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それぞれの復讐2


 右手に持った予備の銀刀に嵐が纏う。それは濃密で風の刃が目に見えるほどだ。その刃が銀刀自身を傷付けていく。


 『こんな事もできるぜ! ……嵐刃絶禍(らんじんぜっか)!!』


 さらに嵐神が嵐神たり得る姿でいる時に纏っている緑の焔が銀刀を覆い、それは腕にまで広がった。さすがに腕には【拒絶する不可侵の壁】を纏う。いくらステータスの恩恵があるとはいえ、これじゃあ腕が何本あっても足りない。


 『攻防一体だぜ! オレ様だってやればできるんだ! 今の俺様ならジジイにだって、鬼のアニキにも負けねぇ!』


 ジジイはイルルさんで鬼のアニキは酒呑か。じゃあ天照と比べてどうなんだ?


 『……あんなの、無理に決まってんだろぉ!? そもそも格が違いすぎてムリだ!』


 ほーん。さすがは日本誕生初期の神話、そこに出てくる名前を冠する存在なだけあるな。ところで、なんで技名が日本語なんだ? 嵐神プルリーヤシュって中東辺りじゃなかったか?


 『……近頃オレ様が働いてなかった理由がそれだ。日本文化について勉強をしていた』


 何でまた……まぁ興味ないからいいけど。


 『少しくらい自分の部下に興味持てよ!? ともかく! 必殺技は叫ぶものと学んだからな! 漫画で!』


 あ、そう。ってか部下のつもりだったなら酒代分くらい働けばいいのに。イルルさんや酒呑みたいにさすらいのお助けマンでも良いし、天照みたいに迷った人を誘導するでもいい。チンピラと言われれば違和感も少ないんだから人間のフリして探検者の護衛くらいできるだろうし。


 『真似したみたいでなんかいやなんだよ!』


 ふーん。厨二というある意味文化にも似たものは真似るのに、そういうのは真似ないのか。めんどくさいやつだ。

 とりあえずこれってどうすりゃ良いんだ?


 予備の銀刀と腕に纏う嵐に目をやると軽く説明を受ける。その間は集中する事で時間が止まったかのように感じていた。それによれば俺の意思を汲んでエアリスがサポートするようなものだろうと理解した。


 なるほど、と縦に一閃。銀刀が纏っていた嵐が離れた位置のグレーテルを斬り刻む。正面を突き進む【剣閃】と違い、風が入り込める場所ならどこでも斬ることができる。これによりグレーテルは一瞬で全身に大小数百という傷は付いたものの、しかしすぐに両断する程ではないようだ。威力が低い? いや、違うな。皮膚はサイのような分厚いものになっていて、自らの身を守ろうと上げる腕の可動域は狭まっている。実際にさっきまでより硬いんだ。それでも嵐は纏わり付き何十何百と襲いかかる。そして数秒、その分厚い皮膚に覆われた腕はドスンと重々しく地に落ちた。


 「グヴヴ……この状態の私をこんなに傷つケルなんて……」


 当然このくらいではまだ元気なグレーテル。腕を拾いくっつけ傷が塞がるにとどまらず肥大化し、今度は全身が毛のないバケモノへと変貌していく。その様はもはやクリーチャーと言って差し支えない。


 『こいつ、なんなんだ?』


 俺と同じ疑問を投げかけてくる嵐神に、過去恋人だった女性を殺した相手だと伝える。出会った当初の嵐神は龍神・イルルヤンカシュに復讐心を持っていたが、今ではそんな様子は欠片(かけら)もない。心境の変化があったんだろうとは思うが否定はされないだろうと無意識に思っていた。が、そうはならなかった。


 『復讐は何も生まねーぞ』


 諭すつもりか? そもそもそんな事はわかってるつもりだ。でも……


 『お嬢や仲間は、なによりお前の女はこんなお前を見たくないんじゃねーか?』


 それでもだ。今はエアリスと離れているせいか、喰らわれず無尽蔵に湧く怒りが心を暗く満たしていく。それだけじゃない。右手の黒夢がひび割れ漏れ出した黒と赤のエッセンス、これが右目に纏わり付き、熱い。だがその熱さが妙に心地良い。不思議とよく馴染む気がしていた。その黒夢が囁く。『復讐を遂げよ』と。その囁きは、甘く感じた。


 『後から後悔しても知らねーからな』


 嵐神の力を増幅させ腕に纏った嵐の密度を高めた時、バケモノが口を大きく開き薄暗い洞窟に閃光が迸った。脚に力が入らず膝を付いた俺に、既に人の顔でなくなっている目の前のバケモノはそれでもわかるほどに厭らしく嗤う。


 「グフフ……私の奥の手ヨォ? お味はどうカシラ? もうまともに立っていられないわねェ? これなら簡単に押し倒してオカシホーダイよぉ! その後にちゃぁんと食べてあげるわねェ」

 「そうやって……」

 「んん〜?」

 「そうやって彼女を殺したのか……?」

 「ドゥフッ……グフフフゥ」


 グレーテルが醜悪に嗤う。まるでその様を思い出し、これから俺をどうしようか想像しているかのようだ。


 「ぐっ!?」


 激痛。膝に生温い水気を感じそちらに目をやると、もう片方の脚は膝が消え失せて、その先は地面に転がっていた。

 指輪の【拒絶する不可侵の壁】は発動していたのに、それごと脚を持っていかれたのか。正直、油断した。

 不可侵の壁とは言うものの、実際は非現実的なほど高圧縮された空気の壁だ。噛まれて割れた事からも香織の薙刀・撫子のように【拒絶する不可侵の壁】を裂く武器でなくとも破れるのはわかっていた事だ。これまでそれを可能とするものがほとんどなかっただけで。

 思えば脚を無くしたのはアークで自分の分身みたいなやつにやられた時以来二度目だ。どういった痛みなのかと問われてもよくわからない、“無いのにひたすら痛い”って感じだ。のたうち回ってもおかしくない程の痛みなんだろう。でもなぜだろうな、意識ははっきりとしていて吐き気もない。痛みを客観視し、余裕で耐えられている。これが脳内麻薬ってやつか。


 『お、おい! 大丈夫なのかよ!?』


 痛いけど、それだけだな。こんな状況だから感覚がおかしいだけかもだが。


 『脳内麻薬ドバドバ出てんのか! それなら逆に良い事だなぁ! だけどよ、血がすげーぞ。さっさと治しちまえよ!』


 傷口は熱光線によるものだったこともあり焼けていて出血は幾分かマシだが、それでも多少時間が経てばそれだけでは抑えきれなくなってくる。それに伴い痛みが増す。


 そういえば杏奈と出会った時、彼女は亀に脇腹を抉り取られて欠損していた。その後も何度かそういったことがあったが、彼女にとって喚くほどの痛みだったようだ。痛みに強いと言われる事もある女性がそうなのに、男の俺が平然としているのは……やっぱりもう人間じゃないんだろうか。まぁエアリスもヒトであってヒトでないと言っていたしな。それに加え、こんな痛みを何度も経験して慣れているかのようにも感じ……なんだか可笑しくなってきた。


 「アラァ? ドウシテ笑っているの?」

 「なんだかおかしくてな」

 「カワイソウ。オカシクなっちゃったノネ? じゃあ愉しんだ後に、すぐ楽にしてアゲるわぁ……私のフクシュウのタメニ」


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