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非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
2章 ダンジョンで生活してものんびりしたい
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御影宅ダンジョンへの来訪者2


 期せずして龍神などという存在との邂逅を果たした俺たちは、2層で支配者権限を持つモンスターを探している。ここの構造はエアリスの完璧なマッピングによりほぼ完成しており、エアリスナビにより迷うこともモンスターに不意を突かれることもない。


 (それにしても、虫しかいないっていうのがなー)


ーー 以前より種類が増えていますね。一部崩された壁があり、そこでハサミムシがコロニーを形成しているようですね ーー


 (あれハサミムシかー。子供の頃によく見たなぁ。湿った土のところにある石とかを退けるとその下にいたりするんだよな。丸いハサミが雌でそうじゃないのが雄だっけ。まぁどうでもいいな。つかここの虫相変わらずでけーよ)


ーー そういった場所に巣食うような虫が増えているようですね ーー


 (地上の季節によってモンスターの種類が変わってたりすんのかねー。もしそうなら冬とか何がいるんだ? ミノムシか? ワスプアントみたいに進化なんてしたら蛾が出て来そうだな……)


ーー どうでしょうね。しかし可能性としては大いに有るかと ーー


 (ハサミムシって比較的嫌悪感の少ない虫だったけど、このでかさはな……あのハサミで挟まれたら胴体真っ二つにされそう)


 正直なところあまり近付きたくはないので【真言】で全て処理していきたいのだが、マグナ・ダンジョンへ遠征に行った際のエッセンスの消費が多かったためできるだけ温存するために銀刀を使用している。

 俺の使い方としては主に居合だ。むしろ時代劇のような殺陣タテなどは習ったことがないので格好良い立ち回りなんてものとは無縁なのだ。実のところ居合も子供の頃に近所の道場に通って少し教えてもらった程度なのだが。


 そもそも居合に興味を持ったのは、昔人気を博した、明治維新を舞台にした侍漫画だ。その主人公の最終奥義と言えるものが『天龍テンリュウ翔閃ショウセン』という居合斬りだったのだ。それに憧れて近所の道場にこんなのがしてみたい!といってお願いしたのだ。今思えばなぜそれに限って熱を上げていたのか謎だが。


 ちなみにそこの師範は近所に住んでいる人の良いおじさんで、『友達を傷つけないなら』という条件で教えてもらった。友達は少なかったので即答できた。いや、多かったとしても即答したさ。もちろんな。だからその質問は数の問題ではなくて、俺の意志に問いかけて来たということだ。

 道場で真剣を持たせてもらったのは2度。1度目の時は藁の案山子を斬りつけても『ボスンッ』という音がするだけで全く斬った感触はなかった。しかししばらく通ってからの2度目は初撃で案山子の中ほどまで斬り、返しの袈裟斬りで同じところを狙い両断することができた。それからしばらく通っていたが、部活やら進学やらバイトで忙しくなり行かなくなってしまった。そういえばおじさんはどこか他の県の道場で修行をしてたと聞いたが……

ーー マスター、銀刀の調子はいかがですか? ーー

 というエアリスからの質問により記憶の海から引き上げられる。

 銀刀について今のところ不満はないし、巨大になり硬くなっているであろう虫の甲殻も易々と斬り裂くことができる。それに刃こぼれもなく継戦能力も問題ない。


ーー それは良かったです。ところでマスター、支配者が発生しました ーー


 (おっ! やっと見つかったか! ……ん? 発生?)


ーー はい。発生しました。マスターが2層の支配者となりました ーー



御影悠人ミカゲユウト


Grade 2


STR 100

DEX 110

AGI 110

INT 100

MND 120

VIT 120

LUC 124

CHA 30


能力:

真言 (ユニーク+)


権限

支配者 No. 2 No. 5 No. 6 No. 15 No.19 No. 20



 スマホの画面に映し出された俺のステータスには支配者No. 2が追加されていた。これまではその層の支配者を倒すことでその権限を奪った形になっていたが、今回はそれとは違うようだった。


ーー 2層ではモンスター同士の力にそれほどの差異がなく、支配できるほど圧倒的な存在がいなかったことにより支配者モンスターが存在していなかったようです。よってマスターが支配者として認められたということかと ーー


 (んー? まるでモンスター扱いだな。でも今までだってそんなもんだったじゃん? なんで今更?)


ーー 人類の企業を当て嵌めれば、無名の新人がたまたま成果を上げてもその評価は結果に結びつきにくいものですが、ある程度の実績を伴った者が成果を上げることで高評価となり結果も伴う、というものと似ているかと ーー


 (ふむー。それじゃ俺はやっと新人から中堅くらいにはなってたってことかな。中堅モンスターかな?)


ーー そう考えていただいて問題ないかと。おそらく他の支配者権限が評価対象のひとつとしてあるのかもしれません ーー


 (履歴書に書かれてる経歴がすごいってだけで何もしなくても良いポジションにつけたりするやつに似てるな。そう考えるとなんだかイライラしてくる)


ーー そうですね。そのイライラをぶつける相手に困らないのがダンジョンでもあるので、ガンガンいこうぜ、で問題ありません。サポートはお任せください ーー


 (おっけー。じゃあ次の3層から先もガンガンいっちゃいますか!)


