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非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。  作者: あかさとの
1章 災害が起きてもダンジョンが生えてものんびりしたい
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ダンジョンにて回想する2


 装備が揃いすぐにでも突入したかったけど、我が家の夕食の時間は季節によって違う。今の時期は大体十九時半頃なのでもうすぐ夕食なのだ。とは言ってもあんな大地震があったし、スマホの電波は戻っても電気はほとんどの地域で戻っていないため内容はお察しだろうけど仕方ない。そうしている間にとんちゃんが雑貨屋から戻るだろうと待つ事にした。


 夕食をちょうど食べ終わったところでスマホがメッセージの受信を少し間の抜けた音で知らせる。とんちゃんからスマホにメッセージが来たんだろうとアプリを起動する。ちなみに夕食はお湯を入れると雑炊みたいなのができるカップに入ってるやつ。あれ結構うまいんだよね。我が家はIHを使っていて電気が来ていない今は使えなかったため、ここに住んでから初めてガスコンロが役に立った。それはともかく、とんちゃんに返事しないとな。


 ゆんゆん:おかえりー

 とんちゃん:おや、ちゃんと待っててくれたんだね〜えらいえらい。

 ゆんゆん:いや、待ってたわけじゃないけど。ちょうど晩飯食ったとこだ。

 とんちゃん:そこは待ってたと言うべきところではないかねチミ。

 ゆんゆん:じゃあ待ってた。

 とんちゃん:(笑) そうそう、問題ないくらいいろいろあったよ。

 ゆんゆん:良かったな。日本じゃなかったら略奪されてたかもしれないな。

 とんちゃん:そうだね。あと報告。雑貨屋の倉庫にダンジョンの入り口あった。

 ゆんゆん:マジかよ。

 とんちゃん:マジだよ。


 結構カジュアルな雰囲気でダンジョンが生えまくってるんだろうか? それともただの偶然だろうか。


 ゆんゆん:で、潜ったの?

 とんちゃん:さすがにやめておいた。巨大蟻とかいたら怖いし倉庫に鍵掛けてチェーンぐるんぐるんに巻いてきた。

 ゆんゆん:あれれー? 信じてなかったんじゃないの?

 とんちゃん:まーそうなんだけどさ。実際入り口見ちゃうと、ね。

 ゆんゆん:そういうもんか。じゃあスマホ持ってくから撮れたら撮ってきてやるわ。

 とんちゃん:え? まさかこれから?

 ゆんゆん:そうだけど? それに案外明るいんだよ、天井とか壁が光ってるとこあったりしてさ。


 何か武器になるものを、なんて言った事を思い出し聞いてみたが、さすがに雑貨屋に武器を求めるのは無理があったみたいだ。だけどまー装備揃っちゃったんだよなー。それなら行くしかあるまいよー。


 とんちゃん:大丈夫なの? また自暴自棄になってない?

 ゆんゆん:さぁ? しらんけど装備も見繕ったしなんとかなるんでは?

 とんちゃん:装備? どんな?

 ゆんゆん:安全第一メットにスキーウェアに革のブーツ、そして渾身の金属バット。

 とんちゃん:想像して吹いたww写メ送ってみww


 パシャっとして送信っと。


 とんちゃん:これはヒドイ。

 ゆんゆん:うっせ しゃーないだろ。でも悲しいかな完全に同意せざるを得ない。


 一応心配してくれてるんだろうな。『装備ダサイから明日にすれば』とか言われてもな……ってか止める理由が雑すぎる。明日にする事を薦める理由が雑すぎるのはいいとして、好奇心が射抜かれてしまったからなぁ。


 とんちゃん:これ以上止めても聞かないんだろうし、気をつけて。

 ゆんゆん:うっす


 メッセージのやり取りを終え、魅力補正が下限突破しているだろうフル装備で我が家ダンジョンへ向かった。

 1層は相変わらず平和そのもの。記憶を頼りに2層へ続く階段までやってきた。さっきはこの先、2層へ降りてすぐの小部屋になっているところにでかい蟻がいたんだよな。まぁね、こういう時って大体いなくなってるもんさ。とりあえずそぉっと……覗いてみるかまだいるわ。しかも二匹に増えている。


 ここは床や壁が淡く発光しているので懐中電灯がなくてもなんとか見える。スマホを取り出しシャッター音がほとんどしないカメラアプリを起動し写真を撮ろうとして……比較対象がないと大きさわかんないよな。

 蟻の細部まで見えるほどドアップで撮れる時点ででかいことだけは伝わるとは思うけど、それだけじゃな。とりあえず殴り倒してからでも良いかな、などと思っていると、天井から二匹の蟻目掛け巨大なムカデが降ってきた。


