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非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
2章 ダンジョンで生活してものんびりしたい
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コンゴトモヨロシク


 ここにいる全員に軍曹に施したドーピング、つまり保有していた星石を譲渡しステータス調整をした件について説明することになった。そんな方法があるのか、と色めき始めるが問題点を話すとあっさり沈静化した。問題点というのは、俺の場合はエアリスによって意図的に星石を保有している状態だが、それにも限りがあり軍曹に使った分でギリギリということ。

 しかし悠里と香織以外、エアリスの存在を知る者はここにはいないので、いかにも俺の予想とかそういう感じにまとめた。


 「ということは、悠人君はそれだけ溜まってたというわけね?」


 「言い方がアレ」


 「でも軍曹に出し切っちゃったからもう使えないということね?」


 「誤解しか生まなそうな言い方しないでもらえません!? まぁそれは置いといて、全くないわけではないです。でも自分の腕輪や能力の維持費がどれだけ必要か詳しくわからないので、最低限と思える分は残している感じです」


 「そうなのね。これは‥‥軍曹、責任重大よ?」


 「はい。御影悠人氏が我々の部隊に投資してくれた、ということでもあります。二尉が遠征任務中の防衛は必ず遂行する所存であります」


 「よろしい」


 「私財を投資なんて、そんな大げさなものじゃないんですけど‥‥」


 実際大したことではないように思う。ある意味モンスターがいる限り無限に手に入るものだし。しかしそれは俺の感覚だけの話で、他の人からはそう見られないし軽はずみにやってはならない事なのかも。


 「いいえ、それは違うわ悠人君。大災害、そしてダンジョンが発生してから二ヶ月ちょっと経つけれど、一般人や一般企業所有の土地に発生したダンジョン以外でも、手に入れたものは私財として認められているのよ。それにそんなことができるのは悠人君以外に見たことはないわ。ということはある意味、名無しの寄付ではなく、目的を持った投資ということにも言い換えることができる。それならその期待を裏切ることは、個人としても組織としても損ね」


 「なんだか大袈裟ですね‥‥。ところで法律? いつからですか?」


 「7月1日施行よ。公布されたのが6月8日だったかしら? そう考えるとほぼ最速ね」


 「ずいぶんと早いですね。その早さならもっと良い法律をどんどん作れたでしょうに」


 「そうね。最初は政府もダンジョンを軽く見ていたような節はあるわ。なにせ一番多い一般家庭のダンジョンのほとんどは6層目あたりが終点らしいから。それでも最初は慎重だったから被害はほとんどなかったようね。慣れてきた頃に犠牲者が急に増えたという話よ。正式な報告としては一昨日知ったばかりだけどね」


 「初耳ですね。一応未公開情報なんでしょうそれ」


 「あら、うっかり口が滑っちゃったわね。ふふふっ」


 「わざとですよね?」


 「さぁ、どうかしら?」


 自衛官ってこんなんで良いんだろうか。それに投資というなら、自衛官に個人的に投資って良いんだろうか。よくわからないが、こんなご時世だしな。使えるものは使っとけっていうのもあるのかもしれない。だって銀刀、ちゃんと斬れる刀なんだが、それも目溢しされているわけだし。普通に考えてこんなのをぶら下げて歩いてたら銃刀法違反だろう。実際実家周辺では人から見られないように気を使ってるし、時折見かける近所のダンジョンに通っているであろう人たちもゴルフバッグに鉄の棒みたいなのを隠しているようだしな。でもそういう事を考えると、世の中は変わったのかもしれない。

 物思いに耽ってしまったが今は話の途中だった。


 「実際5層くらいまでで普通の人は諦めるか飽きるかしてるらしいよ?」


 「悠里も知ってる話なのか?」


 「情報くれる人は結構いろんなところにいるからね」


 「マジか。もしかして香織ちゃんも?」


 「はい、知っていましたよ?」


 「そうだよね。総理の孫だもんね。うん」


 総理が家族にそういった事を話していたら問題になるのかもしれないが、それはこれまでなら、という条件付きなのかもしれないな。それに孫の命がかかっているし、それを言いふらさなければいいのか。ともかく俺にはそんな事を教えてくれるような知り合いも伝手もない。その事実に一抹の淋しさを感じながら、店長の言葉を思い出しふと口に出す。


