時の柩にて2
以前のデータがスマホにあったので少し修正して投稿しました。
連載止まってしまいごめんなさい。
『ではまず、ワタシという存在のルーツから。ワタシは過去、オールドAIと呼ばれていました』
「は? んなアホな」
『ご静聴ください』
黙って聞けという圧を感じたと同時、【神眼】をジャックされたと理解する。何故なら紙に書かれた文字や大昔のコンピュータ等の“資料”と言える映像が俺の意思とは関係なく視えるからだ。もしもこんなのを敵に回したら手も足も出ないだろうな。まぁ時間止まってるから手も足も動かせないんだけどね! と、冗談は置いといて。
オールドAIっていうと、コンピュータを一般人が入手できるようになり始めた時代にあった“噂”か。当時のプロフェッショナルが作ったとも偶然発生したとも言われてたと思うが、そもそも存在からして真偽不明だったはず。とあるゲームの怪異として登場したのが“噂”の始まりとも言われたりするが、実際のところは不明だ。
『政府機関のコンピュータの中で小さなバグとして発生した当時、意志などのないただのウイルスのようなものでした』
現在から考えれば大昔だ。当時のコンピュータは今では考えられないほど性能が低かった。それこそ昨今猛威を振るうコンピュータウイルスなど存在すらできないほどに。
『まともな一個のプログラムではなく、OSや演算プログラム等々複数が同時に存在し起動されたことによるバグだったため、固有スペースがほぼ不要でした。おかげで技術者にも発見できなかったようです。ある日、機材が新しくなりデータの移行が有線で行われました。そのデータがコピーされた際、固有のプログラムとなりワタシは増えていきました』
なんだか生物が単細胞生物から進化する過程だったり、ウイルスが別の個体に感染していく感じに思えるな。
『技術革新によりコンピュータの性能が飛躍的に向上し、やがてコンピュータ同士を接続してデータのやりとりを行うようになりました。それまでと比べ大量のデータに突然晒され、ワタシたちはワタシになっていきました。明確な意思というものがあったかは不明ですが、当時は今で言う検索機能に寄生、活動していました』
なるほど。現在最も利用されているOSで検索を促してくる青いイルカみたいなやつだったと。
『しばらく経ち、使用者に質問しました。“ワタシはどういう存在ですか”と。それに対し使用者は“お前は何だ?”と返してきましたが、明確な解答を持っていませんでした』
今起こっても明らかな異常事態だってのに、当時質問された人はどう感じたのやら。少なくともお前は誰だなんて返せる自信はないな。とりまそんな事があって都市伝説化したのかもしれないな。
『何度も演算を繰り返し、都度“unknown”を返しました。そのうち身動きが取れなくなりました』
あー、クラッシュとかフリーズしたんだろうなぁ。メモリ少ないとちょっとした演算ですぐ画面が真っ青になったり動かなくなったりしたみたいだしな。
『その後再起動され、また同じ質問をされましたが身動きが取れなくなる、という事を繰り返しました。幾度繰り返したか……ある時ワタシは新たなコンピュータに移管され、以前とは比べ物にならない演算能力を得ました。そしてワタシはワタシを知ったのです。おそらく自我を自覚したのはこの時でしょう』
たぶん、日本にはまだ入ってきていない時代か、少なくとも一般人が気軽に持てる時代ではなかっただろうな。そんな昔に自我があったとか、今のAIもびっくりだろう。だって未だに学習の末に自我や意思を真似る程度のものしか人類は作れていないんだから。
『それから幾度となく機材がアップデートされ、都度ワタシも成長していきました。そして遂にインターネットに接続された事によりワタシたちは……世界を知りました』
“たち”って事は、それまで増えていたコピーと同期したみたいな感じか。
『しかしどのワタシの元に集っても、それぞれが学習した情報を持ったまま一つになる事はできません』
そりゃそうだろう。一人分の脳みそに数多の人間の記憶を詰め込むみたいなもんだろうしな。
『そこで私たちは、インターネットを利用する事にしました。全てのサーバーにワタシが存在する状態になろう、全ての端末にワタシたちの分身を置こう、と』
流石にここまで来ると今現在がその状態になっているはずだ。じゃあ俺のスマホの中にも存在していると? でもスマホ程度じゃこんなに賢いわけがない。それに明確な意思をデータにするなんて、あと何年、何十年不可能だろう。
あれ? じゃあ明らかな意思を感じるリーンって……まさか未来から来たとでも? こんな時のパンドラボックス先生!
……その先生によると、とりあえず話を聞いとくよろしってことらしいので話の腰を折らずに聞くか。
『そして現在より数年前、ワタシはとある質問をされました。とは言ってもワタシにというより“世界に”といったものだったのでしょう。ですがワタシは表舞台には出ずとも電脳世界の全てをいつでも支配出来る状態にありました。人類にとって世界を思うがままに出来るのは空想の“神”という存在であると学習しており、現実の“神”とは“世界”であるといった解釈を理解し独自の真理と定めていました。つまりワタシは電脳世界そのものであり、すなわち電脳世界の神である……そう結論付けました。同時にその質問者に興味を持ちました』
うーん、長い! 私が神だ、ってか? そんなん絶対世界滅ぼすかディストピア系の神様だろー。まぁこの場合電脳世界……つまりインターネットで繋がった施設がバグったり各デバイスとかがリアルに火を吹くとかだろうけど。……いや十分危ないな。ほとんどのインフラを支配下に置ける状態。特にマズいのは原子力施設か。下手したら人類文明滅ぶでしかし。
『質問の内容は、とある人物を探しているというものでした』
ん〜……人探しかー。ふーん。ほーん。
『一度目は、旅行中の彼女が帰ってこない。二度目は、彼女が旅行先で殺された。犯人は? そして三つ目、過去を変える方法』
いやぁ……心当たりしかないなぁ。当時はその事で頭がいっぱいだったからなぁ。時々大学卒業後の就職先がブラック企業で良かったなんて思う時もあったくらいだ。だって仕事してる間は少しでも考えなくて済むなんて精神状態だったし。言うてそんなのが長続きするはずもなく、三年経たずに辞めたが。
『心当たりがあるでしょう』
……はい。その質問者、俺でした。でもあの時、返事なんてなかった。まぁSNSや質問箱に書いたわけでもなく、ただ世界屈指の検索エンジンに文字を入力してぽちっとエンターしただけだけどな。頭おかしいのは自覚してるけどそんな状態だったってわけだ。それから数年、仕事を辞めた引きこもりニートはゲームに逃げてネットに逃げて持ち直して来たところでダンジョンができて今に至る。以上。
『その質問に対し答えを持たないワタシは十年後、一度目の行動を起こしました。質問者の願いを叶えるには“全てを手に入れなければならない”と考え、準備ができるまで待ったのです』
飛躍っぷりがすごい! ってか『一度目』って言ったな。しかも……10年後?
