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非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
4章 うつろう世界でものんびりしたい
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ログハウスの休日


九月二十四日


 昨日はあれから、さくらがどうしてあんなことを言ったのかということで会議になったわけだが、留守番をしていた三人からの執拗な質問責めに、俺は死んだ魚のような目になっていたので内容は覚えていない。とりあえず何か話が纏ったようだった。

 その後は普段通りだったし、夜はゲームをして寝るといういつも通りの時間を過ごした。そして横向きで目を覚ました俺の目の前に香織がいるのも割と普通の事になっている。とは言っても寝顔を眺めている最中に香織は目を覚ますことがあり、そうなると途端に照れ臭くなってしまうが。この状況で何事もないあたり、エアリスによる夜のメンテナンスは完璧なのだった。


 朝食の後、リビングにみんな集まっている。そして今日もさくらの紅茶はうまい。


 「とりあえず、襲撃から防衛することが次の階層の開放条件じゃなかったみたいだから安心したよ」


 「そうだね。二ヶ月待ちになっちゃうもんね」


 「そうそう。でもこのままだと、何年後までいっちゃうんだろう?」


 口にした疑問にさくらが「25層は九年後ということになるわね」と言う。単純計算ならそうだろうし、おそらくそうなっている気がする。


 「悠人さん、何か問題があるんですか?」


 「うまく言えないけど、タイムスリップとかタイムリープってできると思う?」


 「……そういう映画とか物語はよくありますけど、実際にできるかどうかは……」


 「だよね」


 つまりあの『未来』そのものが“幻想”なのではないか、ということ。幻層は幻想……ダジャレか。おっさんか。いや、まだおっさんではないはずだ。そんなセルフボケツッコミを脳内で繰り広げてしまうがそれはともかくとして。


 「え? お兄さんこんな時にダジャレっすか? もうお茶目さんっすね〜」などと杏奈にまで言われてしまう。でもそれはしっかりと否定しないと。


 「至って大真面目だよ」


 俺の真面目な声音に「口チャックするっす」と言った杏奈が、口のチャックを閉じるような仕草をして口を噤む。


 「で、だからと言ってどうなっても良いとは思わないけど、ある種のシミュレーションみたいな気がしてさ」


 「“大いなる意志”からゲームをさせられてるみたい。悠人はそう言いたいわけ?」


 「そそ。“超越者は時を超えて、最果てを救え”なんて言われたし、22層に隔離された人には悪いけどもしかしたら“人界乃超越者”用のゲームなのかもしれないなって」


 「もし悠人君の説が正しければ、特務としての依頼『隔離された百人を救助する』ための達成条件はそのゲームをクリアすることになるかもしれないわね」


 「そだね。もしかしたらそれで22層の人たちは解放されるかもしれない」


 「でも不思議よね。実際にそこにあったものを持ってくることもできたりするし」


 「その未来の人間が作った武器とかは試してないからわからないけどね。亀と全身鎧の巨人からのドロップは持ってこれたね。それで、その未来から持って来たのがこれなんだけど」


 全身鎧の巨人を倒した際、24層の壁に死に際に投げ刺した長大な刀を取り出す。その刀身は今は薄い桃色だ。


 「あら? あの時とは色が違うわね?」


ーー エリュシオンのようにエッセンスを流し込むことができるようです ーー


 試しにやってみると刀身は桜色に輝きだした。さくらや他のメンバーがやっても同じだった。

 あの時、全身鎧の巨人が使っていた際は黒かったように思う。もしかするとモンスターだったから?


 「そうかもしれないわね。でも持って帰ってこれたのなら現実なのかしら?」


 「現実であってそうでない、みたいな?」


 「う〜ん。ややこしいわねぇ」


 とにかく“最果て”を救わなければならないことだけは確かだ。条件はわからないが予想くらいはできる。

 

 「またがんばりましょうね、あ・な・た」


 「まだそのネタを引きずるか……」


 「うふふ〜」


 さくら以外三人の視線がちょっと痛いが気にしないことにした。こういうときはチビと遊ぶに限る。ということで、きっと散歩に行きたいと思っているはずのチビを散歩に誘う。


 「チビ〜。散歩いこうぜ〜」


 「わっふわっふ!」


 「どこがいい? 19層?」


 何の反応も示さない。なるほど、他が良いと申すか。


 「じゃあ21層?」


 これまたハズレか。それじゃあ……


 「20層?」


 「わふ!」


 「よし、じゃあ20層にいこうか!」


 ということでチビと20層へ向かうことにする。転移はせずそこまでの道のりで飛びかかってくるうさぎはしっかり狩って肉ドロップを狙うのを忘れない。ジビエ料理店SATOでは、ウサギ肉を使った料理は人気が高いらしいからな、しっかり獲って行かないと。