 「……6層目が終点?」


 「えぇ。6層あたりから先へ行く階段は見つからないことが多いらしいわよ。悠里さんが言った通り、それ以降に進もうとする人が少ないから広まらない話になっているのかもしれないわね」


 「そうなんですか。うちのは普通にあったからなぁ‥‥。何か違いがあるのかな。そういえばチビ、元気かな」


 チビとは何か、と店長が首を傾げていたので簡単に説明した。


 「そういうわけで、肉をあげたりして面倒見てたんですよ。そしたら結構懐いてくれて、結構かわいいんですよ、シルバーウルフ。昨日今日と行けてないんで、お腹すかせてないかなー」 


 「ちょっとまって悠人君、シルバーウルフって何?」


 「狼ですよ? モンスターですけど」


 「悠人、16層から先にしかいないモンスターだから、ここでシルバーウルフを見たことあるの私たちだけだよ」


 「うちのは6層に‥‥‥あっ。そういえば」


 (チビの母親はチビを守るために浅い層まで来たような感じではあったな。もしかするとそのおかげで下階へ開通したのかも。せっかく6層まで来ても、シロアリのせいで平穏ではないし食べ物もなかったみたいだけど)


ーー 仕方ないことです。マスターの責任ではありません ーー


 (そうだな‥‥。なんだかチビに会いたくなってきた。心の底では恨まれてるかもしれないけど)


ーー 転移しますか? ーー


 (えぇー! できんの!?)


ーー できますが、初回はいつもより大量にエッセンスを消費するかと。しかしダンジョン20階層からならば、二度目以降はいつもとあまり変わらない消費になるかと ーー


 (もしかして、この間作った数珠に転移先を登録していけば‥‥)


ーー はい。狼の牙から作った数珠では数回で壊れるおそれがありますので、ミスリル合金を使って軽さと耐久を両立したものを新たに作るのがいいかと。経路については20層を経由する形でお得な転移プランをご用意できるかと ーー


 (エアリスツーリズム最高かよ)


ーー ワタシはいつでも最高の秘書ですので。夜の秘書もオッケーですよ? ーー


 (おい、どこで覚えたそんなもん)


ーー はい、昨日軍曹の腕輪に触れた時にマスター以外の男性はどの程度かと少し記憶も覗いてみました。その際、秘書についての書物の記憶が多く、中でも『昼夜問わない秘書のイケナイ秘めゴト』なる書物の記憶が最も ーー


 (あ、そう。わかったからもういいっす)


 まさかここで軍曹の趣味を秘密裏に知ってしまうとは。それにしてもエアリス、勝手に記憶を覗いちゃダメでしょ。人には知られたくないことが8割くらいはあるんだぞ。


 俺がエアリスと話している間、悠里が店長たちに補完してくれていた。まるで秘書みたいだな。おっとイケナイイケナイ。なんにしてもとても便利かつ経済的な移動方法が判明したのでよしとしよう。


 「狼ですか‥‥。私たちには未知ですね。というかモンスターって人に懐くのねぇ…」


 「さすがに全部じゃないでしょうけどね。チビはたまたまだと思いますし。でももしかしたら、異世界ものによくある、テイマーなんていうのもいるかもしれませんよ?」


ーー マスターの能力を持ってすれば例外を除き擬似的なテイミングも可能です ーー


 (‥‥‥なんだって…)


 エアリスが明かす新事実に俺は一人驚愕した。もし気に入ったモンスターがいたらもふもふ帝国を…いや、擬似的なテイミングってことは、何かの拍子にただのモンスターに戻るってことだよな。罠じゃねーか。

