日本は災害大国故に災害に強い
自宅に戻り両親と共に夕食を食べる。つい最近まではインスタントが多かったが、今日は普通の家庭料理が並んでいる。
「あれ? 今日のごはんは普通だね? っていっても葉っぱ系多いけど」
「そうなの! やっとジョスコの品揃えが戻ってきたのよ〜! あ、でも前みたいには戻らないと思うんだけどね。ヌマザワとか産協もこの調子で少しくらい戻ってくれるといいんだけど〜」
「あんな災害があって外国じゃどうしようもなくなってるところも多いのに、日本は平和だねー」
「日本は普段から地震が多いからな。それのおかげかもしれんなぁ」
「そうだね。いただきます」
災害というのは世界規模で発生した地震で、1ヶ月と1週間ほど前の出来事だ。どこがより揺れたということはなく同じ規模、同じ震源ではないかと噂されている。それはダンジョンが発生した時期と重なり、実際この後から世界中、主に日本で集中的に同時多発的にダンジョンが発生した。少ないながらダンジョンの発生は現在も続いている。
〜 夕食後リビング 〜
「そういえば悠人、マグナ・ダンジョンっていうところに行ったんだったな?」
「ん〜。そうだけど〜?」
「危なくなかったか?」
「んー、まぁ問題なかったかなー」
「そうか。それならいい」
心配してくれているのだろうか? でもそんなに危ないこともなかったしな。むしろ『俺』とか龍神の方が危なかった。
〜 自室 〜
(おっ、とんちゃんからチャット来てるな)
ーー 悠里様の呼び方が『とんちゃん』に戻っていますよ? ご主人様 ーー
(あぁ、ほんとだ。なんだか今はそっちの方がしっくりくる気分なんだよねー)
ーー それにマグナ・ダンジョンよりお戻りになってから、というか自宅にいるときのご主人様は自然体ですね ーー
(そりゃそうだよ〜。今思えば最近なんだか全然のんびりできてなかったし、さっきだって思ってみればかなり強行軍だったしさー)
ーー そうですね。ご主人様はこうやってゆるゆるしている方が、ご主人様らしいのかもしれませんね ーー
(だろー。しばらくのんびりしてもいいかもしれないな)
ーー ご主人様は興味のある事を見つけてしまうと夢中になってしまいますから、それは難しいかもしれませんよ? ーー
(はは、たしかに。ダンジョンはそういうところだもんな)
スマホでメッセージを起動し悠里とのやりとりを開始する。
ゆんゆん:おっすー。
とんちゃん:やっと返事きたー。
ゆんゆん:なんかあったかー?
とんちゃん:特にはなんも。あ、香織も来たよー。
ゆんゆん:とんちゃん家に来てるのか。
とんちゃん:え?ちがうよ?
ゆんゆん:じゃあどこに来るっていうんだよ。
とんちゃん:ログハウス
ゆんゆん:え?マジで言ってんの?
とんちゃん:そうだけど?
ゆんゆん:どうやって帰んのよ。
とんちゃん:それはゆんゆんがなんとかしてくれると信じて。
ゆんゆん:どういうことですのん。
とんちゃん:それはそうとトイレの話あったじゃん?
ゆんゆん:うん。
とんちゃん:それでね、帰りの車で香織が調べてさ、そしたら結局電気もつけちゃおうってことになったんだよね。
ゆんゆん:それで?
とんちゃん:いろいろ注文して、必要なものをマグナカフェに運んで、それをゆんゆんに運んでもらおうっていうことになったからよろしくー。
ゆんゆん:……のんびりしようと思ってたのにー。
とんちゃん:大丈夫だって。揃うまでまだかかると思うし。
ゆんゆん:じゃあなんでログハウスに?
とんちゃん:少しの間こっちにいようかなって思ってさ。転移の珠は6個あるからカフェにもいけるし。
ゆんゆん:それがなくなる前に代わりのものを届けろってことですね。わかります。
とんちゃん:話がわかる男だねーゆんゆん。
ゆんゆん:ところで、なんで電波通じてんの?
とんちゃん:それはね、最初の入り口覚えてるでしょ?
ゆんゆん:うん。なーんにもなかったとこな。
とんちゃん:そうそう。そこが安全かもしれないから試験的に地上と有線で繋いでアンテナ置いたんだって。そしたら20層と21層の間にアンテナ置かなくても電波通じるようになったんだってさ。でもスマホの電波じゃ普通に考えて届かないから、ログハウスにもちっちゃいアンテナあるよ、今。それが基地局になってるんだって。
ゆんゆん:へー。電気は?
とんちゃん:さくらが大容量バッテリーを持って転移したらそのままできたみたい。それですぐ戻ってまた指輪で転移しようと思ったらできなくて、しばらくしてもう一回してみたらできたんだって。
ゆんゆん:あー。そりゃね。連続使用はできないっぽいからね。でもさ、いくら大容量でもそんなに長持ちしないでしょ?
