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非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
4章 うつろう世界でものんびりしたい
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変わりゆく世界2


 「それにしても俺が免許の試験官かー」


ーー マスターがその役目をするのは、おそらくほぼ無いでしょう ーー


 「それは楽ちんだ」


 御影ダンジョンはダンジョンが減った際に残ったダンジョンであり、“探検免許”所持者である俺のプライベートダンジョンとして認められた、という扱いだ。よってある意味の緩い“自治権”のようなものが発生する。これは俺に限ったことではなく、雑貨屋も例に漏れない。他にも結構いるらしいし、さくらの場合は“マグナ・ダンジョン現場主任”と言う肩書きもいつの間にやら持っている。本人は「面倒ごとを押し付けられただけ」と言っていた。

 押しつけられたのは俺も同じようなものだが、俺としては毎月振り込まれる十万円が楽しみで仕方ない。何に使おう。そういえばチビのブラシとかホネのオモチャとかあったほうがいいかな。


 ダンジョンに出入りするための免許を発行する機関というのは、運転免許を発行している地域ごとの公安委員会の上に『迷宮統括委員会』というものを急遽作り、そこが発行元となって“探検免許”を発行する。その機関の設立動機にはダンジョンで取得した所謂“ダンジョン資源”を管理したいという思惑がある。

 例えばダンジョン資源としてさくらが提出したミスリル鉱石がある。提出した量ではほとんど役に立たないだろうが、未知の鉱物である。そのようなものがある可能性を示したことでダンジョンは資源という考えが急激に芽生えたのだろう。

 もう少しがんばってもらって、“ギルド”のようなものになってくれるといいなぁなどと思ったりしている。


 “ダンジョン資源”という概念が生まれたことで、俺の能力によってミスリルの形状を操作できてしまうことや、星石を腕輪に吸収させる以外の利用方法等の技術的なものは知られない方が良いかもしれないとさくらが言っていた。その点には俺も同意だ。個人からだけでなく国からも半強制的に同じものを作り続けるよう言われたり……などと考えてしまう。それに他にもきっとそういう能力を持った人がいるだろうと期待していて、もし自分が参入するとしても先駆者にがんばってもらって落ち着いたところでしれっと潜り込むつもりだ。結局それが一番楽なのだ。変に目立つこともないだろうし、名声や金儲けが第一目標じゃないからな。

 ちなみにエッセンスを腕輪に吸収させると強くなる、というのは意外に知られている事だった。重く感じていたものが軽く感じるようになったり、明らかに足が速くなったり、握力が増えたりということがインターネット上の某掲示板で検証されていたりするからだ。その掲示板ではエッセンスとは呼ばれておらず大体は『経験値』だ。ゲームっぽさがあるのは実際わかりやすいからだろう。星石に関しては売買できる経験値のような認識がありそれは間違ってはいない。しかし実際は能力の成長に影響するわけで、それは何かしらの方法で広めた方がいいかもしれない。例えば『あの有名人もやってる方法』なんて文言とセットで。



 そして今日は八月二十四日、日本の子供たちの夏休みも残り一週間ほど。ということでガイア少年をダンジョンに連れて行ってあげることにした。ガイアに“探検免許”はいらないの? と思うだろうが、そこは実地試験の時に適用される権利を使うので問題ない。免許試験管は不所持の者を一名まで担当ダンジョンに連れて行けるのだ。そしてそれは俺にとって好都合な不備だらけで、階層制限はなく年齢制限もない。ただし、試験ではないので自己責任ではある。

 とはいえそもそもバレなければいいのだ、というよろしくない考えもないわけではない。


 待ち合わせは俺の自宅だ。母親と共にやってきたガイア少年は元気よく「御影にーちゃん! 今日はよろしくおねがいします!」と言ってきた。うむ。なかなか態度がなっておるではないか。

 

 早速先日作っておいた“星銀の指輪”を指に嵌めてもらい、予め用意しておいた18層へ転移する珠を渡す。

 御影ダンジョンに入り、転移の珠を使う事にまだ慣れないガイア少年をエアリスが【強制転移】させ、俺も後を追って【転移】する。

 18層に着くなり目の前には鹿のモンスターが数頭。俺は手だけに纏えるようになった【纏身・雷】で、ガイア少年はその二本の剣を振り回して難なく処理していく。実力的に亀とタイマン張れるのでは、と思った俺に対し『亀の首の速さにまだついていけないかと』とエアリスが答える。その理由は二本の剣にあるようで、単純に振り回しているというよりも振り回されているからだ。それにより反応が遅れてしまうだろうとエアリスは予想している。

 とはいえガイア少年の能力である【幻想憧憬ユメミルセカイ】のおかげというのもあるだろうがステータスの伸びが良く、数値で言えば軍曹よりも高くなるのは時間の問題だと感じている。