 俺はその件について一旦忘れることにした。


 「そうね。そんな異能が存在するなら、ヨツゴロウさんみたいな人に持っていてもらいたいわね」


 「え、えぇ、そう……ですね」


 テイマーというのは、魔物やモンスターを使役契約して自分の代わりにもしくは自分と共に戦ってもらうジョブで、オンラインゲームでは人気ジョブになることが多かった。戦わせる目的ではなく、愛玩用ペットが欲しいという目的でテイマーになる人も多く、着せ替えセットが販売されてすぐにそれを購入して広場で見せびらかす人がいたなぁ。


 「ところで、一般人のステータスってどのくらいが普通なのかしら?」


 「どのくらいでしょうね‥‥。10層くらいまでいけるような複数人チームなら30前後くらいならあるかもしれませんけど。能力によって変わることもあるでしょうし、ばらつきはかなりあると思いますよ。どのくらい狩りをしたかによるところも影響が大きいと思いますし」


 「それでも大災害以前と比べれば超人、ということよね。それにステータスを数値で認識できるのが私の知る限り悠人君しかいないから調べることもできないわね」


 「そうですね」


ーー ダンジョン内で握力測定をし、130kg程度を計測すれば30前後の可能性がありますが、各種ステータスや能力に影響されるようなので一概には言えません ーー


 (ダンジョン内? 外じゃそんなに違うの?)


ーー ダンジョン外ではエッセンスの補給がままならないので、消耗を抑えるために腕輪が自己防衛を兼ねて制限するようです。マスターの場合はワタシが腕輪のほぼ全権限の行使が可能ですのでご安心ください ーー


 (ダンジョン外では成長分が軽減されたりするのか。それなら普通の人とそんなにかわらない場合が多いかもしれないな)


 それから少しの間話せる範囲の情報交換のようなこと、あとは雑談していた。


 「あら。ついつい話し込んじゃったわね。各自部屋に戻って準備しましょう。と言っても装備はみんなできてるみたいだし、荷物を車に積むだけね」


 各自部屋に戻り、荷物を装甲車に積み込む。

 俺はほぼ全て小型化してポケットやボディバッグに収納している。悠里はというと、車に積んできた荷物のほとんどを俺に小型化させて腰につけたポーチに放り込んでいる。


 香織はそもそも服装がブラウスにロングスカートだ。ダンジョン探索に来たとは思えない服装である。しかしスカートの下にはショートパンツを履いていていざとなればスカートを犠牲にすることも考慮の内だろう。しかしそれはなにも今回が特別というわけでなく、いつもそういう服装なのだそうだ。雑貨屋連合として人気が出たのは、香織のような場違い感が視聴者に受けたからというのもあるだろう。実は炭素繊維を使ったまともな防具と呼べるものもあるのだが、あまり好みではないらしい。理由は『かわいくないから』。それでも見えない部分にはそれを着込んでいるらしいので一応大丈夫だろう。それに、今回はいないが雑貨屋連合の一人である杏奈の窮地を救ったものと同じ御守りを首から下げているので見た目とは裏腹な生存力はあるはずだ。


 それにしても香織の武器、完全に100tハンマーのそれである。当然、実際に100tあるわけではなく見た目の話だ。どうやってそんなものを調達したのかはわからないが、前回見た時よりもひと回り大きいものになっていた。そんなゴリゴリのSTR武器と言えるハンマーを主武器とする香織だが、車中でステータスの調整が必要そうならしてほしいと言われ見たら正直驚いた。20層で初めて会った時にエアリスが少しステータスを割り振ってはいたのだが、そのときよりもSTRが5もあがっていた。ほんの数日にしては急成長すぎる気がしたが、エアリス曰く『店長のように能力の影響があるかもしれません』とのことだった。とりあえず控えめにSTRDEXAGIVITを5くらい上げておいた。

 平均的に上げた理由として、特化してしまうと通常の生活に支障を来す場合があるのではないかと思っているからだ。現に軍曹は今朝、飲もうとしたタイミングでコップを2つ割っている。急激にSTRが上がったことも原因かもしれないが、おそらくDEXとの差異。差がありすぎると力の加減にも影響が出るのではないかと推測している。


 店長はというと、黒いボディスーツのような格好で、太腿に小型のナイフ、腰には手榴弾でも入ってそうな小さなバッグのようなものと大口径の拳銃、それに多少の暗視が可能なメガネというかスボーツサングラスのようなもの。他の持ち物は小型化して俺のボディバッグに収めてある。

 『これに下着とか入ってるから、勝手に戻して頭にかぶったりしないでね〜? うふふ〜』などとキャッ◯アイにも見えるスーツ姿で俺を変◯仮面呼ばわりしていた。かぶる趣味はないが、ボディラインがなんとも……そんなことを考えている場合ではないな。なぜなら、エアリスの索敵に反応があるからだ。


 (エアリス、相手はなんだと思う?)