とんちゃん:うん、そうだね。どのくらいもつか詳しくは知らないけど。その前になんとかしてねー?
ゆんゆん:はいはい。ところでチビは?
とんちゃん:元気だよー。今香織がもふってる。
ゆんゆん:そうかそうか。そっち行ってた時にエッセンスとか使いまくった分取り返しにダンジョン行ってて疲れたからもう寝るわー。
とんちゃん:わかったー。『ログハウスをより住み良いものに改造計画』の件よろしくねー。おやすみー。
悠里とのやりとりを終えた俺は感心していた。
(世の女子たちはパワフルだなー。ハードスケジュールじゃん)
ーー ワタシもオンナですからパワフルですもんね! ーー
(……そっすねー)
スマホが鳴り、メッセージが届いた事を知らせる。
(おっと、なんだろう)
カオリ:おやすみなさい、悠人さん。
ゆんゆん:おやすみ香織ちゃん。
(よっし、これでおっけーっと)
そして俺は泥のように眠った。
マグナ・ダンジョンはほんの1日か2日程度だったにも関わらず思っていたよりも疲れていたようだ。エッセンスの大量消費もあり身体が少し怠い。
それに帰ってからは、普段何もいない1層にいかにもやばそうな”龍神・イルルヤンカシュ“と名乗る大蛇の訪問、支配者権限と虹星石を集めていたら俺の偽物と遭遇。偽物との勝負は時間的には短かったが、一瞬で決まる勝負もそれはそれで神経がすり減るのだ。
7月19日
ーー ご主人様、もうお昼ですよ? ーー
エアリスに起こされ部屋に置いてあるデジタル時計を見ると、7月19日 12:43 となっていた。
(もう昼かぁ〜。おそようエアリス〜)
ーー おそようざいますご主人様。ステータス更新されていますよ? ーー
(ぁー、そういえばそうだったなー。見るから表示しておくれやすー)
スマホに俺のステータスが表示される。すると見慣れない文字に目を惹かれた。
御影悠人
Grade 2
STR 100
DEX 110
AGI 110
INT 100
MND 120
VIT 120
LUC 154
CHA 30
能力:
真言 (ユニーク++)
特異能力:
人界之超越者
権限
支配者 No. 20
(ジンカイノチョウエツシャ? なにこれ)
ーー 19層までの支配者権限が消失していることから、一定数集めたことにより条件を満たし解放されたものと思われます。消失とは言っても人界之超越者がそれを内包しているようですので問題ありません ーー
(そういえば龍神が言ってたよな。カミノミツカイは人界よりも高位の層に導くとかなんとか)
ーー はい。それを踏まえると、カミノミツカイより手に入ったNo. 15を含めた権限を10個集めることが条件かもしれません。そして人界之超越者が何らかの鍵になるのではないかと推測します ーー
(鍵ねぇ。なんだか電脳の世界に生身で潜ってる気分だよ)
ーー なるほど。たしかにワタシがネットサーフィンをするときに似ていますね ーー
(それはそうと、LUC30もあがってんのな。あと【真言】がユニーク++になってる)
ーー 各層での乱獲と偽物から得たエッセンスをEXPとAPに変換した場合を想定し上昇できるポイントが39ポイントでしたが、切りの良い30ポイントを振りました。残りはストックしています。能力は++になったことにより効果が高まっている模様です。そろそろ紋様眼を実装できるかもしれません ーー
(忘れてなかったのか。目は口ほどにものを言うとかって諺があるけどさ、目の方が口よりもの言いそうで危ないんじゃないか?)
ーー 気のせいでしょう ーー
(気のせいじゃない気がするんだが)
ーー そんなことよりもご主人様、本日はどうなさいますか? ーー
(そうだなぁ。SATOに肉を届けてまたダンジョンに行って残りの支配者権限コンプして……時間があればチビの様子でも見に行って……でもその前にもうひとねむり)
ーー はい。戦士には休息も必要ですからね。おやすみなさいませご主人様 ーー
この1週間ほどでいろいろな事を知った。だが同時に新たな謎も増えた気がする。それに忙しすぎて元ニートにとってハードな日々でもあった。
そういうことでしばらくはのんびりしようと思う。
『ログハウスをより住み良いものに改造計画』ものんびりやろう。
一方悠人があまり興味のない世界において、大災害による影響は慢性的な状態となっていた。日本がそれでも多少回復傾向にあるように見えるのは、一般企業が不調に陥ることにより、地方に多い兼業農家がそれを本職とし始めていることも大きく影響している。それにより現在は短期間で採れる野菜を中心に生産され、それが市場に出回る形となっている。そして肉はというと、徐々にダンジョンの肉が出回り始めていることが影響している。地域によっては政府が許可していないとは言え禁止もしていないのをいいことにダンジョン内の、おもに牛のモンスターから手に入る肉を目当てにチームを組んで収集していたりもする。政府はまだ具体的な策を出せてはいない状況だが、日本人の地力というのはこういう場合に発揮されやすいのかもしれない。
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