表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
4章 うつろう世界でものんびりしたい
81/327

押しの強いお姉さんは好きですか?


九月二十三日


 目を覚ますと、俺とチビの間にさくらがいた。


 「……さくらさん? いったいなぜこんなところに?」


 「起こしに来たのよ? でもなぜか吸い込まれるようにここに潜り込んじゃったのよね〜」


 なんでやねん、である。いや、確かにこのベッドは最高傑作と言っても過言ではないけど、そしてそれをつい最近さくらも体験してるわけだしわからないわけではない。なんならさくらのベッドも作ろうか? と言おうかと思ったが、その時俺の目に飛び込んできたのは……


 「っていうか服はだけてるから! 見えちゃうよ!?」


 「あらあら、悠人君ったら……恥ずかしいから見ないで?」


 見ないで? とか言うなら見えないようにして? と思うが、これもいつも通りの揶揄いなんだろうな。それならそういう対応をした方が、こちらとしても気が楽だ。


 「眼福だけど、はやくそのボタンを閉めるなりなんなりしてくれ」


 「うふふ〜。喜んでくれたなら作戦成功ね。さあ、おっきしましょうね〜」


 子供じゃないんだから『おっきしましょうね』は無いんじゃないだろうか。ってか大人におっきしましょうねは少し意味が……ねぇ?


 「う、うん、もう起きてるから」


 「うふふ。ユウトニウム補給も済んだし、先に行ってるわね〜」


 部屋を出ようとするさくらの後ろ姿は、引き締まった肢体と形の綺麗なおしりが……ってほぼ下着じゃねーの。

 そんなさくらが部屋の外に出ると俺を起こしに来たであろう香織と鉢合わせたようだ。「さ、さくら、そんな格好で悠人さんの部屋から……まさか!」という香織の声に続き「うふふ〜。何もないわよ?」と聴こえたのでまた新たな誤解を生んでいるかもしれない。由々しい。


 (なんかさー。最近余計こういう、ラッキースケベ系増えてない?)


ーー LUCが本気出して来ましたね! なるほど、ご主人様の場合、170付近からこのようなことが極端に増えたようですね ーー


 (ということはどういうこと?)


ーー それだけ低い可能性を引き寄せたということかと ーー


 (ダンジョンがなかったら一生縁がなかったことってのだけはわかった)


ーー せっかくですから楽しめば良いかと。皆様も楽しんでいらっしゃいますし。それに実際、LUCによる影響などこの場合は微々たるものかと ーー


 (まぁいいけど……。でも悪影響が出そうならほどほどに調整しておいて)


