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上海調査2

最初の方にあった情事的な話を10枚重ねくらいしたオブラートに包んだ文章に置き換えたい願望があったり


 「俺たちが狙われる理由……」


 ペルソナが俺だって事を知っているならわかる。北の国上層部にとってペルソナは、いずれダンジョンに侵攻する上で邪魔だろうしな。でもペルソナが俺だってことを知っていて北の国に属しているのはクララだけだ。彼女が誰かにそれを話すとは思えないし思いたくもない。

 ペルソナと俺が別人だと思っている場合、人目があるとはいえ攻撃をせずに追跡だけに留めていることの意味は、人目に付かない路地裏なんかに行くのを待っているか、それとも誰かを釣るための餌として泳がせているか。そしてその誰かというのは、俺にはペルソナしか思い浮かばない。ペルソナを釣り上げたいなら俺が餌として最も有効と考えるのも無理はない。何故なら『御影悠人はペルソナを気軽に呼び出せる』と海外を含めた世間では噂になっているという話を迷宮統括委員会(ギルド)の統括が言っていたからな。


 そもそもクラン・ログハウスは魔王の一件を発端に、北の国軍どころか20層草原に集まった軍を持つ世界中の国からのヘイトがあるかもしれない。あの時魔王としてダンジョン内の権利について差配した小夜(さや)は、その一件が始まる以前から勝手に住み着いていたクラン・ログハウスが実質支配していると言える地域について不問とする契約をペルソナと結んでいる。そのおかげで魔王による一方的な蹂躙が集結し軍人たちにほぼ人的被害がなかったとはいえ、ダンジョン利権を欲していた各国上層部にとって目障りな存在だろう。

 実際は俺たちの自作自演だったわけだが、一人勝ちの状況を作ったログハウスの排除に動いてもおかしくはないかもしれない。排除したからといって権利を奪えるわけではなくとも、だ。

 軍隊が侵攻しダンジョン内で人間同士の戦争が始まるのを防ごうと考えたあの時はそれが一番丸いかとも思っていた。ダンジョンは魔王の領土とし、各国の領有は認めないとしながらも魔王よりも先住のログハウスは自由に土地を使って良いとなったのだ。ペルソナはログハウスのメンバーとなっていて、魔王と戦闘をして引き分けた事への報酬にような扱いとはいえ、今となればちょっとやり過ぎだったかも……と思わなくもない。

 でもペルソナが戦闘を見せた目的の一つは、エテメン・アンキにある闘技場とは別の地下、魔王城にいる魔王(小夜)を満足させたり打ち倒せたりできれば領土を得る事も可能ということの宣伝だ。それが可能かどうかは別として。

 現状それは難しそうに思えるから別の方法で……と考えた場合、標的が変わってもおかしくはないように思う。クラン・ログハウスの社長は悠里だが、エテメン・アンキの権利を持ち、傘下を加えたグループとしてのトップは俺だ。つまり五人の追跡者の狙いは……


 「俺かぁ」

 「おぉ! おにーさんのファンっすかね!?」

 「ファンならサイン書いて追い返すけどな」

 「サインあるんすか?」

 「……ないっすねぇ。【神眼】がこんなだから【転移】もちょっと自信ないしなぁ」


 サインなんて練習してないし考えてない。そもそもそんなもので帰ってくれるとは思えないしな。じゃあ実際問題どうやって対応しようか。

 『消しますか?』などと物騒だがちょっと魅力的に思えるエアリスの提案は却下する。消す、というのが記憶なのか命なのかは別として、もしそんなことをすれば今は杏奈もいるしリスクが大きい。それにたとえ杏奈がいなくとも、俺がここにいるという情報自体は追跡者たちの裏にいるだろう指示役には知られているはず。さらに【神眼】が阻害されているような感覚がどうにも気掛かりだ。

 実際のところどういう理由(つもり)なのかは聞いてみないことにはわからないけど、こちらから手を出すのはよくない。あっちから手を出されても出来るだけ穏便に済ませたい。穏便に、というのはさすがに無理があるだろうか。


 うーん、腹括るしかないかな。いざとなればほとぼりが冷めるまでダンジョンに引き篭もればいいし、いくらなんでもいきなり日本にミサイル発射なんてしないだろう。そうなると……そうだな、逆にこっちが釣ってみるか。


 なぁエアリス、俺に化けられるよな?


