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病院にて1


 「生きていたらどうしますか?」


 エアリスの質問に言葉が詰まる。自暴自棄になっていた頃とは違って今は俺がヘタなことをしてはまずいだろう。それでも、湧き出る情動に逆らう事は難しかった。


 「もしまだ生きてるなら……必ずこ——」

 「そうそう悠人〜? 具合悪いなら病院行きなさいよ〜?」


 母さんは空気を読まない。でもおかげで少し冷静になれたな。


 「……いや病院はいいよ母さん」

 「そう? でも人間ドックだって行ったことないでしょ? そろそろいい歳なんだから気をつけなさいよ?」

 「はいはい」


 母さんがドアを開けたまま出ていくと、エアリスが残念そうに言う。


 「ご主人様の美味しい“殺意”が萎れてしまいましたね」

 「残念か?」

 「いいえ。ご主人様に必要な人材が豊富で喜ばしく思います。ところでご主人様、お母様の言う通り病院に行きましょう」

 「は? なんでだよ。俺はこの通り元気……」

 「悠人さ〜ん、具合はいかがで……え?」


 勢いよくベッドから起き上がり立ち上がると立ちくらみが起きる。平衡感覚が途切れ地に足をつく感覚も一瞬だがなくなり、そこを開けっぱなしのドアから覗くようにした香織に見られてしまった。ってかいきなりふらっとしたような。


 「ほらほらダメですよ。産まれたてのシルバーウルフのようではありませんか」


 などと言いつつ手を貸さないエアリス。なんだか嬉しそうというか脚の震える俺を見て恍惚としているような……まーた変な扉を開いたのではあるめぇな。目を離すとすーぐ変な知識を増やして感化されてくる。困ったもんだ。

 それはそうとこの眩暈。


 「だ、大丈夫なんですか!?」

 「最近なくなってたのになぁ」

 「おそらく以前度々あった要因の一つとして、ご主人様の肉体がエッセンスに適応しようとしていたという事があったのでしょう」

 「以前は? じゃあ今回は?」

 「それはまあ……」


 なんだかバツの悪そうなエアリス。これってアレだろ、エアリスがなんかやっただろ。

 経験上、この力が入らない感覚はエッセンスが大量に抜けていった時に似ている。こちらを見るエアリスの表情からも何かしたんだろうな。こんな事を実体化したままでやれるようになってるのって、俺に対する生殺与奪が自由自在って事なんじゃないか? まぁエアリスが俺を殺すなんてないだろうけど。


 「本当に体調が良くないんですね!? 一度病院で診てもらいましょう悠人さん!」

 「いや、今のは多分エアリスが」

 「そうと決まればすぐにでも手配しないとですよね! お二人に伝えてきますね!」

 「いやだからエアリ……行っちゃった」

 「以前悠里様が香織様を“暴走お嬢様”と言っていましたが、その異名を彷彿とさせる勢いですね」

 「マグナダンジョンに初めて行く時に迎えにきてくれた時もこんな感じだったな」

 「はい、懐かしく思います」

 「で? なんで病院に連れて行きたいんだよ」

 「“公欠”というシステムがありますのでそれを利用してみようかと」

 「何に対してだ? まさか依頼にじゃないよな」

 「そのまさかです」


 そんな公欠が罷り通るわけないだろう。どちらかと言えば病欠だが、日本の法律で言えば人間でないものは“物”として扱われるから、エアリスは物か? その管理に失敗して対応しなければ、って事ならまぁそれも……いや、病院に行くならやっぱ病欠だろう。つまり言ってみたかっただけだな、エアリスは。


 「話は聞いていたの。ヘンゼルたちには電話で言っておいたの。ログハウスにも連絡済みなの」

 「それでヘンゼルはなんて言ってたんだ?」

 「返事を聞く前に切ってやったの」

 「それって一方的に言っただけだよな」

 「小夜……ちょっとこちらに来なさい」


 病院に連れて行こうとしている主犯のエアリスとは言っても、さすがにこれには一言あるだろう。依頼はお仕事で信頼関係が大事なんだ。一方的に言い捨てて通話を切るなんて(もっ)ての(ほか)だ、ってな。


 「よくできました。返事を待つ余裕すらないという事を示すすばらしい交渉です」

 「うんうんそうだね、有無を言わさぬ感じがすごいね……って良いわけあるか! そもそも交渉してないだろ。しゃーない、俺が電話して……」

 「それはダメです。ご主人様が元気だという事がバレてしまいます」

 「元気なら病院に行く必要は——」

 「悠人さん、お義母様が送ってくれるそうです!」

 「香織ちゃんまで……それにさっきの立ちくらみはたぶんエアリスが……」

 「ダメですか……?」

 「うぐぐ……」


 香織の上目遣いはクリティカルヒットしすぎて困る。ということで俺は病院へ行くことになった。エアリスが俺に眩暈を起こさせてまで病院に行かせようとした本当の理由は……後で聞くことにしよう。教えてくれるかはわからんけど。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 「今の電話、小夜ちゃんっすかー?」

 「うん」

 「それで何の話で?」

 「悠人、入院するみたい」

 「えぇー!?」


………

……


 「悠人が入院するって本当ですか?」

 「カイト君、敬語じゃなくていいって」

 「いやでも悠里さんは社長ですし」

 「ふ〜ん。もっと男らしいところ見せてくれたら“あの返事”も変わるかもしれないのにな〜?」

 「ッ! が、がんばります!」

 「……まあいいわよ。それで悠人の事だけど、一応検査入院らしいよ」

 「検査? 度々意識をなくしたりしていた事は聞きまし……聞いたけど、持病とかかい?」

 「詳しくはわからないけどエアリスがそう仕向けたみたいだよ。何か目的があるんじゃないかな」

 「エアリスさんが……彼女は悠人の事をよく知っているし大事にしている事もわかるから、心配なさそうだね」

 「そそ。じゃあカイト君。今日もお仕事いこっか?」

 「はい! ついていきます社長!」

 「はぁ〜、そこはついて来いとかさ……ま、いいわよ」


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