 そのまま狩りながら進み20層へ。するとガイア少年が楽しげに声を上げる。


 「前に来た時となんか変わってる!」

 「あのあとにダンジョンが成長したんだってさ」

 「成長? ダンジョンって育つの?」

 「らしいよ。だから……ほら、前来た時は木なんてなかったのに少し生えてるだろ? あと草食動物みたいなモンスターも前よりいるし。それにときどきやばい肉食獣も出るようになったぞ」

 「へぇー! 肉食獣ってどんなの? ライオン?」

 「んー、ライオンと虎のハーフみたいなやつだったぞ。大きさはもっと大きかったけど」

 「あ、それオレ知ってる! ライガーっていうやつ!」

 「おぉ、よく知ってるなー」

 「へへっ、オレ動物図鑑結構見てるからね!」

 「そうなのか。動物好きなのか?」

 「うん、好きかなー」


 なるほど。たしかに男の子なら動物図鑑とか恐竜図鑑とか好きだよな。俺も好きだった。あと敵のステータスとか使ってくる特技なんかが載ってる攻略本も好きだったな。こうやって思い出すと見たくなるが、まぁ今は忘れよう。

 今となっては動物タイプのモンスターを狩る事に忌避感はほぼないが、ガイアは子供だ。まさについ最近まで図鑑が聖書だったかもしれないわけで、そんな少年はモンスターをどう見ているのだろうか。


 「モンスターも動物みたいじゃん?」

 「でもモンスターは、襲ってくるから別!」

 「なるほど。シンプルでいいな。それなら問題なさそうだ」


 案外大丈夫そうだな。なぜそんな確認をしたかと言えば、これから向かう先に答えがある。


 今度は21層へ【転移】させる。そこはログハウスから遠い森の外。ここからログハウスまで行き、露天風呂にでも入ってもらって今日の遠足は終了と考えている。しかし森の範囲が広がったこともあり、この場所からログハウスまで二時間ほどはかかるだろうと見込んでいる。

 森へと入ると、途端に薄暗くなる。それもそのはず、ここはいつも使っているのとは反対側の鬱蒼とした地帯だ。地面も綺麗に均されているわけもなく、ただ歩くだけでも苦労する。


 「ねー、兄ちゃん、さっきの問題なさそうってなんのこと?」

 「ふふふ。それはな……右から来るぞ。叩き落とせ」

 「ッ! ふんっ! ……ふぇえ!? あっ、あぁー! う、うさ、うさぎ……」


 言われた通りに剣を振り下ろしたことで地面に転がった角兎を見下ろすガイアは戸惑いを隠せないようだった。そりゃ学校で飼われてたりしていかにも庇護(ひご)の対象であるうさぎを叩き落としたのだからそうなっても仕方ないだろう。しかしここの兎はそんなか弱いだけの存在ではないのだ。だって、叩き落とすにはちょうど良い高さに突進してきたんだぜ? 普通のウサギじゃあり得ないだろう。


 「わかったか? うさぎも襲ってくるんだぞ」

 「う、うぅぅ。うさぎはかわいそうだけど、襲ってきたから敵!」

 「そうだ。ここのうさぎは襲ってくる。それに倒すと結構珍しいうさぎの肉が手に入ることがあるんだ」

 「うさぎの……肉? おいしいのそれ?」


 その肉はSATOでも料理されているもので俺たちもよく食べている。味を聞くガイア少年に対し『うまい』とだけ言うと、うまい肉を想像したガイアの目つきが変わっていく。


 「うまい……じゅるり」

 「また右から来るぞ」

 「肉ぅぅちぇすとー!」


 そんなこんなで飛びかかる森のうさぎさんを撃退し続けたガイア少年は、予定よりも時間をオーバーしやっとの思いでログハウスに到着した。「ここには狼がいるんだ」とチビを呼ぶ。

 すると玄関が開きチビが飛び出してくる。ちっこくて勇敢なガイア少年に興味津々のようだ。一方のガイア少年も「うおー! おおかみー! でっけー! かっけー!」と喜んでいた。


 離れの露天風呂にガイア少年を連れて行き、チビもついてくる。ガイア少年は終始騒いでいる。元気でよろしい。ただ“好きなだけ騒いでもいい”とは言ったが、そんなにバタ足されると目も開けていられないのです、勘弁しやがってください。


 風呂から上がりガイア少年の髪を乾かしてやり、母屋へ向かう。するとログハウスの四人娘が出迎えてくれた。


 「山里大地です! よろしくおねがいします!」


 しっかりとした挨拶ができてえらい。いくら中学一年生とは言え、引っ込み思案だったりする子もいるだろうし、元気なだけで挨拶ができない子もいる。だがガイアは完璧な挨拶をやってのけた。正直、俺が同じ年の頃にはこんなにハキハキできなかったな。

 悠里にうさぎ肉の料理をリクエストする。「伯父さんに教えてもらったレシピの出番ね。任せて」と自信ありげに言い、腕を捲った。SATOの店主直伝なら間違いはないだろうから楽しみだ。


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