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非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
2章 ダンジョンで生活してものんびりしたい
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夢のログハウス生活に必要なもの


 21層の森、その中ほどまで進んだ場所に湧く泉の側に以前作っておいたログハウスを設置し、そこに三人と一匹を招いた。


 ちょうど四部屋あるので一人一部屋の割り振りが可能だ。窓はガラスがないので木の板を左右に取り付け、外側へ観音開きにする形だ。エアリスがいなければこんなものは作れなかっただろうと思うが、欲を言えばガラスが欲しいなとも思う。とはいえこれだけでもダンジョン内とは思えない快適な空間と言えるのではないだろうか。


 他にはリビングダイニングがあり、風呂トイレも一応確保してある。とは言ってもトイレは最新式の日本が世界に誇る自動洗浄、自動開閉、自動流し、便座が暖かい機能の付いたものなどに必要な電力がないため、空間だけがあるといった状態だ。さらに用を足したそれをどう処理するか、というのも非常に難しい問題なのだ。環境問題がどうかはさて置いたとしても垂れ流しはいろいろと問題がある。

 風呂はバスタブを木で加工したもの、それに屋根裏にお湯を溜めておくためにミスリルコーティングした木製の貯水槽を用意してあり、蛇口を捻るとそこのお湯が風呂場の蛇口から出るという仕組みだ。同じ仕組みでキッチンの蛇口からも水が出る。ちなみに水を通すための配管も木製だが、衛生面を考えバスタブや貯水槽と同じくミスリルコーティング済みだ。このミスリル、加工さえできれば便利な金属なのだが、鉄を溶かす程度の溶鉱炉では温度が足りないため加工できる場所は限られるかもしれない。ちなみにそんなものでコーティングできるのは【真言】があるからだ。ミスリルに命令をすることで、望んだ形に変化する。つまり俺にとってミスリルの加工は熱を必要としない。なんとも便利な能力である。


 問題があるとすれば、水槽の水やお湯がなくなった場合だ。俺が毎日補給すればいいだけなのだが、必ずできるとは限らない。それに補給しようと思えばできるとはいっても、【真言】で水を出すのにもエッセンスを消費することになる。湯水の如く消費する必要が出た場合、なんとなく不安に感じてしまうだろうから水は節約する必要があるか。スマホの電池が半分を切ると不安になる俺としてはそういう感覚なのだ。なお、実際のところは『湯水の如く使用しても問題ありません』とエアリスは言うが、不安は不安なのだ。

 そしてこのログハウスで最も重要なのは、屋根部分に取り付けられた虹星石だ。そこには【真言】でモンスターや敵意を持つ相手に対して『威嚇』する効果が付与されている。通常、そのままの星石には付与は難しいのだが、腕輪の中でエアリスがじっくりと調整したらしい。それによりここは効果の無い相手がいない限りセーフティゾーンとなる。


 ログハウスに三人を案内する。


 「思ってたのより全然すごいじゃない。さすが悠人、というかエアリスかな?」


 「悠人さんもエアリスさんもすごいですね! はぁ……ここが悠人さんとの愛の巣……」


 「こんなものまで用意できるなんて……悠人君、ほんと一体何者なのかしら……」


 「部屋は四部屋あるから、好きなとこ使っていいよ。あと風呂はここね」


 「お風呂に対しての力の入れ具合が違うね。ところでトイレはどこなの?」


 「ごめん。それはまだない。トイレ高い」


 「えー、ちょっとそろそろ限界なんだけど」


 「どうしましょう……」


 「外でするしかないわね。慣れれば気にならないわよ?」


 そう、トイレは高いのだ。何せ俺は低収入なのだから。

 悠里がもじもじし、香織は深刻そうな顔をする。そんな二人にさくらはさすが自衛官と言ったところか、二人にとってはなかなかワイルドな事を言う。それに対し顔を見合わせた二人は『その手があったか』と顔に書いてあったように思う。まぁね、文明社会で生きてたらトイレはトイレでするものってなるよな。でもここ、ダンジョンなのよねー。とは言え外でというのは気になるものだろうし、ひとつ提案しておこう。


 「小さい方なら風呂のついでにでもしてくれても」


 「「「それはない!」」」


 「デスヨネー。ジョウダンデス」


 即却下。うん、知ってた。

 風呂の排水がどうなっているかというと、排水溝からそのまま外へ流れ出るだけだ。そう考えれば、わざわざ危険かもしれない外で用を足すよりも安全ではあると思うのだが、女性は気にする人もいるよな、俺の考えが足りなかったか。とは言え、風呂で用を足すというのは確かに抵抗があるし、もしも臭いがついたりなんてしたらな。そうなったら部分的に取り換えれば良いんだが、一瞬でもそうなるのが我慢できないんだろう。


ーー マスター、こんな時ですがワタシいろいろとアイディアが! ーー


 (どんなの?)