 数時間掛けその後の3層、4層と無事に支配者権限を取得していく。5と6はすでに獲得しているのでスルーして7、8に発生していた支配者モンスターを倒し虹星石と共に手に入れる。そして9層。


 (ここの支配者権限を手に入れたら今日は帰ろうか。ちょうど19層までのうちの10個目だし)


ーー はい。20層の支配者権限も含めれば11個目となりますが、20層は個別のダンジョンではないですからね ーー


 (そそ。ひとまとめにするとしたら、1〜19とそれ以降って気がするんだよな。龍神もそれっぽいこと言ってたしな)


 9層の中では大きい広間へ入った途端、目の前に赤黒いエッセンスが渦を巻く。それが霧散したとき、そこにいたのは『俺』だった。


 『ミカゲユウト……試練ヲ開始スル』


 俺と同じ顔同じ声、しかしどこかぎこちない言葉を発するそれは姿勢を低く、腰に差した刀に手を掛ける。いつでも居合ができる格好から動かない。


 「ちょっと待ってくれ。試練ってなんだ?」


 『答エルコトハ出来ナイ』


 そう言うなり刀を抜きながら間合いを詰めてくる。たったの一歩ですでに目の前まで詰め、その刀を抜き放つ。指輪に付与された不可侵の壁が発動し、刃がその表面を滑るように斜め上へと振り抜かれる。俺はそのまま後ろへ下り、着地と同時に姿勢を低くし、居合の構えを取った。


 (あぶなっ。いきなりなにすんだよ殺す気か!? ……そりゃ殺す気か。あれってステータスは俺と同じかそれ以上?)


ーー カミノミツカイを倒した時のマスターと同程度です。しかし能力も同じと仮定するならば…… ーー


 (使われる前に使うしかないよな!)


ーー では効果があるかどうかの確認も兼ね浮かせてみましょう ーー


 「『浮き上がれ』」


 しかしなにも変わった様子はない。


 『ナンノツモリダ?』


 【真言】は不発に終わり、直接的なものは効果がないであろうことが判明する。しかし目の前の『俺』は能力を使う様子もない。


 (効かないか。けど使えもしないのか?)


ーー そうかもしれません。しかし【拒絶する不可侵の壁】は効果がありましたので問題ありません。マスターのステータスをあの偽物より上位になるよう調整します。……完了しました ーー


 『俺』はまたも居合の構えから容赦なく斬りかかってくる。しかしエアリスによりステータスの調整が完了した今、それに押し負けることはない。


 (よし、決める)


 低い姿勢から地面を抉るほどの踏み込みで肉薄し刀を抜き放つ。その刃は『俺』の刀に止められるも、接触の瞬間に左足を踏み込む。それにより更に加速しステータスの差もあることによって刀ごと吹き飛ばす。吹き飛んだ『俺』は地面を転がりそのまま居合の構えを取ろうとするが、俺はすでに眼前まで迫っていた。


 「ッッ!!!」


 息を止め振り下ろした二の太刀に対処が間に合わず『俺』は肩口から袈裟斬りにされる。しかし斬り口から血が流れることもなく、佇んでいる。


 『……見事』


 たった一言、『見事』と言い残し、『俺』は俺の腕輪に吸収される。その量は膨大で、階層の支配者やユニークはもとよりカミノミツカイよりも多く、濃いものだった。それが消え去った後には、拳ほどもある大きな虹星石が落ちており、手で触れると意思があるかのように自ら腕輪に吸収されていった。


 (う〜ん。わけわからん)


ーー 虹星石を一部解析しました。どうやら今の相手、『影』とでも申しましょうか、それは【真言】を使うこともできたようです ーー


 (ん? 俺のコピーってことか? ドッペル? ってかそれならなんで使わなかったんだろう)


ーー マスターに対し、【真言】が効かないことを知っていたのではないでしょうか。もしくは能力は持っていても使い方を知らなかったのかと ーー


 (ふむふむなるほど。ってか俺に効かないとか俺も初耳なんだけど? それに自分を浮かせられるから翼で飛べるんだろう?)


ーー それについては、自分が自分にその意思をもって行使する場合は許可されたものと見なされるからではないでしょうか ーー


 (ってことは……)


 「見様見真似『パワーレイズ』」


 試しに言ってみた悠里の能力『魔法少女』で行使できる補助魔法。それのイメージは身体能力向上だ。


 (お、おぉ! なんか漲ってくる!)


ーー おめでとうございます。明確なイメージさえあればバフもできるようですね ーー


 (バフか。そうだなー。懐かしいなその言葉。ゲームじゃプラスに働く補助効果をそう言ってたな)


ーー ワタシもマスターの記憶から造られただけありますね! ーー


 (ってことは、相手にマイナス効果を付けるデバフもいけるんじゃね? あっ、でもさっきのやつとかカミノミツカイとかには効かないか。直接的なものは効果がなかったもんな)


ーー ところで先ほどの影のエッセンス、および虹星石が手に入ったこと及び支配者権限の介入により【真言】を強化できるようですがいかがしますか? ーー


 (支配者権限が介入? よくわからんけど、もちろんします!)


ーー では少々お時間がかかる見込みですので、おやすみの間に済ませておきます ーー


 (ほいほい、よろしくたのーむ)


ーー それにしてもマスター、人間と同じ姿、それもご自分と同じ者を相手に情けも容赦もありませんでしたね ーー


 (うん? だって俺はここにいるし、同じ顔しててダンジョンにいるなんて明らかにおかしいだろ? むしろ自分の顔で出てきてくれたから尚更迷う意味なんてなかったよ)


ーー では仮にあれが悠里様や香織様のお姿で現れたらどうだったのでしょう? ーー


 (それはー、さすがに迷うなー……)


ーー で、では夢の中のワタシの顔ではどうでしょうか!? ーー


 (斬る)


ーー ヨヨヨ……ひどいですマスター……ヨヨヨヨ… ーー


 (エアリスは俺に何も言わずにそんなことしないからな。するやつは悪意のある敵だろ)


ーー ッ!! そうですそうです! 本物のエアリスはマスターをおやすみ中に襲うことはあってもダンジョンで襲うことなんてありません! ーー


 (……さいですか。そんじゃ、帰ろっか)


 「『転移』」



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