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御影航空の暗躍2


 注意して見れば輪郭部分に極々微小な歪みが見えるかもしれない程度の不可視化状態での移動だ。普通に考えて人間がそれを捉えることは不可能にも思え、各種レーダーにも捕捉されないことは人知れず検証しているので確実。にも関わらずドーム内のモンスターたちはしっかりとこちらに視線を向けていた。考えられるのはエッセンスやそれにまつわる何かを感知しているということだが、その検証と対策は後回しでいいだろう。単純で確実な方法として高度を上げ、刺激しないように移動しているとやがて遥か向こうに海が見え、陸伝いに南方へと目を向ければ上海市が見えてくる。

 【神眼】によって遠方まで確保された視界の一角には高層ビルが立ち並び、この国におけるまさに経済の中心といった光景は圧巻の一言。もっと高度が低ければ、海を背景にビル群が建ち並ぶ光景が見えただろう。


 だがまずは目下の街、北京。上海が目的地だが、少し見ておいてもいいかもしれない。この街はドームの端付近らしいが、どこが境界なのかはまだわからない。


 「キタキタキターっす! 久しぶりの生きた文明っすよ、おにーさん!」

 「久しぶりって……こっち来たの昨日じゃん」

 「とりあえずおりてみましょっす!」


 廃村やダークストーカーに踏み荒らされた風景ばかり見ていたわけだし気持ちはわかる。俺らって、ダンジョン内に住んでるのに文明にどっぷり浸かってるもんなぁ。


 「人目に付かない場所に降りますか?」

 「そうだな。エアリス、適当な場所に案内してくれ」

 「お任せください」


 先導するエアリスを追って行くと突然エアリスがこちらへと振り向いた。その顔には明らかな焦りが浮かんでおり、鬼気迫るものがあった。何事かと隣に急停止し問いかけるとその表情は若干和らいだ。


 「どうかしたか?」

 「いえ、マスターとの繋がりが一瞬途絶えたように感じまして……」

 「え? 気のせいじゃね? 俺ちゃんといるし」

 「はい、気のせいでしたね」


 胸に手を当て安堵の表情を浮かべるエアリスに、ガチ焦りとか珍しいなぁなどと思いつつ眼下の杏奈を見る。吊るした紐がしっかりと重かったのもあって事故は起きていないだろうとは思っていたが、急停止したにもかかわらず文句の一つも言ってこないことに不安を覚えたため一応確認だ。結果、杏奈はいたが、ブランコの紐を握ったまま振り向き固まっている。


 「杏奈どうかした?」

 「い、いやぁ〜、お兄さん気付いてないんすか?」

 「へ? 何が?」

 「後ろっすよ後ろ!」


 言われたままに振り向くと、そこには真っ黒な壁が聳え立っていた。横幅はどこまであるのかわからないほどで、ここからでは高さもわからず常識の範疇には収まらない程だ。

 ともかくさっきまで見えなかった境界が見えているって事は、内側からだけ普通に見える仕様なのか。ってか普通に考えればわかったな。


 「外に出たんだよな?」

 「そのようですね」

 「出入り自由にもほどがあるな。全く気付かんかったわ」

 「……ふむ。やはり……なるほど」

 「何かわかったのか?」

 「はい。百聞は一見に如かず、ということがわかりました」

 「つまりどういうことだってばよ」


 何がなるほどなのかわからんなぁと思っていると、エアリスは新発見とばかりに説明を始めた。

 曰く、黒い半球だと思っていたものはまったく半球ではないらしい。撥水床に落ちた水滴ように盛り上がった形で高さはそれほどではないらしい。まぁ『それほど』とは言ってもその高さが百二十キロメートルほどあるらしいから……スケール感がバグりそうだ。スカイツリー何本分かで例えてくれた方が……いやそれはそれでわからんな。


 「衛星が真上に位置取ってもドーム内に入らなかったのである程度の高度は予測できましたが、実際に見ることで確認が取れました」


 ドームの高さが地上百二十キロメートルということはつまり、低軌道衛星よりも低い位置に頭頂部があるってことなわけで、内部に衛星が横から突入してデータを集めて離脱してからデータを回収するなんて事ができる高さではないんだろう。

 航空機や戦闘機ならできそうに思えるし周辺国家には実行した国もあった。しかし領域内に入ると全周囲レーダーは不具合が発生し、通信が途絶えるため衛星による誘導も不可能となる。さらに侵入時にエンジン出力低下も同時に起こる。電子系は一瞬だが全システムダウンといえる状況に陥りバランスを崩し墜落、そうでなくとも継続的な飛行が難しく蜻蛉返りが関の山だそうだ。


 「ってかドームの切れ目が街のど真ん中にあるんだな」

 「はい。しかし街のドーム内に位置する地区に破壊の跡はほとんど見受けられませんでした」


 日本のマグナ・ダンジョンを例に挙げると領域内は荒らされたりしてるんだが、ここではそれがほぼない。

 周囲を探ってみるとその理由が少しわかる。日本のように鹿や熊といった中型モンスターは見当たらず、小型に収まる程度の反応しかない。時折、おそらく下水に多く潜むそれらの反応は唐突に消える。どういうことかと【神眼】で視てみれば、モンスター同士で争ったり鉈や棒のようなものを持った人たちに処理されていた。


 「探検者ががんばってんのかもな」

 「この国では呼び名が違いますが同じような者たちでしょう」


 この国ではなんて呼ばれてたんだったか、などと考えていると日本人としては眉をひそめる光景を目の当たりにする。


 「うぇぇ……」

 「どうなさいました?」

 「でかいネズミからドロップした肉で喜べるのかぁ」

 「この国では……まあ一部の特殊な者だけかもしれませんが、同じヒトであっても死ねばただの肉らしいですからね」

 「嫌なこと聞いた」


 それから人目につかない場所に降り立ち、ペルソナの服装を換装し普段着へ、一応でかい丸メガネをかけて【不可視の衣】を解除した。


 通りに出ると、これといって興味を向けない人々がいる一方、多くの人がドームに向けてスマホのカメラを向けていた。中にはライブ配信している人もいる。そういえば最近『上手な〇〇の倒し方シリーズ』更新してないなーなどと思いつつドームを見上げる。


 「ダンジョンなぁ……ファンタジーだよなぁ」


 確実に現実ではある。しかし未だ信じられないという思いも無きにしも非ず……そんな呟きは屋台を物色している杏奈と涎を垂らす勢いで追従するエアリスに拾われることもなく、雑踏に飲み込まれていった。

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