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非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
3章 イレギュラーに負けずにのんびりしたい
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今日の歩数は2万2千歩 (適当

 消費アイテムの材料を他の素材になりそうなもので代用できないかと考えエアリスに聞いてみる。



 (シルバーウルフの牙がないとなると、熊の爪とか牛の角とかいろいろあるけどそれでなんとかならないかな?)


ーー 付与が失敗するかもしれませんので付与との相性の良いシルバーウルフの牙が最も最適かと ーー


 (そうか。じゃあ19層へ行こう)


 なんとなく旅行会社のキャッチフレーズのような言葉に続けて転移する。

 転移先は20層への入り口手前。


 転移した俺の目に映ったのは目の前で睨み合う二つのシルバーウルフの群れだった。急に現れた俺に対し少し飛び退くようにして警戒している。

 そういえば犬がびっくりして冗談みたいに飛び上がる動画があったよな、などと思った。あと猫も胡瓜ですごい反応をしたりしたはず。


(やっぱ生態系というか、そういうのがあるっぽいよなー。どうみても縄張り争いだろあれ)


ーー そうですね。チビも母親に連れられて上層へ逃げて来ていたようですし、モンスター同士とは言っても味方とは限らないようですね ーー


 こちらに気付いた二つの群れは、俺もその争いに参加しているような形に捉え牽制の唸り声と共に移動する。ちょうど俺を頂点とした二等辺三角形または等脚三角形のような配置になる。


ーー マスターがもっとも強いということを認めているように見える配置ですね。ただ向こうの争いが終わったら次はこちらに来るつもりかもしれません ーー


 (なーるほど。でも俺はそんなの関係ねーんですよ。さっさと牙をよこしなさい!)


 「思いつきだけど、『凍って砕けろ』!」


 いつもの『凍れ』と同じようにカチカチに凍ったシルバーウルフの群れは、そのままパキンという音を伴い砕け散った。二つの効果を使ったわけだが、なんとなく『エッセンスが減った』感覚があった。


ーー お見事でございます。合わせ技ですね ーー


 (思いつきだけどいけるもんだね。っていうか普通にしゃべって発動したらほんとやばそうだな。【言霊】のときとは比べものにならないくらいに)


ーー そうですね。実際に比べものにならないほど強化されていると思っていただいて間違いありません ーー


 (じゃあ今なら、蕎麦食べたいって言ったら店が目の前にできたりしてな)


ーー さすがにそれは常識的に考えてどうでしょう? ーー


 (エアリスに常識云々言われるのって、なんか新鮮だな。存在が非常識なのに。それはそうと、エッセンスが減ったような感覚があったぞ)


ーー それは僥倖ですね。その感覚をしっかり掴めばご自分がどの程度のことができるのか徐々にわかるようになるのではないかと。ダメダメな方が尽くし甲斐がありますのでワタシとしてはそのままでも良いのですが ーー


 エアリスと話をしながらシルバーウルフのエッセンス、星石、ドロップ品を回収していく。すると今度はエッセンスが増えた感覚も感じることができた。シルバーウルフ12頭分のエッセンスと星石で先ほどの【真言】を何度か使えそうだと感じる程度で曖昧ではあるが。


 (ストックしてくためにももう少し集めておくか)


ーー はい。では右の通路にお進みください。しばらくすると熊、熊、狼の順で遭遇するかと。尚、全て群れです ーー


 (おっけー。サクサクいこうぜ)


 しばらく素材と肉を集め自宅に帰る。思っていたよりも時間が経っていたらしく夕食も近いようだった。

 リビングにはいつものように両親がいてソファーで寛いでいる。

 テレビに映るニュースでは飽きもせずダンジョン関連の話題がかならず一つはあり、今日はダンジョンでドロップした肉に関しての話題のようだ。科学的に認められ、国もそれを容認したわけだが、やはりそれに対しての反感や不安はやはり少なからずあるという街頭インタビューの様子だった。

 しかし一方でダンジョン肉を炊き出しに使っている人がいるという話をインタビュアーがすると、知っているという人が七割ほどを占めていた。なぜ知っているかという質問では、雑貨屋連合の代表が炊き出しをしている様子をニュースや特集で見たと言ったものが多いという内容だった。


 「悠人、雑貨屋連合っていうと、この間お前がお世話になった人たちだったな?」


 「うん。そうだねー」


 「今でも炊き出しを続けてるのか?」


 「そうらしいねー。いやー、立派だと思うわ」


 「……お前もしてみればどうなんだ?」


 急にそんなことを言い出すなんて何かあったんだろうか。


 「実はお前がいない間に食料を分けてくれませんかって言う人が来てな」


 「へー」


 「近くに避難所になってる公民館があるだろう? そこに届く食料がだんだん減ってるらしいんだよ」


 「ほー」


 「それで他の避難所と合同で、息抜きも兼ねて炊き出しパーティをするらしいんだが」


 「はー」


 立派だなぁ。でも悠里が言っていた”支援金“もあるんだろ? ならそれでなんとか……いや、そもそもの食糧供給率が百パーセントじゃないのか。そこが日本の弱いところなんだよな。

 自分たちの食べ物を自分たちで賄えない。とは言えそれにもいろいろな事情があるし、日本で作るより海外の物を買った方が安い事が多いからっていうのも大きい。価格競争に負けると国内生産品は売れなくなって衰退していくわけで……だから米にはとんでもない関税が掛かってたりする。

 それがないと日本から田んぼがなくなって主食すら自給できなくなっちゃうからな。それでも減反政策で元々田んぼだったところを大豆畑にしてたり、なんてことも実際にあるし。

 そう考えると田んぼがある日本、ダンジョンの数が多い事もあってダンジョンジビエ肉が手に入りやすい日本、食糧強国になり得るのでは?