 肉と言えば、最近ワイバーンステーキを獲りに行ってないなぁと思ったが、まだ余裕はあるし今日はチビの散歩が優先だ。


 20層での散歩というか狩りは非常に楽になった。というかチビが強すぎた。俺の【纏身】を見様見真似でできるようになった【纏身・紫電】は攻防一体の技。噛みつこうと首を伸ばした亀は頭を紫の雷に打たれて吹き飛ぶし、稀に見る巨大肉食獣のライガービーストも一撃だ。それを使わなかったとしても基本的に一撃で倒して行く。俺はやることが全くと言って良いほど無いので、俺が散歩させられているようなものだな。


 チビが進む方へひたすら進んでいく。チビの足取りは軽く、亀の群れを見つけては飛び込んで紫の雷を迸らせており、俺はその回収係をしながらついていく。そのままさらについて行くと、だんだんと岩盤が剥き出しになっている風景に変わってくる。そしてさらに向こうには、21層のログハウスがある森よりも広く薄暗い森があり、チビはその森へと入って行った。


 「チビ、どこまでいくんだ〜?」


 「♪」


 「ご機嫌っぽいからまぁいいけど。それにしてもでかくなったよなー。なぁチビ、もしかして俺乗れたりする?」


 「わふ!」


 チビは目の前で伏せの形を取り、俺はその上に跨ってみた。なんとか乗れるな。ポニーに跨ってるような感じだ。


 「ハイヨー! シルバー!」


 「わふん?」


 「言ってみたかっただけだから気にせず行ってどうぞ」


 チビはモンスター、そんなの知るはずがないし仕方ないよな。

 チビは森の中を進む。森の中では木の陰、木の上を問わず肉食獣の気配がしているが、襲ってくる気配はない。それどころかチビが向かう先の気配が左右に分かれ、まるで大海を割ったモーセにでもなった気分だ。

 それはそうと騎乗用としては向かない上に鞍もない。よって股間が甚大な被害を受ける前にうつ伏せになるようにしてしがみつく。毎日のお犬様用シャンプーのおかげで見た目にはわからないふわふわ感だ。


 (エアリス、これってどこに向かってるんだろう?)


ーー わかりません。しかしこの先に森の空き地があるようです ーー


 (空き地?)


ーー はい。ちょうど円形に、木の生えていない場所があります。地上のとある国にも似たような場所がありますね。たしかフェアリーサークルと呼ばれていたかと ーー


 (へー。物知りだなー)


ーー 人類の叡智は役に立ちますからね ーー


 (あー。インターネットで世界中を見てるわけか)


ーー 主に興味のあるものだけですが。マスター、もうすぐ着きますよ ーー


 (お、ほんとだ。あそこだけ陽の光が入って来てて神秘的な場所だなー)


 チビがいつこの場所を知ったのかはわからないが、一応の目的地となったらしい。


 「わふ!」


 「チビはここに来たかったのか?」


 俺の質問に首を振るチビ。なるほど、ただの偶然か。しかし偶然でこんな場所を見つけちゃうなんて、チビはすごいな。ちょうど良さそうな倒木があったのでそこに腰掛けて昼食タイムにした。


 「もう昼過ぎてるし、肉でも焼いて食べようか。二ヶ月くらい前に買ったおにぎりもあるしな。ってことで、ここをキャンプ地とする!」


 ツッコミが入らないのはわかっていた。ただ言いたかっただけだし気にしてないし。


ーー 保存袋を有効活用していただいているようでなによりです ーー


 エアリス謹製の保存袋は便利なもので、中に入れたものがほとんど劣化しない。いつの間に改良したか知らないが温度変化すらもほぼしないようになっていた事から、時間の経過が非常に緩やかになっているのではないだろうか。詳しいことは……頭が痛くなりそうなので考えない事にする。