ーー この存在力……おそらくカミノミツカイかと  ーー


 (やっぱいたかー。今まで店長たちが遭遇してないっていうのが不思議だけど、なんでこのタイミングかねー)


 やれやれと思うが、いるだろうとは思っていた。ただ発見のタイミングが今というのがな。とりあえずこれはみんなに伝えておく。


 「みんな、もしかしたらボス戦かもしれない」


 「「「!?」」」


 「たぶん、カミノミツカイがこの先、というかダンジョン内部に入る洞穴の前に陣取ってる」


 「まさにボス戦って感じね。それで? どういう姿?」


 相手がカミノミツカイ、明らかに特殊なモンスターだからだろうか。輪郭がぼんやりとしていて、辛うじて四足歩行であることしかわからない。

 一旦車を停めた軍曹が身を乗り出し、双眼鏡を覗き込む。


 「この辺りは木が結構茂ってて洞穴前まで続いてるから見えないな‥」


 なにやら集中した様子の香織がもう少し近付いて欲しいと軍曹に要求する。そういえば香織も索敵に似たことがなぜかできるので、俺と同じようにおぼろげに存在を感じているのかもしれない。しかし本人は近付けばわかると確信しているようで、俺のように近付いても”索敵では”わからないと感じているのとは違うようだ。

 どうであれ予定ではその洞穴から内部に進入する予定なため、まずはそこに行く必要がある。それにいざ戦闘になったとして、ここにはカミノミツカイを倒した人間が複数いるのだ。問題ない。


 軍曹はオフロードの林の中をゆっくりと装甲車を前進させる。しばらく進むと香織が察知できる範囲まで近付けたようだ。すると香織はそのわかったことを伝えてくる。


 「悠人さん! これ馬です! 大きな馬!」


 「UMA? 未確認生命体的な? それともヒヒーン?」


 「ヒヒーンの方です! でも未確認でもあるのでUMAでもあります!」


 「ということはここのカミノミツカイは馬か。この地域ってたしか馬が出てくる神話あったな」


 「そうなんですか?」


 そんな話をしながら車を降り、徒歩で馬の元へ向かう。香織がより詳細に察知できる範囲は30メートル程度なので歩いてもすぐの距離だったりする。


 「うん、来る前にもしかしたらその土地に関わりの深いものがカミノミツカイになるのかもと思って調べておいたんだ。たしか……大国主命オオクニヌシノミコト奴奈川姫ヌナカワヒメを取り合って負けた土地神が乗ってた『馬』がいたような」


 「たしかにそれなら、ぽい感じはするね」

 「ぽいですね」

 「確かにぽいわ」


 女性陣三人の同意を得たところで馬のいななきが響き、それに続けて俺たち全員の頭の中に声が聴こえる。


 『ぽいとはなんじゃぽいとは! ワシをそこいらの馬と同列にするでないわっ! 太古よりこの地に在りし土地神様に仕えた馬であるぞ!』


 形容しがたい気持ち悪さを感じている四人に対し、エアリスで慣れている俺は特に気にすることもなく返答した。


 「それで牛に負けたんだよな」


 『負けておらぬわ! 我が土地神様は負けを認めておらぬ! 2戦目はただちょっと、ちょぉ〜っと調子が出なくて山を飛び越え損ねただけじゃ! そこを天上から高みの見物をしている他の神に石に変えられていただけじゃ!』