 「真面目に聞け」


 「聞いてはいる」


 「そうか。それで……分けてあげたりできないか?」


 手持ちの肉は山ほどある。一度地域の炊き出しをしたところでSATOに卸す分は揺らがないし、自分たちで食べる分なんてちょっと行って獲ってくる事もできるしな。それこそ『ちょっと熊狩ってくるわ!』っていう軽いノリでいける。『それはマスターだからでしょう』というエアリスのツッコミは無視する。今だってそれなりの人数がダンジョンに潜っているのだろうから、そのうちみんなそうなってもおかしくないからな。そういう世界も見てみたいとは思う。

 あるかもわからない未来に思いを馳せ「んー。どうすっかな」と口にすると、母さんはどうやら勘違いしたようだ。


 「優しい子に育てたつもりだったのだけど……」


 「あー、そういう意味のどうすっかじゃなくて。保存方法」


 「保存方法?」


 そう、保存方法だ。肉だぞ。常温でほっといたらすぐ腐るぞ。しかも数カ所合同の炊き出しっていうならそれなりの量になる。我が家の冷蔵庫程度じゃフルに使っても足りないよね。


 「そりゃ家庭用の冷凍庫なんて業務用みたいに強力なわけないからな。容量もたかが知れてる」


 「業務用……なるほど。なんとかなるかもよっと」


 そう言うとスマホをピッポッパッ!

 呼び出し音が三度ほどで相手が電話に出る。


 『はい、ジビエ料理SATOです』


 「あ、佐藤さん。夜分にすみません、俺です御影です』


 『御影くんか。何か忘れ物でもしたのかい?』


 「そうじゃないんですけどちょっとお願いしたい事がありまして」


 ジビエ料理SATOのご主人に協力をお願いすることにした。俺が知る業務用冷蔵庫と言えばそこにあるものだけだからな。

 炊き出しをする話を知っているかを問うと、どうやらSATOにも同じ人が来たようだ。その時少し提供したらしいのだが、やはり人数が多くなると予想されており全く量は足りていない、と。

 これから肉を持って伺う事を伝えると佐藤さんは保存場所が欲しい事を察したようで快諾してくれた。

 それにしても肉を持って行くと言っただけでわかるなんて、エスパーだろうか? ってか俺の周りエスパー多くね? 俺がわかりやすいだけ? いやいや、俺はそんなに単純では……ちょっと自信無くなって来そうだからこのくらいにしておこう。


 「ありがとうございます。ではこれから向かいますね」


 「あぁ、待ってるよ」


 ポチッとな。


 「そういうわけで出かけてくるわ。またその人が来たらSATOに行けば受け取れるようにしといたって教えてあげて」


 「あ、あぁ」


 悠人が家を出て少しの間、その両親はぽかんとしてしまっていた。


 「母さん、悠人が普通の大人みたいで、父さん困惑中」


 「そうね……。家にいるときはいつまで経っても子供みたいでかわいいだけだったのに」


 二十代も後半に差し掛かった悠人だが、親にとって子供はいつになっても子供、ということなのだろう。


 悠人は両親の前で電話をするということがなかった。真面目な話でもそうでない話でもだ。両親は家にいる時の悠人といえば気の抜けた部分しか見たことがないといっても良いくらいだったこともあって、普通のことであっても多少贔屓目に見てしまうのも仕方ないことだった。


 準備をして外に出ると、すでに夜の帳が下りていた。あまり遅くなるのは迷惑だろうと足早にSATOへ向かう。

 

 「こんばんはー、御影でーす」


 ジビエ料理SATOのドアを開けるのは今日二度目だ。店の奥から高校生くらいの男の子と女の子がこちらをチラッと覗き見てから奥に戻り「おとーさーん」と呼んでいる。たしか佐藤さんのお子さんたちだったな。名前は……なんだっけ。


 「お、来たね御影くん」


 「はい。それで肉なんですけど調理しやすいのってどういうのがいいんでしょう?」


 「君が持ってくる肉ならどれでも新鮮だから特に難しいことはないと思うが……それに炊き出しの時は私も参加するからね」


 「そうなんですか。じゃあ牛熊鹿猪兎全種置いていきますね。余ったら適当に処分してくれてもいいんで」


 「じゃあこっちの冷凍庫の空いたスペースに置いててくれるかな」


 「はい、わかりました。あ、先に凍らせておきますね」


 「先に凍らせる?」


 俺は肉を次々取り出し小型化を解除、それに『瞬間冷凍』と声をかけると一瞬で凍りつく。たぶん細胞が傷つく前に凍ってそうだし大丈夫なんじゃないだろうか。解凍時の事は知らんけど。