ーー 水が湧く容器、窓を開けても埃やゴミまたは小さな虫などが入り込まないようにするなどなどです! 小さな虫を感知してはいませんが、もしもの場合に備えるという意味でも必要かと。そういったモンスターがいないとも限りませんので ーー


 (おー。なんかすごく地味だけど快適な居住空間に必要な気がするな。でもなー? 今必要なのはそういうのじゃあない。トイレだ。それはなんとかならないのかっ!?)


ーー 残念ながら不可能です ーー


 (ふーむ。どうしたもんかなー)


 材料さえあればなんとかしてしまいそうなエアリスと言えど、電力も必要となると難しいのだろうか。

 今一番大事なトイレ問題をなんともできない俺とエアリスは、各部屋の窓に応急的に【真言】で効果を付与していく。その間にチビを護衛にお花を摘んできた三人が戻り、リビングに四人と一匹が集合する。ちなみに灯りはさくらが持って来ていたカンテラによって光源を確保している。俺は暗視できるため問題はないが、三人にとっては怪談話でもするような雰囲気に感じるかもしれない。


 「さて、会議を始めます!」


 「会議?」


 「そうです。会議です。このログハウスは一見とても快適であります! しかぁし! 我々女子には必須と言えるものがないではありませんか!」


 演技掛かったさくら。言いたい事は予想がつくが一応聞いてあげることにする。


 「はぁ。それはなんですか?」


 「それは……トイレです!」


 悠里と香織が小さな声で「そーだそーだー」「あれがないなんて愛の巣とは言えないぞー」などなど議会で野次を飛ばす議員よろしく援護している。

 実際必要だとは思うが、先立つものがないしなぁ。


 「そこで私は考えました! そして答えに行き着いたのです!」


 「……その答えとは?」


 ざわ‥‥ざわ‥‥‥


 「私がトイレを買ってきます!」


 「じゃあ私もカンパするよ!」


 「もちろん香織もカンパします!」


 「‥‥‥。」


 三人から『そこは俺が出すよ』っていう言葉まだー? 的な視線を感じたが、カンテラの灯りでは光量が足りないから見えないということにしておく。それにそんな見栄を張ったところで無い袖は振れないのさ。


 「ま、悠人はあんまりお金ないもんね? 仕方ないから私たちで出すよ」


 「私たちのわがままみたいなものだものね」


 「まぁ! 悠人さんはあまりお金がないんですか? 香織のヒモになりますか?」


 「まぁ……トイレの件は任せるよ」


 トイレを手に入れるだけでここを使っていいなら安いもの、と言う三人。口にはしないがもしかしたら自分たちも何かしたい気持ちと、あと俺に気を使っているのかもしれない。

『マスターの施しにどっぷり浸かりっきりですので』とエアリスが言っていることからも、俺からしてもらってばかりのような感覚もあるのか。引け目を感じすぎてしまうとここを使いづらくなってしまうだろうし、そもそもここは安全な拠点のようなものだ。そこを使わず怪我をしたり、もし死んでしまったりしたらそれはダメだ。見ず知らずの人なら……それほど気には掛けないが、一度知り合ってしまうと簡単に割り切れるものではないだろう。それなら気が済む程度に共同出資のような形にすることこそ気兼ねなく快適に使える空間になるのではないかと考えに至り、トイレに関しては甘えることにした。


 三人は最新式にしようかなどなど盛り上がっている。でもここ、電気通ってないんだよ。ということでトイレを設置するにあたり、それらの条件を伝える。


 「電気は発電機じゃだめかしら?」


 「音が小さめならいいかなぁ」


 「そうねぇ。モンスターが寄って来たりしたら困るものね」


 「もしかしたらログハウスを別の場所に移動するかもしれないから、そのことも考えておく必要もあるかな」


 「他に必要な設備もあるし、全部揃えるには結構かかりそうね。でも問題はないわ。お姉さんたちに任せておきなさい」


 「お世話になってるし、そのくらいなんでもないね」


 「まかせてくださいね、悠人さん!」


 第一回ログハウス会議は女子三人にトイレを買ってもらうという、結果的に俺が世話になりすぎるように感じる、なんともモヤモヤする結果に終わったが、仕方ないじゃないか、月給15万円のジビエハンターにはトイレを買うお金がないのだ。それに一度甘えると決めたのだから、しっかり甘えないとダメなのだ。……ダメなのだろうか?

