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神魔滅殺天地破光神狼牙


 ダークストーカーの掌から黒い光がこちらへと放たれる瞬間——


 「ワオオオオオオオン‼︎」


 ——背後から空へ向けて、咆哮が上がった。俺のかわいい相棒、チビだ。吠え声は勇ましいから、かわいいなんて言ったらダメかもしれないけどな。


 チビの咆哮と同時、ダークストーカーの周囲に光の粒が見えたと思えば天から降り注ぐは清浄なる光の柱。全てを浄化するのではないかと思われるその光量に、俺たちは目を開けている事ができなかった。


 「わふっ!」


 ドヤッと聞こえた気がして目を開けると、ダークストーカーはおらず気配すらなくなっていた。背後のチビを見ると、尻尾をぶんぶんと振って何かを期待しているような目をこちらに向けていた。


 「今の、チビがやった……んだよな?」

 「わふわふ! わふっふ!」

 「何言ってるかわからんけど、チビのお手柄か!」


 「あなたすごいのね」小夜はそんな事を言い自分の背丈ほどの高さにあるチビの頭を撫でる。チビもまんざらではないようで尻尾をゆらゆらとしていた。


 そういえば菲菲は大丈夫だろうかと目を向けると、フェリシアからほっぺたをツンツンとされている。驚きすぎて固まってるとかそんなとこか? まぁ気持ちはわかる。


 ダークストーカーは跡形もなく消え去っていて、その膨大なエッセンスまでも浄化されていた。そもそもエッセンスが不浄かというとそうではないと感じているしエアリスやフェリシアからもそんな話は聞いた事がない。だがダークストーカーに纏っていたもの、コアを形成していたものは清浄ともさらに言えば正常とも思えなかった。


 っていうか、チビはいつの間にあんな事ができるようになっていたんだろう……。俺の【纏身・雷】をチビが真似たように、俺も真似できないだろうか。でも【真言】がイメージを現象にできるとは言っても、多少なり原理というかそういうものを知っておく必要がある可能性が極めて高い。

 初めの頃に近所の蕎麦屋店主がうっかり出前に来てしまったのは、出前を頼んで相手が応えてくれるという会話を自然と意識したからだろう。ペルソナの主な仕事である宣誓もそれと似たようなもので、要求を相手が受け入れるイメージを押し付ける感じだ。実際に履行するのは相手だから、本来思い通りに操るなんて事は出来ない。受け入れるように圧力を掛けはするけど、あくまで俺の要求を相手が受け入れるからそうなるってことだ。だから圧をものともしない存在力の強い相手には、受け入れる意思がそもそも無ければ効果がない。

 例外としてエアリスによって強制力が強化されている場合。エアリスがどうしてそんなことが出来るのかはわからないが、気にするだけ無駄だろう。そしてそのエアリスが反応しない今、チビの光の柱を真似する事は不可能だろうな。だって俺にはあれがどうやって発生させられたものかさっぱりわからないし。


 でもまぁ俺だってこの二ヶ月間、特訓がてら装備を量産し、【真言】の使い方を試行錯誤、エアリスの助力を得てこっそり居合の復習と応用もしていた。なぜかと言えば能力無しの模擬戦で香織に負けたからだが……ともかく、興味本位だけじゃなく普通に強くなりたいと思っていたからだ。そのおかげで新しく出来るようになった事もあるから、自分より弱い事を理由に捨てられるなんて事はないはずだ。だから香織の見送りの言葉が今生の別れみたいに聞こえたのはきっと気のせいだ。


 不安を覚えている事を知ってか知らずか、チビの顔には褒めて欲しいと書いてあり、撫でてやると気持ちよさそうな顔をしていた。しかしチビを撫でる手は小さな手に連れ去られ、心なしか俯く頭に置かれた。


 「わたしだって、本気を出せばできたの」

 「わかってるって。小夜が本気なら俺より強いもんな」


 冗談半分で言って撫でると……小夜は顔を上げ『当然』とでも言うような表情。もしかしたらと疑ってはいたけど、実は俺じゃ敵わない可能性が高まったのでは。


 「くぅ〜ん」


 何か欲しがっているみたいだ。まぁアレだろうな。


 「イルルさん、ちょっと背中で失礼しますね」

 「え、悠人、そなた一体何を……おをを……をおおおぉぉふぅぅぅぅ……」


 七輪を取り出し【真言】を使って手早く火をつける。今の龍神はサイズがかなりでかい事もあって、安定した土台としてとても優秀だ。空中で七輪を使って肉を焼くなんて事、たぶん世界初なんじゃないか? ギネス登録とかされないかな、など頭の中で語り掛けるようにするが、依然エアリスは反応しない。存在は感じる事ができるためいないわけではないだろうけど。


