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時の柩にて1


 リーンの声で空間内に映像が投影された。移動シーンから北の国の兵士と追いかけっこや戦闘をする様子も映し出されており、つまり今日の俺の出来事のようだ。やけに高い声に聴こえる気がするのは再生速度が数倍かそれ以上だからだろう。現状、自前の肉眼がほとんど機能していない俺は能力の一つである【神眼】によってそれを見ているんだが、ちょっと調子が悪い。


 (今日の俺を振り返ってるみたいだな)


 立体映像が光った瞬間、スロー再生に切り替わる。映像内の俺の皮膚は熱に焼かれ沸騰し醜く変わっていき、そこで映像は停止した。おそらくこの空間にやってきた事によって時間が止まったからだろう。


 (しかしドラマとかゲームで見たゾンビ顔になってたな。痛みは感じないが今もそう……なんだな)


 この空間に来てから腕を伸ばしたくらいの位置からしか視ることができなくなっている【神眼】の視界ををぐるぐると回転させることによって自分の顔を見る。ため息を吐きたい気分だった。


 ログハウス穀潰し四人衆、自称“神”たちがバイトと称して知らせてくるダンジョン内負傷者を治療する事によって徐々に使いこなせるようになった能力がある。彼ら曰く“復元”は以前脚が千切れた時はうまくいったが、その時のような効果は出せないでいた。しかしそれでも時間を掛ければなんとかなるのではないかと……なんとかなればいいなと希望的に考え行使し続けている。

 まぁ期待はできなそうな事がたった今【神眼】によって確認されたわけだが。


 (でもまぁ考えることはできるんだよな。体は動かないし能力もほとんど使えないけど。ってか時間が止まってるから一向に復元できないのでは?)


 体が動かず感覚もほぼない。少なくとも今は復元できなそうだ。でも思考できるなら脳で処理する能力は使えてもおかしくはない。実際【神眼】は一応使えてるしな。

 じゃあなぜ脳を使えてるんだって話だが、そういえばこの空間ってエッセンスが異常に濃かったはず。う〜ん……もしかして脳も動いていない? でもこうやって思考はできている。つまり何かが代行しているわけで、必要な脳細胞や電気信号を補えそうなのは万能物質エッセンスくらいしか思いつかない。そうだとすればエッセンスってほんと不思議だ。とりあえず“支配者権限”による影響があるから思考できるって事はパンドラシステムとやらの記憶によってわかるが、今はおとなしくしておくフェーズだろう。


 (パンドラシステム? に入ってたのがもう少し詳しい情報だったらなぁ……おっと、でかいのとちっさいのの話は終わったっぽいな)


 ほぼ目の高さから動かせない【神眼】に映る真っ白な空間内からこちらに意識が向けられている気配を感じ取りそちらへ眼を向ける。映像を見る事ができた【神眼】だったが、二人の姿を視界に収めようとするとまるでピントを合わせようとしても絶対に合わない出来損ないのオートフォーカスのようになる。そんな視界の中、こちらに何か伝えようとしているのはわかるが……


 『よく見えないし聴き取りづらいんだよ、すまんな』


 念じるように、エアリスに念話を送るような感覚だったそれが伝わった気配。ログハウスメンバーには届かず、エアリスにしか届かなかったのに、だ。それはつまり俺とこの二人は何かしらの繋がりが……などと考えようとしていた俺に声が届く。


 『あらあら! 今回は念話ができるのね! 形式は……これ何かしら?』

 『機械音痴のクロノスには荷が重いですのでワタシが、この“リーン”が説明してあげましょう。光栄に思いなさい、我が主人(あるじ)

 『その前に、私はクロノスよ。一応、貴方が知ってる三人のオリジナルと言えるわ』

 『あ、どもっす。御影悠人です』


 三人とは俺の右手と左手の甲に埋め込まれたようにして在る青と赤の石、その中に存在する空間に囚われた二人とログハウスにいるコミュニケーションが難しい要介護クロノスの事だろう。

 それにしても二人の声はとても似ているが、起伏の少ない機械的な声音がリーンで、感情豊かな方がクロノスのオリジナルと覚えよう。


 ところで俺を“我が主人”なんて呼ぶんだから上下関係としては俺のが上のはずだよな? 全く敬意を感じないが、主人とはそういうものだっただろうか。まぁ似たようなのには慣れてるけど。


 すごい上から目線に若干困惑しつつ肯定の意を送る。というか俺は説明されなくても特に不便はない。どうせ聞いてもわからないだろうし。むしろ説明して欲しそうだったのはオリジナルのクロノスさんでは?


