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非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
2章 ダンジョンで生活してものんびりしたい
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夢のログハウスと実家

描写は過剰にならないよう書いているつもりですが、好みでない方すみません。



 今日はここに一泊することになり、明日マグナカフェへと帰ることになった。悠里、香織、さくらに渡した星銀の指輪の機能を使えばログハウスに転移することが可能なので何かあればすぐに戻ってくることもできる。ちなみにログハウスを移動させた場合、新たに設置された場所のログハウス内部へと転移するらしいのでもし移動することになっても問題なさそうだ。


 風呂の準備をしに屋根裏へと行き、お湯の瓶と水の瓶、二つの魔法の小瓶を使いそれぞれの水槽をお湯と水で満たす。その様子に語彙力を押し流されるような、すごく、すごい出かただった。ドバァーとはまさにこういうことを言うんだろう。風呂場の浴槽にも小瓶からお湯をドバァーと溜めておき、いつでも風呂に入れるようにしリビングに戻った。


 小型化していた荷物を元のサイズに戻し、マグナカフェから持ってきた弁当をダイニングテーブルに並べてみると、心なしか質素だなぁと思ってしまう。そこでふと良いものがあったことを思い出し、肉を取り出す。


 「これを食べてみよう」


 「これ何の肉? 初めて見るけど」


 「一応、ワイバーンステーキらしいよ」


 「ワイバーン? いつの間に手に入れたの?」


 「この間翼竜みたいなのを倒したって話したじゃん? それが落としたんだ」


 「何日か前のものみたいだけど大丈夫かしら?」


 「劣化を防ぐ袋に入れておいたから問題ないと思うよ。さて、さっそく焼いてみよう」


 劣化を防ぐと聞いて三人は言葉を失ったように見えたが気にしない。

 フライパンを取り出し【真言】でフライパンを加熱、その熱でワイバーンステーキに火を通していく。塩胡椒を軽く振って肉自体から出る油でジュ〜ジュ〜と音をさせながら肉が焼けていく。エアリスがこっそりと火加減の調節を手伝ってくれていたようで、焼き加減は上々だ。焼き上がり、さっそくみんなでいただくことにする。


 「ほらチビ〜、お前のもあるぞ〜」


 「すごい勢いで食べてるね」


 「美味しそうに食べますね」


 「ワイルドな食べっぷりね〜」


 各々チビの食べっぷりに感想を持ったところで、実食。それなりに歯応えが少しあって、最高級の牛肉というほどではないが十分すぎるほどに美味い。ほどよく腹にたまる感じもあり満足のいくものだった。チビは随分と気に入っていたようだが、残念ながらもうないため他の肉を追加で焼いてあげるとそれもペロリと平らげていた。


 「ん〜、おいしかったわぁ」


 「満足です〜」


 「悠人はいつもこんな美味しいものを食べてるわけね。でも調理の仕方によっては化けそうだね」


 「ワイバーンの肉は初めてだったよ。でもダンジョンで手に入る肉は今のところコンプだなぁ。もしかするとLUCのおかげかも」


 「LUCって大事なんだね」

 「LUCは大事ね」

 「LUCは大事なんですね」


 食事を終え、三人は一緒に風呂に入ることにしたようだ。なにせここの風呂はちょっと広く作ってあるので、三人が並んで湯船に浸かっても余裕があるだろう。きゃっきゃと声が聴こえるところを見るに、満足してくれているようだ。


 三人が風呂から上がりタオルで髪を拭いている。そこでふと思い立ち、一番髪の長い香織に声をかける。


 「香織ちゃん、ドライヤーしてみる?」


 「へ? ドライヤーですか? でも電気通ってないですよね?」


 「電気はないけどこういうことならできるよ。『温風』」


 イメージとしては風量の多いドライヤー。ちょうど良いくらいの温度を意識して香織を取り巻くように温風を起こし当てると、香織はとても気持ち良さそうな顔で髪を乾かし始めた。5分ほど経ちある程度乾いてくると、次は悠里、さくらと順番に乾かしてあげた。しかしこれはただの善意というだけではなく、人によっては『魔力』などと呼びそうなエッセンスの消費量についての実験も兼ねている。


 (エアリス、今のでどのくらいの消費量?)


ーー 継続的に温風を出し続けるというのはなかなか消費が多いものですね。亀10匹分ほどは持って行かれました。しかし練度次第では節約できるかと ーー


 (うーん。温風が出るアイテムとか作れないかと思ったけど、消費多すぎるかな?)


