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リアル腕もぐもぐ


ーー ワタシも同じ結論です。結論とはつまり ーー


 にしてもなんでだ? 誰かがやったのかそれとも……ハフク・バベルには意思がある? だとしても理由がわからないな。大いなる意志っていう存在が放棄したからその穴を埋めようと? そんなファンタジーゲームみたいな事……いや、ある意味ゲームみたいにおかしな事が起きてるしな。仮にだ、もしもそうだとするなら招かれた可能性もあるのか。招く理由はなんだろう。大いなる意志だったフェリシアの代わりになりそうな存在を欲したとかそんなところか、ファンタジー的に考えれば。でもそれを手に入れる理由もまたわからないんだよな。うーん、何かしらの意思があって目的があって理由があるなんて考えても仕方ないか。

 ともかく推論だけではっきりとした事はわからないが——


 「転移だ。転移が起きた」

 「転移? 悠人ちゃんと同じタイプの?」

 「うん。空間と空間を入れ換えるタイプの。つまりハフク・バベルの何処かとここら一帯が入れ換わったんだと思う。どうしてかってなるとわかんないけど、ダンジョンの地震は何かが起きるか起きてるかだって思うし」


 横目でクロノスを窺うが何も知らなそうだ。それどころかフェリシアと一緒に考えている。その仕草がそっくりで、親子なんだなぁとほんわか……してる場合じゃねぇ!


 「フェリ、どうすればそこに行ける?」

 「ボクは行き方はわかるけど今は開けないから……」


 フェリシアが小夜を少し心配そうに見やる。それはつまり小夜の【ゲート】なら、という事か。俺の【転移】と【空間超越の鍵】じゃあ直接行けないダンジョン化した大陸、そこにある仙郷ダンジョンにも開通できるしな。


 「わたしなら大丈夫なの。いつもは勿体無いから使わないけど指輪も使うの」

 「指輪も?」

 「星銀の指輪はエッセンスの貯蔵庫なの。ずっと指に嵌めてたから、悠人しゃんが込めてくれたエッセンスはもうわたし色に染まったの」


 うーん。クロも勿体無いって言ってたな……ってことはクロにとっては非常食みたいなものなのか。

 既に今日一番がんばっている小夜の様子を見る限り人数は少ない方が良さそうだな。


 「じゃあ俺だけで——」

 「よろしければ私も連れて行っていただけませんか?」


 何か思うところがあるんだろうか。控えめに言うクロノスの青い瞳は言葉とは裏腹に強い意志を感じるものだ。小夜を見ると頷いているし、まぁ仕方ないか。


 「じゃあ二人で——」


 その先を躊躇する視線を馬以外の全員から感じる。馬は草を探しているようだが……残念だったな、今ここに草は生えてない。


 「大人数だけど大丈夫か?」

 「任せるといいの。わたし、デキる妹君なの」


 フェリシアが小夜の手を取り言葉では説明できないハフク・バベル内部への道を伝える。賢者の石を素体にした者同士だからか、それともフェリシアが実は多芸だからか。


 「フェリって実はできる事多いんだなぁ」

 「あら? フェリにできて悠人君に出来ない事があるのね?」

 「能力とエアリスのおかげで出来ることは多いけど俺は普通の人間だって。今二人がしてるのと似たような事はできるけど」

 「出来るのね……普通って何かしら……」


 何やら物憂げなさくら。何か変な事言っただろうか……まぁいい。


 「そこから先がわからなかったの。でももうわかったの。じゃあ開くのよ」


 ん? 何か引っかかる言い方だな。玖内はインターネットでハッキングが趣味だけど、小夜はいろんな場所にゲートを開くために、ダンジョンにハッキングが趣味なんて言わないよな。そういえば魔王の一件の直前、小夜はエアリスが見つけられない場所にいたみたいだった。まさかその時点で発見はしてた? いやまさかな。


 ーー ワタシはダンジョンやインターネットだけではありませんので。幅広く不正アクセスしますので ーー


 何を張り合ってんだろうな、エアリスは。そんなの今更だし、ストーカー男の脳内にまでアクセスして改変した事もあったじゃないか。そんな非常識で極悪非道とも言える所業はさすがに禁止してるけど、代わりに地球の法則にアクセスしてるとか言われても驚かないさ。