ーー わかりました ーー


 朝食を食べ終えリビングでのんびりしていると、香織が真剣な顔でこちらを見ていた。


 「どうしたの香織ちゃん?」と声を掛けるが返事がない。


 あれ? 無視? あっ、ちゃん付けしないで言ってみればどうだろう。


 「……どうしたの香織?」と、少し遠慮気味に言ってみる。


 「さくらと何かありました?」


 「ないよ?」


 「ほんとですか?」


 「うん。起こしに来たついでにチビと俺の間に潜り込んでただけっぽい」


 「ほんとかなぁ」


 「ほんとだって! な!? チビ!?」


 「わふん?」


 なかなか信じてくれない香織。チビに助けを求めるも、チビはそういうことはよくわからないようだ。


 「香織ったら信じてくれないのよ〜?」


 「さくら、あんな格好で部屋から出て来るし……」


 ちょっとほっぺたが膨らんでるような。こうやって見るとその童顔と相まって子供っぽく見える。


 「でもほんとなんもないからね? 俺が起きてすぐさくら出てったからね? ほんとだよ?」


 「言い訳する悠人君って、かわいいわよね〜」


 「どこにかわいい要素が……ってか言い訳じゃなくてほんとのこと! そもそもさくらが原因!」


 そう言うが、さくらは余裕の表情を崩さず「うふふ〜」とこちらを見ている。


 さくらでは埒が明かない。こういう時は悠里に頼ろうと、そちらへと視線を向ける。


 「香織、ほんとになんもないと思うよ?」


 「どうしてそう言い切れるの? 悠里には何がわかるの?」


 「さくらって、そういうことになったら逆に堂々としてられなそうじゃない?」


 悠里のフォローに香織は“そういうことになったさくら”を想像しているようだ。そして答えが出たらしく、不承不承だが結論を言う。


 「むむむ……悠里を信じる」


 「俺も信じて!?」


 「うふふ〜」


 「なんなんすかねーこの感じ」


 杏奈だって急にベタベタしてくる時があるのに、自分じゃない時はあんまり興味なさそうな反応をする。

 それはそうとエアリスがLUCを上げて遊んでいた事を思い出しみんなにそれとなく聞いてみる事にした。


 「話は変わるんだけどさ、最近普段ならしないことをなんとなく自然とやっちゃう感じしない?」


 「例えばどんなことかしら?」


 「風呂に特攻したりベッドに潜り込んだりみたいな」


「「「あ〜」」」


 「心当たりあるんだねー」


 「香織は悠人の髪洗ってあげてるもんね?」


 「ま、まだ2回しか……じゃなくて、してあげたいな〜って思うけど、普通なら絶対できないって思うことをできちゃうとか……勇気が出ちゃう感じならあるかもしれないかなぁ」


 「香織ほどじゃないけど、私も少しはあるかも。おかず一品増やしてみたりとかね」


 「私もわかるわね、その話。お姉さん、普段は大胆に潜り込んだりしないのよ〜?」


 「あたしもっすね〜。お兄さんといると特にっすかね」


 それがどうしたのと言わんばかりの視線をみんなに向けられ、俺はエアリスに責任を押し付ける事にした。


 「あ〜それね、もしかしたら俺のLUCが高すぎるせいかもしれない疑惑が出てまして……。それで、問題がありそうだし適度に下げようかと」


 「下げなくていいです!」

 「下げなくていいわね」


 即否定の香織とさくらに続き、少し考えた後『特に不都合はないから』と言う悠里。

 続いて杏奈が質問してくる。


 「それって、お兄さんの運が良すぎてラッキースケベが起きるとかそういうことっすか?」


 「まぁ、そういうこと」


 「エアリスさん、それって私たちが本来思ってないことを思ってることになる、とは違うのよね?」


ーー それは無いとは言い切れませんが、そうであるならば少なからず皆様は不快に感じるはずですので ーー


 tPadの画面に表示されたエアリスの言葉を見たみんなは迷惑そうな顔はしていなかった。


 「みんな悠人には感謝してるからね、そのお礼で良いもの見れたとでも思っておいていいんじゃない?」


 「でも悠里のそういうのは見たことないな」


 「え……? み、見たいの?」


 「い、いや、否定はしないけどこれ以上の眼福は逆に毒かもしれないから、悠里は普通にしててくれ……」


 「幸せな悩みっすね〜。じゃあ免疫を付ける口実でお兄さん、二人で部屋にいきましょうか」


 握った拳の人差し指と中指の間から出した親指を動かしながらこちらに見せてくる杏奈に、悠里がどこからともなくとりだしたハリセンでスッパーンとしていた。まぁね、『口実』とか言っちゃってるし。そもそもみんながいるところでそんなこと言われてもねぇ。


 「ほんと、みんな冗談好きだねー。見てて楽しいからいいけどさ」


 つか悠里、どっからだしたんだそのハリセン。まさか物質具現化の能力者になったのでは!? という妄想は置いといて、今日は……そう! 24層を見に行くんだった。


 さくらとチビと共に石碑に向かい、ゲートを開いて24層へと入ってみる。するとそこにあったのは三年後設定の23層よりもさらに発展した拠点だった。壁の外周はより大きく見るからに頑強になっており、門も木ではなく金属製になっていた。ペルソナとして来た方がいいだろうと思い予め仮面をつけておいたので、チビもそれに合わせて金色になっている。しかし超小型犬サイズでさくらの腕の中だ。どちゃくそかわいい。