 ワイバーンステーキを焼いてチビと食べていると、肉を焼く匂いに釣られたのか肉食獣が寄って来ていた。しかし相変わらず襲ってくる様子はない。襲うつもりなら囲むだろうが、一箇所に集まってこちらを窺っているようだ。


 「この森って食べ物少ないのかな?」


ーー そういえば肉食獣は多くいましたが、その餌となるような草食系はほとんど索敵にかかっていませんでしたね ーー


 「ん〜。肉ならいっぱいあるし少しわけてやるか。お邪魔してるわけだし」


ーー 下手な餌付けはよろしくないのでは? ーー


 「まぁ大丈夫だろ。んじゃ一番余ってる鹿肉でいいか」


 20頭ほどいるのでそれなりの量が必要だと思いとりあえず二十キログラムほどを密集しているところの手前に投げてみる。すると初めはニオイを嗅いで確認していたが、その中の他よりも小さな個体が耐えきれなくなったようでかぶりついた。それを見た他の獣も貪るように喰い始め、それを見て次の肉を焼き始める。もちろん俺とチビのだ。

 焼いていると獣がじりじりと寄ってくる。しかし殺気ではなく、ただの食欲だとわかる。しかもそれは俺たちに向けられているわけではなく、俺たちの肉に、だ。


 「よくみるとこいつら、豹? 猫か?」


ーー ……パンサービースト、地上の豹のようなものですね。しかし柄が ーー


 「三毛猫だな……大きな三毛猫」


 でかいことを除けば割と猫なその獣たちに焼いた肉を喰わせてやろうと差し出してみると、少しの警戒をしつつも次から次へと手に持った肉が攫われていく。その勢いは猫舌は存在しないと言わんばかり。

 しばらく肉を与えると、満足したのか「なーぅ」とひと鳴きして去っていった。


 「がおーじゃないんだな。っていうかもう猫じゃん」


ーー ネコ科でもガオーと鳴くものもいればニャーと鳴くものもいるようです。ヒョウは前者でユキヒョウは後者です ーー


 「同じヒョウじゃないのか……まぁいいや。なんかかわいかったな」


ーー そうですね。しかしあれでも普通の人間にとっては脅威でしょう。あの巨大な猫と言うには異常な、それもモンスターをかわいいなどと言えるのはマスターくらいかと ーー


 うーん、確かに……普通に考えたら怖いか。むしろ動物園のライオンと同じ檻に入ったら、そっちのが怖い気がする。俺にとってチビっていう存在がいるから耐性がついたとかだろうか。


ーー しかし敵意がありませんでしたね ーー


 「チビがいるから襲ってこないのかもなー」


ーー それもそうでしょうが、マスターが人界乃超越者であることも要因かと ーー


 それがなんだというのだろうか。


ーー ダンジョンにおいて、支配者権限というのは一種の“格”を表すものと推測・認識しています。それはダンジョンの中にいる存在の場合、自然と感じ取れるもののようです。そして上位者に対して敵対するのは知恵の低いモノや単に好戦的なモノです ーー


 「あー。だからモンスターも避けていったりするわけか。狩りが捗らないな」


ーー 格と言えば、チビも役職が獣王になっているようですよ? ーー


 「え? 役職? チビってばたぶん0歳なのにもう偉い感じなのか。すごいなーチビ〜、王様だってよ〜」


 「わふふ!」


 「チビの貴重なドヤ顔……に見えるんだが?」


ーー ドヤ! だそうです ーー


 「これは写真撮っとこう」


 チビのドヤ顔をこれでもかとスマホで写真に収め、日当たりの良いフェアリーサークルでのんびりしていると、ついついうとうとしてしまっていた。


 気が付いた時にはだいぶ時間が経っていたようだった。どうやらがっつり寝ていたっぽい。


ーー “ぽい”ではありません。もうすぐ夕方ですよマスター ーー


 「あははー。いやー、ついつい。ほら、チビも寝てるし」


 チビが気持ちよさそうにだらけているのを見ていると『こういう時間は良いものなのですか?』とエアリスが聞いてくる。


 「そうだなぁ。控えめに言ってかなり良いものかな」


ーー そうなのですか。ワタシも肉体があれば理解できるのでしょうか ーー


 「そうかもしれないな」


 チビが大欠伸をし、起き上がる。その目はトロンとしているように思えた。

 

