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鬼師匠カイト


 「やあ悠人」

 「おっすおっす」


 切り株に座り刀の手入れをするカイトと軽い挨拶をし、染み出す樹液を『神言』により固形化した隣の切り株に座る。切り口の様子から、この切り株はついさっき伐採されてできたんだろうことが伺えた。


 「良い技量(うで)してるよな」

 「はは……技量が良いのは悠人でしょ」

 「否定はしない」

 「しないんだ。それにしてもすごい技術だよ。ここまでのものは未だ科学じゃ造れないだろうに、どうやってこんな技術を?」

 「エアリスいるだろ? あいつのおかげだな。知らなかった事でもモノによっては最初から知ってたみたいに解るようになる。あぁでも、それを使いこなすのは別の話だし、俺はまだまだみたいだけどな」


 カイトには俺が作った刀を渡してあって、今手入れしているのはその刀だ。銘は空斬丸(そらきりまる)。カイトの能力【空】を活かす事を目標にした刃渡り八十センチ弱の刀だ。居合刀としては若干長いがモンスターを相手にする事を踏まえるともう少し長さは欲しくなる。でもカイトはその長さが手に馴染んだようだ。


 「空斬丸、その長さで良かったのか?」

 「ちょうど良いよ。居合も問題ないからね」

 「そうか。もっと長くても良いと思うんだけどな」

 「悠人の銀刀みたいに? それじゃ長すぎて扱いが難しいかな。むしろその長さで平然と居合ができる悠人が普通じゃないんだよ」

 「んなことないと思……いや、あるか」


 俺の銀刀は少しずつ改良し刃渡り百センチを超える。普通なら鞘から抜き放つのが大変な長さだし、長いという事はその分初撃が遅れるということでもある。でも現状ほぼ問題になっていない。鞘を保存袋に投げ入れつつ抜き放てば抜刀のし難さは緩和されるし、重さと長さの両方が影響する初撃の遅れはステータスでゴリ押す。ステータスでカバーできるなら、重さも長さもパワーだからな。……なんだか俺が脳筋みたいだが、戦闘において脳筋で解決できるのは単純に強い。攻撃力にそれなりに拘るのは鉄鎧の巨人みたいに馬鹿みたいにでかいモンスターを見たことがあるからその対策でもあるな。


 「それで……また行くのかい?」

 「あー……どうするかを決めるためにも現況を調べないといけないからなぁ」

 「早く帰って来てほしいなぁ」

 「え、なになにカイト。俺がいないと寂しいのか? ウサギさんなの? ん?」

 「あはは、否定はしない」

 「否定しないのか」

 「それよりもペルソナの代役なんてもうごめんだからね。あの崇拝するような目に耐えるのは……」

 「あ〜、わかるわかる。でももしそうなってもカイトなら大丈夫だろ。さくらもいるし」

 「悠里さんをペルソナの相棒役にしておいてくれたらよかったのに」

 「それは仕方ないだろ。さくらがいたからこその“特務”なんだし。まぁご褒美が欲しいのはわかるけどなー?」

 「うっ……!」

 

 以前カイトが俺の代わりにペルソナの衣装を着て代役をした事があって、その際俺と同じような視線に晒されたんだろう。気にしなければいいんだが、慣れるまで時間がかかる。

 カイトが『悠里を』と言っているのは超個人的なものだろう。だって二人は指を絡めて手を繋ぐ仲だしな。それを目撃してから日は経っているし、もしかすると仲は深まっているかもしれない。親友同士がそういう関係というのは、思わず口元の制御が利かなくなるな。にまにま。


 「と、ところで悠人に教えられることなんてもうないと思うけど」


 せっかく揶揄い甲斐のある楽しい話を打ち切られたのは残念だが、まぁいい。これ以上は何も言うまい。見守ることも親友の役目なのだ。にっこり。


 それはそうと、カイトと再会して少し経った頃から、俺はカイトに刀について師事を仰ぐことにしていた。それからしばらく経つし以前よりは刀を上手く扱えるようになっていることは確かだ。副次的にエッセンスの扱い、能力の扱いもなぜか上達していたのは嬉しい誤算だった。

 とはいえだ。純粋な技術ではカイトにまだまだ及ばない。


 「んなこたない。未だにステータス頼みでしか勝てないし」

 「そこはほら、やっぱり刀の長さがさ……銀刀は対人用じゃないでしょ」

 「対人……? 俺より短い刀を使うカイトは人斬りにでもジョブチェンジしたのか……?」

 「違うって。自分からどうこうしようってことはなく、身を守るためだよ。習った剣術もそのまま使えるしね」

 「ほんとかよ。こわっ」

 「本当だって。先守防衛も必要な時はあるけどさ、ダンジョンは」


 カイトは対人想定もあってその長さなんだな。たしかに突然力を得た人間はそれを使いたくなっても不思議ではない。そんな人たちからいつ襲われるか分からないと考えればその選択もありだろう。実際はそれほど混沌としているわけでもなく、ダンジョンとモンスターという存在や他にも自分と同じように力を得た人間がいることが抑止に繋がっているみたいだから案外平和だけど。むしろダンジョン内じゃ助け合うってことの大事さを理解する人の方が多いように思う。俺の知る限りだけどな。


