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非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
2章 ダンジョンで生活してものんびりしたい
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 今日も今日とて目覚めがいい。ただし何か忘れているという違和感を除いてはだが。体を起こすと、先に起きていたであろう軍曹はすでに部屋にいなかった。自衛隊の朝は早い、ってやつか?


 (おはようエアリス)


ーー おはようございます、マスター。今日の目覚めはいかがですか? ーー


 (とてもいいよ。身体が軽い気がする)


ーー それはよかったです。ワタシのメンテナンスは万全ですからね ーー


 (お、おう。それは、ありがとう)


ーー ふふん。悠里様や香織様、新たに加わった店長、おまけにあの軍曹にワタシのメンテナンスを真似することなどできません ーー


 (軍曹はマジ勘弁。ところで昨日のCHAのことだけど‥‥)


ーー 101だったCHAを30にし、71ポイントを保留してあります ーー


 (おっ! じゃあそれを他に割り振ろう!)


ーー ご機嫌ですね? ーー


 (なんか得した気分じゃん)


 小さなお得感を味わっていると、実体がないはずのエアリスから庶民を見下すかのような視線というか雰囲気を感じ取ったが、そこは無視する。エアリスはわかっていないのだ。一人暮らしをしているとき、スーパーの特売品がどれだけ俺を助けたか。CHAについても似たような感覚があり、高い状態を維持すると大変な事態になりそうだが、それを他に割り振ればいい。それが意図せず手に入ったというのはお得感があってもおかしいことではないのだ。



御影悠人ミカゲユウト


Grade 2


STR 100

DEX 110

AGI 110

INT 100

MND 120

VIT 120

LUC 123

CHA 30


能力:

真言 (ユニーク+)


権限

支配者 No. 5 No. 6 No. 10 No. 15 No. 20




ーー この割り振りにはどういった意味があるのですか? ーー


 (防御って大事だと思うんだよ。たぶんこういう感じなら良さそうかなって思っただけだけどな)


ーー はい。昨日の件もありますし防御はいくらあっても良いですね ーー


 (昨日は特に問題なかったけど、次なにかあったらどうなるかわかんないしな)


ーー それと『CHA』、『支配者権限』がステータスとして反映されているのは『Grade』が関係していると思われます。しかし『Grade』がどのような条件で発現しているのかは不明です ーー


 (そっかそっか。まぁステータスのボーナスをゲットできて儲かったってことで。何かわかったら知らせておくんなまし〜)


ーー マスターのステータスを上昇させるために必要なエッセンスの量が増えてきたので確かにお得感がありますね。しかし先ほどマスターは『小さなお得感』と仰いましたが、エッセンス換算では軍曹に与えた分よりも断然多いことから大きなお得感が正解かと。『Grade』について何かわかったらお知らせいたします ーー


 (それはいいとして、なんか忘れてるような気がするんだよ)


ーー はて? なんでしょう? ーー


 なんだろな〜とボヤきながら、銀刀 ver. 2を鞘から抜いて眺める。う〜ん、実に綺麗な刀だな。反りはほぼ無く、白に近い銀色の刀身は淡く青い光を放っているように見える。その波紋は滑らかで、眺めていると心が落ち着くような、吸い込まれるような感覚に陥る。ちなみに時代劇等で見る大きな鍔はなく、握った手と同じくらいの高さの小さなものがついていて、それにより持ち手が滑って刃に触れることを防止している。

 普通の日本刀のようなつばがないのは、刀同士で打ち合うような場面を想定していないので必要性を感じないからだ。それはつまり対モンスター用で人を相手にするものではないということでもある。そもそも刀で鍔迫り合いなんてしたら刃が欠ける不安もあるし、長刀ではあるが居合用だ。当然長いのは人より巨体である事が多いモンスター相手に役立っている。実用性を考えた造りであり、一刀で斬り伏せることを目的としているため鍔でお洒落したりといったことも必要ない。


 銀刀を眺めることに夢中になりそうな気持ちを抑え、小型化され収納されたモンスター素材等のドロップ品を確認していく。ふとひとつの素材に目が止まる。


 (これは……)


ーー 翼膜ですね ーー


 何を忘れていたのかようやく思い出した。なんやかんやあって機会を逃してたんだよな。


 (そういえば翼作ろうっていってたよね?)