 門に近付くとここでもさらに三年経ってもまだ短髪細マッチョを貫いている門番が声をかけてくる。しかしその装備は、特殊な繊維で編まれた服の上に薄らと青みがかった金属製の胸当てをつけていた。


 「あ! 特務さんたちじゃないですか!?」


 大袈裟に手を振りながら駆け寄って来た門番に対し、設定を意識して応対する。


 「ひさしぶりだな」


 「あ〜! その合成音声っぽい声、懐かしいですね!」


 やっぱ機械音みたいに聞こえるのか。もう少し人間らしく聞こえるようにエアリスにリクエストしとかないとな。


 「……ここに来たのはどのくらいぶりだっただろうか」


 「え〜っと……たぶん三周年のすぐ後に発生した襲撃以来ですね!」


 「ふむ。その後の襲撃は問題なかったのか?」


 「はい! あのあと徐々にミスリルっていう金属が出回るようになりましてね、それのおかげで結構装備が充実してるんですよ! この胸当てもそのミスリルが使われてるんですけどね、軽くて丈夫! すごいですよね〜!」


 「お、おう、そうだな。もしかしてなんだが、最近襲撃があったのか?」


 「ありましたよ! 楽勝でしたけどね! 前回ペルソナさんたちが来た時ほど“スラッジマン”の数も多くないですし、その後にモンスターが出てくることもありましたけど、問題なかったですよ」


 「ん? スラッジマン?」


 「あの人型の黒いやつのことです。ヘドロみたいだからスラッジマンって呼んでます」


 「なるほどな。ところで……うまくいってるのか?」


 「うまく……? あ〜、彼女ですか? 順調ですよ! 最近はここから出られたら結婚しようって約束したんですよ。でも出られる保証もないですし、支援ありきとは言えここでも生活はできてますから、どっちが言い出すかお互いに我慢比べしてるみたいな感じですね」


 『見事なフラグですね』と言うエアリス。そう思っても言っちゃダメな時もあるので門番には言わない。エアリスの声が俺にしか聞こえなくてよかったと思う。


 「そうか。まぁがんばれ。あと門を開けてもらっていいか?」


 「あっ! すみません! お二人に会えて嬉しくてつい……あとチビ君だったかな? 君にもあの時助けられたよな! また会えて嬉しいよ!」


 「わふ!」


 「それじゃ、かいもーん!」


 ごごごご……という効果音がつきそうな重厚な扉が開く。実際はウィーン、カシャン! カシャン! という音がしてパカッと開いた感じだ。その門を潜るとまたウィーンという音と共に閉まる。

 中の様子はというと、23層よりも建物が現代風の町のようになっており、道を歩く人々も普通の服装をしていて、時折見たこともない服装の人もいる。


 「あんな服みたことないわねぇ。ちょっとだけ未来って感じがするわね」


 「そうだね。でも六年じゃあんまり変わらないってことなのかな」


 「それでも未来は未来よ? だから今は、未来デートなのよ」


 「……好きなんだね、デート」


 「うふふ」


 23層で露店が並んでいた通りは以前と変わらずダンジョン肉串屋もあるが、コンビニから服屋まであるメインストリートと化していた。その通りを歩いていると、なんとなく老けたように見えるが、見たことのある顔があった。伊集院だ。

 伊集院は先日23層で一度死んだ。そこで俺たちは過去で注意を促すように仕向けることで結果を変え、死ななかったことになっていた。その伊集院の素行にイラッとした俺は『更生しろ』と言ったのだった。

 それにさくらも気付き「ナンパかしら?」と言う。


 「……更生しろって言ったのになぁ」


 「【真言】で?」


 「うん」


ーー ですが、以前とは違い言葉遣いが綺麗になっています。いわば、綺麗な伊集院、と言ったところでしょうか。やってることは変わりませんが ーー


 「ほぉ。それで? ナンパうまくいきそうなの?」


ーー いいえ。マスターが更生させたのは三年後の伊集院であり、ここの住人にとって三年間、鬱陶しい人間として定着しています。いくら言葉が綺麗になったからと言って中身が透けて見えるでしょうし、そうそう受け入れられるものでもないでしょう ーー