 —— 可能です ——


 じゃあ……


 三人で作戦を共有し、人気のない裏路地へと入る。そこでエアリスが顕現し俺の姿をとった。同時に俺はペルソナへと換装し【不可視の衣】を発動、姿を消したままその場から離脱した。


………

……


 「行っちゃったっすね」

 「はい。杏奈様、ここを抜けて上海港へ向かいましょう」

 「おっけーっす。でもエアリス、せっかく姿がおにーさんなんすから、それっぽく話して欲しいっす」

 「……わかった。それじゃ杏奈、行こうか」

 「良いっすね良いっすねぇ〜!」


 ワタシはご主人様の姿をとり、腕に絡みつく杏奈様と共に追跡者を引き連れたまま港に向かう。丁度日本からの支援物資運搬船が停泊しているので、それに乗り込む。追跡者がどこかに連絡をするならそのタイミングでしょう。ワタシはそれを傍受すればいい。


 一方ご主人様はペルソナの姿を晒しながら北京方向へと向かう。もしもペルソナ=御影悠人と知れていたなら同時に発見されれば動揺を誘えるでしょう。それにより相手がどの程度の情報を持っているか、今回の目的等がはっきりとすることでしょう。


 「そろそろっすか?」

 「……傍受開始します」

 「おにーさんの狙い通りっすね」


 予想通り始まった通信は短波通信。全時代的な通信手段に回帰しましたか。しかしそれでどうにかなると思われているのは少々癪に触りますね。

 内容をご主人様と杏奈様に口頭で伝えるよりもリアルタイムで日本語化して端末に共有することを選択します。


 『こちら第100、対象推定御影悠人、メンバーの女は輸送船に搭乗した』

 『了解。観光か?』

 『こんな時世にとは思うが、奴らは成功者だ。現在一般的な船や飛行機では上海に来られない以上、輸送船での渡航もあり得る』

 『しかしメンバーと二人でというのが腑に落ちん。そもそも妻がいるはずだろう?』

 『妻はいない、いいな?』

 『カオリという女はたしか——』

 『彼女は妻ではない。断じてない! 俺は詳しいんだ!』

 『わかったから落ち着——』


 『こ、こちら第14! ペルソナが現れたぞ!』

 『了解。第2、お前達の勘は当たったようだ。女はブラフだ。御影悠人は目的をもって上海に現れた。ペルソナが北京に向かうルートに現れたとなると接触はすでに済ませているだろう』

 『こちら第2。俺は力を得た。引き篭もりのイポンスキーなぞ恐るるに足らん』

 『了解。第14、第2、行動を開始せよ』

 

 

 攻撃を予期し杏奈様と共に陸地から見えない場所に移動、周囲を警戒すると同時、遠くから二発分の銃声が聴こえました。おそらく狙撃銃による射撃、狙いはペルソナとなったご主人様のようです。一般的なヒトとは違い、今のご主人様にとってその程度問題にもならないでしょう。ペルソナの衣装はただの布ではありませんし、そもそも……ほら、すぐに対応していますね。


 『初撃は防いだ。しかしこいつらどっから湧いた?』


 手に付いた埃を払うかのような音がイヤーカフから聞こえ、銃弾を叩き落としたのだろうことが窺えました。さすがワタシのご主人様です。


 「数は多いのですか?」

 『まだ【神眼】がうまく機能しなくてな……でも建物の陰とかわかるだけで百はいる』

 「こちらもそのくらいはいるのかもしれませんね」

 『だろうな。こっちはなんとかするからエアリス、杏奈を守れ。ある程度引き付けたら先に帰って良いから』

 「わかりました。ご武運を」


 先程の通信による部隊数と人数に違和感がありますね。それぞれの部隊からこのために編成されたのでしょうか。そうであれば用意周到と言わざるを得ず、他にも伏兵がいるかもしれません。ご主人様と離れてしまっているワタシが【神眼】を代行したとして本領を発揮できないでしょうし、事実、こちらに殺意といえるほどに強く意識を向けているヒト以外を捉えられていません。まあ、それならそれで音を拾えば良いでしょうし、多少増えたところで許容範囲でしょう。なにせワタシは強いので。

