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違和感

 昼食後、積乱雲へと向かう途中、他と同じように遠くから見れば尖塔のような岩山、その広場のようになっている場所にダークストーカーを見つけた。それまでと同じくダンジョンが出来てすぐの頃に菲菲と一緒にダンジョンに入り帰らなかった村人の一人、その成れの果てだった。


 「ふぅ。こんなもんかな」


 最初の一体のように【拒絶する不可侵の壁】で囲み動けなくするのではなく、今度は自由にさせてみた。それを斬り伏せエッセンスを腕輪に吸収し振り返る。龍神が体の割に小さな腕を組み頷いていて、フェリシアは小さな手でパチパチと拍手、クロはそれに倣っていた。


 「さすがじゃのぉ」

 「悠人ちゃん上手〜!」

 「おにーちゃんツヨツヨウケるww」

 「いやいや、どーもどーも」


 エアリス師匠の助言を得ながら居合の復習と他に使えそうな動きの練習をしておいて良かったぁ〜。

 異常なエッセンスの塊を内蔵している相手に能力無し……正確には銀刀にミソロジー棒の『対エッセンス絶対優位性』と言えるものを取り込んでいるから完全に無しとは言えないかもしれないが、ここにいる古参ダークストーカーはそれでも強い。その上気持ち悪かった。

 動きは能力を使用し一瞬で懐に潜り込んできた菲菲よりも速いし、そもそも動き自体がおかしい。後ろ向きなのに正面にいるかのように突進してくるし、腕や足の関節も逆になったりする。それが常に入れ替わりながら休みなくこちらに喰らい付こうと、鮫のように鋭い歯を突き立てようとしていた。

 背中を向けたまま獣のように四肢で地面を掴み襲いかかってきた時は、昔トイレに行けなくなったホラー映画を思い出し戦慄を覚えた。だって頭が逆向きのままガチガチと歯を鳴らしてるとかもうほんと。その怒濤の捕食行動を避けていなし……とは言っても初めのうちは嫌悪感から反射的に、次第に慣れてきたところで蹴りも使い最後は居合で一閃した。国民的人気ゲームのデモハイに登場するグロテスクな見た目の悪魔たちから、嫌悪感や忌避感と言った類の感覚が麻痺するほど追いかけ回された経験が生かされたな、きっと。

 まぁでも能力を使えばそれほど苦労しないけど……こりゃ本当に全部駆除しないと安全な観光は無理っぽいな。


 「み、御影悠人……本当に同じ人間なのか……? さすがに違和感があるぞ……」

 「おっとーはニンゲンにゃー。ちょっと普通じゃにゃいけどにゃー」

 「結構普通の人間だぞ」

 「そ、そうなのか」


 おはぎは、何を言ったか理解出来ていない菲菲の顔に肉球でスタンプを()している。


 やっぱりおはぎ、喋れないけど聞き取れてるよな。そういや目が開いてすぐの頃は、それまで話し掛けていなかった悠里やリナが言う事をわかってなかった。でもすぐに聞き取れるようになったし、そういうのが得意なのかも。


 「よし、それじゃあ飛んでるのはチビ、頼むな」

 「わふ!」


 元気よく返事をするチビが頼もしい。ちなみにエアリスは未だ反応がないが、なんとかなるだろう。


 「ねね、悠人ちゃん。ボクはどうすれば良いかな?」

 「うーん、マスコット?」


 翅が生えても飛べないし、その姿を菲菲に見られない方が良さそうだしなぁ。


 「悠人しゃん、わ、私はどうすればいいの?」

 「うーーん、フェリと一緒にマスコット?」


 小夜はダークストーカーに対して相性が悪いみたいだしな。主にペルソナとして活動している際に使っている巨大で超重量の大剣エリュシオンを指一本で弾くことも可能だし、三対の黒い天使の翼を出せば飛べるけど……やはり菲菲に見られない方が。


 「あーしはあーしはー?」

 「いざという時までマスコット」


 クロもエテメン・アンキの地下闘技場で特訓していたし人型でもそれなりだろうけど、同じような理由だな。


 「にゃーは?」

 「マスコット一択」


 うーん。マスコット多すぎ問題。


 「じゃあそういうわけでイルルさん、引き続き安全運転でお願いします」

 「任せよ」

 

