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非日常になった世界で日常を過ごしているのは異常だろうか

八章はまだ書き終わっていませんが、気付けば長い期間投稿していませんでしたので導入部分として1話目です。

のんびり楽しんでいただければなと。


 地球にダンジョンが発生しそれまでの日常が非日常へと変わっていった。ダンジョン発生後すぐにダンジョンに入った俺は、そこで頭の中に住みつく変なやつと出逢う。そいつの名前はエアリス、俺命名。それからいろいろあってダンジョンの中にログハウスを建て、そこに仲間と一緒に住んだり会社のようなものを作って暮らしている。非日常の中に日常を求めながらも非日常であるダンジョンの謎を探る生活は十八ヶ月が経過していた。


 幼馴染のカイトと再会、レイナがその妹の麗奈だった事が判明してから約四ヶ月後、二人はレイナとチームを組んでいたアリサを加え三人のクランを立ち上げていた。クラン・ログハウス傘下ということになっていて、社長の悠里はカイトたち、クラン・鎌鼬(かまいたち)を護衛という形で重用している。以前ならモンスターが脅威だったし、それに対しては自分が強くなれば良かった。しかし近頃では同じ人間が脅威になりがちだから、危険に対しても鼻が利くアリサ、会話的な対人スキルが高水準のレイナ、実力は申し分ないシスコンのカイトはうってつけと言える。全てにおいて平均以上の悠里ならそうそう滅多なことはないだろうが、何らかに対し特化した三人がいればより盤石と言え俺としても安心だ。

 人が脅威というのは、ダンジョン内における法整備は不充分であり各国の足並みはそう簡単には揃わない事が要因のひとつだ。自国だけがガチガチに法整備をしても他国がそうしていない場合、自国法が不利に働く場合があると考えられるから互いに出方を窺っている状態だ。仮に自国民同士は自国法を遵守し、他国に対しては無法とした場合、規模の大きな人同士の争いへと発展しかねない。そうなれば魔王の一件が再現されることになり、その時ペルソナは“宣誓”に従い助けに来ない。それを各国上層部はある程度理解しているんだろう。一方で魔王としての小夜が動かない程度の事件も起きていて、でもそれは軽い事件ではないから出来るだけ守り合う必要があるのが今のダンジョンだ。

 ちなみにカイト、「推薦はありがたいけどやっぱりズルしてるみたいで」なんて言って講習を受けていた。受講の枠は特別枠に押し込んだとはいえ、クソ真面目なやつだ。おかげで俺というかペルソナとしてだけど、授業参観の親御さんよろしく教室の後ろで座っていた。俺はいなくても良かったはずなんだが「受講者の士気向上のために頼むよ」と統括に言われ仕方なくだ。実際に効果はあったらしくいつもよりも高成績の人数が多かったと聞いた。まぁ俺も講習は受けていなかったからちょうど良かったかもな。半分寝てたけど。


 「おはようございますご主人様。昨晩はお楽しみでしたか?」

 「なぁエアリス」

 「なんでしょう?」

 「どうして部屋に入ってこれるんだよ」


 俺の部屋はドアを閉じると一種の封印が発動する。内部と外部が遮断され音や気配が漏れない。もちろん出入りもできず、それを可能とするのは【空間超越の鍵】だけだ。


 「ワタシに代行権を与えてくださったのはご主人様ではありませんか」

 「なるほどな。じゃあエアリスの代行権限を剥——」

 「さてここで問題です。与える事は簡単ですが剥奪となるとそのプロセスは与えるほど単純なものではありません。奪うために必要なものはなんでしょう?」

 「え? えーっと……知らんよそんなもん」

 「ではその話はまたの機会ということで。朝食の準備ができているようですよ」


 この約三ヶ月、何度も侵入を許しているがいつも誤魔化されている。起き抜けに訳の分からない問題を出されても頭働かんし、実際のところ代行権を奪おうとは思ってないからいいけど。それにそんな事がどうでも良くなる寝顔がすぐ隣にあるから、そのくらいの事は許せてしまう。朝食なんていいからこのまま眺めていたいなぁ。