 ご主人様への狙撃の際、こちらも同時に狙われていた可能性はありますが、射線が通っていないため撃てなかったのでしょう。確認のために敢えて撃たせ、情報を得るべきだったでしょうか。


 「で? 来るやつ全員ぶっ倒せば良いんすかね?」

 「いえ……いや、ここは俺がやる」

 「まーそっすよねー。【神言】で一発っすもんね」

 「【神言】は……距離が離れすぎて使えないな」

 「え、おにーさんの近くにいないとダメだったんすね。初めて知ったっす。じゃあどうするんすか?」

 「今のワタ……俺は能力がないのと変わらないが、能力というのは極論を言えばエッセンスの操作能力だ」

 「ふむふむ」


 ふむ。こういった事を誰かに話すのは初めてですね。これまでは“アーク”に存在する“ダンジョンの意思”によって制限されていた事柄ではありましたが、何かの拍子に制限が緩んだのでしょう。


 「得意な操作には個体差がある。それが腕輪を得た際に能力として表れる。杏奈様なら『空気を読み周囲に目を配れ自らがその場を支配する可能性を持ち、それを自らも強く望んでいる』といったように」

 「それをエアリスが読み取って能力名を【空間把握】なんて付けたりしてたんすか」

 「お告げのように降ってくるのですが大体そうで……だ」

 「ふ〜ん。じゃあいくつも持ってるおにーさんってやっぱ凄いんすねー。で、エアリスは実際のとこ、どういう能力持ってんすか?」

 「能力はヒトにのみ与えられる予定のモノ。よってワタシにはあり……ない」

 「あるのかないのかそこんとこ……わかったっす。大人しく聞くから睨まないでほしいっす」

 「……エッセンスの操作そのものは得意だが、それでもご主人様が傍にいなければ現実の現象とするのは難しく、一度につき数秒かかってしまう」

 「その言い方、思わせぶりっすけどなんかやるんすか?」

 「創る。今回は……悠里様をマネてみま……る」

 「そんなこともできるんすね。ところで口調が怪しくなってるっすよ。あとその顔で様付けで呼ぶの違和感しかないっす」

 「そこは大目に見てもらえませんか?」

 「しょうがないっすねぇ」


 能力としての現象を設定、現実に反映するための許可を“アーク”に申請……獲得。鍵とするのは言葉でいいでしょう。その言葉は——


 「エアリス、大勢来るっすよ」


 少しの思案を邪魔するかのように無粋な大勢の足音が輸送船を取り囲むように近付いていますね。どこに隠れていたか先程感知していたよりも多くの武装した男達が迫っていて、船上であるここに逃げ場はありません。そういえば先程までと違い人数から武装までわかるのは杏奈様の能力が干渉しているのでしょうか。見れば杏奈様の眼が薄らと光を帯びています。おそらく能力が成長し、【空間掌握】とでも言えるモノになっているのではないでしょうか。おそらく今の杏奈様であれば、銃弾を認識することも可能でしょう。

 とはいえダンジョン内とは違いここでは銃が十全に威力を発揮します。念のため杏奈様には物陰に隠れていていただきましょう。

 その気になればすぐにでも処理が可能ではありますが、ご主人様は未だ殺害に対して忌避感をお持ちのようですので慎重に手加減を心掛けねばなりませんね。映像で記録される可能性も否定できず、その場合後々問題になるかもしれません。ヒトの社会とは面倒なモノです。


 硬い靴底であろう足音が止み、コンテナの陰からこちらを覗き見ているようです。次の号令で制圧にかかるつもりでしょう。ですがそれは不可能というもの。どうやらあの通信機は年代物、すぐに壊れてしまうでしょうから。

 さて。気合を入れて手加減し、不殺で制圧して差し上げましょうか。つきましては敵の皆様、頭上と足下、そして急な気温の変化にご注意ください。くれぐれもうっかり命を手放しませぬようお祈り申し上げます。


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