 目的地への最短距離から少し逸れた場所にいるダークストーカーも倒して行くことにした俺たちは、龍神の背に乗り移動を開始した。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 地上での用事を済ませてログハウスに帰るとさくらが出迎えてくれた。


 「ただいま〜」

 「あら、お帰り香織」

 「あれ? さくらだけ? 玖内君は?」

 「トイレに篭ってるみたいなのよね〜」

 「まさかさくら、何か作ってあげちゃったの?」

 「お茶だけよ〜?」


 お茶でお腹を壊したのかな? でもさくらの料理はともかく、お茶はとても美味しいし。


 「あっ、香織おかえり」

 「悠里ただいまー」


 さくらから同じ話を聞いた悠里はトイレに向かったけどすぐに小走りで戻ってきた。


 「さくら! 鍵開けて!」


 悠里に連れられトイレへと向かうさくらの後についていく。ものの数秒で鍵開けをこなしたさくらがドアを開けると、そこに玖内君の姿はなかった。


 「そういえば玖内君、なんだがものすごく焦ってたわよ。あの時はトイレに行きたくて切羽詰ってるのかと思ってたけど……星銀の指輪を使ったのね。悪い子ねぇ、うふふ〜」


 さくらの笑顔がこわい。


 玖内君は悠人さんから頼られたって喜んでいたし、真面目な玖内君が放り出すとは思えなかった。指輪を使って抜け出したとしても鍵を閉めたままなんて、気が回らないほどの何かがあったんじゃないかな……?


 「もしかして何かあったのかな」

 「そういえば電話してたわね」

 「電話?」


 悠里と二人でさくらの話を聞く。『あやの……どこ……わかった』さくらが聴いたのはそのくらいで、正確には気がする程度みたい。

 悠里は『あやの? たしか……』そう呟き自室へ小走りで向かい依頼書を持って戻ってくる。その依頼書には『ケモミミ団』と書いてありメンバーの欄に『綾乃』という名前があった。

 悠里はスマホを取り出しどこかに掛け話を聞いていた。


 「わかりました。ありがとうございます」


 通話を終えた悠里によると今日のケモミミ団はオフだったみたい。


「デート行っちゃったかも」


 たしかケモミミ団の女の子と玖内君がイイ感じって悠人さんも言ってたけど……でもどうしても違和感が拭えず、頼られた事を喜んでいた玖内君の顔が浮かんでいた。


 「若いわねぇ〜。お仕事サボって行っちゃうなんて」

 「これじゃあバイト代は出せないかな」

 「あら、悠里ったら厳しいわね」

 「そりゃ大目に見てあげたいけどさ」

 「大変よねぇ、社長って」

 「さくら、手伝ってくれても良いんだよ?」

 「ダメよぉ。お姉さんは出向扱いだもの」


 二人の中ではもうサボり決定みたいだけど……やっぱり何かおかしい。


 「ねえ二人とも、やっぱり変だよ。あんなに喜んでたのに」

 「それはそうだけど、実際いなくなっちゃってるし……」

 「あらあら、香織は悠人くん一筋じゃなかったのかしら?」

 「さくら〜、揶揄わないでよ〜」

 「うふふ〜、ごめんなさいね。困った香織が可愛いんだもの」

 「むぅ」


 二人の言う通り気のせいかな? でもやっぱり……



 「お腹ペコペコ〜! たっだいまっすー!」

 「戻りました〜」


 杏奈とリナが『特訓』から戻り、ひとまず昼食を食べながら話すことになった。


 「もぐもぐ……もひかしたら連れて戻って来るんじゃないっふか? その、綾乃ひゃん?」

 「杏奈、食べるか喋るかどっちかにしなさいよ。それで? 戻るって言ってもどうやってここまで来るのよ」


 いつものように悠里から注意され口いっぱいの唐揚げをゴクンと飲み込んだ杏奈は、コップの水を飲み干して質問に答える。


 「そりゃ歩いてっすよー。聴くところによるとケモミミ団が通ってるプライベートダンジョンって、各層にワープできるらしいっすからね。今頃二人でランチ中かもしれないっすよ〜」