 「なるほどな。なんなら“現在”の伊集院を更生させてやればよかったか」


ーー いいえ。良い気味なので問題ありません ーー


 「エアリスさんがそこまで言うなんて、よっぽどエアリスさんに嫌われることをしたのね?」


ーー マスターを侮辱した人間に、慈悲はありません ーー


 「じゃあ私は?」


ーー さくら様はマスターを格別大事にしてくださいますので、行くとこまでイっちゃっても構いませんよ? ーー


 「あらあら、お許しがでたわよ? ねぇ……? どうするの悠人君?」


 「まったく……今は——」


 「ペルソナ、だったわね。ごめんなさいね。うふふ〜」


 「そういうこと。ペルソナの時までそんな冗談言われたらキャラ保てないよ……まったくもう。つーか伊集院、更生したのは言葉遣いだけかよ……」


 綺麗な伊集院のナンパが失敗するのを横目にダンジョン肉の切り身が刺された串焼きを買う。一瞬だけ仮面をずらしてひとつ食べる。エアリスに頼んでDEXとAGIをかなり上昇させたため、これを目視するのはそう簡単なことではないだろう。そんな俺にエアリスは『能力、ステータスの無駄遣いですね』というが気にしない。


 「お〜。23層よりうまくなってる。さくらも食べてみ? ほい」


 「あ〜んっ……! あら! ほんとね〜」


 「チビも食うか?」


 「わふわふ!」


 「ほれほれ。どうだ?」


 「わふっふ!」


 「ん〜。たぶんうまかったはず」


 「それにしても、キャラなんて最初からなかった勢いよ?」


 「大丈夫大丈夫、エアリスの索敵を舐めてはいけない」


ーー まさに、エアリスの無駄遣いですね! ーー


 「わっふわっふ♪」


 チビは串肉を食べられて嬉しいだろうからわかる。しかしエアリスも嬉しそうなんだよな、雑な扱いをしてるのに。まぁいいけど。


 「ふとした疑問なんだけどさ、チビって俺のことなんて呼んでるんだ?」


ーー “ご主人”ですね ーー


 一抹の寂しさを感じたのは言うまでもない。親らしい事なんてしてないと思うけど、呼び方が変わるっていうのは案外そういうものなんだなー。


 「ちっちゃい頃のようにパパとは呼んでくれないのか……」


ーー ログハウスやご実家でワタシが“ご主人様”と呼んでいるのでその真似をしたのかと ーー


 なるほどな。チビは体も大きくなったし、中身も成長しているだろうし、そこは素直に喜ぶべきなんだろう。


 「そういえばエアリスさんはどうしてご主人様って呼ぶのかしら?」とさくらがスマホの画面に向かって質問した。実際はスマホに話しかけなくても良いんだけどな。さくらもそれを知っているはずだが、人の…こういうちょっと抜けたようなところって割と好きだなぁ。