 焼いたワイバーンステーキをチビに与えた後、「じゃ、次いきましょう」と龍神に催促した。


 「『どこぞの晩ご飯』みたいな事を言いよって……こっちは驚いて腰が抜けそうになったんじゃがな」

 「でもイルルさん、ちょっと気持ちよさそうな声出してたじゃないですか」

 「悪くはなかった」


 たぶん龍神にとって、お灸と変わらなかったのだろう。というか龍神、『どこぞの晩ご飯』っていう番組知ってるんだな。聞けば喫茶・ゆーとぴあでひとり酒の時はその番組を見せてもらう事があるらしい。曰く、番組内で気になったものをそれとなくアピールすると作って貰える時があり、番組内で食べているものとシンクロする事で酒が旨くなるんだとか。すっかり人間に馴染んでいるんだが、神ってこんな変なのばっかりなんだろうか……まぁいいか。俺にとって助けてくれるなら神でも人でも等しく味方だしな。



 移動中、俺は悩んでいた。しかしどうしてもしっくりとくるものが思いつかない。


 「うーん。う〜〜ん」

 「おにーちゃんどうしたワケ? 悩み? あ、もしかしてカオリパイセンのコト? 相談のる?」


 例えその悩みがあったとして、クロに相談なんてしてもなんの成果も得られなそうなんだが。それに今悩んでいるのはそういう事じゃあない。


 「んとな、さっきのチビがやったやつに名前つけようかなってな」


 次のダークストーカーがいる場所は積乱雲へ向かう直線から少し外れたところだ。距離もそれなりにあり、まだ時間的な余裕がある。だから暇つぶしと言えばそうだけど、使って欲しい時に『アレ使ってくれ! えーっと、アレだよアレ!』とかって言うんじゃちょっとなぁ。


 「ちなおにーちゃん的にはどういうのが良いワケ? 言ってみそ?」

 「スーパーエレクトリックサンダーボルト」

 「ダッサww」

 「それはさすがにチビがかわいそうだよ悠人ちゃん……」

 「あ、ありえないなの……なの……」


 うん、大不評。知ってた。小夜なんて『なのなの』しちゃってるしな。

 チビはエアリスによると神狼らしいし、だからと言ってそれにちなんで『神雷』とか『神光』じゃあ漫画とかゲームでよく見たからな、ありきたりに思えてしまう。とは言ってもありきたりなのが逆に安定ってのもわかるけどさ。


 「じゃあみんなは何が良いと思うんだよ」こちらを指さして笑うクロとものすごく残念なものを見るような目をしてこちらを見るフェリシア、あまりの衝撃に肩を震わせ、しかし笑っている訳ではない小夜にも一応聞いてみる。


 「あーしなら〜……ライトニング・ギガント・ブレス!ww」

 「ブレスじゃねぇ……ってか俺とそんなに変わらないじゃんか。はい、次」

 「ボクはね、チビは悠人ちゃんの相棒だから、やっぱり『神雷』が良いと思うな」

 「相棒だから……? まぁ無難だよな」

 「“信頼”だけにね!」


 そんなドヤ顔で言う事か……? 


 「じゃあ小夜は?」真新しいスマホに文字を打ち込んでは消してを繰り返していた小夜が画面を見せてくる。なんだか本気度を感じるな……! どれどれ、なんて書いてあるんだ?



 ——『神魔滅殺天地破光神狼牙』めぎどと読む


 なんと言えばいいか……強そうではあるけど意味がわからないしどこをどう読めばメギドになるのかもわからないが、声に出すとチビはそれに反応したように見えた。


 「まぁ……短い方がわかりやすいよな」


 チビがいつの間にか使えるようになっていた、ダークストーカーを一撃で浄化した光の柱は【メギド】で決定した。

 エアリスが何も言わない事を不思議に思いつつ、積乱雲への空路を阻むような位置にいる次のダークストーカーへと向かった。



読んでくれている方々、いつもありがとうございます。

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