 「でかいあくびだなー。気持ちよかったか?」


 「わふ!」


 「よーし、じゃあそろそろ帰るか」


 森の出口まで散歩しながら帰ることにしたわけだが、どういうわけか見えない距離ではあるものの周囲の気配が等間隔で付いてくる。それは全方位で、俺たちが止まるとその気配も止まる。


 「ん〜。この気配って、さっきの猫っていうかヒョウか?」


ーー はい。先ほどの猫たちです ーー


 「エアリス的には猫なんだな。まぁ三毛だしな。サイズを気にしなければ猫だもんな」


ーー なかなか愛らしい生き物でしたね。それでその猫たちですが、強い意思が伝わってきます。一応護衛のつもりのようですよ? ーー


 「ほー。一飯の恩的なやつかな。猫って意外に律儀なのかなー」


 森から草原に出るとその気配は一箇所に集まって行き、「なぁーう!」と鳴いていた。また来ようと思った。

 【転移】でログハウスに戻ると、悠里が夕食を作っていた。


 「ただいまー」


 「わっ! おかえり悠人。びっくりさせないでよねー」


 「ここに転移してきてそんなにびっくりするの、悠里だけだよな」


 「なによ。びびりとでも言いたいわけ?」


 「いや、ネット上でしか知らなかった時はよくしゃべるやつだったのに、会った後はそうでもなかったし、でも新鮮なリアクションしてくれるからおもしろいなって」


 「それはまあ……ネットはネットのノリがあるっていうか。悠人にだってあるでしょ?」


 「俺は基本いつもこんなだからな」


 「……たしかに会う前も後も変わった気がしないわ」


 そういえばと、先ほど森で撮った写真を悠里に見せる。


 「え? なに、チビがすごくドヤ顔してるように見える」


 「エアリスが言うには『ドヤ!』って言ってた瞬間らしいぞ」


 「へ〜」


 「あとこれ。森の中で猫さんに出会った」


 「うわ〜。三毛猫いるんだね、しかもこんなにたくさん」


 「一メートル以上あるけどな」


 「巨大三毛猫……ありかも」


 ありなのかよ。


 「ところで森って、21層の?」


 「それがさ、20層でチビに付いてったら森があったんだよ。それで猫の写真撮ったのはこういう場所だったぞ」


 「これってフェアリーサークル?」


 「よく知ってるなー」


 「森にある写真を見たことがあって一度行ってみたいと思ってたけど、まだ行ったことはないんだよね。砂漠にもあるみたいだけど、それはあんまり綺麗ではなかったかな」


 「そうなのか。乙女なのか?」


 「私が乙女以外の何に見えるんだい? ん〜?」


 「いいえ、おほめにしかみへまへん」


 「よろしい。じゃあ料理の邪魔だからリビングで待ってて」


 女の子から頬を挟み込むように掴まれるという経験は初めてだったのだが、ちょっとドキドキしちゃったじゃないか。女の子がこれをイケメンにやさしくされたらドキドキするという気持ちがわかった気がした。イケメンにされたら、な。なんで二回言ったのかって? きっと大事なことだからだよ。


 その後リビングに集まって来た他の三人にも写真を見せているうちに夕食ができたので今日もありがたくいただいた。


 「ところで今日はみんな何してたの?」


 「デモハイしてたよ」と言った悠里に香織が「楽しかったね〜」と言う。


 「あたしら四人が逃亡者で悪魔はマッチングした野良の人っす!」


 「デモハイ女子会だったわね。うふふ〜」


 「へ〜。じゃあ今日はみんな休日を楽しく過ごせたわけか」


 「え? 何言ってんの悠人、まだ今日は終わってないよ?」


 「そうね。まだまだこれからよね〜。うふふ〜」


 「みんな元気だねー。ふと思い出したんだけど、エアリス、刀の金属の名前って決まったの?」


ーー はい。桜の花を思わせる色から、安直ではございますが“桜鋼オウコウ”というのはいかがでしょうか? ーー


 「たしかに安直。だがそれがいい」


ーー ありがとうございます。では“桜鋼”で登録します ーー


 「私の名前が入ってるのね」


 「そうだね。嫌なら違うのにしても良いと思うよ?」


 「それでいいわよ? うふふ」


 露天風呂にのんびり浸かっているとチビが転移してきた。チビのエッセンス事情はわからないが、かなり乱用しているように見える。しかしそれでも平気なのだから問題ないのかな。

 しかし気になったので我らが攻略本に聞いてみた。


 (エアリス、チビのエッセンスってどうなってんの?)