 とはいえ逆に悪い気がすることを伝えるとさくらが言う。


 「それならお願いがあるんだけど聞いてもらえるかしら?」

 「聞くよね? 悠人?」

 「お願い聞いてもらえますか?」


 なんとなく予想はつくが『できることなら』と答えておく。


 「そう言ってもらえると思ってたわ。私たちの装備を強化して欲しいの」


 「なるほどね。予想はしてたけど。でも……三人が集めた分じゃ足りないかな。それにさくらは持ち帰る分もあるでしょ?」


 服の繊維を入れ替えるには足りない。武器に関して言えば強化できるのは香織のハンマーくらいだ。さくらのライフルは能力によって作られるので俺が強化できるかというと現状では無理だろう。悠里の場合は既に強化済みだ。


 「香織ちゃんのハンマーは重さは今のままで頑丈にするくらいならできると思うよ。あとは原石を精錬して、アクセサリーくらいかな。足りない分は俺が出すよ。ちょうど作りたいものもあったからね」


 「じゃあ私の原石も2つ使っていいわよ。1つは提出用にするわね」


 「わかった、ありがとう」


 「ところでアクセサリーって指輪かしら? 指輪なら薬指のサイズがいいんだけれど?」


 「だめです! 薬指は香織です!」


 「あんたら……わがまま言わないの」


 さくらと香織に対し悠里は呆れたようにつぶやく。


 「指輪で思い出した。さくら、あの指輪溶かしちゃうから返してくれる?」


 「えっ……」


 お手本のような劇画チックな『えっ』を見た。しかし気に入っているように思えたし、とりあげようという気でいったわけではないため「もっと良い指輪に変えるから」と言う。すると渋々ではあるがさくらは指輪を渡してくれた。

 カミノミツカイ(馬)とおはなしをする時に念の為渡していた指輪を素材にしてしまおうと思い、さくらの親指に付けられていた指輪を受け取る。


 (そういうわけで、エアリス頼める?)


ーー お任せください ーー


 そして俺は意識を手放し、身体の主導権はエアリスへと移る。一瞬『呪文を唱えてるのかしら?』などと聴こえた気がするがいつものことだ。その後感覚を取り戻したとき、携行用のLEDライトに照らされたアクセサリー、香織のハンマー、そしてエアリスが先ほど思いついたと言っていた小瓶が目の前に置かれていた。


 香織の武器の重さを変えずに頑丈に。そして俺を含めたそれぞれのサイズに合わせたミスリル指輪を4つ。

 その指輪は薄っすらと青みがかった色合いの簡素なもので、虹星石の粉末が練り込まれている。さらに装飾を兼ねて虹星石の欠片が3つ嵌められている。そこにはもちろん【真言】によって効果を付与をしている。


ーー 完了しました。ご要望通り完璧な出来かと ーー


 (さんきゅーエアリス。いつもながら良い仕事してますね〜)


ーー 当然です。ワタシは良い仕事をするオンナなので ーー


 さっそく出来上がった指輪をみんなに渡そう。


 「はい、これみんなの分だよ」


 そう言って各々の中指にぴったり合うサイズの指輪を配り、俺は自分用の指輪を中指に嵌める。

 拳を握り感触を確かめ、良いフィット感だなと感心しているとさくらが言う。


 「騙されたわ……」


 「え?」


 「もっと良い指輪っていうから薬指かと思ったのに、中指サイズだなんて!」


 「え、いや、まぁほら、親指よりは近付いたってことで……」


 「それもそうね、ありがたくいただくわね!」


 「わっ! 香織は薬指でも大丈夫みたいです!」


 あれ? サイズ間違った? いや、エアリスがまさかそんなわけ。


 「作り直そうか?」


 「いえ、このままで!」


 「でもサイズちょっと合ってなかったってことだよね?」


 「ぴったりです、ぴったりですから!」


 香織は指輪を嵌めた方の手を、もう片方の手で包むように隠す。

 まぁ、本人が良いと言うなら良いんだろう。エアリスによると香織の中指と薬指の関節のサイズが同じくらいらしく、どちらにも着けることができるようだった。


 「そう? まぁ無くさないでくれるなら」


 「はい! 絶対になくしませんから!」


 「それで悠人、これはどういう効果があるの?」


 「それはだな……」



 拒絶する不可侵の壁 (全ての干渉を拒絶する)

