環境が変わったのかな。全然飢えてる感じがしない」


ーー そうですね。【ホルスの目】の効率化により索敵能力が格段に上昇しました。それにより森全体を視てみましたところ、生態系が発展しています ーー


 「俺も見てみたい。……お〜、ほんとだ。鹿がいっぱいいるな。うさぎも。あ……なんかひるみたいなのもいるや」


ーー 地上で言えば山蛭でしょうか ーー


 それってたしか、鹿とかによくくっついてるやつで、いっぱいいる山で立ち止まってると足元に全方位から這い寄って来るっていう……と、鳥肌が。


 「うわ〜……きもちわる。しかもあのでかさ、吸血されたら干からびそうだ」


ーー 飢える事はなくなったとは言え、環境は厳しいかもしれませんね ーー


 せっかくなので肉を焼いて猫たちに与えようとしていると、俺の前におすわりしていた。そしてその先頭にはチビがいる。……ボスにでもなったのか?


 みんなに肉を与えると少し腹の膨れた猫たちは思い思いに寝転んだりし、そこへフェリシアがダイブしていた。やはりそうしたくなる何かがこいつら猫にはあるのだ。


 そうやって遊んでいると満足したらしいフェリシアが疲れたと言い出したのでログハウスに戻ることにした。その際、おそらく幻層をクリアした報酬として得ていたであろう能力を使いその場にログハウスへと通じるドアを作り出した。


 「これすごく便利だな。」


ーー そうですね。一日に使用できる回数に限りはありますが、自分以外もそこを通れるというのは素晴らしいかと ーー


 「へ〜。そういうことができるようになったんだね」


 「知らなかったのか?」


 「僕はその辺にはノータッチなのさ。基本見てるだけだからね」


 「ふ〜ん」


 「イエスロリータノータッチの精神って言ったほうがわかりやすいかな?」


 「いや、余計わからん」


 「そうかい。あっ、でも僕にはワンタッチでもツータッチでもしてくれて構わないよ?」


 エアリスにも言えることだが、どうしてこんなに知識の偏りがあるのか。興味とかそういう問題か?


ーー フェリシア、ご主人様が困っていますのでその辺で ーー


 「もう仕方ないなー」


ーー ご主人様、こういうのって案外疲れるものですね ーー


 「わかってくれるか。でもエアリスも大して変わんないからな?」


ーー え……そうなんですか? ーー


 「そうだぞ」


ーー そんな……バカな…… ーー


 驚愕と言った様子のエアリスは、俺の意識に『絶句』という文字を押し付けてきた。これはおそらく俺とエアリスにしかわからない事だろうし、そんな感覚と言う他ない。


 「ふあぁ〜……眠いや……おやすみ〜」


 突然おやすみ宣言をして俺の膝に頭を載せたまま目を閉じるフェリシア。その後、フェリシアが起きることはなかった。三日くらいだけどな。


 「ただいま〜。あら? フェリちゃん起きてきてたのね。しかも悠人君の膝の上で眠る美少女エルフ……シャッターチャンスね!」


 さくらに続き帰ってきた悠里と香織もスマホのカメラでシャッター音を鳴らしている。しばらくして帰ってきた杏奈は頭に葉っぱをくっつけたりところどころ噛まれたような痕があったが、そのままシャッター音を鳴らしていた。

 杏奈はログハウスを囲む森で狩り、もといストレス発散をしていたらしいのだが、これまで見たことがないモンスター、主に虫型が多くいて噛まれたと言っていた。【不可逆の改竄】で綺麗にしてしまえばいいのにされていないのは、指輪のエッセンスが不足しているからだった。似たような効果がある“狼牙の御守り”を肌身離さずつけており、その発動もしていないことから大したことはないのだろうが、不安に思った。杏奈が指輪のエッセンス切れを起こしたのは二度目だ。一度目は脚を片方失った時にそれが起こり危険な状態だったこともあり改良も視野に入れなければならないかもしれない。


 その後も眠れる森のフェリシアは勝手に撮影会を開かれ、それが終わる頃には夕方になっていた。フェリシアを部屋に運びベッドに寝かせて整った顔を見ていると、気のせいかもしれないがその口元が少し動いた気がした。

 まさか起きてるんじゃないだろうな? 意識だけは実はあるとか? などと思いつつ、フェリシアの詳しい生態的なものを知らないのでもしそうであったらということで「風呂はいつでも入れるようにしておくからな」と声をかけて部屋を出た。


 夕食を食べながら各々が今日はどうだったなどの話をする。クラン設立のための書類仕事をしてきたさくらと悠里と香織、森を駆けていた杏奈、プラグインしていたフェリシアと猫を愛でに行っていた俺。

 俺と杏奈の話はまぁいいだろう。クラン設立に関して、書類は問題なく作成できたとのことだったので一安心だ。あとは迷宮統括委員会の手続き待ちということで、今日もみんなでゲーム ——デモハイと配管工カート—— をして一日を終えた。



読んでくださりありがとうございます。

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