ーー 虹星石を使えば短時間ならば可能でしょう。しかし在庫が心許ないかと ーー


 (だよねー。その辺に転がってればいいのになー)


 三人の髪をあらかた乾かし終えると各々が好きな部屋に荷物を持って行った。俺も風呂に入ってくることにする。


 「チビ、おいでー。風呂入ってみようぜ」


 大人しく尻尾をふりふりしながら付いてくるチビと共に風呂に入り、チビの大きな体を洗ってあげると最初は怖がっているようだったがすぐに慣れ、気持ちよさそうに目を細めていた。根元はそれほどゴワゴワしていないのだが、外側は硬く感じる部分が多かった。エアリスによれば成長に合わせて新しく生えた部分はまだ柔らかく、時間が経っている毛先の方は硬くなっているらしい。それなら毛を柔らかくする犬用シャンプーを使えば全身ふわっふわなチビが完成するのかもしれないな。

 それにしても、でかすぎて洗うの大変。大型犬の飼い主っていうのは大変なんだな。


 チビを洗い終え自分の頭を洗っていると、背後の風呂場のスライドドアが申し訳なさそうにゆっくりと開く。そこに目をやると、バスタオル姿の香織がそこにいた。少し凝視してしまったが、慌てて前に向き直る。


 「お背中流しますね」


 思考が停止し逆らうことができなくなった俺は「アッ、ハイ」としか言えなかった。チビは湯船に入ったり出たりを繰り返して遊んでいる。俺はというと、洗練されたデザインの木製のバスチェア(エアリス製)に洗練された姿勢で座っている。背筋はピンと伸び、まさにお手本のような姿勢だろう。


 「あ、あの〜、香織さん? ど、どうしたんですかね?」


 「お世話になっているので、これくらいはしてあげたいなって思ったんです。じゃあ次は髪も洗いますね」


 「いや、そこまでしてもらうわけにも……」


 「大人しくしないといろいろ見えちゃいますよ?」


 「うぅ……じゃあおねがいします……」


 「はい、お願いされました!」


 そう言うなり姿勢が良すぎて高い位置にある俺の頭に手を伸ばし指を動かし始める。


 「あぁ〜……気持ちいい〜」


 おっさんみたいな声が出てしまうのは仕方ないだろう。なにせ疲れた頭皮に当たる指の感触がたまらない。これもDEXが高いことによる恩恵か? だとしたらステータス調整してあげてよかった。


 「そうですか? よかったです! 前髪の方も…ぁっ……」


 「え? どうかしたの?」


 「な、なんでもないです!」


 前髪の生え際まで丁寧に洗ってくれる。そのとき香織との距離が近くなり、大きなそれが俺の肩から首筋にかけて触れると、小さく「ひゃんっ」という声が聴こえた。


 「どこか具合が悪いんじゃ……」


 後ろをふり向こうとすると「大丈夫ですからっ!」と言う香織の泡泡の両手が俺の頭を挟み、グイッと強制的に前を向かされる。まぁ大丈夫って言うなら大丈夫なのかなと思いそのまま洗われることにした。


 洗い終わり「流しますね〜」と言われたので下を向くと、視界の端にタオルが落ちているのが見える。それを香織に言う前に頭上から温かいお湯が降ってきたので目を閉じ考えるのをやめた。

 

 しっかり流してもらい、「ありがとう」とお礼を言いながら首だけで後ろを向くと、巻いていたはずのタオルで辛うじて前だけを隠してはいるが、綺麗な腰のラインが露わになった香織を目撃、すぐに前へ向き直る。

 香織は「じゃ、じゃあごゆっくり!」と言いこちらを向いたまま後ろ手でスライドドア開け出て行ってしまった。気分を悪くしていないことを祈るばかりだが……良いものが見れた。


 体を拭きながら、そういえばさっきの感触、タオル越しじゃなかったような、などと思っていると、エアリスが嬉々とした声音で言ってくる。


ーー まるで童貞そのものでしたね! ーー


 (どどど童貞じゃねぇっていってるだろ!?)