ーー はい。ですがこれまでタイミングがありませんでしたね ーー


 (今できるかな?)


ーー はい。現在6:40ですので時間はあるかと ーー


 (じゃあ俺はイメージだけするから、それを参考にやってくれ)


ーー わかりました。作成を開始します ーー


 (翼のイメージ。いめ〜じ。やっぱなー、かっこいいのがいいよなー。かっこいいといえば、ドラゴンとか悪魔とか天使は外せないよな。あっ、でも天使ってなるとやっぱ鳥の羽的なものが必要になるか。そんなもん持ってないし、羽根ならなんでも良いわけないしな。羽毛布団の中身じゃ暖かいだけで飛べないだろうし。となると、ドラゴンか悪魔か。そういえば、そもそもどうやって浮くんだろうな)


ーー 説明しますか? ーー


 (いや、いい。だってそんなの聞いてもどうせわかんないし)


 体感では数時間が経過した頃、不意に身体が自由になる。すると目の前に香織が正座してこちらを見ていた。閉じた内開きのドアには悠里がもたれかかって、他に人が入ってこないようにしているようだった。


 「悠人さん? 大丈夫ですか? 何やら呪文のようなものを口走っていましたが…」


 「あ、あぁ、大丈夫。ちょっと作業中でさ」


 「大丈夫だって言ったんだけどね。やっぱ初めて見ると、それ、危ない人だよ」


 「あはは…ちょっと不用意だったかも」


 「それで? 今度は何を作ろうとしてたの?」


 「翼」


 「え?」


 「ちょっと風を感じたくて」


 「真面目に答えなさいよ」


 そんなにふざけていただろうか? いや、風を感じたいという理由が不真面目なわけないだろう。たぶん、きっと。


 「空とか飛べたら色々便利そうだし、かっこいいなぁ〜……なんてね?」


 「真面目にって言ったよね…?」


 「ほら、こういうことだって」


 悠里にスマホの画面を見せると、そこにはエアリスの弁明が表示されていた。

 21層へ行って上空から偵察できないかと考えていたところ、プテラノドンに似た鳥とトカゲが都合よく混ざったようなどことなく飛竜を連想させるモンスター、レッサーワイバーンに出会ったこと。それを倒して得た翼膜を使って翼を作ってみようということになっていたが、タイミングに恵まれず今に至ることをつらつらと事細かに説明している。悠里に対してあまり強く出られないように感じているエアリスにとって、悠里に対しては本気で対応しなければならない相手なのだ。なぜかはわからないが。


 「はぁ。ほんと考えることがゲーム脳だよね」


 「魔法少女に言われたかねー」


 「……え? なに? もっかい言ってみ?」


 「ナニモイッテナイ。キノセイキノセイ」


 「悠人さん、飛べるようになるんですか?」


 「一応その予定だけど…」


 「では次はドライブデートではなく、空をデートできるんですね!」


 「いやいや、それは危険なのでは。それに車もでぇとじゃなかったですよね?」


 「デートじゃなかったんですか‥‥?」


 白いブラウス越しでも存在感を放つ胸の前に手を組み、潤んだ瞳で上目遣いで迫られる。こうかはばつぐんだ!