 「……本日は迷宮統括委員会で会合が」


 薄衣を纏っただけだったエアリスも人間らしい服を着るようになっている。地上に行く時は大体非実体化しているからダンジョン内限定に近いが、エッセンスを使ってみんなの服のデザインを複製したものだ。今日はさくらが以前着ていたスーツか。悔しいがスタイルが良いだけあって似合っている。


 「はいはいわかってるって。香織ちゃん起きてー」


 少し気怠そうな様子だが薄く目を開けるとすり寄ってくる。なんというか底無し沼に引きずり込まれる感覚だ。


 「……っ! ごめんなさい悠人さん、今日も用事があるんですよね」

 「うん。でも最近毎日だから今日くらい日をずらしてもらってもいいかな〜って」

 「ダメですよ。おじいちゃんだって悠人さんの事を考えてくれてるんですから」

 「まー、そうだよねー……」

 「今日は香織も一緒に行きますね」

 「うん。じゃ、顔洗ってごはん食べよ」


 香織が付いてくるのは総理が俺に迫るだろうと思っているから牽制の意味があるんだろう。迫るといってもBのLとかそういう事ではなくて、香織と俺の事についてだ。香織のお父さんは会ってくれる気がないようで、それについても総理は焦れている。この間なんて総理ともあろう人が「あの頑固者なんぞ無視して籍を入れてしまってはどうか」なんて言っていたくらいだ。対する俺はというと、お付き合いしていますという報告すらまだだから、なんというか困った。それはもう本当に困った。笑い話として香織に話したら結構本格的に怒って……というかむしろブチ切れていて、総理に電話をかけていた。以前香織と一緒にダンジョン内で星を眺めていた時に『報告はまだいい』と言われていて、それからしばらく経つ。香織としては関係の発展を考えていないのかもしれない。それに見た目にはわからないが、俺の“超越種”への進化による影響で子供は期待できない。だからだろうか。結婚とかする価値のない男だろうか。能無し……種無しだろうか。はぁ。

 自問自答で出た答えに自ら落ち込むという不甲斐なさが残念で仕方ないが、ともかく今日もお仕事だ、切り替えなきゃな。


 呼び出しの理由は世論(せろん)世論(よろん)の二つだ。つまり政治的にも世間的にも、って事だな。

 まず政治的な方は世界情勢の不安定化とダンジョンの関係について。政治的とは言っても俺が政治に関わっているわけではなく、ダンジョンについての有識者とされているからだ。ダンジョンについて全て知っているわけでもなく、むしろ分からない事だらけ。それでも詳しい方と認識されていて、話を聞いているだけでもいいからと呼ばれる事が増えた。総理や迷宮統括委員会(ギルド)だけでなく、超大手の企業や自衛隊からもそういう扱いをされる事があって、正直なところ毎日のようにどこかの組織に呼び出されて話を聞く生活にうんざりしている。依頼者は気を遣ってくれているのか地上にある実家からそれほど遠くない場所を用意され報酬も悪くない。でも話を聞いたって俺に詳細な関連性なんてわかるはずもない。エアリスなら話は変わってくるだろうが、話させない方が良いと思っている。つまり聞き専に近いから楽といえば楽なんだが……やはりうんざり感は否めない。

 一方世間的な方はペルソナへの不審、クラン・ログハウスへの批判などなどだ。こっちは本当にうんざりしている。エアリスは誰かが噂を流している可能性を言うが、尻尾が掴めないらしい。一応通信可能な衛星は全てエアリスの支配下なのにもかかわらずだ。まるで実体がないかのようでなんとも不気味に思える事から“ゴースト”と呼んでいる。