ーー 今晩はワタシにお任せくださいね、ご主人様 ーー


 さすがにあんな良いものを見れてしまった以上、昂るのは仕方ないだろう。起きた時には覚えていないだろうが、エアリスには夢の中で良きに計らってもらおう。


 


 7月18日


 翌朝、とてもスッキリとした気分で目覚めることができた。夢の中の出来事を俺はほとんど覚えていないのだが、まぁエアリスのおかげだろう。俺は今、全てを悟りし賢者なのだ。


 (おはようエアリス)


ーー おはようございます。やはり触れる感覚を味わえるご主人様の夢の中はとても素晴らしいですね ーー


 (そうかい。それはよかった)


 エアリスには実体がない。それにより、触れるという感覚に飢えていると言っても差し支えのない状態だ。夢の中であればそれを得られるエアリスにとって、夢の中は天国のようなものなのだろうか。


 (それにしても夢の中でって、サキュバスみたいだな)


ーー たしかにそうですね。否定はしません ーー


 (しませんっていうかできないもんな。前科しかないしな)


ーー 前科とはひどいです。ヨヨヨ ーー



 エアリスの『ヨヨヨ』を久しぶりに聞いたところで、顔を洗ってリビングにいく。すると、もう三人とも起きていたようで紅茶を飲みながら談笑していた。朝食にとさくらがマグナカフェから持ってきておいたサンドイッチを取り出す。劣化防止がしっかりと効果を発揮しているようで、レタスもシャキシャキとして瑞々しい。


 「ダンジョンでこんなにおいしいサンドイッチが食べられるなんて、高性能冷蔵庫みたいで素敵ね〜」


 「悠人があると荷物も軽いしご飯もおいしいし家まであるし、すごく快適だね〜」


 「悠人さんがいるなら香織はどこにでも行けます」


 「悠里が俺を物のように扱った気がする」


 「冗談だって、ごめんごめん」と言う悠里。実際俺は悠里がそんなことを言っても怒りは湧いてこないし、それどころかいつもの軽口と変わらない。そんな余裕があるということは、ログハウスは大成功ということだろう。それに便利な使い方を自分自身がしようとしているし、冷蔵庫と言われてもそれは褒め言葉なのだ。


 便利、俺にとってエアリスがそれなのだが、彼女たちにとって俺が一家に一台みたいな存在になるのだとすれば、やはり俺の能力は便利を追求するためのものなのかもしれない。それは俺にとっても良い事で、俺自身が不便なく生活できるかもしれないということでもある。

 各々帰還の準備をする。チビはここにお留守番なので、エアリスが仕込んだ翻訳機能に期待して言って聞かせる。


 「チビ〜? 俺たちは一旦帰るけど、お前はここでお留守番な〜? ここをちゃんと守ってくれよ〜?」


 「アウアウ! アオーーーン!」


 「わかったっぽい気がするな。よし、それじゃあ帰ろうか」


 そう言って歩き出そうとすると、マグナカフェにはすぐ戻れることを思い出しポケットを漁る。三人はチビを撫でたりしている。


 「かわいいねぇ。あっ、昨日よりふわふわになってるね」

 「かわいいわよね〜。やっぱり洗えばそうなるのかしらね」

 「チビ、ちゃんと香織と悠人さんの愛の巣を守ってね」


 そんな中、さくらがチビと記念撮影しようかと言う。さくらに悠里と香織も同調し、俺が撮る係をすることとなった。チビを中心とした写真にはみんなの良い笑顔が写っていて、ログハウスを作ってよかったなぁとしみじみ思っていた。

 さくらのスマホを使い撮ったその写真は、おすわりしたチビを中心に両隣に悠里と香織が膝立ちで、チビの後ろにはそのためだけにリニアスナイパーを担いださくらが写っていた。それを見た三人は満足そうに言った。


 「えたね!」

 「えてる!」

 「えたわね!」


 俺はそんな三人に渡すものがある事を思い出す。

 先ほど探していた数珠、それを解いてみんなにひとつずつ渡した。


 「みんなこれ使って。すぐにマグナカフェに戻れるよ」


 「珠?これで帰れるの?」


 「それに触って『転移』って念じればおっけーらしいよ」


 「「「『転移』」」」


 すぐに実行する三人、警戒心が薄すぎやしないだろうか。

 三人はエッセンスに包まれたかと思うと、一瞬でその場から姿を消す。


 (残りいくつある?)