 「でーと、だったかもしれないかもしれないかな〜……ははは…」


 「では次はお空ですね! 楽しみですっ!」


 20層で初めて会ったときのクールな清楚系お嬢様から、別れる頃には暴走系お嬢様へと変貌した香織の扱いは未だわからない。まぁ出会って数日程度なのだから仕方ないといえば仕方ない、そう自分に言い訳をする。でもこの押しの強さはいろいろとドキッとさせられて、これが世に言う『タジタジ』というやつかと一人納得する。


 「大変ね〜」


 「そう思うなら助けれ」


 「だから無理だって。それに嫌じゃないでしょ?」


 「ま、まぁな」


 小声でのやり取りは「お空〜」とウキウキしている様子の香織には聞こえていないようだった。そうじゃないと目の前でそんなやり取りはしないだろうけど。


 作業は中断してしまったが、翼の骨組みはできている。折りたたまれたその骨格を広げてみると…でかい。両手を広げても片翼にも満たない。両翼を広げたら4メートル以上はあるその骨格は、ゲームで馴染みのあるドラゴンというよりは鳥の骨格に似ている。根元から先の部分まで4指あり、通常風切羽根があるあたりにも2本だけ柔らかくて折れにくくされたミスリルの骨があった。しかし軽い。一番太い部分を曲げようとするが、一応STRは100にしてある俺の力でも本気を出さなければ曲がりそうもない。


 「でかっ…」


 「悠人、一体どこに向かってるの?」


 「え、空?」


 「いやそうじゃなくてさ」


 方向性の事かな? でもやっぱこういう普通と違うことができるならそれをしない手は…あ、そうか。普通はこんなことできないんだった。ダンジョンに潜っても飛ぶなんてことはできないし、武器を作るなんて通常では不可能だろう。しかも銀刀の材料にしているミスリルだって、【真言】で命令をすることで望んだ形に整形している。このままでは”人間“という枠を飛び出してしまい兼ねない。とは言ってもそれがダメってことは全然なくて。むしろそれはダンジョンを進むためには有利なことであって、誰に文句を言われることでもないような気もしている。


 「まぁ好きにすればいいと思うけど。あんまり目立つと困るのは悠人でしょ?」


 少しだけ俺を批判しているのかと思ってしまったが、悠里は俺を心配してくれてるのか。実際悠里が言うようにこのままでは目立つことは間違いない。それは勘弁してほしい。でも俺が『良いなぁ』と思うことは、エアリスがいろいろ作ってくれることもあって現実離れしたものが多く、そんなものを公開してしまえば自分の首を絞めることになり得る。だが俺は思った。目の前にすでに手遅れ、もとい有名人がいるじゃないか、と。


 「いざとなったら、雑貨屋を全面に押し出す感じでどうでしょう?」


 「悠人にはお世話になったし、いざとなったら、ね。でも目立たない努力くらいはしてよね? 昨日の爆発だってあまり知られない方がよさそうなことなんだから」


 「そうなのか? 実はそのくらいできまーすっていう人、案外多いかもしれないじゃん?」


 「そんなわけないでしょ。歩く爆弾が普通にいたらたまんないわよ」


 「ひどい言われようだけど、改めて常識的に考えたらただの危険人物としてしか見られなそうだ…」


 歩く爆弾と言われても反論できないな。何も持たなくてもあの爆発を起こすことくらいならできるみたいだし。目撃者もたくさんいるし、あとでその件について口外しないように改めてお願いした方が良いだろうか。


 「誰も見てないところでならいいかもしれないけど、少しは自重したほうがいいよほんと」


 「香織の前では自重しなくても大丈夫ですからね!」


 「香織は男をダメにする女だったのね‥‥」


 悠里も知らない事実を知ったところでエアリスの声が聞こえた。


ーー 翼の仕上げをしてもよろしいですか? ーー


 (あぁ、頼む)


 親友同士の二人が話しているようなので再び体をエアリスに使わせる。あとは期待しながら待つだけだ。


  「悠人さんがまた独り言を……」


  「始まったわね。一体どんな翼になるのかな」


  「さっきはあんなこと言ってたのに、実は悠里も楽しみ?」


  「興味はあるかな。悠人がかっこいいと思ってるものなんだろうし、たぶんゲームで見たドラゴンとか悪魔とかそういうものなんだろうけど」


  「へぇ〜。やっぱり付き合いが長いだけあるね」


  「十年も友達やってればね。会ったのはついこの間だけど」


  「その点で言えば差はないから勝機はある…!」


  「……だからそういうんじゃないから〜!」


 (なんだか外野が騒がしいな。つっても思考以外ほぼ全てエアリスに使わせてる状態だから何を言ってるかまでは聞き取れないけど。とりまかっこいいのがいいよなー。となるとやっぱりアレかな)