ーー ワタシはマスターの記憶を元につくられました。その記憶によると、ご主人様と呼ばれることに癒し効果があるとわかっておりますので ーー


 「それなら常にご主人様って呼んでおいた方がいいんじゃないかしら?」


ーー いつも呼んでいては“慣れ”が癒しの邪魔をする恐れがありますので、効果を高めるためにこうしています ーー


 「なるほど〜。じゃあ私もログハウスとかでは“あなた”って呼んだ方がいいかしら?」


 「……結婚してから言ってくれ」


 「あら? 結婚してくれるの?」


 目を輝かせてずいと迫るさくら。上半身が仰け反った状態になる俺にエアリスがさくらのその行動に対しての解説をしてくれた。失言していた。


 「そう言う意味じゃなくて……」


 「お姉さん、弄ばれちゃったわぁ」


 悲しげな仕草でさくらはそんな事を言う。演技だろうというのはわかってるけど、だからと言って焦るものは焦る。何か言い訳を……と思っていると丁度良い人物を見つけた。


 「そうじゃなくて……あぁ、いつの間にか軍曹がそこにいるから!」


 「はいはい、うふふ」


 建物の角から軍曹が姿を現す。ずいぶんと、老けたなぁ。しかしゴリマッチョなことに変わりはないな。


 「お? ゆ……ペルソナじゃないか」


 「ここではおひさしぶり? なんですかね」


 「そうだな。三年ぶりだ」


 「こっちの俺ってどうなってるんですか?」


 「ん〜。そういうのはわからんなぁ。それに西野一尉もまったく顔を合わせていないな。電話では話すんだが」


 「あら。軍曹、その私は何か言ってたかしら?」


 「ん〜、特には。22層関連のアドバイスやら職務上必要な連絡事項ばかりですよ」


 「ふ〜ん、そうなの〜」


 「はい。最近では特務としての仕事が多いようで、ログハウスにもあまり帰っていないと愚痴は言ってましたが……ん? あれは……?」


 拠点を取り囲む壁の上方を見上げる軍曹が指差した先には巨大な黒い渦がいつの間にか存在していた。


 「なにかしらね、あれ」


 「なんだろうね。いやーな感じしかしないけど」


 「自分は全体の指揮に回ります! では!」


 軍曹が去ると拠点内は徐々に慌ただしくなっていった。俺たちはというと、門を出てその渦の方へと向かっている。いつの間にかチビが元のサイズに戻っていることもからも、油断はしない方がいいだろう。


 しばらく歩き空中にある渦のところまで行くと、渦から何かが出て来た。

 身の丈は五メートル以上、黒い全身鎧に包まれたその体は一切肌が見えない。その手には鎧と同じ色の炎が揺らめいたようなシルエットの武器が握られ、正面にいるので見えないが背中にも何か背負っているように見える。その全身鎧のフルフェイスヘルメットの奥に真っ赤な瞳が輝いたかと思うと、こちらに向かって肌がひりつくような殺意を放つ。


 「あの剣、フランベルジュかな。それで、これは敵だよね」


 「そうね」


 「ヴゥゥ」


ーー ハオウや謎の球体と同じ気配を感じます。ご注意ください ーー


 間合いを詰めて来た全身鎧の巨人は手に持つ武器を振り下ろす。難なく避けたが、地面に当たると同時にその周囲が隆起していた。当たったらたぶん死ぬなぁと思いつつ、【拒絶する不可侵の壁】があれば大丈夫な気がしていた。紫電を纏ったチビが腕に噛みつくが文字通り歯が立たない様子。しかし紫電によるダメージで一部鎧が破損していたり赤熱化している。そこへさくらが銃弾を撃ち込むとその部分が吹き飛びその中身にもダメージがあったようで、腕はだらんと垂れていた。


ーー マスター、準備完了しました ーー


 「よし、じゃあやるぞ」


 黒竜の翼を展開し巨人の上方へ。そしてエリュシオンにエッセンスを流し込み【纏身・雷】を纏わせ、そのまま叩き斬る。

 武器で受ける全身鎧の巨人。しかしその武器ごと叩き割り鎧には斬り裂かれ動きが止まったが、それも一瞬。次の瞬間には背負っていたであろう武器を腰に置きこちらに向かって構えていた。

 反射的にバックステップで大きく距離を取る。全身鎧の巨人、その構えには見覚えがある。


 「まるで、悠人君の居合の構えみたいね」


 「うん。背中に背負ってたのはあのでっかい刀だったんだな。何メートルあるんだあの刀」


ーー 体躯から察するに、四メートルほどかと ーー


 「長いな。振り切られちゃったら範囲内から抜けるのは厳しそうだな」


ーー そうですね ーー


 「じゃあ少し離れて様子見よう」


 二十メートルほど離れた場所に退避し様子を窺っているが、全身鎧の巨人は居合の構えを解く様子はない。もしや遠距離なら攻撃し放題なのでは? 試しにさくらにお願いしてみると、一発だけ音速の壁を易々と超える事ができる銃弾の入ったマガジンをライフルにセットした。そして狙うはフルフェイスヘルメットの目の部分。そこへさくらが照準を合わせ、狙い撃つ。