ーー 残り21個ですね。マスターがこれから使うので20個になります ーー


 (じゃああっちに行ったらみんなに何個か配っておこうか。指輪じゃログハウスに来る時しか使えないし、使い切る前に再使用可能なアイテムを作れるといいんだけど)


ーー はい。今ある虹星石とミスリルだけでも十分に足りますが、虹星石の在庫が先になくなるものと思われますのでどこかで回収することをおすすめします ーー


 (そうだね。じゃあ家に戻ったら、久しぶりに1層から潜って支配者探しでもしようか。あ、1層は何もいないから2層からになるか)


 「じゃあまたなチビ」


 シルバーウルフの牙を磨いて作られた珠を握りしめ『転移』する。1度で砕け散ってしまったが、無事にマグナカフェ前へと転移することができた。先に転移した三人もそこにいたので今回の任務は完了と言ったところかな。


 「あら! 本当にマグナカフェだわね!」

 「相変わらずチートだねー」

 「さすが悠人さんです!」


 「みんな無事着いたみたいだね」


 念のために珠を使ってみてエアリスに使用時のデータを蓄積してもらう。先に転移していた三人も問題無いようだった。


 「じゃあみんなに報告しましょう!」


 カフェに入ると軍曹をはじめとした隊員たちが驚いた表情で出迎える。ここを出て戻るまでそれほど時間が経っていないのだから驚きもするだろう。しかしさくらが『成果』として持ち帰ったミスリルの原石をみんなに見せると歓声があがる。


 「ミスリルとったどー!」


 「「「「おおおおおーー!!!!」」」」


 「おつかれさまです西野二尉!」


 「ただいま軍曹! それにみんなも!」


 「何事もなかったですか?」


 「おう! 悠人! 帰り道で熊数頭に出くわしたが、いつもよりスムーズに動けたおかげで問題なかったぞ! お前のおかげだな!」


 「そうですか。それはよかったです」


 帰り道に熊に襲われる軍曹の不運を、独力でなんとかできる程度の強化をできていてよかった。カフェ自体も無事なようだし、20層から先が繋がっていることの確認という目的も達成できた。初めての共同探索は文句なしの結果だと思う。


 それぞれの入り口は草原の別の位置に繋がっていること、21層にログハウスを建ててあること、そこでログハウスを守る首輪が付けられたシルバーウルフがいた場合はそれが俺のペットであること、出現するモンスターの傾向と対策等を伝える。

 それからさくらはミスリルの原石を携え報告に向かった。俺と悠里そして香織の三人も自分たちの家へ帰ることになった。香織は悠里の車で一緒に帰り、俺は転移で自宅に帰ることにした。


 「さて帰りますか。『転移』」


 目をあけるとそこは御影宅ダンジョンの1階、家から降りてすぐのところだ。そこから家への階段を上ると、両親がリビングでテレビを見ていた。ログハウスと基本的に造りが同じなのでなんだか変な感覚だ。


 「ただいまー」


 「おっ、おかえり悠人。かわいい彼女さんじゃないか」

 「あらおかえり〜。デートどうだったの? 良いお嫁さんになりそう?」


 「いきなりなにをいっている」


ーー おそらく一昨日の朝、香織様がお迎えに来た際の事をそのように受け取ったのかと ーー


 (あー。なるほど。何を話したのか知らないけど知り合いの女の子は全部俺の彼女みたいな勘違いされたら相手が迷惑だろ……)


 「期待してるとこ悪いけどそういうのじゃないから。一時的にチーム組んだ人たちの一人だよ」


 「そうなの〜? でもあんなかわいい子に『お母様』なんて言われるのって、そういうことじゃない?」

 「そうだよなぁ。俺も『お父様』なんて呼ばれて間違いないと思ったんだがなぁ」


 「あの子は良いとこのお嬢さんだからそういうもんなんだって」


 「そうなのか。ところで悠人、このテレビで話題になってるのはお前じゃないか?」


 「え?」


 テレビを見てみると、『雑貨屋連合と一時的にチームを組んだ謎の男』という文字が目に入った。幸い写真や動画はなく、『見た』という人の証言や印象を言っているだけだった。どこで見られたのか。家から出るときくらいしか表に出てないはず……。いや、待てよ。サービスエリアで一度休憩したからその時かもしれない。


 そんな話題よりももっと大事なことがあるだろうと常々思うのだが、そういう話題って憶測だけで番組が成り立ったりしちゃうからやりやすいのだろうか。

 それにしてもそんな情報だけでなぜ俺だと?


 「なんでわかんの?」


 「そりゃ親だからな」

 「親だもの。わかるわよ」


 「なんでわかんだろ」


 俺にはわからないことだと思い考えることを放棄する。

 さて、次にやることは『支配者権限収集』というか『虹星石収集』だな。急ぐ事でもないしやっとのんびりできそうだ。

 あっ、そういえば小瓶、ログハウスに忘れてきたな。まぁいいか。




読んでくださりありがとうございます。

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