 イメージを固めそれをエアリスが汲み取る。想像するのはシリーズが未だに続くファンタジーゲームに登場する伝説の召喚獣の翼だ。骨格がドラゴンというよりも鳥に近いのでまったく同じにはならないだろうが、色や雰囲気は似せてくれるだろう。


 「だんだんできてきたね。あぁ…やっぱりこういう感じか〜」


 「これは何かのゲームにあったもの?」


 「香織はゲームとかほとんどしてないもんね? この翼はシリーズ化されてるゲームに出てきてたんだけどね、全シリーズやってるらしいよ。私はその中の2つしかしたことないけど。でも雰囲気はそれっぽいけど、ちょっと違うのかな‥‥?」


 「これは‥‥羽根のない鳥? 蝙蝠?」


 身体の感覚が戻ると、目の前には黒く見えるほどの深い青か紫の色合いの革で覆われた骨格、大気を掴み易そうな大きく広い翼膜の部分はそれよりも厚みが薄いこともあり、若干光を通す。


 「おぉ…禍々しい」


ーー どうでしょう? 基本的にワタシがサポートするので、装着すればマスターの意志通りに動くような感覚になるかと。風切羽根の部分は、姿勢制御がしやすいように加工したミスリルの特徴である軽く柔軟なことを利用し羽根に似せたものを骨格に沿って配置しています。しかし色も同色にすることでよく見なければその存在に気付かないと思われます。しかし次回の製作または改良の際は、羽根は必要なくなる予定です。骨格もよりお望みのものに近付けることが可能になるかと ーー


 (なるほど。よくわからん。とりあえずドラゴンとか悪魔とかそれっぽい感じの色と質感になってるね。プロトタイプでこれなら十分すぎるだろ。ぐっじょぶエアリス!)


ーー はい。もっと褒めてくれてもいいんですよ? ーー


 (よーしよしよしよし‥‥‥)


 脳内会議は某動物王国の建国者流のよしよしで幕を閉じた。


 出来立てホヤホヤの翼を早速装着してみる。接続部分は、コートの下、鎖かたびらと癒着させる形だ。それによりコートの背中部分に小さなスリットを入れることをエアリスは忘れていない。小さなスリットで間に合うのは、小型化させるから。第1指の根元にある接続部の関節の部分に折り畳んだ第1指から4指までを小型化して収納できるようになっている。収納している間は見た目にも違和感はなく、展開すればスリットから翼が飛び出す、といった具合だ。


 「悠人、これで本当に飛べるの?」


 「わからん。エアリスに任せっきりだし。でもぶっちゃけ飛べなくてもいいと思ってる。かっこいいし」


 「それじゃ本末転倒でしょ。裏に行って実験しよ!」


 「お、おう? やけに乗り気だな」


 「べ、別にそんなに興味があるとかじゃないけど。せっかくだからよ、せっかくだからっ」


 悠里がなんだか楽しそうで、ちょっと子供っぽいところもあるんだなと思った。

 しかしその様子から自分にも欲しいと言い出すかもしれないと思ってもいた。それを使うことができるならやぶさかではないんだが、俺にはこの翼だけでは空なんて飛べないだろうと思う。


ーー 浮遊、飛行が成功した場合、催促される確率は99.7%です ーー


 (十分信頼できる確率すぎる。でもこれってエアリスのサポートなしじゃ飛べないんだろ?)


ーー 現状ではそうですね。仮に悠里様が装着した場合、翼を開くことすらできません ーー


 (もし催促されても断るしかないな)



ブックマークありがとうございます。感謝です。

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