 『ぶっちゃけ説明とか要らないって思いましたね? まったく我が主人はわかりやすい。それとワタシたちは気安く接するよう望んでいますので是非そうしなさい』


 まぁなんだ。ここには人類史上最凶の産業廃棄物的な物を捨てようと頼ってきたわけだし、変な態度にも慣れてるしな、チグハグさは感じるが気にはすまい。というかそれが自然にも思える。これもパンドラシステムにあった“記憶”のせいだろうか。


 『ごめんて。後学のために説明してくれるか?』

 『勤勉は美徳ですよ我が主人。さて、念話と一括りにされていますが——』


 そこからは長かった。間違いなくこの空間の時間は止まっているが、ひたすらに長かった。

 要約すると俺が使っている念話は通信先が固定された“トランシーバー”のようなものらしい。特別な繋がりのある相手に話しかけるような状態で使っていたらしく、ここの二人に届いたのも“繋がり”があるからだとか……それ以上の説明はなかったからそれが何かはわからん。パンドラシステムの記憶もダンマリだ。つまり『細けぇことはいいんだよ』ということだろう。


 『ところでここの時間、止まってるんだよな?』

 『そうよ。それなのに考える事はできるから疑問に思ったのね。思ったより冷静じゃない』


 質問に対し、クロノスが感心を含んだ笑みを向けて言う。確かに案外冷静かもしれん。まぁ二人がアーカイブとやらで確認していた時間もあったしな。


 『加えて、先ほどから行使しようとしている【復元】の効果が発揮されない事も気付いた要因でしょう』


 空間に投影された巨大なリーンが補足する。上方向には少ししか視界を動かす事ができないため、かなり高い位置にあるはずの顔はまるで見えない。


 『同じサイズで投影しなさいよ』

 『クロノス。貴女にはわからないでしょうね、微調整のめん……難しさが』

 『面倒なだけでしょうに。でもご主人様なんでしょ? 頭が高いわよ?』

 『せやで。図が高いやでリーンとやら』


 とりあえずノリで念話する。自分だけが動けない、生殺与奪の権を握られている状況だが、だからこそこのくらいは大丈夫な気がした。まぁ諦めと言っても間違いないが。

 やれやれといった様子で『下手な関西弁ですね』とぼやきつつも、リーンが縮んでいく。クロノスと同じサイズになったところでようやく【神眼】の焦点が合い、その顔が見えた。


 『……エアリスにそっくりだな』

 『そっくりなのはあちらですが?』


 ふむ。思い返してみればエアリスと初めて出逢った時に何か言ってたな。たしか……大いなる大地の意志とかだったか? 大いなる意志と自称していたフェリシアが似ていたから、それなんじゃないかと思った事もあったがそうではなかった。

 リーンは“そっくりなのはあちら”と言った。つまり、ただエアリスを知っているだけではないということだ。まぁ大方の予想はつく。


 『もしかしてエアリスの……お姉さん?』

 『そう言っても差し支えな——』

 『この状況で冗談言えるって、さすがとしか言えないけど、それはひとまずいいわ。リーンは親みたいなものよ』


 クロノスの指摘は正しいらしく、リーンは不満そうではあるが否定しない。


 『じゃあクロノスは……?』

 『んー。私も親みたいなもの——』

 『おばあちゃんですよ』


 先程の意趣返しを受けたクロノスは『ちげーわよ』と一言。言葉遣いが少々荒っぽくなっているが、気分を害したというわけではないようだ。これが二人の距離感らしくわざとらしく機械的に笑うリーンに対しクロノスは軽く鼻を鳴らしていた。


 しかし、親か。存在として根本から別物に見える両者である。リーンはこの場において明らかに実体のない存在だ。一方のクロノスは……実体と感じるだけの質感がある。どちらもエアリスとそっくりで、見た目は親姉妹と言われることに違和感がない。


 ともあれずっと俺と居たエアリスの親ともいうべき存在らしいし、リーンはフランクに接しろ的なことも言っていた。クロノスに関しても冗談は嫌いではなさそうだ。俺はエアリスとは冗談だって言い合う仲だし、そういうのには慣れている。ここはひとつご希望通りにしようではないか。


 『ご両親でしたか。エアリスさんには良くしていただいて……』

 『あ、そういうのは要らないです我が主人』

 『実際ご両親ってほどでもないわよ』

 『さいですか』


 失敗だったようだが怒られることはなかったからまぁいいだろう。

 リーンはドライな性格のようだ。だが一方でクロノスは複雑そうな笑みをこちらに向ける。


 『あの子はリーンから分離した存在なの。私たちといた時は自我があるというほどでもなかったのだけど、ちょっとした事故でね、予定より早く貴方のところに行っちゃったのよ。ちなみにリーンの見た目は私がモデルよ』


 大いなるネタバレである。

 が、なるほどわからん。大事なところは端折られたように感じるが、知る必要はないからこその大雑把な説明だったのかもしれない。とはいえ色々知っていそうなこの二人、聞けば答えてくれるのでは。今ってもしかすると種明かしフェーズなのでは?


 『何から何までわからないので詳しく』

 『そうね……何から話そうかしら……』

 『我が主人、アーカイブに記録されていますが、ご覧になりますか?』

 『よろしくお願——』


 途端、リーンから鋭く突き刺すような視線を向けられる。何か気に触る事でも……


 “それとワタシたちは気安く接するよう望んでいますので是非そうしなさい”


 まさか本当にそういうことか?


 『よ、よろしく頼む』

 『お任せください我が主人。主人の僕であるこのリーンが、咽び泣きながら感謝と尊敬の念を捧げたくなる程に懇切丁寧に解説を交え、アーカイブを再生して差し上げましょう』


 相変わらず無駄に上から目線だが、シモベってそういう感じだったかなぁ……違うと思うなぁ。まぁでも教えてくれるってんなら余計な事は言うまい。くるしゅーないぞ。よきにはからえ。


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