 「でも、それってつまり伸び代じゃね?」

 「あはは、そうかもね。それにしてもどうしてそんなに強くなりたいんだい? 今のままでも十分過ぎると思うよ」

 「うーん。じ、実はだな……」


 ある程度安心できる時期まで隠しておくってのをよく聞くけど、今の俺には無理だ。想像もできなかったけど、いざこうなってみると嬉しくて。


 「お、おおぉ……! よかったね悠人ぉ! おめで……おめでどう゛!!」

 「え、嘘だろ。なんでお前が泣いてんだよ。嘘だろマジかよ」

 「わがんないげど……! ずごいじゃんがっ!」

 「お、おう……す、すごいよな」


 軽く引きつつ背中をさすってやると、しばらくしてようやくカイトが落ち着いた。


 「そっか……そっかそっか。悠人は守りたいんだね、香織さんたちを」

 「まぁ、そうだな……」


 なにやらうんうんと頷いていたカイトが自分の頬を張り、小気味いい音と共に立ち上がる。


 「そういうことなら任せてもらおう! これでも免許皆伝だからね! それと今日は“能力”も使わせてもらうよ!」

 「お手柔らかに頼む……いやマジで【空】はダメだと思うぞ……? 冗談だよな?」

 「冗談じゃないよ」

 「えっ? じゃあ俺も——」

 「悠人は無しだよ」

 「せ、せめてお前の能力、発動条件とか詳しく教えてから——」

 「突然襲ってくるような相手がいたら……」

 「え?」

 「親切に能力を教えてくれると思うかい?」

 「っ!? 鬼ぃ……!」


 いきなり座っていた切株が縦に両断される。気配が変わったことに吃驚して飛び上がらなかったら俺も同じ運命を辿っていたのでは? 

 凶行に及んだ事は後で悠里にチクろうと決め、銀刀を抜き放つ。

 結果から言えばカイトはスパルタだった。俺は能力不使用、一方のカイトはわざと狙いを外しつつも危機感を煽りまくってくる、そこそこ全力使用だった。斬撃が飛んでくるとかそんな生やさしいものじゃなく、気付いたらもう斬れている。多分指定した空間ごと斬ってるとかだと思うが……発動までのラグはありつつも同じようなことができると理解してはいるが、やられる側になるととにかくやばい。わざと薄皮一枚分だけを斬るとか器用な事までしてくるし、その気ならマジで何回か死んでたんじゃないだろうか……。同程度のステータスならどうなっていたことか……ステータスに感謝しかない。

 でも人間そんな状況になるといつも以上に力を引き出せたりしちゃうこともあるわけで、なんとか斬られる場所の予測ができるようになった。その予測した場所を銀刀で払ってみたところ、空間の歪みのような斬撃が霧散したのを感じ取った。

 もしかすると条件があるのかもしれない。今の銀刀はミスリルをベースにしたただの合金製の刀ではなく、ミスリルの原子同士の距離を縮めた……つまりひたすらに圧縮された塊だ。金属塊としては軽いミスリルが素材だというのに、普通の探検者ならずっしりと感じ、まともに振れないほどの重さになっていてかなり密度は高いことがわかる。

 それほどの密度や頑強さがカイトの能力に打ち勝てているんだろうか。それとも単純に指定してから斬る能力であれば、指定されて斬るまでの間にその場所が指定時点と大きく違っていたら破綻するから効力を発揮できないとかそんなところだろうか。

 ともかくそれに気付いてからは容赦なく放たれるカイトの斬撃をひたすら潰し続けた。なんだか今ならどこから何が飛んで来ても撃ち落とせそうな気がするなぁ。今度さくらの銃弾で試してみるかな。


 「悠人はすごいね」

 「銀刀とステータスのおかげだろうけどな」

 「それでもだよ。ほとんど即発動って言える【空】の気配を見切ってるんだよ、悠人は」


 というかカイトがそう仕向けたとしか思えない。俺は改めて考えてみるとチートのような能力と先出しするタイプの攻の居合ばかりでここまでやってきたが、こうやってカイトが叩き込もうとしてくれているのは守の居合や(すべ)だろう。極めればどんな状況からも攻めに転じる事ができるように、ということかもしれない。現に目の前の親友であり師匠でもあるカイトは返しの太刀を捌いてさらに反撃をしてくる。しかも俺とは違い自分の刀に負担をかけないようにもしていて、振るわれた銀刀と接触しても大きな音を発さず逸らされる。これだけの腕があったからこそ人知れずソロでダンジョンを進み、俺と再会できたわけか。


 「ふぅ。まだ粗いけど、今日はここまでにしよう」

 「あ、ありがとう、ございました……」


 今回は受けに徹した形だったというのに息が上がり鼓動は速い。一方カイトは良い運動をしたとばかりに軽く汗を拭いている。爽やか系イケメンがそこにいた。

 結局、雑談らしい雑談は最初の会話だけだった。


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