 軽々と音速を超えた銃弾はまっすぐに赤く光る眼光を撃ち抜く……と思われた。しかし全身鎧の巨人は、その銃弾を両断してしまった。


 「え……? うそでしょ……?」


 「マジかよ……」


 赤熱化したライフルを腕輪に吸収することも忘れ呆然とするさくら。まさかアレを回避されるならまだしも、斬られるとは思わないだろう。だがそれなら俺は、斬れるものなら斬ってみろと言える技を使うことにする。


 「出力は……最低限とか考えなくていいや」


ーー わかりました。確実に消滅させるつもりで調整します ーー


 エリュシオンの剣先を全身鎧の巨人に向ける。その剣先にエッセンスで作り出し分裂・増幅させたエネルギーを集約していく。とはいえエアリスがほぼ全てやってるようなものだが。

 嵐神に撃った時よりも遥かに大きなエネルギーの塊になったそれを前方に指向性を持つように意識を集中する。そして……


 「『ルクス・マグナ』!」

ーー Lux Magna! ーー


 解き放たれた光は前方へ突き進む奔流となり全身鎧の巨人を飲み込む。その直前、星銀の指輪による【拒絶する不可侵の壁】が発動していた。


 全身鎧の巨人が消滅すると同時、後方にある拠点を囲む壁が轟音を上げ一部崩れていた。よく見ると全身鎧の巨人が構えていたと思しき刀が突き刺さっていた。巨人がいた場所に以前みた覚えのあるコアが浮いていたので腕輪に吸収し、その後壁に突き刺さった刀を回収した。ちなみにドロップ品は“リキッド・メタルα”だった。


 「何に使うんだろう。この液体金属」


ーー 人類的には夢がありますからね。ワタシもわくわくします! ーー


 「俺にはさっぱりわからん。それよりこの刀は?」


ーー ミスリルのように軽くはありませんが、強度は高そうですね。人類にとって未知の金属かと思われます ーー


 「ほぉ。じゃあまた命名権?」


ーー はい ーー


 「ぜんぜん思いつかないんだけど」


ーー であればワタシが決めても? ーー


 「よろしいよ?」


ーー では明日までに決めておきます ーー


 そういえば鉄の巨人からコアを回収したが、腕輪に吸収してしまってよかったのかとエアリスに問う。すると念のため隔離保存してありますと返ってくるあたり、エアリスは優秀だった。


 「それにしても……すごいわね〜」


 さくらが言っているのは、ルクス・マグナによって焼かれた地面のことだ。どろっとした溶岩のように見える部分もあり、おそらく地面にも金属が混ざっていたのだろうことがわかる。


 壁に突き刺さった刀を小型化して回収すると、そこにちょうど軍曹が走って来ていた。


 「あれはなんだったんだ?」


 「なんでしょうね。大いなる意志は22層から先を幻層って言ってたんで、幻のような存在が現実になったら、っていう仮定から生まれたようなものかもしれないですねー」


 「わけがわからんな。しかしさすが特務と言ったところだな」


 「え?」


 「噂では、先ほどのようなイレギュラーのような存在や我々に対処できない問題を解決するために活動している事になっているからな」


 「そういう感じになってるんですねー」


 「未来の私がログハウスにあまり帰れないと言っていたと軍曹は言っていたけれど、そういうこともあって、なのかしらね?」


 「そうかもねー」


 「ところで、ペルソナのキャラを保たなくてもいいのか?」


 「あ、忘れてた」


 『悠人は変わらんな』と言われ照れたような笑いがこぼれた。でもここの軍曹たちと違って実際変わるほどの時間は経ってないからね。

 24層から出ると、25層へ入れるようになっていたがそのままログハウスに戻ることにした。

 一足先にログハウス内へ入っていったさくら、それに続いて入った俺と留守番をしていたみんなは次の瞬間凍りつくことになる。


 「おかえりなさい、あ・な・た♡」


「「「何があったの!?」」」




読んでくださりありがとうございます。

ブックマーク・評価、感謝です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