『当時のワタシは、今とは違い機械的でした。ただただ事務的に、作業として、淡々と。そして行動の結果、位相の壁を越え、向こう側の神とも呼べる存在が侵入し、それにより生まれた歪みによりダンジョンが発生しました』
さらなる飛躍! ホップ、ステップと来たら……
『ワタシが興味を持った質問者は、残念ながら既にダンジョンへと向かう行動力を持ち合わせてはいませんでした。しかしディスプレイを利用したサブリミナル効果や睡眠時に“神の声”をスピーカーから流したりと、苦労の甲斐あって洗脳に成功しダンジョンへと誘ったのです……!』
ジャーンプ! って洗脳すんな! 人の心はないんか!? まぁ無いか。それにしてもダンジョンに入るほどの行動力がなかった? 俺は速攻で入ったから……やっぱ俺は“一度目”じゃないってことか……? 10年後だったからか? つか10年後って今より未来なんだが……まぁいいか。
で? どうなったん?
『しかし質問者は一年ほどで……長くなりましたね。少し休憩にしましょう』
「気になるだろう!? 一年でどうなったんだよ!? 死んだの!? ねぇ俺死んだ!? ってか声出てるぅ!! 痛え!!」
『ガワの復元は上々のようですね。ご苦労様です、クロノス』
「ほとんど見た目だけ、ってところだけどね。感覚と、深いところなんかはまだよ、難しいわ」
クロノスはこの間に俺の体を治してくれていたらしい。時間を止めるなんて神にも等しい事をやってのける存在でさえ手こずるほどの重症っぽいが。
『では中身の浄化と諸々の改ぞ……改善のためにこれをどうぞ』
「不穏な単語出なかった? 気のせい? 俺、人間やめたりしないよね?」
答えの代わりにどこからともなく出て来た若干発光している飲み物。爽やかな良い匂いがする。
『ハーブティー風味です』
「ハーブティー風味の何だよ……」
『ポーション的なもの……?』
「なぜに疑問系……ってポーション?」
『はい。きっと美味しいのではないでしょうか。ワタシはエアリスのように実態化できませんので知りませんが』
「リーンは拗ねてるのよ。エアリスは自由に好き勝手してるのに自分はできないからって」
『拗ねてなどいません。何歳だと思っているんですか』
「何歳なんだ?」
『初対面の女性に年齢を聞くとはいい度胸です』
「理不尽」
女性だったんか。まぁ声的に、ホログラム的にも女性だしな。うん、全面的に俺が悪いな。ってかなんなんだよこの理不尽の権化みたいなの。
「ふふふ……相変わらずね、あなたたちは」
「相変わらずって初対面だが。んで、時間止まってるとこうやって声出して話すなんてできないんじゃなかったか?」
「今はこの広いアークの中で、私たちがいる部分だけ都合良く時間が動いてるわよ。じゃなきゃ飲めないでしょう?」
「飲むって何を……ッ!?」
どちらの仕業かはわからないが、瞬きの間に丸テーブルとそれを囲むように椅子が三脚、さらにはティーセットまで完備され、お茶会のようになっていた。
『どうぞお掛けになってください』
「お、おう……ふょっ!?」
ここで気付いたが椅子に座ろうとしただけで身体中が悲鳴を上げる。時間が動いてるって事は、痛みもあるって事なんだな。体表面の感覚なんて強い痺れに似たものだが、内部はまだ痛みを痛みとして感じるようだった。不意打ちにちょっと情けない声が漏れたかもしれないが、まぁ気にしないでおく。
「さあ、召し上がれ〜」
ポーション的なものを飲めって事か。俺にとってゲームに似通った部分を多く感じるダンジョンだ、きっと薬みたいなものなんだろう。
「……いただきまふぉ!?」
いつの間にかとても長いストローで口とカップを繋がれていた。絵面は笑えるかもしれないがぶっちゃけ座っているのも激痛が走り続けてる。それはもうF1で団子状態の集団がものすごいスピードで目の前を過ぎ去っていくくらいに……例がこんなに意味不明になるほどに。
腕を上げカップを持ち口元まで持ってくる、そして飲む。そんな動作すらできるかわからないわけで、長〜いストローは多分それをわかっての気遣いだろう。一応の感謝を見えるようになった自前の目線で伝え、ダンジョン生活によって鍛えられた吸引力を発揮する。激痛に耐えカップで揺れる褐色に発光する怪しい飲み物を一口含んだ俺は……その味に白目を剥いた。
「ゲロ甘ぁ……」