ーー チビの場合はダンジョン内にいるだけでエッセンスが自然と増えていきます。一日の増加量はエリュシオンでスラッジマンの軍勢を半壊させたあの攻撃を二度使用できる程度です。上限はそれよりももう少し多いようですが。あとワタシを“攻略本”扱いするのはおやめください ーー


 物扱いはだめだよな、めんごめんご。と思ったが『上質な攻略本です』と言っていたので“ただの攻略本”と一緒にするなということだったらしい。


 (てーと、MPが自然回復するみたいなものか。それってかなりすごいな)


ーー ご主人様を含めた皆様も少量ではありますが同じようになっています。ところでご主人様、あの攻撃に名前を付けませんか? できればかっこいいのがいいです ーー


 (かっこいいのって、俺そういうセンスないの知ってるだろ……)


ーー そこをなんとか! ーー


 (……剣気に雷火を纏わせて剣閃で飛ばすから、剣気雷火剣閃斬とか?)


ーー そのままではないですか……もういいです、【雷火閃ライカセン】これでいきましょう! ーー


 (うん、それはそれでまんまだけど、それでいいよ〜)


 俺に聞かずとも候補はすでにあったということか。エアリスが欲しかったのは“案”ではなく“許可”だったんだろう。

 ところであの刀、どうしたものか。俺が使うには流石に長すぎる。振れないことはないが小回りは利かない。

 頭の中だけで考えるよりも実際に声に出した方が纏ったりするためそうしている。俺とエアリスしかいないし問題はない。


 「それなら悠人君の銀刀を強化するのに使うのはどうかしら?」


 「あ〜、それもいいかもしれないね〜。残りはさくらの銃弾の材料にも使ってもらうのもいいかな」


 「あら、私にくれるの?」


 「うん、うん?! ……ねぇさくら」


 「なにかしら?」


 「どうしてナチュラルにいるんだよ?」


 「だめ……?」


 「うっ……ダメじゃないけど」


 「よしよししてあげるから許してね〜」


 「い、いや、だから抱きつかれるといろいろと……それに俺、今日は落ち込んでないよ?」


 「今日はユウトニウムの補給よ〜?」


 「それが何かよくわかんないんだけど」


 風呂の縁に置いた腕を枕にしてのんびり浸かっていると、さくらは満足したらしく「のぼせる前にあがるのよ?」と言い残して出ていった。そう思うなら風呂に特攻しないでほしい。おかげでのぼせそうなんだが。


 ちょっとふらふらとした足取りでリビングに戻るとすでにみんな上がっていたようだ。しかもなぜかみんな浴衣だ。そして俺は甚兵衛だ。なぜかって? たぶんさくらが俺の着替えと甚兵衛をすり替えたからそれしか着るものがなかったからだ。でもジャージやスウェットと違って湯上りでも蒸れないし快適なので感謝だな。


 「あらあら、似合うわね〜」


 「香織の見立てに隙はないのです!」


 「伊達に悠人を抱き枕にしてるだけあるね」


 「じゃあ今夜はあたしが抱き枕にしてもいいっすか?」


 香織は人畜無害といえばそうだが、杏奈に関してはそう言い切れる自信がないため「だめっす」と即答しておく。


 「ところで悠人君? 何か言うことあるんじゃないかしら?」


 「えっと、甚兵衛ありがとう。快適です。あと、みんなすごく似合ってるね」


 「うんうん、よくできました。うふふ〜」


 どうやら及第点くらいは貰えたようだ。

 それぞれが好きな花柄の浴衣を選んだのだろう。しかし俺にわかるのは、さくらが着ているのが桜模様だということだけだった。他の三人の花はなんだろう。アジサイ? アサガオ? ハイビスカス? なんかそんなのだと思う。自信は全然ない。


 そのままみんなでリビングでわいわいした後、今日も配管工カートとデモハイをしたわけだが、今日はみんな興が乗ったらしく飲酒運転に飲酒かくれんぼとなった。


読んでくださりありがとうございます。

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[一言] 大きな三毛猫の群れとか入りびたっちゃう・・・
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