 そういえばそんな事を悠人さんが言っていた。ダンジョンによって違いがある事を瞳を輝かせ話す悠人さんから、そのうち行ってみようってデートに誘われたんだった。ふふっ。


 「でもそれなら一言くらい声掛けて行きそうなもんじゃない? 忘れてたとしてもスマホにメッセージ送るなりできるでしょ」

 「悠里さんの言う事、三理くらいあるっすねー」


 昼食を終えた頃、悠里のスマホに着信が。この音は喫茶・ゆーとぴあかな?

 通話中、少し困った様子の悠里から『レイナ』と聴こえ、もしかして悠人さんの地元にある公民館ダンジョンで会ったレイナかなと直感が働いた。


 「悠里、もしかして知り合いかもだから代わるよ」


 通話を引き継ぐと、そのレイナが悠人さんに会いたがっていると支配人の仮宿さんが言う。これまで貯めたミスリルで武器を作って欲しいらしいけど、悠人さんは今出かけていてここにはいない。でも日帰りのはずだから帰って来るまで待っててもらえば良いかなと思い、レイナとそのチームメイトをログハウスに案内する事にした。



 「み、みなさん初めまして。レレ、レイナと申しますです。香織さんと御影さんには以前ダンジョンで大変お世話になりまして……」


 レイナは緊張していた。でもチームメイトのアリサは対照的。杏奈と似たタイプかな?


 「初めまして! 御影さんとは会った事ないんですけど、レイナの知り合いだって言うんでイケメンな御影さんを紹介してもらいたくて来ました! 『アリサ』って呼び捨てでどうぞ! あと勘は鋭い方だと思います! よろしくお願いします!」


 悠人さんは渡さないけど、それは悠人さんが決める事だし……じゃなくて、二人には確認しておかなきゃ。


 「悠人さんが、その……いろいろ出来るっていうのは——」

 「誰にも言ってません! 言いません!」

 「わ、私も言わないですよ香織さん! 御影さんにも言われましたし!」


 公民館ダンジョンに悠人さんとデートに行った時に、レイナが悠人さんから渡されたお守りアイテム、それを見たアリサの直感が働いて悠人さんの秘密のひとつに気付いたみたい。その後レイナが悠人さんに連絡をした時に本当だって知って『そのうち何か作ってあげる』って言われたけど連絡がなくて……それからレイナたちは律儀にミスリルを集めていたんだね。二人は材料を集めたら連絡しろっていう意味に思ってたみたいだけど、たぶん忘れてるだけだと思う。だって悠人さん、知り合いには甘いから。きっと見返りを要求するつもりもないんじゃないかな。

 レイナはあれから毎日のようにダンジョンに通って、あの時よりも強くなったんだね。香織も負けてられない!


………

……


 二人と打ち解けた様子の杏奈とリナが玖内君の事を話している。

 『若いって良いっすよね〜』なんて言っててリナも頷いているけど、杏奈だってまだ四捨五入しても二十じゃん。っていうかリナなんてついこの間まで女子高生だったじゃん!


 ログハウスのリビングで楽しげに話す四人を横目に、年長組三人でいつも食事をしているテーブルを囲んでさくらが淹れてくれた紅茶を楽しむ。

 話し声を聴いていると、ちょっとしか歳が違わないのに悲しいかな若さを感じてしまい、ふと悠人さんはもっと若い彼女の方が良かったかな、なんて思ってしまう。


 欲を言えば独り占めが良いけど、でも悠人さんがそういう気になったら……ダンジョンで生活してると他のみんなは出会いが限られるし、みんなでそういう事になっても仕方ないかな。……ううぅ、でもやっぱり独り占めしたいです、悠人さん。


 そんな事を考えている時、ふとアリサの表情が強張った気配を感じた。


 「あの、それってまさかとは思うんですけど……誘拐事件だったりしません? いやあの、ただの勘っていうか」


 勘が鋭いと自己紹介していたアリサの言葉に、ログハウスは深刻な空気に包まれた。


読んでくれてありがとうございます。

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