 ーー しようとはしているのですが、法則適用範囲の特定ができていません ーー


 エアリスによると地球圏内、主に大気圏内や重力が大きく影響している範囲内まではいいが、それよりも外まで食指が届かない感覚があるらしい。まぁ確かに驚きはしないというか、驚きすぎて何の感情も湧いてこないというか。正直、何してんだよって感想しかない。


 焦れながら待つ間、エアリス教授が嬉々として語る最新の宇宙論に脳内で耳を傾けているのは、小夜のゲート生成がいつもより難航しているからだ。それだけ難易度が高い作業なんだろうな、よくわからんけど。

 エアリスが戻った今なら手伝えるかと思い声を掛けに近付くと、小夜の膝が力を失いよろめき咄嗟にそれを支える。


 「やっぱ無理があったんじゃ……」

 「だ、大丈夫なの。あっ、いいこと思いついたの」

 「いたたっ」


 背後から肩を支えた手を引き寄せ腕にガブリとする小夜。結構痛い。割と本気で。


 「ひょのああへひうろ」


 もぐもぐしてて聞き取りづらいけど、そのままでいろって言ってる気がするな。それにしても痛い。加減はされてるだろうけど生きたまま喰われるってこういう感じなんだろうか。激痛に思わず力が入り、そのせいで普通より少しだけ長いと思っていた犬歯が腕に刺さったとわかる。でも先日ログハウスにやってきた男たちの一人から刃物で腕を切りつけられた時みたいな怒りなんて微塵も湧いてこない。それどころか何かが抜けていくような……


 ーー マスター、血を吸われていますが ーー


 本当に抜けていたのか、血が。そういえば小夜は俺の血を素材にした賢者の石を素体にしているから、俺の血から何かを補給しているんだろうか。だとすると小夜は吸血鬼的なものなんだろうか。それってつまり非常食なんだろうか。でも懐いてくれているように見えて実は、なんて事はないと思う。むしろ思いたい。


 「ぷああ! ユウトニウム補給完了なの!」

 「さくらもよく言ってるけど何その不思議物質」

 「元気になる成分マシマシなの。お肌も綺麗になるのよ」


 本格的に研究した方が良いんじゃないだろうか、ユウトニウム。


 「それでゲートは……」

 「もうできてるの」


 もぐもぐされるという犠牲を払い完成された【ゲート】からは、この場に漂っていたエッセンスと同質のものが漏れているらしい。【神眼】で見ても違いがわからないが……フェリシアが言うなら間違いないか。


 「わたし、疲れちゃったからログハウスに帰ってるのよ。このゲートはしばらくこのままだから平気なの」


 自分も付いてくるつもりだった小夜もさすがに限界か。


 「そうか。無理させてごめんな」

 「恩を返せるなら妹冥利に尽きるの〜……ヒック」

 「しゃっくり……?」


 何処か覚束無い足取りで数歩進み、思い出したように転移の珠を使い帰って行った。なんだか様子が変だった気がしなくもないが……ゲートの向こうにみんなが、香織がいるはずだ。


 「じゃあ行こう、悠人ちゃん! みんなを迎えに!」


 ーー セリフ、取られましたね ーー


 俺に主人公は無理みたいだな。まぁ日本の一般家庭で育った小市民だし、大義なんてものを持ち合わせずにダンジョンに入ったのが始まりだ。気にはしないさ。


 「でも、俺の主人公は俺自身なんだよな」


 ーー ワタシにとってもマスターが主人公です ーー


 「ありがとよ」


 【ゲート】の渦に迷いなく飛び込んだフェリシア。レイナとアリサの血の気が引いた表情が【不可逆の改竄】で噛み跡を消した事で安堵したものに変わった……と思いきや治った事に驚きつつも両手で口を塞ぎ首を横に振っているのを確認し、フェリシアの後を追うように飛び込んだ。

 その先の光景が望まないものとは知らずに。


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