 「1回勝負で負けたのに泣きの1回でまた負けたんだろ? 牛に」


 『ぐぬぅ。だ、だって……じゃもん…』


 「え? なんだって?」 


 『だってあの牛やばいんじゃもん! こちとら神の馬っぽいポジションでさ? ちょっと調子に乗ってたところはあるけどさ? 牛のくせに馬より跳べるんじゃよ? おっかしいじゃろう? 絶対なにかよからぬ草とか食べてきたんじゃもん…』


 「じゃもん…」


 ネガティブにイジイジし出した馬。不憫なやつなのかもしれないな。というか意思疎通ができることに驚きではあるんだが、なんというかこの俗っぽい感じのせいで驚愕が打ち消されてるな。

 どうやらそれは他のみんなも同じようだ。どうしようかと思っていると店長が言う。


 「あの…なんだかかわいそうになってきたんだけど……」


 「そうですね」


 「ちょっとおはなししてきてもいいかしら?」


 (エアリス、大丈夫そうか?)


ーー 今現在、先の言葉責めが功を奏し交戦の意志は無いように思われます ーー


 「じゃあ念の為にこれを」


 昨日寝ている間にエアリスが作っていた不可侵の壁を込めた指輪型アクセサリーを店長に渡すと、説明する俺を横目に左手の薬指を差し込んではまったくひっかかりのないことに落胆し、結局親指に着けていた。女性はそうするのが義務かなんかなのだろうか。


 「聞いてました? 攻撃性を感知すれば自動で守ってくれるはずですが、気をつけてくださいね?」


 「あっ、はい。では行ってきます」


 形状が指輪だからか、香織が物欲しそうな顔でこちらを見ている。

 指輪はエアリスの索敵で感知できるものの一部である『敵意』や『害意』といったものを感知できるようになっている。それを感知すると【拒絶する不可侵の壁】が使用者の体に纏わりつくように発動し、それでいて攻撃を受けている部分以外は身体の動きに合わせて形状が変わるようになっている最新型のプロトタイプだ。なので、ひとつしかない。


 馬は脚を折り地面に伏せている状態だ。そんな馬に対し「近くにいきますね〜? こわくないですよ〜? 大丈夫ですからね〜?」などと声をかけながら店長は近付いていく。さながら人質を取った凶悪犯か駄々っ子を宥めるがごとく。


 しばらく経ち、残された俺たちはその場にシートを広げ、水筒に入ったマグナカフェで入れてきた紅茶を飲んでいる。林の中で飲む紅茶も乙なものだ。


 「悠人さんの水筒、入れたての味がそのままなんですね!」


 「ほんとにね〜。悠人の能力ってほんと便利よねー」


 「異能力ひとつで多様な効果があるとは……人間の欲を叶えるために備わったようにしか思えんな」


 そういえばエアリスと出会って間もなく、俺に発現した能力がなぜ【言霊】なのかという話をしたことがある。『全てを望んだから』とか言われたんだったか。たしかに汎用性は高すぎるほどに高い。全て可能なんじゃないかと思うほどの全能感も否定できない。それに今も、昨夜の座談会でいつの間にか開発していたエアリスの技術のおかげで、普通に話していても【真言】が暴走する心配がほぼなくなっている。エアリス曰く『能力に使用されるエッセンスの量を絞る』のだそうだ。イメージとしては水道の元栓を閉じるようなものらしい。


 「紅茶って、うまいんだなぁ〜」


 まったりしている間に店長が話を終えたようで、大きな馬を伴ってこちらに歩いてくる。


 「おはなし、終わりましたよ〜」


 「戦闘無しで通してくれる感じですか?」


 「はい、そういう感じです〜。それでですね……」


 「何か問題ありですか?」


 何かあったのだろうか。それとも意思疎通ができるだけあってこの馬、何かしらの条件を提示してきたのだろうか。その条件次第では叩っ斬る所存だが、どうやらそんなことにはならなそうに感じた。

 馬が蹄を鳴らし一歩、二歩とゆっくり前に出てその条件を口にした。



 「ワシ、姫についていく。これ決定事項故反論を許さず。コンゴトモ、ヨロシク」


 「どうしてそうなった」



ブックマークありがとうございます。感謝です。


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