 その気色悪さ十割……いや、五十割増しのムカデは蟻と戦闘を開始、一匹を長い体で()巻き状態にしつつ頭に噛み付いていて、バリバリと噛み砕く音が小部屋に響いている。

 二匹目の蟻がそんなムカデの体中のあちこちに噛み付く度に『ザッザッ』という聴き慣れない音と共に『ジュ〜』という火にかけたフライパンに肉を落としたような音もしている。ゲーム脳が囁く……あれは酸性の汁とかで溶かして顎で噛み砕くというより噛み切ってるのでは? 実際巨大ムカデの無駄に多くて気色悪い足が次々と切り離されて地面に重なっていく。


 ムカデが噛み付いていた蟻一号の頭は青く変色していて、盛んに動いていた中折れの触覚もいつの間にか動かなくなっていた。一方、蟻二号に噛まれ続けた巨大ムカデも最後は頭と胴体を切り離されてしばらく長い体をくねらせていたが、最後は痙攣しながら動かなくなった。巨大蟻パーティの勝利か……などと思っていると、直後、蟻二号の様子がおかしい。体が乾燥したようにそれまでの光沢を失い、色も褪せ石のようになり動かなくなった。それから一分ほど経っただろうか。蟻二号の背中が軽く乾いた音を発しながら割れ、中から白いものが出てくる。まるでサナギから成虫になる時のような……よくみると(はね)になりそうなものも背中に付いていて、その複眼はこちらを見据えているように感じた。

 本能的に殺らなきゃ殺られる感覚が思考を埋め尽くし、気付いた時には蟻二号に向かって駆け出していた。そして大きく振りかぶって〜……ドライバーショット! バットだけど!


 僅かに黒く変色し始めていた蟻二号が反応して体を(ねじ)ったことで、まだ変色しきっていない尻の先をぐしゃりとする程度にとどまった。距離を開けるように後ろへと飛び退いて様子を窺おうとしたが、その後退は俺の本能だったんだろうか……背筋がゾクリとすると同時、体の動きが鈍く感じた。

 変色は進み、ならば完了前にもう一発、しかし思うように踏み出せない。恐怖を感じていると瞬時に理解し、震えそうになる脚を平手打つ。そのわずかな時間でさらに体色が黒く変色していた蟻二号の目は完全にこちらを捉え触角もこちらを探るように動いて触覚ていた。翅は伸びきりもうすぐ硬くなるだろうと直感的に察し、飛ばれちゃまずいと反射的にその翅を狙いバットを振り抜くがしかし、蟻二号の大きな顎に受け止められ金属が潰れる音がした。それでも何かを砕いた手応えを感じていて、つまりダメージは与えたはずだ。とはいえバットも顎で噛み潰されてへこんでいる。


 ゲームでは階層を(また)いで一旦逃げるという選択肢も有りだ。それを思い浮かべないはずがないどころか、格上を狩るならそれも立派な戦術だ。でもこれはゲームじゃない。もし追いかけてきたら……? それに武器は蟻の(あご)がとらえて離さないバットだけ。一瞬の間に蟻が頭が沸騰する。考えが纏まらないうちに、蟻二号がバットから口を離しこちらに頭を向ける。反射的に距離を取ると、変体が完了したらしい蟻二号がその半透明の翅を羽ばたかせ、ブゥゥンという音を鳴らす。初飛行の前にる準備運動でもしているんだろう。その音はスズメバチの羽音をさらに低くしたような、生理的嫌悪感や恐怖心を煽る音だ。それが耳から全身へと伝播し、総毛立ち(すく)み上がる。

 だけど……こうなりゃ俺も必死だ。羽音を打ち消さんばかりに声を上げる。こうなりゃヤケ、根性論、窮鼠猫噛(きゅうそねこかみ)、当たって砕けろ、なんでも良い!とにかく止まるな! 打ち返せ!


 もしかすると、羽音で萎縮した体をなんともできず、そのまま餌食となっていたかもしれない。でも脚を動かし無理矢理肩を上下させて呼吸をし、動きを止めない。その甲斐あってか飛びかかる蟻に対し、昔素振りをしていた時のように、バッターボックスに立つ打者然とした構えからの〜……フルスイング!

 メキバキッという音と共に、不快な羽音を上げながら襲い掛かって来た蟻二号の頭は明後日を向き、そのまま地面に転がった。


 「し、死ぬかとおもった」呟きはダンジョンに吸い込まれるように消えていき、残されたのは巨大ムカデ、その巨大ムカデに食い殺された巨大蟻、。そして頭の一部をバットの形に陥没させられ、暫く翅を動かし足をぴくぴくさせた後にようやく動かなくなった、蜂のように姿を変えた巨大蟻の死骸だけだった。


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