 (うん、エッセンスが減る感覚がある。なんとなくだけど、ダンジョンで使うより持っていかれる勢いが強い気がする)


ーー はい。ダンジョンにはエッセンスが漂っていますが地上にはそれがありませんのでその影響かと。極稀にダンジョンから漏れ出すこともあるようですが ーー


 手際よく重ねて並べ、総重量なんと驚きの約二百キログラム。我ながらよくこんなに肉を集めたものだ。それができたのも重さごと小型化できる【真言】があったからなわけで、さらにそれを保存して劣化をほぼ防ぎ更に重さを軽減するまでになったエアリス謹製保存袋があってこそである。


 「御影君、一人で配送業ができそうだね……。というかうちに関してはいつもしてもらってるけどね」


 「俺の能力は『便利系』なのでこういうのは結構得意なんですよね」


 「能力か。私も一度ダンジョンに行って能力とやらを手に入れた方がいいんだろうか」


 「おすすめはしないです。好奇心とか遊びで入って帰ってこなかった人が大勢いるっていう話を最近聞いたばかりなので」


 もしも日本がダンジョン大国になったら、なんて空想してはいても、おすすめはできない。佐藤さんには家族がいるし、もしもがあってはまずいからな。


 「さて、じゃあこれお願いします。うちにその人が来たらこっちに受け取りに来るように伝えてもらうように両親にも言っておきましたんで」


 「わかった、任せてくれ」


 店を出て歩いていると、道行く人々の中に風呂敷のようなもので包まれたものを背負っていたり、ゴルフバッグのようなものを持っている人を見かけることが最近増えたように感じていた。ダンジョンの外であんなものを持ち歩いて警察に声をかけられて中身がもし刃物だったりしたら、銃刀法違反とかで捕まらないんだろうか、などと考えてしまう。俺の場合は小型化すればいいだけなので問題ないけどな。


 家に帰り部屋でだらだらしていると、悠里からチャットが届く。


ユーリ:悠人さん悠人さん。


ゆんゆん:おう。ってあれ? 名前変えたの?


ユーリ:悠人も名前で呼ぶしいいかなって。


ゆんゆん:まぁいいんじゃねーの。それで何用?


ユーリ:指輪の転移箇所がログハウス、20層、雑貨屋なんですよ。


ゆんゆん:それで?


ユーリ:マグナカフェに転移するやつください


ゆんゆん:はいはい。ちょうどさっきそれの材料取ってきたところだから、明日には届けるよ。


ユーリ:やったー! じゃあログハウスで待ってる〜


ゆんゆん:はいよー


 (悠里だけじゃなくて他二人のもだろうな。あと近いうちに加わる予定の杏奈ちゃんのもかな)


ーー そうですね ーー


 (何個くらい作れそう?)


ーー 150個ほどなら作れるかと ーー


 (そんなにあるのか。50個くらい作って10個ずつ配ればいいか。残り10個は念のために俺が持っておこう)


ーー はい。わかりました。では夜のうちに作っておきます ーー


 夕食を済ませ、SATOからの帰宅途中を思い出す。武器になりそうなものを背負っている人、武器が入りそうなバッグを持ち歩く人。繁華街とかはどうなんだろうな、そんなことを思い久しぶりに夜の飲み屋街に行ってみることにした。もちろん飲む気はない。散歩だ散歩。


 自宅から駅までは徒歩10分くらいなので軽い散歩にはちょうどいい距離だ。


ーー これが人間の街なんですね ーー


 (そういえばエアリスはこの辺に来るの初めてだったな)


ーー はい。スーツを着た鳥のような髪型の人や丈の短い服を着ている人が目立ちますね ーー


 (あー、そっちはキャバクラとかホストクラブが集まってるとこだからな)


ーー マスター、あのお店の換気扇から煙が出ていますよ!? ーー


 (あー、あれは焼肉屋だ。店内が無駄に煙いって有名なんだよ)


ーー ジャン=ジャン=バリバリとは誰ですか? 自動ドアが開くたびにうるさい店がありますね ーー


 (あー、パチンコ屋な。こんなご時世だってのに開店してんだね。いや、むしろこんなご時世だからか……?)


 ダンジョンが発生した以前の大震災、その時も電気が復活するとパチンコ屋は割と早く店を開けていた。しかも客の多い事。職を無くしたり娯楽がなかったりといった状況も重なって、ある種の捌け口になっているのだろう。


 エアリスが初めてみる夜の繁華街は新鮮に映ったようで興味津々といった様子だ。

 道行く人々を眺めながら歩いていると、三人の男が一人の女性を囲んで何やら話しているようだ。ちょっと強引なナンパというやつだろうか。この辺は人通りも多く珍しいことでもないし、それに交番がすぐそこだから問題ないだろうとは思う。なにより関わると面倒そうだなと思い通り過ぎようとすると声が掛かる。


 「あっ、み、ミカゲさん!?」


 「……誰?」

 

読んでくださりありがとうございます。

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