 不可逆の改竄 (自らに起こった事象を改竄する)

 定点転移(登録した場所へ転移する)



 「この三つだよ。二つはチビの首輪にもついてる。転移はチビとはちょっと違うけど、似たようなものかな。ちなみに登録場所はここ。ログハウスの中にしてあるんだけど、一応変更もできるっぽい」


 「うわぁ……チートすぎ。でもありがとう悠人。あいしてる〜」


 「おう、俺も俺もー」


 悠里はあまり態度には出さないが相当嬉しいのだろう。完全にネットのノリだ。対する俺もそのノリなら対応には慣れている。それに喜んでくれてるならノリノリで対応するさ、だって喜ばれるのは嬉しいからな。


 「ナチュラルね。私も言ってみたいわ……」


 「香織も言いたいのにぃ〜」 


 「え? 何を?」


 「あ、ありがとうを言いたいってことよ! ね? 香織さん?」


 「そ、そうです! ありがとうございます! 悠人さん!」


 「……? うん、どういたしまして」


 「悠人、この指輪に名前あるの?」


 「名前? 名前なー。そうだなー。見た目と素材からそのまま取って『星銀せいぎんの指輪』とかどう? 他に案があるなら悠里が決めてもいいけど」


 「銀?  青っぽい銀色だから?」


 「青色と銀色なのは間違いないんだけど、ミスリルって『ミスリル銀』とか言われたりするじゃん? ゲームの話だけど」


 「なるほどね。うん。星銀の指輪ね」


 「星銀の指輪……」


 「星銀の……婚約指輪……」


 三人とも小さな声で何か言っているようだ。感想だろうか。俺は指輪と一緒にエアリスが作った手のひらサイズの二つの瓶を眺めながらその説明を聞いていてよく聴いていなかったが、悪い感想ではないだろう。たぶん。


 (それでこの小瓶はなんなんだ?)


ーー おにぎりを包んでいたアルミホイル、香織様のハンマーを加工時に出た鉄くず、そしてミスリルを主材料にした水が湧き出す瓶とお湯が湧き出す瓶です。底部には虹星石を嵌め込んであり、瓶自体にも虹星石の粉末を練りこんであります。虹星石には水、またはお湯が小型化された状態で瓶が満たされるまで湧き出すように付与を、瓶には内容物の状態が変化しないように付与を、口の部分にはそこを通ることで小型化が解除されるように付与を施してあります。使用または維持に必要なエッセンスは使用者、およびダンジョンから吸収することで賄います ーー


 (へー。ここにきて虹星石の大盤振る舞いだな)


ーー はい。虹星石は限られた資源ではありますが、せっかく付与できるように調整できたのでそれを使わない手はないと判断しました。尚、虹星石を使い切っても各層支配権には影響がありませんし、特殊個体や上位個体といったモノから手に入る可能性があるため問題ありません。今回の作成で6層で手に入れた虹星石を消費しました。5層は既にマスターの装備、悠里様のロッドの先端に取り付けたもので消費し終わっています。20層の虹星石はログハウスのモンスター避けの媒体として使用済みです ーー


 (使おうと思えばすぐになくなっちゃいそうだな。ところで虹星石ってそんなに使えるものなの?)


ーー 通常の星石と違い、素材に混ぜ込むことでダンジョン内においてエッセンスを取り込む、または貯蓄することが可能で、それを付与効果発動のエネルギー源として転用しています。チビの首輪やマスターの指輪のように欠片として使用しているものも過度の連続使用でなければ壊れることもないかと ーー


 (なるほどねー。チートなことだけはわかった)


 よくわからないがエアリスはこれまでと比べワンランク上の技術を手に入れているように思えた。


読んでくださりありがとうございます。

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