 「今日もごはんがおいしいですね!」

 「チャンエリやるじゃん。でもあーしだって負けないからネ!」

 「二人の食べっぷりを見てるとダイエットにいいわね」

 「見てるだけでお腹いっぱいになる環境っすからねー」

 「そう? 作り甲斐があっていいけど」

 「悠里さんも食べる量増えたっすよね。もしかして食べてるのを見ると食べたくなるタイプだったんすか?」

 「んー、そんな事ないと思うけど」


 香織、悠里、杏奈、さくら、クロに加えて実体化したエアリスで囲む食卓は俺にとって非日常の中にある日常だ。フェリシアとクロノスもいるが二人は部屋で食べている。俺たちは気にしないんだが、クロノスがなんだか恥ずかしがるらしい。そこはエアリスのせいというか俺のせいというか。自分とほとんど変わらない見た目のエアリスがバクバクと上手に食事を口に運ぶ様を見てからのクロノスは食べる練習をしようと頑張っているらしかった。それに時々何かが降りてきたようになった時以外俺と目を合わせるのを避けている。記憶を失う以前『あの人を感じる貴方』と言われたが、それが何か関係していそうな気がしている。

 そういえば最近の悠里、以前と違って食費について言わなくなったな。やっぱ依頼が増えたし喫茶・ゆーとぴあもさらに増築するほど繁盛してるからだろうか。それに講習の依頼以外でも以前より狩りに出かける事が増えたように感じる。その際は決まってクラン・鎌鼬(かまいたち)を連れて行っている。カイトが俺の幼馴染だからと気を使って仕事を割り振っているのかもしれず、なんだか申し訳なさと同時にありがたいとも思う。

 考え事をしている間にもエアリスとクロは競うように食べている。その勢いたるやフードファイターも真っ青だな。


 現在、世界は食糧危機の真っ只中。日本は大泉総理の英断で減反(げんたん)政策を無効化し、逆に水田復活を推奨していたおかげで今年は輸出に回せる分が増えたくらいだ。それでも貿易は半減したからダンジョン内へ食糧やお金になるものを求める人々がやってくる。その数は増える一方で、いつ新たな問題が起きてもおかしくないと感じていた。


 「ごちそうさま。今日もうまかったよ。いつもありがとな、悠里。いや、悠里姉さんって呼んだ方がいいか? 同い歳だけど」

 「きもちわるっ」

 「え、ひどくない? 素直なお気持ち表明したのに」

 「はいはい。いいから早く行きなって。もう約束の時間でしょ?」

 「あ、ほんとだ。じゃ、食器洗い頼むね。行こう香織ちゃん」

 「はい!」

 「わらひもいきまふごひゅじんしゃま」

 「ちゃんと飲み込んでから言え」


 そんなわけで朝食を済ませ迷宮統括委員会本部、統括執務室へ向かうことにした。


 「まったく……私にとってもどっちかって言えば弟よ」

 「へ? なんか言ったっすか?」

 「なんでもないって。さてと、食器洗わなきゃね」

 「……? ツンツンしたりルンルンしたり忙しっすね悠里さん。さくら姉さんはどう思うっす?」

 「そうね〜、うふふ〜」


………

……


 迷宮統括委員会本部地下の一室、【空間超越の鍵】によって生成した扉がある部屋を出て鍵を掛ける。エアリスによって作られたこの錠は、普通の鍵やピッキングで開ける事は不可能に近く、以前のように門番のようなものは必要なくなった。


 「エアリス、ちょっとこっちに背中向けてくれる?」

 「はい。香織様、しかし一体なにを」

 「これをこうして……くるっと……最後にパチっで完成!」


 統括室へ向かう廊下を歩いていると、香織はエアリスを呼び止める。床につきそうなほど長い髪を器用に纏め、頭の後ろに輪を作り髪留めで仕上げた。なんとも変な……不思議な髪型だがエアリスは気に入ったようだしいいか。


 今回さくらは別件があるらしく代わりにエアリスが実体化したまま付いてきた。総理たちでさえ初顔合わせとなるのに、さくらのようにビシッと着こなすのではなく、胸の主張が激しいスタイルなのが気になるが……まぁいいだろう。


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